シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

コヨーテ・アグリー

ベラボーにハイパーなパイパー・ペラーボの乱痴気映画。

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2000年。デヴィッド・マクナリー監督。パイパー・ペラーボ、アダム・ガルシア、マリア・ベロ

 

ソングライターを夢見てニューヨークで一人暮らしをするヴァイオレットは、生活資金を稼ぐためにクラブ・バー「コヨーテ・アグリー」で働くことにした。そこでは、弁護士や女優を目指している女性バーテンダーたちが、カウンターの上でセクシーでエキサイティングなダンス・パフォーマンスを繰り広げていた…。(Yahoo!映画より)

 

のちに世界中でチェーン展開した、実在するアメリカの乱痴気バーコヨーテ・アグリーサルーンを舞台にした乱痴気映画の決定版。

このバーの最大の特徴はセクシーな女性バーテンダーたち。バーカウンターの上で踊り狂ったり、歌い狂ったり、客とイッキ飲みで勝負したり、酒に火をつけたり、客にビールを浴びせるなど、さながらヘヴィメタルのライブを彷彿させるような乱痴気パフォーマンスが人気を博し、ロシア、ドイツ、イギリスなど全世界に23店舗を構えるほどの人気バーチェーンに成長したらしい。
ちなみに2016年に六本木店がオープンしたので、興味のある人は行ってみるといい。たぶん、バーというよりライブですよ。

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実際の「コヨーテ・アグリーサルーン」の日常風景。

※バーです。

 

この映画を観ると、日本で急増しているパリピなんて可愛らしいもんだな、と思った。
パリピ…騒ぐことしか能のないバカ。目先の欲望に飛びつく快楽主義で、やたらにEDMを好む。映画や読書といった文化的な営みとは無縁のデミ・ヒューマン。

しょせんパリピなどEDMに合わせて身体を揺曳させたり、泡にまみれて喜んでるだけだ。
コヨーテ・アグリー」に集う客たちは、パリピというよりも精神錯乱者である。
若い女の子たちが頭からビールをかぶって踊り狂うバーカウンター。そこに詰めかけて「イェ~、最高だ~!」と絶叫しながらモッシュする客たち。バーテンダーは客の肉塊の中にダイブして「我を崇めよ」みたいな陶酔フェイス。
ライブやないか。
水を注文した紳士に「水なんてねえよ!」と吐き捨てて顔にビールをぶっかける。歌が得意なバーテンダーはジュークボックスに合わせてカウンターの上で熱唱。火吹き芸が得意なバーテンダー「火でも吹きてえな」と思ったらウォッカを口に含んで随意に火を吹く。
ライブやないか。
場所がバーというだけであって、やってることはほとんどKISSのライブだよ。
バーテンダーも客も夜通しハイで、店が壊れるほどの振動と轟音を響かせて悦びをシェアーする。さながら精神錯乱者の打ち上げである。ご苦労なことだ。

個人的にこういう手合いはモロに軽蔑の対象なので、ソングライターを目指してニューヨークに出てきたヒロインのパイパー・ペラーボが、生活費を稼ぐためとはいえ「コヨーテ・アグリー」で働いて尻を振ったりビールを振ったりすればするほど、私の瞳はどんどん黒く濁ってゆきました

 

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主演女優パイパー・ペラーボ。デビューと同時に本作で初主演を果たすが、ソッコー低迷。海外ドラマ『コバート・アフェア』(10年)の主演で活路を見出した。

 

そもそもパイパー・ペラーボてなんやねん
どうしてこんな間の抜けた名前で女優業をしようと思ったのか。どう考えたって売れないでしょう、この名前じゃあ。

パイパー・ペラーボて…。

ベラボーにハイパーだとでも言うのか?
それに、濁点か半濁点かややこしいんだよ。バイパーかと思えばパイパーだし、ベラーポかと思えばペラーボだし。ヴィックスヴェポラッブばりの覚えにくさパイパー・ペラーボおよび大正製薬の皆さんに反省を促していきたい。
どうやらこの名前は本名らしいが、にしてもだよ。もっとカッコよくて売れそうな芸名なんていくらでもあるじゃない。たとえば、なんだろうな、リリー・ワッツハプンとか。

それになぁ、トム・クルーズだって本名はトーマス・クルーズ・メイポーサー4世だけど、トム・クルーズにしたから売れたんだよ。
だって「どうもこんばんわ。『トップガン(86年)で主演をやらせて頂きました、トーマス・クルーズ・メイポーサー4世です」とか、なんかヤじゃない。誰が何する映画やねんって思うじゃない。「メイポーサー4世が戦闘機に? 似合わな!」って。デンジャーゾーン感まるでなしだよ。

あと、ブルース・ウィリスだって本名はウォルター・ウィリスだからね。

ウォルターってツラかよ! 芸名万歳!

 

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コヨーテ・アグリー」の仲間たち。

左から順番に、ビッチ、ビッチ、ビッチ、ビッチ、ビッチ …リル、ゾーイ、ヴァイオレット、キャミー、レイチェル(役名)。

 

この映画の欠点は枚挙に暇がないが、ひとつだけ挙げるとすればヒロインの行動原理がむちゃむちゃに破綻していること。
ソングライターになりたいのに「コヨーテ・アグリー」での乱痴気業務に充足していることが不思議で仕方がない。
「金曜の夜は忙しいから抜けられないわ!」なんつって店を優先、オーディションをドタキャンして千載一遇のチャンスを棒に振るペラーボ嬢に「結局おまえは何になりたいの? ソングライター? バーテンダー?」と。
カウンターの上でケツを振りながら歌いまくってる姿を父親に見られて「誤解しないで、普通のバーなのよ!」って言い訳するんだけど、どこが普通のバーじゃ。ライブやないか。

 

また、ペラーボ嬢の夢はソングライター(作曲家)であって、シンガーソングライター(歌手)ではない。周囲の人たちから「自分で歌えばいいじゃない」と言われても「歌手にはなりたくないの。ステージに上がると緊張すんのよ」って。
どういうことやねん、それは。

おまえ毎日カウンターの上で歌いまくっとるやないか。


で、店の掟を破って支配人のマリア・ベロと大喧嘩の末にクビになったペラーボ嬢は、ダメ元で送ったデモテープがレコード会社の目に留まり、意気揚々と歌手デビュー。
だからどういうことやねん、それは。

さっきあれほど「歌手にはなりたくない」言うてたやないか。

掌返しがすげえな、ペラーボ。さすが濁点と半濁点の撹乱者。

 

そしてクライマックスの初ステージ。応援に駆けつける父親、幼馴染み、マリア・ベロ率いる「コヨーテ・アグリー」の仲間たち。
え。父親と幼馴染みが来るのはわかるけど、支配人のマリア・ベロとは仲違いしたんじゃないの? いつの間に和解を?
そしてステージ開幕。歌い出しが始まっているのに緊張して歌えないペラーボ嬢。客席がざわつき始め、応援に駆けつけたみんなも心配する。
もうダメかと思った矢先、ようやく緊張を跳ねのけたペラーボ嬢は嘘みたいに元気いっぱいの歌唱を見せつけ、初ステージは見事大成功に終わるのでした。ハッピーエンド。

くだらな。

 

ペラーボ嬢は「緊張して歌えない」という件でしつこいぐらい何度も葛藤する。
この手の映画は他にもあるけど、歌えない理由を個人の内的な問題にしてしまうのはドラマの推進力たり得ないので脚本として失格です

だって精神論の範疇だからね、「緊張して歌えない」とか。
歌えないヒロインが歌えることにロジックがないから、成長譚としてのカタルシスが損なわれるわけです。
「歌えない歌えない言うてたわりにはバッチリ歌えとるやないか」と。

ちなみに、私が少年漫画を読んでてアホらしくなっちゃう展開ランキング第1位は、立ち上がれないほどの攻撃でとどめを刺された主人公が気合いでどうにか立ち上がって周囲を驚かせる…みたいな根性論。ゾンビかよ。

ほな、もう何でもありやないか。

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歌手のリアン・ライムスが本人役で登場(左)。興味ないからどうでもええわ。

 

というわけで、本作の見所は理屈もモラルも超えた乱痴気騒ぎ。ただそれだけ。
ハードロック好きとしては、デフ・レパード「Pour Some Sugar On Me」が流れるシーンで一瞬「おっ!」となる…ぐらいには楽しい瞬間もあったのだけど、それは映画のお陰ではなくデフ・レパードのお陰です。
新人監督のデヴィッド・マクナリーはただのスケープゴートで、実際は製作に携わったプロデューサージェリー・ブラッカイマー*1が全権を掌握した正真正銘のブラッカイマー映画である。


町山智浩「ブラッカイマーって、客を引けるコンセプトを思いついた段階で、それ以上の努力はしないよね」
柳下毅一郎「ブラッカイマーの映画って予告編以上のことは絶対に起きないんですよ。客がチケットを買えば商売は終わりで、来た客をさらに満足させる必要はないと思ってる」

名著『映画欠席裁判』216頁より

 

劇中で流れるデフ・レパード「Pour Some Sugar On Me」クイーンのWe Will Rock Youを真正面からパクった大ヒット曲

テイラー・スウィフトとのコラボバージョンをどうぞ(赤毛のバイオリン弾きのお姉さんが超カッコいい)。

 

*1:ジェリー・ブラッカイマーハリウッド映画=バカで大味な大作映画というパブリック・イメージを作り上げた張本人。アメリカ映画にとって最も必要のないプロデューサーである。