シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

アメコミ映画十選

私の好きなアメコミ映画を10本選んでみた。
アメコミ映画と一口に言ってもかなり多種多様なので、最近のマーベル・シネマティック・ユニバースとかDCエクステンデッド・ユニバースしか観てないよーという方にとってはクソほどつまらない記事になるであろうことが悔やまれます。ざんねん。

それじゃあ10位から…。行ったらんかい!

 


10位 ウォッチメン(09年)

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ザック・スナイダーにしては骨太な作品で、映像化不可能と言われた原作コミックを上手くまとめ上げた佳作。

巨匠アラン・ムーアの原作コミックウォッチメン(86年)は、コミックというよりもグラフィック・ノベルと呼ばれているほど膨大な台詞量とページ数で、物語や世界観がとてつもなく入り組んだ作品である(私は読むのに一ヶ月かかった)
また、アメコミ史にとってはターニング・ポイントとなった重要な作品で、同時期に連載されたバットマン: ダークナイト・リターンズ』(映画ダークナイトの原作)と合わせて語られることが多い。
というのも、ウォッチメンバットマン: ダークナイト・リターンズ』は非常に哲学的な内容で、アメコミそのものを自己批評したアメコミなのですね。
「ヒーローって本当に必要なの? 善人なの? だってウォッチメンバットマンがやってる自警行為って、そもそも違法だよね。ヒーローどころか犯罪者だよね?」というシビアな切り口によって、それまでの勧善懲悪のアメコミを脱構築した作品です。

おまけに、ウォッチメンの面々はベトナム戦争ニクソン政権に加担していたという設定があって、物語を通してアメリカ史を俯瞰するという構成になっておます。きわめて政治色の強い、大人向けのコミックだ。
もっともウォッチメンに限らず、アメコミの根底には政治があるのだけど。
東西冷戦時代に出てきたスーパーマンキャプテン・アメリカナショナリズム高揚の為に生み出された極右キャラだし、60年代に登場したX-MENにおける穏健派プロフェッサーXと過激派マグニートーの対立構図は公民権運動の比喩。
アメコミは時代を映す鏡なんだ。

 


9位 『スーパーマンⅢ/電子の要塞』(83年)

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映画好きにとってはスーパーマンといえばクリストファー・リーヴだ。78年から5作続いたシリーズで主演を張った、紛うことなきスーパーマン俳優である。

中でも私が好きなのは、コンピューター社会を批判した3作目『電子の要塞』

世間的にはかなり酷評されている作品だが、さもありなんというか…。監督リチャード・レスターの頭が遂におかしくなったとしか思えないほど、全編トチ狂っている。

 

本作の見所は、人を救えなかった一度の過ちですっかり不貞腐れてしまったスーパーマンが、なぜかコスチュームを着たまま真っ昼間からバーで酒を煽り、ピーナッツを指でバシバシ弾いて酒のボトルを割りまくる…という陰湿極まりない八つ当たり行為
あまりに不貞腐れすぎて、子供たちから心配されても「うるせえ、餓鬼コノヤロー!」と逆上する始末。
さらには、やさぐれついでに敵の女と寝たり(こらっ!)、傾いててなんぼのピサの斜塔をまっすぐにしちゃうなど、悪行の限りを尽くす。
およそスーパーマンがしそうにない事、してはならない事を全部してのけた…という意味で、この映画はアート・ロックのような前衛精神に満ちた高潔なるポンコツ映画なのだ!

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「割に合わねェんだよ、ヒーローなんて」と毒づき、真っ昼間から酒を喰らうスーパーマン

 


8位 スパイダーマン3(07年)

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 名匠サム・ライミが手掛けたスパイダーマン三部作の中ではいちばん評価が低いけど、悪に染まったピーター・パーカースパイダーマンの中の人)がとにかくクズすぎて私は大好きです。

恋人のMJにフラれたピーターは、急に怪しいダンスを踊りながら街を闊歩する。そして以前からピーターに想いを寄せていたグウェンと一緒にMJの働いてる店に行き、MJの目の前でグウェンとダンスを踊ってアツアツぶりを見せつけるんですねぇ。「ほらほらほらほら、僕モテモテモテモテ!」という具合に。
そのあとグウェンから「あの女に見せつけるために私と踊ったの!? このクズ!」と嫌われてしまう。そりゃそうだ。女性に失礼っていう。

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自分をフったMJの前でこれ見よがしにほかの女と踊りまくる邪悪なピーター。

 

また、ハリー・オズボーンに対しても最低なんですよ、今作のピーターは。
過去にハリーの父親ノーマン・オズボーン(悪い奴)を殺したピーターは、仇討ち勝負を挑んでくるハリーを「弱すぎて草生えるー。カビ生えるー」と嘲笑しながら返り討ちに遭わせ、ハリーの顔に醜い一生傷をつける。
そのあと、敵のサンドマンとヴェノム相手に戦うことになったピーターは、さすがに一人では厳しいということで、あろうことかハリーに「力を貸してくれないか」って頼むんですよ。

どの口が言うとんねん。
当然ハリーは「イヤだ…」と言って断る。

そりゃそうよ。父を殺しただけでなく、自分の顔に一生傷をつけた奴の頼み事なんか聞かないよね、普通。断って当然。英断だよ、ハリー。英断としての「イヤだ…」だよ!
そして決戦のとき。案の定2対1は厳しく、ピーターがボコボコにされているところへ颯爽とハリーが助太刀に現れる!

ハリー、ええ子やの~~。

父を殺したピーターを助けたんですよ!
顔の半分をグチャグチャにしたピーターを助けたんですよ!

ハリー「か、勘違いしないでよね! 敵討ちする前に死なれると困るから助けただけなんだから! 別にアンタの為じゃないんだからね!」

ツツツツ…ツン!
で、2対2のタッグマッチの末にハリーは死ぬ。
「キミは親友だ…」と言い残したハリーは、ピーターの腕の中で微笑みながら逝くのだ。ピーターに一生傷をつけられたのに…。散々けなされたのに…。ハリーがいい奴すぎて泣きそうになったよ。

ピーターは、自分を助けてくれたハリーが死んだというのに「あらまー」みたいな顔してやんの。「奥さん、昨夜のサイレンすごかったですねぇ。〇〇さん家で火事が起きたんですって!」「あらまー」みたいなニュアンスの「あらまー」なんだよ。

ピーター、おまえは俺がいいと言うまで喪に服しとけ。

 


7位 バットマン/オリジナル・ムービー』(66年)

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バットマンの敵として有名なジョーカー、ペンギン、リドラーキャットウーマンが総出演したお得な映画。とにかく馬鹿馬鹿しすぎて最高におもしろい。

船で移動しているジョーカーたちを追い、バットコプターに乗って海の上空を飛ぶバットマンとロビン。バットコプター…?
船の真上まで来たバットコプター。そこでバットマンが操縦席のロビンに向かって「バットはしごだ!」と言う。
「わかりました、バットさん!」なんつって謎のボタンをロビンが押すと、梯子用ロープがパタパタ降りて来る。その梯子にも英語で「バットはしご」と書いてある。
バットはしごはねーだろ。
どう見てもただの梯子用ロープだよ! もう無理くり「バット」をつければ良いと思ってるんですよ、バットマンって。
そしてバットマンがバットはしごを降りようとすると、急に船がパッと消えてしまう。何とその船は幻だったのだ!
そのあとサメが現れて、バットマンの足に噛みつく!
テンパったバットマンは、サメの頭をグーで殴ったりするんだけど、サメは一向に離れない。
そこでバットマン、ロビンに向かって「サメ用スプレーだ!」と言う。
「わかりました、バットさん!」なんつって謎のボタンをロビンが押すと、操縦席から3缶のスプレーが出てくる。
サメ用スプレー、エイ用スプレー、ピラニア用スプレー…。
何でそんなにピンポイントなんだよ。用途が。

一つの缶にまとめろよ!
って言うか、いつエイに襲われるんだよ!

 

そのあといろいろあって、バットマンとロビンが敵の潜水艦の魚雷のえじきになってしまう。潜水艦の中ではジョーカーたちが「やったー!バットマンを葬ったぞ~!」と大喜び。
だけどバットマンとロビンは生きていた。あれ、魚雷で死んだんじゃないのか?
そこでバットマンが言う。
「いやぁ、危なかった。通りすがりのイルカがたまたま魚雷に命中したお陰で助かった」
絶句。
もうご都合主義の権化である。

そのあとも、バットマンは導火線に火のついた爆弾を持ちながら町を走りまくる。
捨てようと思った先に市民や犬やアヒルがいるので、捨てようにも捨てられないのだ。そこでバットマン「どの命も犠牲にできん…。命は尊いものです」とカッコいいことを呟くのだが…。
イルカは?

いいの? そう、イルカ。たまたま通りがかって身代わりになってくれたイルカ。あれはいいの? あぁ、いいんだ…。
また、世界の首脳が危機に晒されて今すぐ助けに行かねばならないというのに「まだ時間はある。健康のために走っていこう」と提案して、「ぉいっちにー、さんしー」なんつってジョギングで現場に向かうんですね。マジか、この映画。

栄養ドリンク剤のCMばりに、真っ昼間から爽やかな走りを見せつけるバットマンコウモリ男がそんなことでいいのだろうか。

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 爆弾の捨て場所を求めて疾走するバットマン。傍目から見ると気の触れたテロリストだ。

 


6位 ロード・トゥ・パーディション(02年)

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『007』を手掛ける前のサム・メンデスはよかった。
これをアメコミ映画と呼ぶのは違和感があるが、まぁ現にアメコミ原作です。
子連れ狼に着想を得たマフィアもの。
殺し屋のサリヴァントム・ハンクス)が、迫り来る追手から息子を守って逃亡するという息子庇護型の逃走映画の傑作。

伝説のスター、ポール・ニューマンの事実上の遺作としても有名で、彼が演じるマフィアのボスがとても良い味を出している。

ボスは出来の悪い愚息コナー(ダニエル・クレイグ)よりもサリヴァン一家と親しくしていたが、それに嫉妬したコナーがサリヴァンの妻と次男を殺害。ぶちぎれたサリヴァンはコナーへの復讐を誓うが、ボスとしてはいくら愚息とはいえ血の繋がった親子、コナーが殺されるのを手をこまねいて見ているわけにはいかねー! つって、サリヴァンの復讐を阻止するために断腸の思いで殺し屋のマグワイアジュード・ロウ)を差し向ける…という、たまらなくビターな仁義ある戦いを描いたマフィア映画なのだ。
ボスとサリヴァンは主従関係を超えた親友同士なのに、バカ一人のせいで憎しみ合うことになる。サリヴァンは殺された家族のために、ボスは殺されそうになっているバカ息子のために止むを得ず争ってしまう…、という止ん事ない人間関係をノワール的に格調高く描いている。

 

主演がトム・ハンクスなので適度に愁嘆場もあり、間口が広くて万人受けするマフィア映画としてのヒットポテンシャルを備えているが、恐らく50年代のノワールを参考にしたであろう映像技法や画面設計はビビッドかつアーティスティック。監督サム・メンデスの強味が最もよく出た最高傑作だと思う。
執拗に主人公の親子を狙う殺し屋ジュード・ロウクソキモい禿げを爬虫類のような粘っこさで演じているあたりも最高!
マフィア映画だから最後に主人公は撃たれて死ぬんだけど、このシーンには誰もが不意打ちされるはず。北野武の映画か?」というぐらい、こちらが油断したタイミングでいきなり撃たれますから。
マフィア映画にしてはずいぶんメロドラマ路線だけど映像スタイルは硬派で、そのバランス感覚が非常に絶妙な美しい作品だよ。

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役の為に奇妙なハゲ方をしたジュード・ロウ美形なのにこういうことをしてしまえるところが信頼できる。

 


5位 ゴーストワールド(01年)

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マーベルやDCのような、いわゆるエンタメ炸裂型メインストリームの弩メジャーアメコミも楽しいが、たとえば『クラム』(94年)アメリカン・スプレンダー(03年)『アートスクール・コンフィデンシャル』(06年)のようなアンダーグラウンド・コミックスにこそアメコミの真の精神が底流している気がするのです。
ゴーストワールドサブカル女子が好む「オシャレなマイナー映画」としてファッション感覚で消費されているというのがファッキン現状だが、むしろそんなサブカル好きのオタクにとっては苛烈な現実が突きつけられるであろうシビアな傑作だ。

ちなみにアベンジャーズで大活躍のスカーレット・ヨハンソンが当時17歳のヤングっぷりで出演しているのでアベンジャーズファンは必見。

 

高度な青春映画だと思う。
高校を卒業してからというもの、街でぶらぶらと時間を潰している二人組の女子ソーラ・バーチスカヨハは、ガレージセールでレコードを売っている音楽マニアの中年男(スティーヴ・ブシェミ)と出会う。
同族の匂いを嗅ぎ取ってブシェミに接近するソーラちゃんだが、彼女がブシェミと意気投合すればするほど親友のスカヨハとは疎遠になってしまう。そして音楽オタクのブシェミは、初めて自分の趣味を理解して好意を示してくれたソーラちゃんにのめり込んでいくが、ソーラちゃんの側には恋愛感情など1ミリもなかった…。

主演のソーラちゃんは「自分は人とは違う」ことにプライドを持っていて個性的なファッションを貫いており、世の中とうまく折り合いをつけて生きていく親友スカヨハは軽蔑と嫉妬の対象だ。
「世の中、なんでこんなにバカばっかりなの?」

とてつもなくイタいヒロインだが、「あれ、これ俺じゃない?」って。
このこじらせガールに自分自身を重ね合わせて「恥ずかしくて、居た堪れなくて、死にたくなった…」と赤面するレビュアーが多いが、赤面するということは彼らレビュアーが昔の自分に比べて成長したということなのでしょう。
未だ成長しない私は、そんなことは毫も思わない。
画一化された社会に迎合せず、個性を貫き、忌々しそうに世の中に毒づくソーラちゃんは最高に恰好いい。イタ格好いいのだ。

人畜無害で凡庸な人間になるぐらいなら、バカでいた方がよっぽどマシだ。なんら恥じることはない。誰に遠慮をしてるのかい。

 

 

4位 キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14年)

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「アメコミもの」としても「映画」としてもきわめて完成度が高い、マーベル・シネマティック・ユニバースの現時点での最高傑作だ。

この作品は、監視社会対テロ戦争に対して問題提起したポリティカル・サスペンスになっておます。
スパイ衛星を使って国民を監視してテロリストを特定・殲滅するというS.H.I.E.L.D.アベンジャーズの皆さんを管理する諜報機関)のやり方に異を唱えたキャプテン・アメリカが、裏切者のレッテルを貼られて味方に追われるという逃亡劇を描いている。
ウォーターゲート事件を告発してニクソンを失脚させた実在の新聞記者を描いた大統領の陰謀(76年)と、味方であるはずのCIAに追われるCIA職員を描いた『コンドル』(75年)をベースとした政治色の強い映画なので、当時の政治的背景を知っておくと2倍楽しめるよ!
『コンドル』大統領の陰謀の主演俳優ロバート・レッドフォードも出演!
近年のオバマ政権下のドローン攻撃スノーデン事件にも繋がる、上質な社会派映画だ。

 

もちろんエンターテイメントとしても一級。
ワンシーケンス・ワンアクションを押さえた、出し惜しみしないサービス精神が狂奔した136分!
実は綺麗に撮るのが難しいスカーレット・ヨハンソンの運用術をバッチリ心得ているし、キャップとウィンター・ソルジャーの友情には男泣き。マーヴィン・ゲイ「Trouble Man」の使い方も上手ければ、エンドロールの影絵アニメーションも格好良くて。「あー、ソール・バスの命脈が~!」っていうさ。

あとやはり、アクションシーンの配置がとても巧妙で、本作ほどアクションの見せ方が巧い映画なんてなかなかお目に掛かれない。
エレベーター・ファイト→高層ビルから落下して脱出→追手の戦闘機撃墜までの一連のシーンはアクションのお手本のように鮮やかで痛快。映画の快楽原則を満たしている。
戦闘機の機体の上でエンジンや両翼を破壊し尽くしたキャップが大空を舞って膝をついて着地する完了!感がとてつもなく気持ちいい。

この映画を観れば間違いなくジョギングがしたくなるはずだ(僕はしませんでしたけど)。そして通行人を追い抜かしてこう言うのだ。
「左から失礼!」

 

 

3位 コンスタンティン(05年)

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エクソシストキアヌ・リーブスが、悪霊に取り憑かれた善良な市民をボコボコ殴って鉄拳除霊するというムチャポコな映画。
十字架ショットガンとかホーリーメリケンサックといったくだらないアイテムが満載で楽しいのだけど、この映画の本質は除霊とか宗教ではなく禁煙映画ということですね
キアヌ演じるコンスタ坊はヘビーにも程があるヘビースモーカーで、あっという間に肺癌に罹って余命1年と医者に宣告される。宣告されながら医者の目の前で煙草を吸う。

オイ病院だろ、そこ!
かくして肺癌によってげろげろ血ヘドを吐くコンスタ坊、しかし懲りずにスパスパ煙草を吸う。大雨の中でも煙草を吸う。いちいち大袈裟な動きでジッポの蓋をシャキンシャキン閉じながら煙草を吸う。
グラスの中に蜘蛛を閉じ込め、そこに煙草の煙を吹き入れて「俺の世界へようこそ」と囁く場面がやけにクールだ。クールだがその実、虫を苛めてるだけという。

そして最終決戦に臨むコンスタ坊が十字架ショットガンを使って煙草の箱を試し撃ちすると、画面一杯に大映しになった焼け焦げた煙草のパッケージに「煙草は肺がんや心臓病などの原因となります」の文字が。なんだこのジョークは。
そして悪魔がコンスタ坊の脇腹に両腕を突っ込んでタールまみれの黒い肺を摘出し、かわりに健康的な肺をプレゼントするというもう何が何やらのラストを経て、ビルの屋上で夜風を浴びるコンスタ坊がこちらに背を向けてジャケットの内ポケットをごそごそし出すので「おっ、煙草か? 煙草か?」と身を乗り出してドキドキしていると…、まさかの禁煙ガム~~! っていう映画史に刻印されるべき大どんでん返しに前後不覚。
これぞヒッチコックすらやらなかった煙草サスペンス

肺癌のエクソシストが禁煙するまでを描いた感動的な禁煙推奨映画。ちなみに私はこの文章を書きながら、現在5本目の煙草に火を点けたところです。

 


2位 ヒストリー・オブ・バイオレンス(05年)

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シュルレアリスムをこよなく愛する身としてはヴィデオドローム(83年)裸のランチ(91年)をこそデヴィッド・クローネンバーグの最高傑作に位置づけねばならないのだけど、私にとってはこの作品こそがクローネンバーグの最高傑作であり、生涯ベスト映画TOP50には入れたいと思っているぐらい大好きな作品です。

これは暴力映画ではなく暴力についての映画だ。
ダイナーを営んでいる平凡な男のもとに怪しげなマフィアが近づいてきて、正当防衛でマフィアを殺してしまったことからのっぴきならない立場に置かれてしまう…という大筋なのだが、疲れてきたので詳しい話はしない。だいぶ疲れた。かれこれ7500字以上も書いてるからね。
そもそも、この文章を読んでる暇があったら一本でも多く映画を観ろ!
一度きりの今日、一度きりの今この瞬間だぞ。もっと有意義に使え! 輝け!
こんなブログなんか読んでる場合か!

 


1位 バットマン リターンズ』(92年)

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疲れにより執筆放棄しかけて読者の方に逆上してしまいましたが、あとちょっとなので頑張って書くね。でもしんど。

 

さて、ティム・バートンが始めた旧4部作の2作目。これはノーラン版3部作も含めてバットマンシリーズの最高傑作であり、ティム・バートンのフィルモグラフィの中でも最高傑作に当たる。
私はダークナイト(08年)も好きだが(だけどクリストファー・ノーランは嫌い)ダークナイト ライジング』(12年)アン・ハサウェイがやったキャットウーマンは嫌い(だけどアン・ハサウェイは好き)
バットマンといえば旧4部作だし、キャットウーマンといえばミシェル・ファイファーなんだよ!
何が言いたいかというと、ノーラン版3部作だけ観て「ほっほーん。これがバットマンねぇ」などと得心している若造どもはバットモービルで轢き潰す、ということです。旧4部作はノーラン版よりも遥かにゴージャスで、ファンタスティックで、そして深いのだ。

 

本作で登場する悪役はペンギンとキャットウーマン。その両方がバットマンよりも濃いキャラクターだ。
畸形として生まれたペンギンは、両親に気持ち悪がられて下水道に捨てられたという悲しい過去を持つ下水道の住人。そして内気な秘書セリーナ(演:ミシェル・ファイファー)は、秘密の計画を知ってしまったことで実業家のシュレッククリストファー・ウォーケン)にビルから突き落とされて死亡、キャットウーマンとして生まれ変わって世のクズ男どもを成敗する。

この映画のポイントは、生まれつきの容姿で人々から不気味がられている被差別者のペンギンと、男性社会の餌食になったセリーナが世の中に対して復讐を仕掛けるという構図である。

要するに、差別され虐げられる側を悪役に置いているので、彼らの復讐行為を単純な善悪二元論で「よくない」とは一概には言えない、複雑な構造を持った作品なのだ。
ゆえに、主人公であるはずのバットマンの善行は構造的に封じられてしまう。いわばペンギンとキャットウーマンバットマンが「ヒーローであること」を許さないので、バットマンのキャラクターとしてのアイデンティティが喪失してしまうのである。
それは取りも直さず、バットマン自身が親を失ったペンギンであり、仮面をつけて夜の街を跋扈するキャットウーマンであり、大富豪としての表の顔を持つシュレックの分身に他ならないからだ。
したがって本作のバットマンは、主人公なのにまったく活躍しない。いや、できないのだ。ペンギンやキャットウーマンシュレックを制裁することは自分自身を否定することになるからだ。

 

ダークナイトは、ジョーカーという肉体的には勝てても本当の意味では勝ちようがない純粋悪によって「自警主義で悪人を裁いて正義のヒーロー気取り? それって綺麗事なんじゃないの?」と人間の正義感や良心を揺さぶった哲学的傑作だったが、その源流こそがバットマン リターンズ』
どちらの映画でもバットマン肉体的には勝てても道義的には敗れている
つまるところバットマンというコンテンツの魅力は、肉体的なパワーで勧善懲悪を達成する脳筋アメコミとは一線を画した、個人(バットマン)の哲学的または心理的な葛藤をベースとした社会学的な側面を持っているという点である。
もちろん表層的に見ても娯楽満載ですこぶる楽しいので、私は旧4部作、わけてもバットマン リターンズ』が掛け値なしに大好きです。

 

 

おまけの最低アメコミ映画三選。

 

A級戦犯死刑確定ワースト3

 

1位『ディック・トレイシー(90年)

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一文でまとめるなら、俺たちに明日はない(67年)の主演俳優ウォーレン・ベイティティム・バートンバットマン(89年)に嫉妬して監督業に手を出し見事に玉砕してアメコミ映画史の小汚い墓場に葬られた屍である。

アル・パチーノダスティン・ホフマンシーモア・カッセルジェームズ・カーンマドンナといった将軍クラスの豪華スターを集めたけど、肝心のウォーレン・ベイティ映画制作のノウハウがなかったので壮大なるコネ押し映画になった。

 

2位『ハルク』(03年)

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グリーン・デスティニー(00年)『ブローグバック・マウンテン』(05年)ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(12年)などで知られる台湾の名匠アン・リーの作だが、批評的にも興行的にも大コケ。

後年インクレディブル・ハルク(08年)としてリブートされ、この映画はなかったことにされた

内容を一言で要約すると、ヒトデが解剖されてカエルは爆発し、激おこハルクが砂漠をドカドカ走るという意味不明なもの。

ジェニファー・コネリーを美しく撮れていたことだけが唯一の美点。

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コネリーと言えばランキングショーン・コネリーを押さえて堂々の一位に輝いたジェニファー・コネリー。私は4日ぐらい使ってジェニファー・コネリー特集の記事を書きたいと思っているぐらいにはジェニファー・コネリーが好きです。

 

3位『ザ・ファントム』(96年)

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全身タイツの変態猥褻野郎・ファントムが活躍するというゴミ映画。

まずこれ、ファントムに変身するのがビリー・ゼインなんですね。ビリー・ゼインと言えば、一番有名なのがタイタニック(97年)でジャックとローズの恋を引き裂く婚約者の役だけど…、オマエこんな映画に出て何してんだよ! ローズが手に入らなくてヤケになっとんのか?
このファントムというヒーロー、誇張なしで全身紫のタイツなんですよ。カッコ悪いの何のって。
そんな変態ファントムが、なんと白馬に跨ってパカパカ走るんですね

おい、冗談だろ?

上から下まで紫のタイツ野郎が白馬に乗ってんですよ。笑う以外のリアクションって何かあります?
あとこのファントム、ぜんぜん強くないあたりも滑稽で。
敵に縛られてるヒロインを解放したファントムが、「私のあとについて来れば大丈夫だ。さぁ、行くぞ!」つって一緒に逃げ出すんだけど、すぐ敵に気付かれて、後ろから羽交い締めにされてボコボコに殴られてやんの

もうやめてしまえ、ヒーロー。