シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

悪魔のような女

 シャロン先生とイザベル校長。無理だろこんな学校!

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1996年。ジェレマイア・S・チェチック監督。シャロン・ストーンイザベル・アジャーニキャシー・ベイツ

 

全寮制の男子校の理事長ガイは心臓の弱い校長の妻、ミアがいながら、教師の1人のニコルと愛人関係にあった。それはミアも暗黙の了解としていたが、ガイの暴力に耐えかねたミアとニコルは手を組み、ガイを殺す計画を立てる。計画通りガイを殺害し、学校のプールに彼を沈めた2人だったが、翌日口実を作ってプールの水を抜かせたところ、そこにガイの死体はなかった…。(Amazonより)


折に触れてアメリカでリメイクされるアンリ=ジョルジュ・クルーゾー*1

『恐怖の報酬』の次は悪魔のような女を、シャロン・ストーンイザベル・アジャーニのダブル主演でリメイク。

 

この作品はシャロン・ストーンイザベル・アジャーニの配役こそがすべてと言っていい。

クルーゾー版のシモーヌ・シニョレとヴェラ・クルーゾーに匹敵する女優としてこの二人を選んだキャスティング・ディレクターの慧眼は、少々鈍臭いシナリオと、クルーゾーの手腕と比較することが残酷に思えるほどの凡庸演出を補填して余りある!

 

シャロン・ストーン(1958年-)

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90年代のマリリン・モンローにして、世界的なセックスシンボル。

氷の微笑でのノーパンで生足を組みかえるシーンはあまりに有名で、世界中でパロディ化されている。VHS全盛の当時、テープが擦り切れるほど何度もこのシーンをスロー再生するノーパン・ウォッチャーが続出して、レンタルビデオ店のVHSではこのシーンだけ映像が途切れるという都市伝説まで存在したほど。

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ノーパン生足組みかえシーンに世界中の男が鼻の下を伸ばした。

 

イザベル・アジャーニ(1955年-)

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フランスの大女優にして波紋の使い手

ジョジョの奇妙な冒険の漫画家・荒木飛呂彦と同じく、ハイランダー症候群ではないか?」と憶測されているほど、何十年経っても容姿が変わらない。

 ※ハイランダー症候群…歳を取らない奇病。

 

なんといってもシャロン・ストーンの女教師役。

シャロン・ストーンが女教師を演じると聞いて、全世界が「そんなバナナ」と呟いた。

無理がありすぎるとかいう話ではなくて、無理なんですよ。

だが、そんなことは織り込み済みだといわんばかりに、教室でスパスパ煙草を吸ったり、子供たちを怒鳴りつけて蔑視したり、他の教師に皮肉をぶつけてふんぞり返るなど、徹頭徹尾全人類がイメージするシャロン・ストーンシャロン・ストーン自身が演じている。おまけにバリバリの厚化粧。

もはやセルフ・パロディになってるんだよね。

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こんな女教師がいるか!

 

そんなシャロン先生と正反対なのが校長のイザベル・アジャーニ

イザベル・アジャーニが校長先生を演じると聞いて、全世界が「そんなアホな」と呟いた。

無理がありすぎるとかいう話ではなくて、無理なんですよ。

彼女は元尼僧で、心臓が弱く、優柔不断、いつもオドオドしていて「あうあう」言っており、理事長の夫に体よく使われて、校長室でセックスの相手をさせられている。

もうむりじゃん。

この時点でむりじゃん。校長が務まる器ではねえじゃん。

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 こんな校長がいるか!

 

色気ムンムン型ノーパン女優のシャロン・ストーンが教師で、メンタル脆弱型あうあう女優のイザベル・アジャーニが校長って、もう学校経営自体むりじゃん。

一学期も持たないじゃん、こんな学校。

しかも理事長の夫はシャロン先生とも肉体関係を持っており、イザベル校長もそのことを知ってはいるが浮気を追及する勇気がなく、「胃が痛い」とか言ってんの。

いわば公認の三角関係。理事長までこの体たらく

腐敗しきっとるやないか。

なんやこの学校。

どんな思い出が作れんねん、ここに通って。

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夫への不満が臨界点に達して胃がむちゃむちゃになる寸前のイザベル校長に、「いっそ殺しちゃえば?」と囁くシャロン先生。魔性の誘惑。

「やるだけやってみましょう…」と答えたイザベル校長は、シャロン先生と協力して夫殺しを実行するが、いざ殺すという段になって急に怖気づき「やっぱむりむり」と首をブンブン横に振るので、「しゃーねなぁ」とシャロン先生、代わりに理事長を殺す!

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「死んじゃったのかしら…?」

「死んでる、死んでる!」

 

「さぁ、もう後には引けないよォーッ!」とノリノリのシャロン先生と、「やってもうたで、おい…」とさっそく後悔し始めるイザベル校長の温度差たるや。

そのあとは、頭を使って完全犯罪を成し遂げようとするシャロン先生と、夫殺しが露見する前に自首しようとするイザベル校長の押し問答が延々続きます。

 

イザベル「やっぱり殺人なんてよくないわ…」

シャロン「今さら何言ってんだい。腹をお括り!」

イザベル「自首すれば神様も許してくれるはずだわ…」

シャロン「いちいち神に頼んなァーッ!」

イザベル「自ー首。自ー首」

シャロン「お黙りッ。アンタが自首したらアタシまで捕まっちまうじゃないかーッ!」

イザベル「でもでもでも~」

 

イライラするわー。

一事が万事この調子。こういうの何ていうか知ってますか?

水掛け論っていうんだよ!

 

イザベル・アジャーニは相変わらずのメソメソ芝居っぷり。

何かといえば自首しようとしたり、思考停止で神にすがるなどして共犯者のシャロン先生を大いに困らせるなど、傍から見ていてイライラする女を好演。

シャロン先生の方が悪女なんだけど、不思議と応援したくなるんだよね。イザベル校長というたいへんなお荷物を抱えて足を引っ張られながらも懸命に完全犯罪を成し遂げようとドタマフル回転させるシャロン先生、いつもありがとう! ご苦労様です! だよ。

 

そんな二人の前に突如現れたのが元刑事のキャシー・ベイツ

言わずと知れたミザリーのおばはん*2

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キャシー・ベイツが元刑事を演じると聞いて、全世界が「そんなムチャポコな」と呟いた。

無理がありすぎるとかいう話ではなくて、無理なんですよ。

元刑事役にしてはあまりに弛緩した存在感を放っており、鋭さ皆無。悪を断罪する感じ皆無。何しろ見た目がスーパーにいるおばはんなのだから。

それに、常に微笑んでるしね。

そんなキャシーおばさんが、ずんぐりむっくりした身体でにっこり微笑みながら殺人事件を調査する…という能天気な元刑事を好演。和む。

サスペンスなのに和む。

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キャシーおばさんの干渉によって、二人のただでさえ危なっかしい完全犯罪計画はさらにグラつく。
巧みなウソで罪を隠し通そうとするシャロン先生と、あんまり罪を隠し通す気がないイザベル校長危うい二人三脚が意外と楽しい。

共犯者としてはあまりにポンコツすぎるイザベル校長の精神不安定ぶりに、シャロン先生が「ダメだこりゃ」と頭を抱える…というグダグダな関係性はコントさながら。

 

さて、いよいよ評をまとめます。

要するにこの作品、メインキャストが揃いも揃って役作りをしていないというのが大いなるポイントです。

シャロン・ストーンイザベル・アジャーニ…、まんまやないか。

キャシー・ベイツも…、まんまやないか。

っていう。

 

このまんま感を大事にしたことで、犯罪劇というよりキャラクター劇としてのメタ的なおもしろさが前景化しているんス。
シャロン・ストーンキャシー・ベイツが睨み合う場面なんてまったく違う生物のツーショットという感じだし(容姿の差もさることながら目線の高さもぜんぜん合ってない)。

それに、目と口を限界まで開いて驚いた表情をするというイザベル・アジャーニ素人演技も炸裂する(彼女の芝居の引出しにはこれ一個しかない。これ一個だけでここまで来た)。

 

後半にはアッと驚く展開が用意されているが、もはやこちらは3人のまんま感を笑いながら突っ込むのに忙しくてそれどころではない。
禁煙を誓っていたキャシーおばさんが事件解決後に煙草に火を点ける…というラストシーンは実にハードボイルドだが、いかんせんそれをやってるのがキャシー・ベイツなので喫煙おばはんの午後の一服という感じがしてしまって、どうにも様にならない。

 

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キャシー教に目覚めそう。

*1:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー…フランス映画界の重鎮。ヌーヴェルヴァーグの始祖にして、映画史上初めて世界三大映画祭の全てで最高賞を受賞した監督でもある。代表作に『情婦マノン』(49年)、『恐怖の報酬』(53年)、『悪魔のような女』(55年)など。

*2:ミザリー…敬愛する小説家の自動車事故を目撃したキャシー・ベイツ演じる読書好きのおばはんが、看病という名目でその小説家を自宅に監禁する、狂的ファンの生態を描いたサスペンス映画。