シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

夜は短し歩けよ乙女

感性の毛穴が開きまくっている。

 

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2017年。湯浅政明監督。アニメーション作品。

 

所属クラブの後輩である「黒髪の乙女」に恋心を抱く大学生の「先輩」は、「なるべく彼女の目に留まる」ことを目的とした「ナカメ作戦」を実行する日々を送っていた。個性豊かな仲間が巻き起こす珍事件に巻き込まれながら季節はめぐっていくが、黒髪の乙女との関係は外堀を埋めるばかりでなかなか進展せず…。(映画.com より)


竜巻のような作品だ。
湯浅政明の双曲線遠近法的作風と森見登美彦の言語感覚がフュージョンしたプログレッシブ・アニメの最先端と言えまいか。言える!

『四畳半ぽっちゃり体型』だか『四畳半スチャポコ体系』だかといったテレビアニメ(やべえ、タイトルが思い出せねぇ)を見たときは、森見登美彦なんちゃって純文学風な饒舌さにアニメがついて行けてない印象を持ったので観る前はちょっと不安だったが、そんなものは取り越し苦労。ご苦労!
台詞過剰な昨今のアニメシーンごと豪快に吹き飛ばすほど、湯浅政明脳内物質ナントカが横溢したイメージの洪水にただただ心地よく溺れるのみ、といった作品になってございます。

 

湯浅政明必殺の極端に歪曲されたパースは、たとえば詭弁踊りのクレイジーっぷりを加速させるといったギャグの用途だけでなく、ヒロインが暴風に飛ばされそうになりながら主人公のアパートを一歩また一歩と目指すシーンでの激情ほとばしる恋路の演出でも抜群の効果を発揮している。
かと思えば、ウェス・アンダーソンとかジム・ジャームッシュのような平面絵巻の世界で四条界隈を飲み歩く黒髪乙女とそのお供たち…というモダンアートのような画面構成により、ワンラーランドとしてのif京都が立ち上がっていく。
まさに立体と平面の蜜月。

 

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部屋の中で真似したくなること請け合いの詭弁踊り。

 

酒豪の黒髪乙女の足取りを追って東奔西走する主人公が、木屋町、古本市、学際など行く先々でトラブルに見舞われる恋の地獄巡りシルビアのいる街でというスペイン・フランス合作の映画を彷彿させる(本作と真逆で寡黙かつ静謐な作品なのだが)。
とどのつまりは一夜のボーイ・ミーツ・ガール。だけど、ヒロイン目線で見れば『若草の萌えるころ』に早変わりする…という見方もまた楽しく。

いずれにせよ、膨大なダイアローグのパワーとリズムそれ自体を無手勝流でアニメートした湯浅政明竜巻を生み出す独創性に脱帽および失禁。感性の毛穴が開きまくっている。

 

やたらとミュージカルを披瀝する学際シーケンスの後半は、途端に躍動感が失われ、画が弛んでしまうことを唯一の欠点としたい。
京都の風情や季節感もほとんど出ていないが、そのぶん一風変わった鴨川や、一風変わった木屋町など、アニメならではの粋なアレンジは充実している。
私は京都在住のサラブレッド京都民だが、「こんなの京都じゃなーい」などと無粋なことを言うつもりは豪もない。そもそも本作で描かれている舞台は京都ではない。
ここは湯浅政明のワンダーランドなのだ!