シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

10億ドルの頭脳

 話、一個もわかりませんでした。

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1967年。ケン・ラッセル監督。マイケル・ケインカール・マルデンフランソワーズ・ドルレアック

 

タカ派の将軍ミッドウィンターに率いられた、過激な反共組織がソ連壊滅を画策する。それを察知した英国情報部は、ハリー・パーマーの出動を要請。ハリーはソ連情報部の協力を得て反共組織と闘う…。(Yahoo!映画より)

 

うぃっす、エブリバディ。

秋ですね。秋といえば芸術の秋、食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋なんて言いますが、大変すぎない? 秋だけ。

秋になんぼほどやらなあかんねん。

なぜ秋だけこんなにタスクが多いのかといえば、それだけ秋がすばらしい季節だからででしょう。僕は秋がいちばん好きです。普段より思索的になれるというか、観念的なことを考えるには最も適した季節だと思うんですよね。「餃子ってなんだろう?」とか「人生は無常なりき」とか。

音楽がいちばん沁みるのも秋だと思いますよ。「普段は歌メロしか聴いてなかったけど、ベースラインにも耳を傾けてみようかな。秋だから」みたいな。

でも私が好きなハードロックって秋にはあまり適さないっていうか、あまり聴く気が起きないんだ。やかましいからね。いったい何を聴けばいいんだよ。頼むから秋なんてさっさと過ぎ去ってくれよ…。

 本日は10億ドルの頭脳です。久々にあいつが登場するかもしれないよ!

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◆スパイ映画がマジ無理って話◆

自慢じゃないが、私はスパイ映画がまったく理解できないことにかけてはちょっとした権威である。

難解映画とか政治映画といった少々ややこしい作品を観て「意味」を読み解く行為は大好きなのだが、ただ順々に組み立てられてゆくプロットを追うことが恐ろしく苦手で。

特にスパイ映画は「誰が何のためにそれをしているのか」というキャラクターの目的や物語の状況が複雑に変化したり絡み合ったりするため、筋としてさっぱり理解できないのだ。アッという間に置いてけぼりを喰らっちゃう。

その近因には「物語ではなく映像として映画を観ている」という私の映画に対するスタンスと、「そもそもスパイにまったく憧れない」というモチーフに対する徹底した無関心が横たわっていると思う。

なんだよスパイって。スパイとかすんなよって思ってしまうのだ。

だから『007』は私にとって超難解映画だよ。

もうファーストシーンから話について行けなくて、「何してるん? 今どういう状況? ていうかキミ誰?」なんてパニックを起こしてたらいつの間にかエンドロールが流れてた…という感じで。

 

そんなわけで、もちろん10億ドルの頭脳も開幕5分でわけがわからなくなって、マイケル・ケインが「ケイーン!」と言いながら何らかのために何らかの頑張りを見せては何らかの陰謀にはまって何らかの方法で何らかの問題を解決するさまを「何だかなぁー」と言いながら見つめていた107分…という、何の感情も感想も沸いてこない無味乾燥の極北めいた映画体験をしました。

愕然としたね。ビビるぐらい理解できなかった。

 

あとで調べたところ、どうやら極右集団のボスが10億ドルを費やしたむちゃむちゃ賢いコンピューターを操ってソ連に侵攻するというステキな話らしいが、鑑賞中はそんな大筋さえまったく理解できてなかったからね。

10億ドルの頭脳が必要なのは極右集団のボスじゃなくてこの俺だよ

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いろんな人たちが出てきて色んなことを一生懸命やってるんだけど、何をやってるのかさっぱり分かりませんでした。


◆ケンとケインとドルレアック◆

本作は、ルナティックな映画ばかり撮っては一人で喜んでいるキワモノ監督ケン・ラッセルの作品である。

醜悪で破廉恥な作風が年々エスカレートしたことから「変態ケンちゃん」の異名で親しまれているが、本作はデビューして間もない頃の初期作なので変態感はかなり薄い。とは言え、全裸でサウナを楽しむカール・マルデン股間を画面近景のマイケル・ケインの頭部で隠すショットには笑ってしまったが。

股間隠しのためにマイケル・ケインを使うな!

 

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『映画男優十選』で第9位にランクインしたマイケル・ケイン

 

そして主人公のハリー・パーマーを演じたのがマイケル・ケイン

キング・オブ・英国紳士。

最近の若者はへなちょこだからノーラン版バットマン三部作とかグランド・イリュージョン(13年)とかキングスマン(14年)でしか知らないだろうけど、若い頃はたいへんな色男でアルフィー(66年)ミニミニ大作戦(69年)『探偵スルース』(72年)などに出ていたのですよ(この3作品はゼロ年代にリメイクされてます)

その他にもさまざまな映画に出演していて、枚挙に暇がナイケル・ケイン。

ジェームズ・ボンドに対するアンチテーゼとして生み出されたハリー・パーマーは、食うに困ってコーンフレークを主食にしているような貧乏スパイで、野暮ったい黒縁眼鏡と鈍臭いコートを身につけ、上司から半ば無理強いされる形で極右組織に潜入する。

マイケル・ケインといえばスマートでエレガントな英国俳優だが、こんな情けない役も飄々とこなせるあたりが憎い。

 

そして男を狂わせるヴァンプ(妖婦)役にカトリーヌ・ドヌーヴの実姉であるフランソワーズ・ドルレアック

『ラ・ラ・ランド』(16年)のベースにもなっているロシュフォールの恋人たち(67年)ではドヌーヴとドルレアックの姉妹共演が見ものだが、個人的にドルレアックといえば『袋小路』(66年)。古城に住む夫婦のもとに二人組のギャングがやって来て、楽しく馬鹿騒ぎしたかと思えばすごい剣幕で殺し合ったりするというイカれ放題の不条理劇だ。

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フランソワーズ・ドルレアック10億ドルの頭脳出演後、自動車事故により25歳で死去。


◆坊ちゃん登場◆

ハイ。これ以上話すネタがなくなったので、元気100パーセント坊ちゃんを召喚して雑談タイムと洒落込みましょう。

おーい、坊ちゃーん。

あ、来た来た。向こうから走ってきた。バカみたいにちょらちょら走ってきた。

 

坊ちゃん「はい、元気です!」

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元気100パーセント坊ちゃん

いつも包丁を持って町内を走り回っている元気な男の子。昨日カメムシを殺した。


坊ちゃん「今日は何のために呼ばれたんですか!?」

 

ふかづめ「10億ドルの頭脳のレビューを書いてたんだけど、話が一個も理解できなくて書きようがねえんだよ。坊ちゃんはこの映画観た?」

 

坊ちゃん「あー、すみません。観てませんねぇ…」

 

ふかづめ「わぁ、さっそく役に立たない。ありがとう、もう帰っていいよ」

 

坊ちゃん「ちょっと待ってくださいよ。頑張りますから」

 

ふかづめ「じゃあ頑張ってここから話をおもしろくして下さい」

 

坊ちゃん「話が一個も理解できないって言ってましたけど、そんなに難しいプロットなんですか?」

 

ふかづめ「いや、わりと単純な話だと思うんだけど、なぜか私はスパイ映画がまったく理解できないんだよ、お話として」

 

坊ちゃん「あー。でもミッション:インポッシブル(96年)とかボーン・アイデンティティー(02年)は分かるのでは?」

 

ふかづめ「たしかに! 言われてみればアメリカのスパイ映画は普通に観れるなぁ。スパイ・ゲーム(01年)とかワールド・オブ・ライズ(08年)とか」

 

坊ちゃん「ふかづめさんが理解できないのって、スパイ映画というよりイギリスのスパイ映画だと思うんですよ。とりわけ昔のイギリス映画ってタッチが渇いていて、良くも悪くも無感動なんですよね。だから危機や裏切りみたいな物語の山場があまりドラマティックに演出されてなくて、淡々と進んでいくんですよ」

 

ふかづめ「なるほどなぁ。フランス映画の湿り気やイタリア映画の生臭さがないから、イギリス映画ってちょっと退屈してしまうんだよな」

 

坊ちゃん「ただでさえふかづめさんは物語より映像優位ってスタンスで、美しい画面とか鮮やかな演出に感動するタイプですよね。そりゃあイギリスのスパイ映画とは相性が悪いはずですよ。推測ですけど、『1000日のアン』(69年)とか『ヘンリー五世』(89年)みたいなイギリスの史劇も苦手なのでは?」

 

ふかづめ「坊ちゃんはぜんぶお見通しだなぁ。コスチュームプレイが大の苦手なんだよ」

 

坊ちゃん「たぶんイギリス映画自体そんなに好きじゃないですよね?

 

ふかづめ「まぁ、ブリティッシュ・ロックは大好きだけどね」

 

坊ちゃん「音楽の話にすり替えようとしてもムダです」

 

ふかづめ「ムダか。そうなるか」

 

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史劇(コスチュームプレイ)が死ぬほど苦手です。

 

坊ちゃん「僕はイギリス映画って好きですけどね。特にスウィンギング・ロンドンで華やぐ60年代の『欲望』(67年)『ダーリング』(69年)とか」

 

ふかづめ「そりゃあだってオメェ、スウィンギング・ロンドンは最高ですよ。ロンドン発のポップカルチャー革命。ツイッギービートルズサイケデリック・ アート」

 

坊ちゃん「マイケル・ケインアルフィーなんてそのど真ん中ですから」

 

ふかづめ「でもな~。僕の苦手な監督って結構な割合でイギリス人なんだよ。ダニー・ボイルガイ・リッチークリストファー・ノーラン。まだまだいるぜ」

 

坊ちゃん「まぁ、若手~中堅あたりは僕もそんなに惹かれませんけどね。なんか妙にアメリカナイズされててスノッブな作品が多い気がします

 

ふかづめ「中島哲也みたいな奴ばっかりじゃん!」

 

坊ちゃん「でも巨匠クラスは粒揃いですよ。ヒッチコックは言うに及ばず、キャロル・リードピーター・イェーツスコット兄弟

 

ふかづめ「イギリスの巨匠だと、僕はニコラス・ローグがお気に入りだよ。あとスコット兄弟を巨匠と呼ぶのはちょっとどうかと思いました」

 

坊ちゃん「二人合わせて148歳なのに?

 

ふかづめ「や、年齢じゃなくて素質的な問題で…」

 

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60年代に花開いた若者文化、スウィンギング・ロンドン!

 

坊ちゃん「話が逸れに逸れましたね。そういえばこれ、何のレビューでしたっけ?」

 

ふかづめ「あ、何のレビューだったかな…。『2億4千万の頭脳』だっけ」

 

坊ちゃん「2億4千万は郷ひろみでしょ。10億ドルの頭脳ですよ」

 

ふかづめ「覚えにくいんだよタイトル。そもそもなんでイギリス映画なのにポンドじゃなくてドルなのよ?」

 

坊ちゃん「遂にそんなところにまでいちゃもんを付け出す始末。でもまぁ、今回も『ブラックパンサー』(18年)の時みたいにいい感じの評になったと思いますよ」

 

ふかづめ「いや、あっさい話しかしてないと思うけどね。ていうか『ブラックパンサー』評に手応えを感じてた…っていうのが軽い驚きだよ。あんなもん過去最低の評だよ!」

 

坊ちゃん「過去最低は『電話で抱きしめて』(00年)では?」

 

ふかづめ「うるせえ!」