シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

人生はシネマティック!

家や人がぼんぼん爆撃されてるのに不思議とハートウォーミングな空爆映画。

f:id:hukadume7272:20180918035330j:plain

2016年。ロネ・シェルフィグ監督。ジェマ・アータートン、サム・クラフリン、ビル・ナイ

 

1940年のロンドンでカトリンはコピーライターの秘書として働いていた。人手不足のため、彼女が代わりに書いたコピーが情報省映画局の特別顧問バックリーの目に留まり、ダンケルクでドイツ軍の包囲から兵士を救出した姉妹の感動秘話を映画化する脚本チームに加わることとなった。戦争で疲弊した国民を勇気づけるための映画だったが、製作が開始され、ベテラン俳優のわがまま、政府と軍による検閲や横やりなどトラブルが続出。そのたびにカトリンたちの脚本は二転三転してしまう。なんとか撮影は大詰めを迎えるが、最後に最大級のトラブルが待ち受けていた。(映画.comより)

 

オハス。

ここ数日はアクセス数がすごいことになってて(話題作ばかり取り上げているからでしょう)とても嬉しいのだけど、同時にむかついてもいるわ。

話題作ばかり観ずに、デミ・ムーアのカス映画とかも観たらいいと思う。

なんでみんなはデミ・ムーアのカス映画を観ないの?デミだから? カスだから?

カス映画もカス映画なりに楽しめるんですよ。

 

というわけで本日は『人生はシネマティック!』をダラッと評論して参ります。

最近カロリー過多の暑苦しい評ばかりだったので、今回はちょっと箸休め的な…、まぁはっきり言っていつもより短文&中身スカスカの評になっています。ほないこか。

f:id:hukadume7272:20180918035348j:plain


◆家が吹っ飛ぶぐらいヘッチャラさ◆

映画は、イギリス政府によってプロパガンダ映画の制作を命じられた情報省が、女性ならではの視点を取り入れるためにコピーライターの秘書として働いていたジェマ・アータートンを脚本家チームに迎え入れるところから始まる。

共同脚本家のサム・クラフリンや、大物俳優ビル・ナイ、情報省の監視役レイチェル・スターリンといった曲者揃いの制作チームに放り込まれたジェマは、どこでそんな技術を身に付けたんだというようなシナリオライティング能力を発揮してダンケルクの戦い」を題材にした新作映画のストーリーを紡いでゆく…。

 

『人生はシネマティック!』は、第二次大戦中のイギリスを舞台に死に物狂いで映画を作った愛すべき連中の物語である。

時代背景は1940年のロンドン。ナチス・ドイツによるロンドン大空襲で街中が木っ端微塵にされていた頃だ(俗に言うザ・ブリッツ)。

オフィスでタイプライターと格闘していたジェマが、徹夜明けに帰宅すると自分のアパートが爆撃を受けて全壊していた…という恐るべき世界。

だがジェマは「あっぶー。オフィスで残業してなかったら死んでたじゃんかいさー!」なんつって竹を割ったように清々しい反応。えらくカラッとした女である。

ザ・ブリッツと呼ばれるロンドン大空襲は約8ヶ月も続いたので、そんな環境にすっかり慣れてしまったジェマは、自分の家が吹っ飛んだぐらいではさほど驚かないのだ。

撮影現場でも「スタッフが行方不明」とか「爆撃されて誰々が死んだ」という報せが入るが、制作チームにとっては「田中くんが風邪で休みです」と同程度の深刻さで、「えー、またぁ? 勘弁してよ!」といって人手不足を嘆くだけ。

それくらい日常生活の至るところに死が張りついている世界で、彼らは映画を撮り続けるのだ。

f:id:hukadume7272:20180918035447j:plain

恋だってしちゃうわけ。


◆妙に楽天的な映画業界内幕モノ◆

さて、映画業界の内幕モノといえば、フェリーニ8 1/2(63年)トリュフォーアメリカの夜(73年)ヴィム・ヴェンダース『ことの次第』(82年)など枚挙に暇がないが、そうした作品は往々にして映画監督が主人公である。

ちなみに私はそうした作品群を監督苦悩系という言葉でカテゴライズしているが、とにかく心身症的で鬱々とした作品が多い。創作に行き詰った映画監督が懊悩した果てに狂いだす…みたいな内的葛藤を扱ったものばかりなのだ。

一方、脚本家が主人公の内幕モノといえばバートン・フィンク(91年)アダプテーション(02年)などあるが、やはりこちらも心身症的で鬱々とした作品が多い。

 

だが本作は決して暗い内容ではない。

むしろスクリューボール・コメディのようなセリフの応酬と撮影所でのドタバタ劇、それに共同脚本のジェマとサムのロマンスなどもあって、ハートフル・コメディのような仕上がりになってございます。

イギリス政府は同盟国のアメリカに媚びを売るためにアメリカ人(それも芝居経験のない軍人)を出演させろと要求し、ベテラン俳優のビル・ナイは与えられた役に不満で「ヤラ・ナイ!」とへそを曲げる。

制作チームは「どうにもナラ・ナイ!」と頭を抱えるが、説得上手のジェマが口八丁手八丁で各方面と交渉に当たり、現場をひとつにまとめていく。

サムはジェマの脚本をブラッシュアップし、鉄仮面と恐れられていた監視役のレイチェル・スターリングも実は気さくな女性だったことが分かり、次第に連帯感を高めていった制作チームは「えいえい、おー」なんつって撮影を始めるのだ。

そんなわけで、チーム一丸となって何かに当たる系が好きな人には鼻血が出るぐらいエキサイトできる作品だと思います。

f:id:hukadume7272:20180918035406j:plain

「こんな役はヤラ・ナイ!」と言い張るビル・ナイ(右)。「どうにもナラ・ナイ!」と嘆くジェマ・アータートン(中央)。


ベクデル・テスト

女性映画としての側面も大きい。

1940年代における女性の社会進出という主題をさり気なく忍ばせながら、物語自体も脚本家という職を得たジェマの女性視点が大きく関わってくる。

もともと政府がジェマを雇った理由はスロップ(女性同士の会話)を書かせるためである。

欧米の映画では、必ずしもクレジットされた脚本家がすべてのシナリオを書いているわけではなく、コメディ映画を書く際はコメディアンからギャグを買ったり、執筆が難航したときはスクリプト・ドクター(脚本のお医者さん)からアドバイスを貰うなど、多くの人の力を借りて一本のシナリオを完成させているのです。

そうした映画制作の裏事情が「スロップを書くために雇われたジェマ」を通じて描かれていくってわけ。

 

また、ジェマが手掛けた脚本、ならびにこの映画自体がベクデル・テストにパスしているという点も、こんにちの映画に通じるところがある。

ベクデル・テストというのはフィクション作品のおける女性の扱い方が適切かどうかを測るためのジェンダーバイアス測定のことだ。

そこで問われるのは以下の三つ。

 

1.女性キャラクターが2名以上出てくるか?

2.女性同士が会話をするか?

3.その話題は男性以外のものであるか?

 

これらを満たした作品はマジ素晴らしいしヒットもする…という理論があって、近年の作品だとアナと雪の女王(13年)ワンダーウーマン(17年)がこれに当てはまるよね。

まぁ、ベクデル・テストにはさまざまな批判や反論もあるけど、要は「女性を不当に扱うな! 殺すぞ」というメッセージが仮託された理論で、トランプの女性蔑視発言やMeToo運動吹き荒れる近ごろの問題を見るにつけ、『人生はシネマティック!』はまさにタイムリーな作品と言えるだろう。

ハイ、お疲れさん!

f:id:hukadume7272:20180918035423j:plain

『007 慰めの報酬』(08年)『ヘンゼル & グレーテル』(13年)でぼちぼち知られるジェマ・アータートンの初主演作。ヤッタートン!