シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

殺人魚フライングキラー

あの名匠の消し去りたい過去。

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1981年。ジェームズ・キャメロン監督。トリシア・オニール、ランス・ヘンリクセン、スティーヴ・マラチャック。

 

陸軍が開発した生物兵器のピラニアが海に出てトビウオと交配した結果、タイトルの示す空飛ぶ殺人魚が誕生、カリブ海のリゾート地を襲う。(Yahoo!映画より)

 

おはようございます。

夏場は食欲がなく、食べることが億劫でたまらない。だのにお腹は空く。むちゃくちゃな話である。食欲が減退してるんだから、空腹感も減退せえよ。食べる気が起きないのに腹ばっかりグルグル鳴りやがって。ふざけるな。

だいたいにおいて、私にとって空腹感と苛立ちはイコールなのである。お腹が空くたびに自分の胃に対して「さっき食うたばっかりやないか。そんなすぐ空くな!」と腹を立てているのだ。

ましてや物を書いていると恐ろしくエネルギーを消耗するので、すぐに空腹状態が襲ってくる。でも、そのたびに食事を取るのは時間の無駄、かといって空腹状態では集中できぬ。だから私はキレてしまうのだ。自分の胃に。

たぶん傍から見たらキチガイの類と思われるかもしらん。何しろ、パソコンに向けた視線をチラチラと自らの腹に落としながら「レビュー書いてんだから邪魔すんな、胃。バカかお前か!」などと悪鬼の形相で叫んでいるのだから。

もう本当ね、空腹なんてたまったもんじゃないですよ。

「取り外したろか、胃を」って思いますよ。

そんなわけで、胃トークからの『殺人魚フライングキラー』です。ゆっくりしてってよ。

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ジェームズ・キャメロン黒歴史

この映画について語ることはジェームズ・キャメロンのファンでないことを意味する。

キャメロン自身、これは自分の作品ではないと言っているし、実際に「クレジットを外してほしい」とプロデューサーに掛け合ったが「いや」といって断わられたので、触れてはならない黒歴史として扱われている、曰くつきの作品なのだ。

だから当然、キャメロンファンもこの映画についてはばつが悪そうに押し黙るか、苦し紛れに擁護するしかないのである。

まさにハリウッドの最前線に立つジェームズ・キャメロンが残した唯一の汚点。それが『殺人魚フライングキラー』という底抜けポンコツ映画だ!


◆すべてがお粗末。あまりにお粗末◆

本作は、悪趣味映画の申し子 ジョー・ダンテが手掛けた『ピラニア』(78年)の続編で、当初監督するはずだったチャールズ・イグリーがクビになったので、その代役として当時新人のキャメロンが抜擢された。

映画の出来としては、もう本当にどうしようもない代物でねぇ…。

前作では品種改良されたピラニアが河やプールで人を襲っていたが、本作では翼の生えた殺人魚が空を飛んで美女を襲う!

魚、もう関係あらへん。

どうやらグルニオンとトビウオを交配させた生物兵器とのことだが、奴らは鳥のように空を舞って陸で人間を襲うのだ。

魚、もう関係あらへん。

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陸で襲うわ、空は飛ぶわ…。魚、関係あらへんがな。

 

狂暴な殺人魚は「ひこひこひこひこ♪」という気の抜ける飛行音で人間に近づき、首元に噛みついて食い殺すのだが、明らかに画面外のスタッフが魚の模型の尻尾を持って振っているだけ…という低予算ぶり。飛行シーンも思いきり糸で吊っている。

おもちゃ丸出しである。

また、水中で人が襲われるシーンは、あらかじめ殺人魚の群れが水中を泳ぐショットを3パターンぐらい別撮りして、それを海底探索する人間のシーンにインサートしている。3パターンのショットを使い回しているので視線も方角も位置関係も矛盾しまくり!

これは「小型クリーチャーが出てくる低予算映画」が宿命的に抱える問題でもあるけれど、やっぱり「人間と殺人魚が同時に画面に映るショット」を撮るのは相当難しかったようだ。

なにせ「糸で吊る」か「手で動かす」しかないんだもの。

もちろん、映り込んだ糸をVFXで消す技術もなければ、ジョーズ(75年)のように機械仕掛けの模型を作る金もなく…。

 

まぁそんなわけで、非常にお粗末な特撮が堪能できる作品です。

加えて、脚本もビタイチおもしろくない。B級パニック映画の目玉ともいえるお色気もなし。画質の粗いスタンダード・サイズで、出てくる役者もつまらない顔ばかり。おまけに自然光が全部入っちゃってて白飛び寸前のジャマイカ・ロケ。

物語が云々とか特撮がどうこう言う以前に、映画としてのルックからしてもう最低。

映画よりもポスターデザインの方が迫力があって格好いいので、この映画を観るぐらいならポスターを見つめていた方が遥かに楽しい…という未曾有の本末転倒現象が起こっています。


◆悪徳プロデューサーに利用されたキャメロン◆

前監督のチャールズ・イグリーがクビにされ、キャメロンに白羽の矢が立ったころ、すでに現場は壊滅寸前だった。

現場にはゾンビみたいにやる気のないイタリア人スタッフが数人いるだけで、「ジャマイカ、暑っつー」などと言って一向に仕事をしない。そもそも英語が話せないので意思疎通すら図れなかった。

また、衣装代も出ないほど予算がカツカツだったので、出演者は私服を着てカメラの前に立った。魚の模型も最低の出来だったので、キャメロンが徹夜で作り直した。

ターミネーター(84年)エイリアン2(86年)など、キャメロン作品の常連俳優として知られるランス・ヘンリクセンは、キャメロンのためにタダ同然で出演するばかりか撮影まで手伝ったという。

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エイリアン2のアンドロイド役でお馴染みのランス・ヘンリクセン。当初、ターミネーター役には彼が打診されていた。

 

ヘンリクセン「この現場、何かおかしいですよ…」

キャメロン「スタッフ、やる気あらへんしな」

ヘンリクセン「脚本もおかしいですよ…」

キャメロン「魚、関係あらへんしな」

 

クソ以下の撮影環境とクソ以下の脚本・模型。そしてクソにも劣るスタッフたち。

キャメロンが現場に到着したころには既にプリプロダクション(撮影前の準備段階)はすべて終わっていたので今さらテコ入れすることができず、見切り発車で撮影が始まった。

ところが、おおむね撮り終えると「あとはこっちでテキトーにやるから、もう帰っていいよ」と言われ、キャメロンは一方的にクビを言い渡されてしまう。

本作はイタリア・アメリカの合作ということになっているが、事実上はイタリアが主導権を握ったイタリア資本のイタリア映画。そこにアメリカ人のキャメロンが招かれ、使い捨てにされたのだ。

要するに、ただアメリカ人監督に撮らせて作品に箔をつけたいからキャメロンを雇っただけなのだ。アメリカ市場に売り込むための体のいい傀儡にされたキャメロン…。しかもデビュー作で。

なんと嘆かわしい…。

 

すべてを仕組んだプロデューサーのオヴィディオ・G・アソニティスは、デアボリカ(73年)『空手アマゾネス』(74年)といった知能指数ゼロのB級パチモン映画を世に送り出してきたゴミの生産者

オヴィディオは、キャメロンが撮ったフィルムを持ち逃げしてローマに帰り、まったく関係のない裸の女の映像を挿入するなどして好き勝手に編集した。怒ったキャメロンはローマを訪れて抗議したが、追い返された挙げ句にローマで食あたりを起こして死にかけた。

そして泣いた。

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オヴィディオがプロデュースしたどうしようもない映画群。『アマゾネス対ドラゴン/世紀の激突』(74年)は好きだけどなぁ。

 

そんなわけで、キャメロンはこの映画をフィルモグラフィから抹消したがっており、ファンを含め周囲の人間もこの映画には触れないことが暗黙の了解になっている。

キャメロンは本作の3年後にターミネーターを撮って飛ぶ鳥を落とす勢いのヒットメーカーとなり、さらにタイタニック(97年)で世界的メガヒットを飛ばすことになる。

いちばんフライングしたのは殺人魚ではなくキャメロンの方だった。

ビバ、キャメロン!