シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

破れ太鼓

 イカレ情緒のカレー投げ。

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1949年。木下惠介監督。阪東妻三郎、村瀬幸子、森雅之、小林トシ子。

 

一代で財をなした津田軍平は、妻や子供に対して傲慢で、何かにつけ怒鳴り散らしていた。家族は当然自分を尊敬していると思い込んでいたが、長男は父の会社を辞めようとしているし、長女は父が進める縁談をよそに若い青年画家と愛し合っていた。軍平の高圧的な態度が家族を支配していたが、ついに長男と長女が家を出てしまい、さらに妻とその他の子供たちも軍平の前から去ってしまった…。(Yahoo!映画より)

 

やぁみんな。ヘンな朝です。

聞いて下さいよ。お茶クーラーがだいぶ汚れてきて、洗うのも面倒臭いしそろそろ買い替えるかと思案した私は、100均でお茶クーラーを買い求め、スキップしながら家路について鼻歌混じりにお茶を作ったらば、なんか人魚の涙みたいな水がポタポタと漏れてきて。

底に穴が空いてました。

100均オラァ!!

もう、秒でぶち切れたよ。

100均だからといって何を売ってもいいんですか?

言うとくけど、底に穴が空いたお茶クーラーほどクソの役にも立たないモノってないからね。底抜けバケツと同じで産業廃棄物である。純然たるナチュラルボーン廃棄物だよ。

もしこれが上とか真ん中あたりに穴が空いてたら水の量を減らして漏れないようにする…という応急処置もできるけど、底に穴が空いてたらさぁ…もう…そもそもムリじゃん。入れた端から全部出ていくから。

「なんでこんな事になんのじゃあ、俺ばっかり!」って叫びながらガムテープを貼ってみたのだけど効果なし。

まぁ、たとえカムテープで穴が塞がったとしても嫌だけどね、こんなの使うの。

 

ポタポタ漏れだしたお茶クーラーを台所に放置してもうじき6時間が経つのだけど、相変わらずポタポタしています。粘るなぁ。

あ、そうだ!

中のお茶が全部なくなるまでの時間を計れば、次回から砂時計ならぬお茶時計として活用する道もあるのでは?

ねえわ、そんな茶の道。利休が怒ってくるわ。

そんなわけで本日は『破れ太鼓』です。

 

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◆限りなく天才に近い凡才◆

木下惠介。個人的には小津安二郎溝口健二に次いで三番目に好きな日本映画黄金期の映画作家だ。

代表作カルメン故郷に帰る(51年)女の園(54年)高峰秀子という才能を使い倒したメロドラマの巨匠だが、やはり木下惠介といえば二十四の瞳(54年)が最も有名だろう。小豆島を舞台に高峰秀子演じる女教師と子どもたちの交流が、ときに優しく、ときにシビアに描かれた日本映画史に輝く名作のひとつだ。

また、クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01年)などで知られるアニメ監督・原恵一が初の実写映画として加瀬亮を主演に『はじまりのみち』(13年)という木下惠介の伝記映画を撮ったことも記憶に新しい。

 

だが木下惠介は、デビューが同じ黒澤明と同じく上の下である。一般的には戦後日本映画界の巨匠と呼ばれているが、小津や溝口のような名人に比べると「天才に近い凡才」と言わざるをえない。

『破れ太鼓』は、そんな木下の凡才っぷりが惜しみなく詰めこまれたごく普通の映画である。

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◆狂暴ダディ物語◆

本作は前近代的な家父長制を体現する雷オヤジとそれを恐れる家族たちのホームドラマを軸に日本の核家族の姿を描き出した戦後喜劇の作品だ。

頑迷な父親を演じるのは歌舞伎界の大重鎮、バンツマこと阪東妻三郎。サイレント時代から映画俳優としても活躍しており、無法松の一生(43年)『王将』(48年)といった大傑作を残した。ちなみに田村正和のリアルダディでもある。

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バンツマ(左)とその息子 田村正和(右)

 

そんなバンツマが妻や子どもたちに怒鳴りまくるというのがこの映画。

「ワシをリスペクトしろ!」

「そしてワシにカレーライスを持ってこい!」

「ワシが食ってるカレーのこともリスペクトしろ!」

何を言うとるんだ、このオヤジは。

父が会社から帰ってくると隣家の犬が狂ったように吠えまくり、それを合図に妻と6人の子どもたちが玄関先で出迎え、父が廊下を渡って食卓につくまでの様子を固唾を飲み飲み見守るのである。

…ランウェイ?

父はまるで「かけがえのないワシが仕事を終えて帰ってきたよ。神より尊いこのワシがくたくたに疲れて帰ってきたよ。そんな宇宙のキーマンたるワシがキサマら家族を養うために爆裂級にしんどい仕事を終えて帰ってきたよ。みんな見て。褒めて! 讃えて! 胴上げして! ほらほら、いまスリッパを履いて居間に向かうよ。重要無形文化財のこのワシがなんとスリッパを履いて颯爽と廊下を歩き始めます! スーパーモデル顔負けの圧倒的歩行の輝き、および、ゆらめき。ワシが歩いた道には花が生えカボチャが育つといいます。蜂もきます」みたいなドヤ顔で、いかにも尊大な態度で家じゅうの空気を支配するのである。

しらこいオヤジである。

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妻にぶちぎれる父とそれを止める子どもたち。

 

だもんだから、6人の子どもたちはこの父にビビりまくっている。長女は父が選んだ見合い相手との不本意な結婚にテンションだだ下がり、長男は家業をやめてベンチャー企業を起こそうとするが父の顔色を窺うばかりで一向に話を切り出せず、ピアニストの次男は父のことを暗にディスった「破れ太鼓」というメタファーだらけの曲を作って歌い狂う。

これは逆・小津である。

小津映画では、しっかり者の子どもたちが優しすぎる父を気遣うあまり、結婚や仕事を諦めて家庭に収まろうとする。しかし父(たいてい笠智衆)は「ワシのことは気にせんでええから自分たちの道を歩みなさい」といって我が子を送り出し、縁側で茶なぞ飲みながら子の巣立ちに一抹の寂しさを覚えるのである。

小津が描いたのが「理想の家族」だとすれば、木下が描くのは「現実の家族」だ。

現実には笠智衆のような仏チックなダディなどそうそういない。本作のバンツマのように苦労自慢を勲章にして居丈高に振舞い、「子供のため」という大義名分で自分の言いなりにさせるようなファッキンペアレントばかりである。

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飽きもせず日に何度も「破れ太鼓」を歌う兄妹たち。ほかにやる事がないのだろうか。

 

案の定、バンツマは「親に向かってなんだその口の利き方は!」「誰のおかげで飯が食えてると思ってんだ!」という二大ダメ親ワードを口にしてしまう。

ヤな言葉だねぇ。

この言葉を口にする人は論理的な話し合いができないポンコツ一等賞人間だと思います。要は感情的になって「俺を敬え!」という子供じみた要求をしているだけの没理論きわまりないファンシー戯言なので、これを言う親は「なめんじゃねーぞ!」という非生産的な言葉で他人を威嚇するチンピラとどっこいどっこいの脳みそなのである。

おまけにこの父、混み合うバスの中で画家のカンバスを破いておいて「急にブレーキをかけた運転手が悪いんだ。それにそんな大事なものを持ち歩いてるおまえも悪い!」と言って非を認めない。挙句の果てに逆上して「買えばいいんだろう、買えば!」と紙幣を叩きつけてバスを降りていく。

運転手さん、あの男を轢き殺してください!

 

そんなわけで、クズみたいな父親の傍若無人な振舞いが延々描かれるが、ついに妻と子どもたちが家を飛び出したことで己が過ちと家族のありがたさを痛感。人が変わったように良きパパとなりて笠智衆のごとき温厚さを獲得する。

あれほど何に対しても「ダメだー!」、「許さーん!」、「ぶち殺ーす!」と怒鳴り散らしていた父が、ニッコニコしながら「ええやないか、ええやないか~」と万物を全肯定する仏のような父へと姿を変えたのだ。

ただのサイコだよ。

家族も家族で「わーい、パパが笠智衆みたいに優しくなったー」なんて小躍りしながら「よかったね」、「やったじゃん」などと言って肩を叩き合うのだが、そんなスッと受け入れるかね? 只事じゃねえぞ、この豹変ぶり。

女中だけは唯一「急に人が変わったように…。気でも触れたのかしら?」なんて訝しがる。まともなのは女中だけだよ。

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多くの小津映画で仏のような父を演じる笠智衆。左は原節子


イカれ情緒のカレー投げ◆

並の監督が撮ったのなら上出来だが、名匠・木下惠介にしては非常に隙が多いというか…、端的に言って馬鹿臭い作品である。

先述の通りプロットが短絡的に過ぎるうえ、雷オヤジが改心するきっかけがカレーライスを食って昔の苦労を思い出すという意味不明なもの。そこで思い出されるのが妻との馴れ初めや子育ての記憶だったなら辻褄も合うが、ここではもっぱら裸一貫で土建会社を始めた父が一代で財を築くまでの事業の歩みがフラッシュバックされるのだ。カレー食いながら。

なんやそれは。

なんでカレー食いながら事業の歩みを振り返ったら優しい人間になれるんだよ。むしろ仕事人間に拍車がかかって家庭顧みないモードが加速するだけでは?

まったく意味がわからんが、とにかくこの親父はカレー食うてやさしみをゲットする。

ところが、事業の歩みを振り返りすぎてイヤなことまで思い出した親父は「不愉快である!」と叫んで皿ごとカレーを投げつけるのだ。

改心した端からカレー投げんなよ!

不愉快はおまえや。

しかもそのあと久しぶりに家に帰ってきた長男が床の上でうんこみたいになってるカレーをベチャっと踏んでしまって、それを見た親父はケタケタケタ!と笑い出し「愉快である」などと言うのだ。

イカれてもうとんのか。

泣いたり怒ったりカレー投げたり。で最後 笑ろとるで…。

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昔の苦労を思い出しながらカレーを食らう(このあと投げます)。

 

キャラ多すぎ問題も看過しがたく、まずもって6人兄妹もいらん。せめて3人や。

科学オタクの三男と女優志望の次女には何のエピソードも用意されておらず、野球部の四男に関しては大暴れする父から母を守ろうとして部屋からバットを取ってくるというのが唯一の見せ場。セリフも「あー」とか「うー」みたいなファンシー戯言が約二行用意されてるだけ。

なんといっても父の横暴ぶりが行きすぎていて、ホームドラマというよりホームインベージョン(家庭侵入スリラー)に近い胸糞映画に傾斜してしまった点もバランスを欠く。あまつさえバンツマは佇んでいるだけで迫力がすごいのだから…本気で怒んなよ! 芝居に見えないんだよ!

そしてこの「行きすぎ感」がクライマックスでの父の豹変ぶりに違和感を残した原因にもなっている。

 

他方、木下組のカメラマン・楠田浩之の撮影は好調。

近景のバンツマに対して常に子どもたちを遠景に置くことで父親との距離感を視覚化したショットが冴える。また、その中景には開け放たれた扉があり、父と子を隔てる境界線として家族間の無理解を示唆するあたりも巧い。

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本作は家の中を主舞台としたホームドラマで、家の中というのはカメラの機動力が制限されてしまうために画的な貧しさへと滑り落ちてしまう失敗作が多いが、すぐれたカメラマンは建物の構造や内装を利用してドラマを演出する。

たとえば、普段は父(支配者)が階段の上から階下の子供たちに怒鳴っていたが、娘に反抗されたときの父は階下の人となる。父の立場が上になったり下になったりするさまを階段というモチーフを使って表現しているのだ。古典的なテクニックだが、それを作劇に絡めるさり気ない手つきには気品を感じる。

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◆キャスト◆

バンツマ以外のキャストも魅力的なのでご紹介申し上げる(誰も興味なかろうが)。


森雅之は日本映画黄金期を代表するスーパースターだが、本作では雷オヤジのご機嫌取りをするヘタレ長男坊を好演。

黒澤の『白痴』(51年)、溝口の雨月物語(53年)、成瀬の浮雲(55年)といった錚々たる作品でベタッとした存在感を醸すリアリズムの名優だ。見るからにベタッとしてますね。

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「破れ太鼓」を歌い狂う次男には木下惠介実弟である木下忠司が最初で最後の映画出演。

木下映画の音楽を手掛けてきた作曲家で、演技初挑戦の本作ではベタッとした存在感を醸し出すことに成功している。だが「破れ太鼓」のリードボーカルにしては致命的なまでに歌がヘタ。そもそもなんだこのナメた曲は。

ドンドンドドンコ、ドンドドン♪

ドンドンドドンコ、ドンドドン♪

基本これの繰り返し。何がおもろいねん。

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バンツマの脇からヒョコっと顔を出してるのが木下忠司。ドドンコ次男である。


バンツマに絵を破られ、のちに長女と結ばれた画家を演じたのは宇野重吉。昨日取り上げた『女の一生』(67年)にも出演した寺尾聰のリアルダディ。

どの映画でもカラッとした存在感を放ってやまない。

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その画家の母親役に東山千栄子。日本映画四天王(小津、溝口、成瀬、黒澤)に重宝された名バイプレーヤー。中でも小津の東京物語(53年)における不憫なババア役が涙を誘った。

カラッとしてることもベタッとしてることもない。

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バンツマの妻を演じた村瀬幸子は、黒澤の晩年作八月の狂詩曲(91年)において強風で傘ペローンってなって吹き飛ばされそうになるババアを好演(ちなみにリチャード・ギアも出演している)。

当然ベタッとした存在感を放つ。

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傘のペロンぶりが凄い。そないなってまで傘を持ち続ける意味はあるのだろうか。