シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

13時間 ベンガジの秘密の兵士

幻聴必至のベイメタル!

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2016年。マイケル・ベイ監督。ジョン・クラシンスキー、ジェームズ・バッジ・デールパブロ・シュレイバー

 

イスラム過激派が「いすらむー!」とわめきながらアメリカ領事館を襲ってきたので、CIAの髭面部隊がどうにかするという中身。

 

 

①ベイ映画という避けようがない運命

ドアホのマイケル・ベイが撮った最新作。
『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』(13年)ベイ疲れを起こしていたので今作はスルーしていたが、先日Gさんからレビューリクエストを頂いたので鑑賞しました。
このようにして人はマイケル・ベイを観てしまうのですね。
どれだけ観る気がなくても、奇妙な縁や成り行きがあって、なんやかんやで宿命的に観てしまう。それがベイ映画の神通力なのか。
どれだけ私がベイのことを避けても、ベイの方からやってくるのだ。まるで対向車線から突っ込んでくる車のように(きっとその車はベイ・バスターなのでしょう)。

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見るものすべてを爆破せずにはいられないマイケル・ベイ

誰かこの男を爆破してくれ。

 

②世界平和の鍵を握っているのはマイケル・ベイかもしれない

本作は、2012年にリビアベンガジで起きた米領事館襲撃事件の映画化。
この事件の引き金になったのは一本の映画だ。
同年アメリカでイノセンス・オブ・ムスリムという反イスラム映画が製作されたことで、リビアイスラム教徒が激おこに。
特にイスラム過激派は「ムハンマドを馬鹿にしくさって、アメリカ許さん」と激おこぷんぷん丸になって、リビアの領事館に大挙襲来、ロケットランチャーをバカスカ撃ち込んで米大使クリストファー・スティーブンスと外交官1名を殺害した。
領事館へ向かったCIAの極秘チームGRSが、保安職員1名を救出してCIA極秘拠点アネックスへと避難したが、武装勢力に囲まれて夜通し銃撃戦をおこなった…という実際の事件である。
この事件はリビアだけに留まらず、中東やアジアを中心に20ヶ国以上に飛び火して、映画の内容に抗議するデモ隊が暴動を起こし、多くの死傷者を出すほどの大事件となった。


むちゃむちゃですやん。
たかが映画一本でこんなことになります?
領事館を砲撃してCIAと朝までオールで撃ち合いとかさ。さすが失敗国家リビア、この短気っぷり。
この事件自体、まるでベイ映画のように荒唐無稽だよね。つい「事実はベイ映画より奇なり」という諺を思い出してしまう。
あっ。

結果論だけど、今ものすごい発見をしてしまった。
ベイがイノセンス・オブ・ムスリムを撮っていれば、こんな事件は起きなかったのでは?
イスラム教徒の人たちも「なんだこのバカ映画。怒る気にもならん。どんなバカが撮ったんだ?」と言って辟易。
そもそも「映像処理が乱雑すぎて何が起きてるのかぜんぜんわからない」と混乱して内容の把握すらできないだろうし、仮にイスラム教徒が怒ったとしても、それは内容の是非にではなく映画の出来に対する怒りだ。
つまりバカ映画は世界を救う
ベイは、事件を描いた映画=本作『13時間 ベンガジの秘密の兵士』ではなく、事件の引き金になった映画=『イノセンス・オブ・ムスリムを撮ることで、事件そのものを未然に防げたはずなのだ。
誰か、ベイを過去に送れ!

世界平和の鍵を握っているのは、意外とマイケル・ベイなのかもしれない。

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撮影助手「監督、危険ですよ!」

ベイ「関係ないんじゃあ! 押せ、押せ。突っ込め!」

ボンボン爆発する現場で、危険も顧みず自らカメラを持って撮影に臨むマイケル・ベイ

 

③バカ映画を超えて幻覚映画

さて、肝心の映画についてだが…、米領事館襲撃事件の真実を描くことでイスラム国や国際テロにメスを入れて問題提起する…といったキャスリン・ビグロー*1のようなジャーナリズム精神はもちろん皆無。ベイは「社会派のメス」や「世界平和の鍵」なんかよりも「銃」を握りたがる男なのだ
ファーストシーンとラストシーンで言い訳みたいに挿入される「これは真実の物語である…」とか「この映画を犠牲者に捧げる…」みたいな深刻ぶったキャプションなんて全部タテマエで、この事件がベイ映画にうってつけの材料だったから扱ったというだけの話。
実際、上映時間の大部分はアクションシーンなのだ。爆破、銃撃、カーチェイス。腕はちぎれるわ、頭は吹き飛ぶわの死屍累々残酷ショー。

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 「やっほー!」

ズドドドド。バババババ。

こんな感じのベイ・パレードが一生続く。

 

事件が起きるまでの第一幕(最初の40分)は、CIAが誇る髭面部隊GRSの6人組が、極秘拠点アネックスで筋トレをしたりビデオゲームをするなど、「合宿か」みたいなシーンが延々続く。無駄に尺を使ってるだけなので、私はこういうのを死に時間と呼んでます(マッチョな男たちが和気藹々としてる…という点ではアルマゲドン(98年)の第一幕もこれと同じ)。

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髭面部隊の皆さんはただ無為に髭を生やしているのではない。その髭には目的があるのだ。

(1)カモフラージュ(2)顎への衝撃を緩和(3)食べる

 

いよいよ領事館が襲撃される直前になると、まるでこのあとに起きる惨事を予知していたかのように、髭面部隊がみんな一斉に家族に電話して「愛してるよ…」なんて言う愁嘆場のドカ盛り。

こんな力任せに死亡フラグを立てた映画ってあります?

コンクリートの上から無理矢理ぶっ刺してますよ、フラグ。不自然ここに極まれりだよ。

その後、予知通りに領事館がボンボコ砲撃を受け、アネックスにいた髭面部隊が「大使を助けに行くぞー。全員車に乗れー」つって救出に向かう途中で、主演ジョン・クラシンスキー車内でコンタクトレンズを落として騒ぐという謎のトラブルが発生。
「あっ。コンタクト落とした! うわ、よく見えない! これじゃあ戦えないじゃないか!」
「こんなときに何やってんだ! 探せ! よく探せ! おまえなら出来る!」
「あ、あったわ」
茶番も茶番。
なにこの横山やすし「メガネメガネ…」の応用版は。

 

そしていざ武装集団との戦闘が始まったかと思えば、ハイ出ましたねぇ、マイケル・ベイ現象
カメラ振りすぎ&カット割りまくりのヒステリー映像で、もう何が何やら。誰と誰がどこにいて誰が何をやっていて誰が撃たれたのか…、まったく分からないんだよね。
ただでさえ髭面部隊の見分けがつかない上に(全員髭面だから)、友好勢力の殉教旅団とか現地の民間人がむやみに街中をウロウロしているので、誰が誰なのかわからないのだ。
やっとの思いで敵を追い返したあと、心身ともに疲れきった髭面メンバー「あそこに敵がいる!」と騒いで、仲間から「誰もいないぞ…? 幻覚だ。少し休め」と言われるシーンがある。
この映画が幻覚だよ!
こちとらマイケル・ベイ現象でフラフラなんだよ。
俺を休ませろ!

 

髭面部隊の一員であるパブロ・シュレイバーなぜか短パン姿だし、協力してくれた殉教旅団はついうっかり味方の髭面部隊に銃を向けちゃってバチバチに叱られたりする。
領事館からアネックスまでの運転を任された保安職員は、髭面リーダーのジェームズ・バッジ・デールから「門を出たらに曲がるんだ。右には敵がいるから、絶対にに曲がるんだぞ!」と再三に渡って念を押されていたにも関わらずに曲がってエラい目に遭う
なにこのダチョウ倶楽部「押すなよ! 絶対押すなよ!」の応用版は。


ていうか、バカしかいねえのか!

 

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ベイよ、もうお前は火薬と結婚してしまえ

 

④ベイメタル狂騒曲

そんなわけで、終始騒がしいだけの144分。
現場の混乱を演出することで臨場感を高めようとする意図は酌めるが、なにぶん映像自体が混乱してしまっているので、キャラクターよりも我々観客の方が混乱してしまうという。

マイケル・ベイの演出って、映画に対してではなく観客に向けて作用してしまうんだよねぇ。
とは言え、悪いところばかりではない。
終盤のアネックス籠城戦では、構図=逆構図による単純な切り返しショットが主なので、マイケル・ベイ現象は幾らか抑えられていた。
また、壮絶な防衛戦のあとに大挙して現れた50台の自動車に絶望するも、門の隙間からジェスチャーを通じてそれが味方だと知る構図=逆構図は、ベイにしては珍しく巧い。ここだけは素直に褒めておきたい。

 

とはいえ、観る者の精神異常を招くベイ狂騒曲には違いない。
まるで四台のオーディオを部屋の四隅に置いて、スピードメタルとデスメタルと北欧メタルとブラックメタルを大音量で同時に流し、その部屋の真ん中に144分座り続けている気分だ
「で、結局なにメタルやねん」みたいな。
あ、ベイメタルか。
144分ぶっ通しでベイメタルを喰らい、かれこれ3日ほど経つが、私の耳には未だに幻聴が聞こえる。
ドドドドド! ドカーン! ズガシャーン!
コンタクト落とした! ミエナイ、ミエナイ!
ボボーン! バリバリバリ!
左に曲がるんだぞ!
ミギーン!!

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 ~撮影現場でのバカ談義の風景~

マイケル・ベイ「撮影中に誰も怪我しなくてよかったね(笑)」

髭面隊員A「いやいや、瓦礫で皮膚裂傷しましたよ」

髭面隊員B「俺は火傷した」

髭面隊員C「髪の毛燃えました」

髭面隊員D「差し歯がとれました」

髭面隊員E「ベイ・バスターに轢かれました」

 マイケル・ベイ「俺を訴えたら、どうなるか分かってるよな?」

一同「…………」

*1:キャスリン・ビグロー…初期はハートブルー(91年)のような不思議な映画を撮っていたが、以降、イラク戦争における爆弾処理班を描いたハート・ロッカー(08年)や、2011年に起きたアメリカ軍によるビンラディン殺害の経緯を描いたゼロ・ダーク・サーティ(12年)など、タイムリーな社会派映画を手掛けた女性監督。女性初のアカデミー監督賞受賞者であり、ジェームズ・キャメロンの元嫁でもある。