シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ラブソングができるまで

 やりたいことと求められてることのギャップ。あるよな。

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2007年。マーク・ローレンス監督。ヒュー・グラントドリュー・バリモア、ヘイリー・ベネット。

 

すっかり人気のなくなった80年代のポップスター、アレックス。そんな彼のもとに、人気絶頂の歌姫からデュエット曲の作曲と収録のオファーが舞い込む。絶好のカムバック・チャンスを得るアレックスだったが、彼に作詞の経験はない。そこで彼は作家志望のソフィーを巻き込むことに…。(Yahoo!映画より)


大衆に使い捨てられるポップスターの栄枯盛衰や、欺瞞だらけの音楽業界に対してピリッと風刺を利かせながらも、ビジネスと自己表現の狭間で葛藤する人間の姿を描いたロマンティック・コメディだ。
監督は、一貫してヒュー・グラントの主演作しか撮らないことでお馴染みのヒュー様専属監督マーク・ローレンス。

 

80年代に一世を風靡したPoPという架空のバンドのミュージック・ビデオが流れる冒頭から大笑い。
絶妙にダサいエレクトロ・ポップ、下手な芝居仕立て、腰振りダンス、変なファッション…。怒涛のように80年代MVあるあるを網羅していきます。デュラン・デュランやワム!のパロディなのは明らかでしょう。

ださ。

ニューロマンティック風のファッションに身を包み、ノリノリで腰を振りまくるヒュー様がまあ似合う似合う

チャラチャラしたスケコマシを演じさせたら右に出る者はなし!

 

そんなヒュー様演じる主人公も今や落ちぶれ、同窓会や遊園地を巡業して往年のヒット曲を歌ったり、「あの人は今」的な低俗番組に出演してはかつての栄光にすがりつく毎日。
そんな折、大人気歌姫のヘイリー・ベネットに作曲を依頼されたヒュー様は、たまたま植木係の代理として部屋を訪れただけのドリュー・バリモアが何気なく口ずさんだ歌の歌詞に作詞の才能を見出し、彼女を巻き込んで新曲の制作にかかる…という大筋。

 

ヒュー・グラント(1960年-)

日本でも大ヒットした『ノッティング・ヒルの恋人』ブリジット・ジョーンズの日記ラブ・アクチュアリーなど、ロマンティック・コメディに多数出演しては女性客の心を狙い撃ちするハートスナイパー

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そんなハートスナイパー・ヒューも御年57歳と知ってぶったまげ!

マーク・ローレンスの最新作『Re:LIFE〜リライフ〜』(14年)では、若くしてアカデミー脚本賞を受賞したが現在はまったく仕事がない脚本家をヒュー様に演じさせている。ちなみにパディントン2でも落ち目の俳優を演じているらしい。メタ自虐!

たしかにヒュー様のラブコメ映画はだいたいが薄っぺらく、観ている間はそれなりに楽しいが二日もすれば全部忘れるような映画ばかりだったが、一世風靡したあとの元人気者を演じる機会が多い近年の出演作には、そのダルッとした佇まいに「昔はブイブイ言わせてたんだけど…」という哀愁が漂っていて、それはそれでけっこう味わい深い。
そして、そんな栄枯盛衰の主人公像はヒュー様自身の実人生とも重なるのだ(ノッティングヒルの恋人が世界的に大ヒットした90年代はロマンティック・コメディの帝王と呼ばれていたが、57歳の現在、ラブコメ一辺倒のキャリアが祟って苦戦を強いられている。頑張れヒュー様!)。

 

ドリュー・バリモア(1975年-)

0歳で芸能界デビューを果たした、女優歴=年齢のツワモノ。「天才子役はだいたい落ちぶれる」というカルキン坊やの法則を打ち破った元子役である。

生後11ヶ月でCM出演、6歳でE.T.に出演するも、9歳で飲酒と喫煙、10歳でマリファナ、12歳でコカインを覚え、14歳で自殺未遂を起こすという、「やるにしても早すぎない?」という生き急ぎ型の特急女優。

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私は『スクリーム』チャーリーズ・エンジェルでのドリュー・バリモアしか知らない。あとは初監督作ローラーガールズ・ダイアリーが傑作で、映画製作者としても辣腕を振るっているということぐらいかな。

とにかく彼女主演のラブコメを観たのは初めてだ。これまで特に魅力を感じなかったし、なんといっても名前がイヤだった。

なんとなくゴツゴツしたような語感だし、ドリュー・バリモアだかバリュー・ドリモアだか分からなくなる

オルガ・キュリレンコとオルガ・キュレリンコぐらいややこしいわ!
だが本作を観て、あまりにチャーミングな笑顔に仰天。確実にラブコメの神に愛されている。
子役としてE.T.に出演して以降、プライベートで数々の修羅場を潜り抜けながらも35年以上もハリウッドの第一線を走り続けている理由がなんとなく分かる気がしました。

 

そんな二人が、ともに悩みながら渾身の名曲を作り上げていく本作。
脇役に至るまでキャラクター造形がよく練られているし、皮肉を込めたジョークもそこかしこで炸裂する。
なにより、ポップなラブコメとしても普通に楽しめるが、音楽制作の過程を通して表現者のあるべき姿というテーマに切り込んでいるあたりが興味深くてね。

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「曲を作れ」と言ってきた歌姫ヘイリー・ベネットは、中途半端に東洋思想にかぶれ、インド音楽とセクシーダンスを融合した謎の音楽性で世のアホどもから熱烈な支持を受けている大人気歌手だ。
そんな彼女に新曲を依頼された二人が、血ヘドを吐くほど悩み抜いて作り上げた渾身のバラード曲だったが、勝手にわけのわからないアレンジが加えられてしまう。
怒ったドリューは抗議しようとするが、ヒュー様は彼女を制止して「諦めるしかない。しょせんビジネスなんだ」と諭す。

自分の歌詞がわけのわからないアレンジによって踏みにじられたことに怒るドリューと、音楽業界の汚さを知り尽くしているからこそ早々に諦めをつけて長い物に巻かれるヒュー様。まさに音楽性の違いで大喧嘩してしまうってわけ!

 

ここからはちょっと表現活動についてのお話に脱線していきます。

 

音楽業界に限らず、映画、小説、漫画、アニメ…なんでもそうだが、すべての表現者は誰もがこの二人のようなジレンマを抱えており、どこかでうまく折り合いをつけながら、日々、己の表現と向き合っています。

もちろん表現に対して純粋なのはドリューの方だし、長い物に巻かれず矜持を貫くからこその表現者でもあるわけで。だからこそ歌姫ヘイリー・ベネットに対して「ちょっと、どうなってんのよ! そんなアレンジしたら曲のコンセプトが破綻するじゃない!」と抗議するわけだが、ヒュー様にしてみればそれは理想論で、業界で生き残るためには適応(ありていに言えば妥協)しなければならない場合だってある。

すべての表現者を悩ませる問題。

それはやりたいこと求められてることのギャップだ。

 

音楽性を大衆向けに変えた途端に「売れ線狙い」だの「商業路線に走った」だのと叩かれたミュージシャンはゴマンといる。

ロックンロールなんて、まさにそのジレンマを体現したような音楽で。

産業ロックのように大衆に迎合したくない、かといってゴリゴリのヘヴィメタルのようなアンダーグラウンドに甘んじるのも嫌だ…という板挟みの中でどうにか折り合いをつけて、自分たちのやりたいことをやってそれなりにヒットも見込める最小公倍数的な結論を導き出す戦いですよ。

本作は、 まさにそんな表現活動におけるジレンマとの戦いを描いている。あくまでポップにね。

 

彼らのバラードを原型すら留めないほどアレンジしたヘイリー・ベネットも、ある意味では哀れな歌手なのだ。

大衆の果てしない欲望に応えるべく、すぐノレて、すぐ踊れる、ゴミ同然のヒット曲を出し続けねばならない。レコード会社の操り人形だよ。
シャキーラが追い上げてきてる。踊らなきゃ!」

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いかがわしいパフォーマンスと胡散臭い音楽性で人気を博すヘイリー・ベネット嬢。

 

長い物に巻かれていたヒュー様は、最後にどのような決断を下すのか。そしてヘイリー・ベネットのおかしな音楽性は変わるのか? など見所たくさん!
各キャラクターのその後を見せるエピローグまで、ぎっしりと笑いが詰まった充実のロマンティック・コメディ!

なんつって強引にまとめてみました。完全に話の着地点を見失ったから。ごめんなさいね。


とりあえず私はバリュー・ドリモアの他作品を漁ってきます。

ん? ドリュー・バリモアだっけ?

もうどっちでもいいか。

チャーリーズ・エンジェル』の中で一番むっちりしてる人って言えば大体わかってもらえるでしょう。

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紛うことなき、左!

 

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