シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

デッドプール2

メタとネタの妄用。そしてピーターが空を飛ぶ。

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2018年。デヴィッド・リーチ監督。ライアン・レイノルズ、ジョシュ・ブローリン、ザジー・ビーツ。

 

最愛の恋人ヴァネッサを取り戻し、お気楽な日々を送るデッドプールの前に、未来からやってきたマシーン人間のケーブルが現れる。ヴァネッサの希望を受けて良い人間になることを決意したデッドプールは、ケーブルが命を狙う謎の力を秘めた少年を守るため、特殊能力をもったメンバーを集めたスペシャルチーム「Xフォース」を結成するが…。(映画.comより)

 

 おはよう。雨ばっかりで非常に腹立たしいよな。

どうでもいいけど年末には『ひとりアカデミー賞』をやろうと思っているんだ。別のSNSで7年間続けてきた伝統行事なので途絶えさせるわけにもいかないしな。

まぁ、果たしてこのブログが年末まで持つかどうかっていう問題があるのだけど。もっと言やぁ、僕が年末まで生きてるとも限らないし。

暗いことを言ってしまうのはたぶん雨のせいだよ。これだから雨は困る。僕になんの断りもなく降りやがって。ゆるせないよ。

だもんで本日は、雨でどんよりしてるムードを吹き飛ばす映画『デッドプール2』を語っていくんだ。説明しないと伝わらないネタが沢山あるので注釈だらけの記事になってしまったけど、これは僕のせいでも雨のせいでもありません。デッドプールが悪いんだよ…。

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◆メタとネタ◆

残酷なヒーロー映画をポップに彩る…という系譜は『キック・アス』(10年)、『スーパー!』(10年)、『キングスマン』(14年)から続くトレンドだが、そんなヒーロー激戦区における『デッドプール』の優位性は「第四の壁の突破」と「間テクスト性」の妄用。
つまりメタネタだ。
自身が映画のキャラクターであることを自覚しているデッドプールは、たびたびカメラ目線で観客に語りかけ、「ミュージック、スタート!」と言えば音楽が鳴りだし、「今のアクション、スローで撮った?」とカメラマンに確認する。
本来『X-MEN』のキャラクターであるデッドプールは、映画とわれわれ観客を隔てるスクリーン(第四の壁)を突き破ったメタヒーローである。
前作では、『X-MEN』でウルヴァリンを演じたヒュー・ジャックマンを冷やかし、プロフェッサーXを思い出そうとして「マカヴォイだっけ、スチュワートだっけ? 時系列が混乱するわー」なんつって演者の名前を出しちゃう*1
そして『X-MEN』のキャラクターが2人しか出てこない理由を「予算の都合上」と言いきってしまう。身も蓋もねえ。

その続編となる本作『デッドプール2』でもメタ全開で、劇中のご都合主義に対して「クソな脚本だろう?」と観客に語りかけ、デッドプール役の主演俳優ライアン・レイノルズ『グリーン・ランタン』(11年)のオファーを受けた9年前のライアン・レイノルズを殺害するのだ*2

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レイノルズ繋がりだからか、バート・レイノルズ(今月他界)のヌード写真をパロディにしたデッドプール(ライアン・レイノルズ)。

ネタも尽きない。
『ローガン』(17年)のヒュー・ジャックマンに「ラストで死んで好感度を上げやがって」と毒づき、敵役のジョシュ・ブローリンを「片目のウィリー」と呼ぶ*3
そのほか、『セイ・エニシング』(89年)のラジカセ掲げ、『氷の微笑』(92年)の足組み替え、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(94年)の酷評などなど…、枚挙に暇がないのでそろそろやめる。
あ、ちなみにブラッド・ピットマット・デイモンも登場します*4

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『フラッシュダンス』(83年)のパロディ。 

また、白い歯で世界中を虜にした忌々しいポップデュオ、ワム!への惜しみないリスペクトを捧げた前作ラストで「Careless Whisper」が流れたように、今回もアーハ「Take On Me」パット・ベネター「We Belong」など80'sポップスのつるべ打ち!
これはもうアメコミ版『レディ・プレイヤー1』(17年)である。
実際、アーハの「Take On Me」『セイ・エニシング』のラジカセ掲げ、それにジョン・ヒューズ*5へのリスペクトも『レディ・プレイヤー1』と共通している。
この二作に限らず、なぜかいま80年代回帰がそこかしこで巻き起こっているのだ(『スター・ウォーズ』続三部作が始まったことがトリガーになっているのかしら?)。

アーハ「Take On Me」。誰もが耳にしたことのあるイントロ♪


◆愛すべきデタラメさ◆

 さてさて、そんなデップーがド派手にカムバックした本作。
仲間を集めて最強チームを作ることを思いついたデップーは「Xフォース」を結成するが、その主なメンバーがこちら。

・自由自在にゲロを吐きこなす男
・とにかく運のいい女
・いるのかいないか分からない不可視の男
・一般人のおじさん、ピーター

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とりわけ異彩を放つ男、ピーター。特殊能力:なし。

最強チーム「Xフォース」は、ミュータントの少年を助けるために上空からスカイダイビングして現場に駆けつけるつもりだったが、メンバーが運悪く粉砕機の投入口に落下したりヘリのプロペラに巻き込まれるなどして着地と同時にチームほぼ全滅(生き残ったのはデップーと強運女だけ)。
完全に『ファイナル・ディスティネーション』(00年)の世界。
ピーターが勇敢にスカイダイビングするスペシャルフォトを作ったので記念にどうぞ。

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このあと着地してすぐ死にます。

あるいは、未来人のジョシュ・ブローリンは「3回だけタイムトラベルできる機械」というもはや何でもありのアイテムを持っていて、どこで使うか? というのが物語上のポイントになってくるわけだが、すべて使いきったあとのラストシーンでネガソニック(ブリアナ・ヒルデブランド)とユキオ(忽那汐里)がいとも容易く機械を修復して何度でもタイムトラベルができるように改造してしまう。
とんでもないご都合主義。絶対わざとやってるだろ!
それを活用したデップーは、過去に遡って死んだ恋人を救い出し、『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』(09年)に悪役として登場する自分を射殺し、『グリーン・ランタン』のオファーを受けた自分自身をも殺害することで映画と現実の両世界の過去を改竄する。
なんと型破りなデウス・エクス・マキナでしょう。
しかもそれが、過去を修正しまくって収集がつかなくなっている『X-MEN』シリーズへの皮肉にもなっていて。食傷気味の『X-MEN』に対する不満を『デッドプール』で癒すという謎のヒーリング効果があります。

f:id:hukadume7272:20180921004120j:plainライアン・レイノルズが過去に出演したアメコミ映画を彼自身がなかったことに。

◆ピーターは言わずもがな、ドミノとウィリーが最高!◆

 監督は『ジョン・ウィック』(14年)『アトミック・ブロンド』(17年)で注目度爆上がり中のデヴィッド・リーチデヴィッド・リンチじゃないよ)
スタント出身の監督なのでアクションシーンの密度は前作を凌ぎ、『ジョン・ウィック』『アトミック・ブロンド』から輪をかけて技斗が複雑化している。カンフー映画を観ている気分だ。

特に悪役として登場するジョシュ・ブローリンこと片目のウィリーの「決して最強キャラではないからこその生身の躍動感」というのかな…、科学の粋を集めて肉体を補強するという小細工たっぷりな感じがバットマンとそっくりで、とにかく頑張るおっさん感がめちゃくちゃアツいわけですよ。
そんな片目のウィリーとデップーがひょんなことから手を組む…という少年マンガ的な共闘展開に、恥ずかしながら「ひゃっほ」と叫んでしまった。

強運女を演じたドミノ(ザジー・ビーツ)は私のお気に入りだ。ピーターよりお気に入りかもしれない。
走行中のトラックから吹き飛ばされたドミノがたまたま巨大な風船のうえに落下したり、殴り倒した敵の頭上からたまたまタンスが倒れてきてトドメを刺したりと、偶然のベールに庇護された最強キャラなのだ(最後まで無傷)。
要するに彼女はラッキーマンで、ご都合主義を全部ひっくるめて正当化しちゃうという、まさに破天荒極まりない当シリーズにしか出せないチートキャラ(理論的には彼女一人でサノスに勝てるでしょうし)。

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ドミノ(左)と片目のウィリー(右)。

一方、前作の欠点でもあったアクションシーンの舞台(セット)の淡泊さや、敵役のパッとしない貌は相変わらずで、今回のクライマックスも養護施設で反抗期のガキを説得するという画がダラーッと続いて、妙にせせこましい話になっているのが残念。
ジャガーノート登場というサプライズには「わぁ、久しぶり!」なんつって歓喜したものの、結局ここは俺に任せて先に行けイズムでコロッサスが相手しちゃうからねぇ…。
とはいえ、デップー以外のキャラがあまりに弱かった前作とは打って変わって、片目のウィリーとドミノがこの世界観のおもしろさに広さを加えています。

ちなみに、デップーが繰り返し主張している「これは家族映画だ」というのは高度なジョーク(家族愛と呼べるような密な人間関係なんて描かれてない=脚本に対する自虐。だいたいXフォースのメンバーをギャグの為だけに死なせまくってますからね)。
アメリカのコメディはレベルが低いなんて言うけれど、当シリーズに関しては全盛期のダウンタウンが観たら嫉妬しそうなぐらいセンスがいい。
ピーターなんて「働くおっさん劇場」だよね。
というわけで私はMCUでもDCEUでもなく、断然『デッドプール』

f:id:hukadume7272:20180921011802j:plainドミノピーターのスピンオフ希望。

*1:「マカヴォイだっけ、スチュワートだっけ?」『X-MEN』トリロジーではパトリック・スチュワートが、プリクエル・トリロジーではジェームズ・マカヴォイがプロフェッサーXを演じた。

*2:『グリーン・ランタン』…ライアン・レイノルズが主演して大コケしたアメコミ映画。

*3:片目のウィリー『グーニーズ』に登場するキャラクター。

*4:ブラッド・ピットマット・デイモン…ブラピは透明人間のバニッシャー役で、送電線に引っかかって感電死する瞬間にワンショットだけ映る。マット・デイモンは未来から来た片目のウィリーに車を奪われる田舎親父役だが、特殊メイクをしているのでほぼ識別不能。

*5:ジョン・ヒューズ『デッドプール』のエンドロール後に「いつまでいるんだ。さっさと帰れ」とデップーが観客に語りかけたのは『フェリスはある朝突然に』(86年)のパロディで、その監督がジョン・ヒューズ。