シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

リアリティ・バイツ

 テレビでやれ、バカヤロー!

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1993年。ベン・スティラー監督。ウィノナ・ライダーイーサン・ホークベン・スティラー

 

ジェネレーションX世代を題材に、大学を卒業した4人の男女の交流を描いた青春ドラマ。TV局でADをしながらドキュメンタリー映画を作ることを夢見るリレイナと男友達のサム。バンド活動で職に就かないトロイに、エイズに脅えるビッキー。そんな彼らがひょんな事から共同生活を始めるが…。(Yahoo!映画より)

 

もしも「私のベスト映画を3本選ばないと頭蓋を粉砕します」とウィノナに脅迫されたら、きっと私は頭をガードしながら『ヘザース/ベロニカの熱い日』(89年)『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91年)エイリアン4(98年)を挙げるに違いない。

シザーハンズ(90年)もステキだし映画としては好きだがウィノナを金髪にするというとんでもない過ちを犯しているので、その点だけはホーリーシットである。

 

それはそうと、エイリアン4が半笑いで黙殺されている理由がわからない。『エイリアン』シリーズとしてはちょっとアレかもしれないが、ひとつの映画としてはなかなか腰が入っていると思う。このシリーズのインダストリアルな美術世界とジャン=ピエール・ジュネのグラン・ギニョール趣味との幸福な結婚には謎の陶酔感さえある。

ちなみにエイリアン3(92年)も悪評が目立つ。デヴィッド・フィンチャーは並みの観客を置き去りにするような非凡なセンスの持ち主なので、この国ではパニック・ルーム(02年)がいかにすぐれた映画であるか…ということもなかなか理解されない。

 

すっかりウィノナから脱線してしまった。というわけで「ライダー映画3連発」の第二弾は『リアリティ・バイツ』です。

この頃のウィノナはぜんぜん万引きもしない、いい娘だったんですよ。

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 万引きとはおよそ無縁のハニカミキューティー!

 

◆X世代応援映画◆

おまえたちは「X」と聞いて何を連想しますか。X JAPANを連想してはなりませんよ。ジェネレーションXを連想してほしかったのです(答えありきかよ)

ジェネレーションXとは、アメリカにおいて1961年~81年生まれの世代を指す。かっこいいよね。ジェネレーションX。俺も呼ばれてえよ。ジェネレーションX。

この世代は、ベトナム戦争終結とヒッピー・ムーブメントの衰退の中で「しょうもな」とボヤきながら10代を過ごし、20代になるとリストラブームで就職難に苦しんだ。

よって社会や政治に関心がなく、世の中に対して斜に構えながら個人主義を貫いている。日本に当てはめるなら「しらけ世代」だ。

そしてMTVど真ん中の世代でもある。

本作は、当時サタデー・ナイト・ライブやMTVで活躍していたベン・スティラーの初監督作である。

ベン・スティラーといえば、日本ではナイト ミュージアム(06年)で知られるコメディアンで、彼自身もX世代の人間だ。

ちなみに私はこの人のことが猛烈に苦手。

 

テレビ局で働いているウィノナ・ライダーは、大物司会者から嫌われてクビになり、毎日アパートでMTVを見続ける引きこもりに。

同じアパートで共同生活しているジャニーン・ガラファローは手当たり次第に男と寝る奔放ウーマンで、エイズ感染を心配している。そこへ転がり込んできたスティーヴ・ザーンは藪から棒にゲイであることをカミングアウト。

そして、秘かにウィノナを恋慕しているイーサン・ホークは浮世離れした知的なバンドマンで、まじめに働く世間の人々に皮肉を飛ばし、ベン・スティラー演じるMTVの編集局長との新しい恋にのぼせ上がるウィノナに嫉妬交じりの嫌味を投げつける。

そんな4人が、ともに悩んだり傷ついたり慰め合ったり蹴とばし合ったりする、ちょうど『シングルス』(92年)スパニッシュ・アパートメント(02年)のような男女共同生活モノX世代あるあるをまぶしたようなX世代応援映画が本作である。

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のんべんだらりと過ごすXたち。これが本当のX-MEN


◆X世代がテーマにも関わらず…◆

びびるほど雑な映画だった。

見所があるとすれば、黒髪ショートをなびかせて憚らないウィノナ・ライダーの可愛らしさと、一昔前の掲示板にいた喧嘩師のようにねちっこい口調で誰彼構わず言い負かしては「はい論破ー」といって美しく自己完結するイーサン・ホークのニヒルな佇まいぐらいだろう。

 

X世代がテーマにも関わらず「ウィノナの再就職」ではなく「イーサンと結ばれる」ことで映画は幕を閉じるので、よくあるロマンスに矮小化されている。

で、うまくロマンスにすり替えられているかというと、イーサンとベン・スティラーの恋の鞘当てが結局ウヤムヤのまま。ウィノナが売り込んだドキュメンタリー映画が勝手に編集された件についてもウヤムヤのまま。

だいたい、この映画って「卒業生総代に選ばれるほど優秀なウィノナが、社会ではまったく何も通用せずに現実の厳しさ(リアリティ・バイツ)を思い知る」という話である。

だったら最後はイーサンとのセコいキスシーンではなく、カメラを振り回して映画を撮り続ける姿、もしくはテレビ局に再就職して自分をクビにした大物司会者に一杯食わせるシーンで幕引きとするべきでは?

ベン・スティラーが監督・主演を務めた『LIFE!』(13年)でも、LIFE誌の写真管理者が主人公なのに現像処理のプロセスを撮り漏らしていたり、仕事に対する熱意がもっぱらセリフ頼みになっていたりと、まるで映画自身が主人公の生き方を全否定しているようないい加減な振舞いが目立った。この人が作る映画は基本的に不誠実だ。

 

そもそも、いくらデビュー作とはいえ、製作に関わったダニー・デヴィートから監督業のイロハを乞うている時点で鑑識眼のなさは明らかなのだが!

ダニー・デヴィートシュワちゃんと兄弟を演じた『ツインズ』(88年)や、宿敵ペンギンを演じたバットマン リターンズ』(92年)などで知られる小柄な俳優。なかなか味のある俳優だが、監督としては四流以下。

 

たびたび挿入されるハンディカム映像はうっとうしいだけだし、ベン・スティラーの出自でもあるバラエティ番組やMTVからモロに影響を受けた「テレビ的な映像手法」に関してはもはや論外。

結句、「テレビでやれ。そんなものを映画に持ち込むな」というのが、私がこの映画に突きつけたいリアリティ・バイツです。

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追記

ノア・バームバック『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(14年)だと、今度はベン・スティラー自身がドキュメンタリー映画を製作するX世代の中年男を演じている。

大学を卒業して社会の厳しさにぶち当たった若きX世代を描いたのが『リアリティ・バイツ』なら、彼らのその後の人生を描いたのが『ヤング・アダルト・ニューヨーク』だ。この2本は精神的な連作。

ちなみに『ヤング・アダルト・ニューヨーク』はとても風通しのいい映画なので、もしもあなたがどちらか観ないと頭蓋を粉砕されるという悲しい状況になったら断然こちらをおすすめします。

死を免れる上に、すてきな映画も楽しめる。良いこと尽くめだろう?

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 右から順に、ナオミ・ワッツベン・スティラーカイロ・レンアマンダ・セイフライド