やたらとソーセージ推しの農場訪問型アクション。
1971年。マイケル・リッチー監督。リー・マーヴィン、ジーン・ハックマン、グレゴリー・ウォルコット。
カンザス・シティの顔役メリー・アンのもとに、シカゴのギャングが借金の催促に来た。メリー・アンは使者を殺し、ソーセージにして送り返す。怒ったシカゴのボスは、一匹狼のデブリンを派遣し、メリー・アンへの制裁を図る…。(allcinema より)
70年代のアメリカ映画って色んな意味でおもしろいよ。
とにかく頭イカれた映画が多い。まぁ、アメリカが最も自由だった時代だからね。
今回取り上げる『ブラック・エース』も、そんな自由の落とし子である。
それじゃあ、いってみよー。
カンザスの牧場と精肉工場を支配する田舎最強ギャングのジーン・ハックマンが、「借金はよ返さんけー」と催促に来たシカゴのチンピラに腹を立てて、弟のグレゴリー・ウォルコットに「肉づくり、開始!」と命令する。
弟グレゴリーは「えいっ、えいっ」と言いながら干し草用フォークでシカゴのチンピラをぶすぶす突いて殺害。その死体を精肉工場の機械に突っ込んで、鮮やかな手つきで人肉ソーセージを作りあげた!
事務的な手つきで人肉ソーセージを加工する弟グレゴリー。
そのソーセージ(チンピラ風味)がシカゴ・ギャングのもとに送りつけられたから、さあ大変。
怒ったシカゴ・ギャングは、裏社会から足を洗おうとしているリー・マーヴィンを呼びつけ、「うっとこの若い衆がソーセージにされてもうたんやわ」と事情を話してカンザス・ギャングへの復讐を依頼する。
シカゴ・ギャングのボスに人肉ソーセージを見せられたリー・マーヴィンは、べつだん「やれやれ…」とも「美味っそやな~」とも思わず、淡々と仕事に取りかかるのだった…。
チンピラ風味のソーセージ。
アクション映画と呼ぶにはあまりに奇妙な作品だ。
カンザスの精肉工場に始まるオープニング・クレジットでは、5分近くもソーセージの製造工程が見せられるのだ。
なにこれ、工場見学映画なの?
映画としてのルックはB級映画、…というよりもカルト映画に近いが、とにかくキャストが激アツ。
現在50歳以上のおっさん世代にはたまらない二人が出ているぞ!
リー・マーヴィン(1924-1987年)
主演のリー・マーヴィンは、同年代に活躍したチャールズ・ブロンソンやジェームズ・コバーンに比べれば華こそないが無骨で硬派なアクションスターで、大家ロバート・アルドリッチの『特攻大作戦』(67年)や『北国の帝王』(73年)などで知られる名優。
ジーン・ハックマン(1930年-)
田舎最強ギャングを演じたジーン・ハックマンは、もはや映画好きにとっては基礎教養レベルの名優ですね。
『フレンチ・コネクション』(71年)のポパイ刑事ね!
本作のあと、『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)、『スケアクロウ』(73年)、『スーパーマン』(78年)、『許されざる者』(92年)などでハリウッドの大重鎮となっていくキング・オブ・大御所。
そんな本作は、田舎ギャングのハックマンが所有する農場に都会ギャングのマーヴィンが殴り込みをかけるという農場訪問型アクションだが、舞台が舞台なのでとにかく牧歌的。
牛がモーモー、羊がモフモフ。太陽サンサン、青空ピーカン。
しかもハックマンはギャング仲間を集めて焼肉パーティーとかしてんの。楽しそうに。
「うちで育てた牛やでー。めっちゃうまいからどんどん食べてな。ビールもあるさかい!」
「うわっ、美味っそやな~」
「焼肉うんまー!」
言うてる場合やあらへん。
のどか か!
おまけにハックマンとグレゴリーの兄弟は、仲が良いのか悪いのか、いつもじゃれ合って喧嘩ごっこをしていて、とてもギャングには見えない。
「どちらがよりハゲてるか?」を議論して掴み合いの喧嘩に発展する兄弟。このあと一瞬で和解。
アホしかいないのか、この映画?
事程左様にとてもオフビートで不思議な映画だが、本作の裏側を読み解くうえでのポイントはカンザスという舞台にある。
カンザスといえばアメリカ中西部にあるクソ田舎で、古き良きオールド・アメリカとして美化されている州。
そこを牛耳るハックマンは自身の農場で少女たちを「飼育」しており、人身売買をおこなっている悪い奴だ。年端もいかぬ少女たちが麻薬漬けにされて全裸で柵の中に閉じ込められ、醜く肥えた権力者たちが彼女たちを求めて競り合うのだ。
家畜扱いされる少女たち。
そこで競りにかけられていたシシー・スペイセク(『キャリー』におけるキャリー!)を高値で買ったマーヴィンは、シカゴに戻って彼女にドレスを与えてホテルの部屋を用意してやり、レストランで一緒に食事をする。
マーヴィンがテキトーに選んで買ったのがスケスケのドレスなのでシシーちゃんの乳は丸出しとなったが、これまで全裸がデフォルトで家畜同様の扱いを受けてきたので彼女には羞恥心というものがなく、周囲の目も気にせずに乳が半スケのまま楽しそうに食事をする…というシーンがなかなかショッキングだ。
キャリー、乳透けてもうとるがな。
この一連のシーケンスには、女性を「所有する」という感覚を今なお持ち続けている、アメリカ西部における男性社会の因習が「ハックマンの農場」というメタファーによって暗に示されている(西部劇における女性の扱いを思い返すまでもないだろう)。
オーケー、まったくもって胸糞悪い。
こんな農場は今すぐにブッ潰すべきだ。
ハックマンの農場に向かう途中、ひまわり畑での銃撃戦で仲間を失ったり、巨大コンバインに追われまくるなど散々な目に遭いながらも、どうにかハックマンの部下を片づけたマーヴィン。
もはや巨大すぎてコンバインと認識することさえできない。
いよいよハックマンのもとに向かうという段になって、「普通に踏み込むのはインパクトに欠けるな…」と思ったマーヴィン、たまたま前方から来た大型トラックを無理やり止めて、「俺が運転するからどけ!」と言って見ず知らずの運転手を助手席に移動させ、ハックマンの根城に正面から突っ込んだ!
建物倒壊!
「よっしゃ、やったったでぇ!」と喜んだマーヴィンだが、ふと助手席を見た途端、彼の表情から笑顔が消える。
彼が見た先には…。
車の持ち主…。
巻き添えくらって死んでもうとるやないか。
これはダメよぉ、マーヴィン…。
アンタ、いくらギャングとはいえこの映画の中ではヒーローなんだからさ。無関係の市民を巻き込んで殺しちゃうのは、違うよね。わかるよね?
まぁ、「すまなんだ」って顔してるから今回は大目に見るけど、もうないで?
さて、気を取り直してクライマックスです。
まぁ、結論から言えば敵の根城に踏み込んだマーヴィンがハックマンを撃ち殺してめでたしめでたし…なのだが、その間に「えっ?」と思うようなシーンがあってね。
ハックマンと対峙する前に弟のグレゴリーと一騎打ちするシーンがあるのだが、コレ…、今から載せる画像をよく見てくださいね。
マーヴィンと揉み合っている最中、グレゴリーはポケットから何かを取り出してマーヴィンの背中に突き立てる。ナイフか? 包丁か?
しかしマーヴィンの背中からは一滴の血も出てないし、そもそもこの突き立て攻撃が効いている様子もない。
そのあと、マーヴィンの反撃によってグレゴリーが床にぶっ倒れて息絶える。
ぶっ倒れたグレゴリーの右手にご注目。
なにこれ。
ひょっとして…。
ひょっとして映画の冒頭でグレゴリーがチンピラを殺したあとに精肉工場で作っていた…、あの…。
ソーセージやんけ。
なんなの、こいつ。いつもソーセージをポケットに忍ばせてるの?
そしてなぜ揉み合いの最中にソーセージを取り出してマーヴィンの背中に突き立てたの?
突き立つわけないでしょうが、ソーセージなんて。
ただグニョグニョした感覚を相手に与えて、それで終わりやないか。
抵抗の仕方として斬新すぎるでしょ。
そんなわけで、この映画から学べることは…
①アメリカ西部は男性社会。
②グレゴリーはやけにソーセージが好きな奴だった。
ということだけ。
シャウエッセンが食べたくなってきた。