「逃げ出さない勇気」を教えてくれる人生哲学譚。
2015年。樋口真嗣監督。三浦春馬、長谷川博己、水原希子、本郷奏多、石原さとみ。
巨人が進撃してきて皆テンパるという中身。
おはようございます。
最近の『シネ刀』は3日更新して1日休む…というルーティーンが定着しつつあるので、この常識を覆すために連続更新3日目にあたる昨日はわざとサボりました。悪しき習慣はこのようにして打破するのです。
たとえば固定読者のおまえたちは、今日『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』のレビューをアップしたから明日もアップして明々後日は休むんだろうな…という読みをしていることでしょうが、その読みを裏切っていきたいと思ってるんです。
明日があると思うなよっていうことですよね、だから。
今日アップしたからといって明日もアップするとは限らない。ていうか明日、上空からセスナが落ちてきて私の四肢がめちゃめちゃに損壊するかもしれない。そうなるとブログどころではない。四肢がめちゃめちゃに損壊してるのに「3日更新して1日休むというルーティーンだから今日も更新しなくちゃ…」なんつって千切れかかった腕をばたばた動かしてレビューをアップする奴がどこの世界にいると言うのか。もしそんな奴がいたとして、そんな奴ってどれだけブログを愛してる奴なんだ。
つまり何が言いたいかというと、人生には何があるかわかったもんじゃないし一寸先は闇…ということザッツオールなのでございます。
普段われわれは自分が死ぬことなんて考えないし、当たり前のように明日はくると思い込んでますけど、そこには何の根拠も保障もなくて、にも関わらず人間というのは基本的にバカですから、未来に対してただ漠然と楽観的になるわけです。
私はその思い込みを正すためにブログ更新のルーティーンをあえて崩していきたいと考えているのです。
どうですか、このサボりの言い訳。
というわけで今回は『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』について書きました!
「ATTACK ON TITAN」って、めちゃ早口で言うと「あ、大根炊いたん?」になるのではないかと思って自分で検証してみたよ。
なりそうでなりませんでした。ざんねん。
◆乗りかかった泥船◆
『進撃の巨人』はマンガ・アニメともに未見&興味なし。知っていることといえば「巨人が進撃してきて皆テンパる」ということだけ。
まぁ、親戚の巨人なら詳しいんですけどね(私の親戚には背の高い人がやけに多いのです)。
さて。樋口真嗣という監督はよく知らないし知る必要もないと思ってますけど、そう思わせた理由には『日本沈没』(06年)と『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(08年)の大爆死ぶりを挙げれば十分でしょう。
これから語る『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』もご多分に漏れず腐していくわけですが、もはや私の興味は「樋口真嗣は翌年の『シン・ゴジラ』(16年)の絶賛でどれだけの信頼を回復したのか?」という一点に集約されます。
それにしても日本映画メジャーを久しぶりに観た。あ、違う。こないだ『銀魂』(17年)を観たばかりだった。すっかり忘れてた(論ずるに値しないので評は見送りました)。
ちなみに今から語る『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』、前後編に分かれていて『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』(15年)に続くんですよね。もちろんそっちも観ましたよ。当たり前じゃないですか。乗りかかった泥船じゃないですか。
例によってポスターがゴチャゴチャしとるのぅ。
◆春馬うるせえ◆
ファンには申し訳ないけど、三浦春馬くんをいいと思ったことがなくて。
私が最も信頼している某レビュアーが本作の春馬くんのことを「映画の被写体にはまるで見えぬ相貌の主人公」と称しているように、芝居ができないとかオファー選定眼が稚拙の極みだとか以前に、そもそもスクリーン向きの顔ではない。ドラマとかCMに出てたら「あ、やっぱハンサムだなぁ~」って目の保養にはなるけどね。
言うまでもなく映画男優にとってハンサムというのは最大のネックなので「ただハンサムなだけ」では映画は持続しない、とこうなるわけです。
ましてや終始「わぁぁああぁぁあああぁぁぁああああぁぁ!」って喚いているだけの主人公なので、観る側にとっては端的に言って地獄。うるせーよ、春馬くん。藤原竜也ばりに叫んでましたよ。
そんな顔をしてもムダだ。
そんな春馬くんが「エレン」という男の子を豪快に演じている。モロに日本人の顔なのに「エレン」。
そして、お友達の本郷奏多くんの役名は…あーっと…なんだっけな(調べるのも面倒臭い)、たしかアルミンだかテルミンだか、そんな名前だった。ピクミンだったかも。いずれにせよ、モロに日本人の顔なのになんとも西洋風というかファンタジックな名前であるよなぁ。
まぁわかりますよ。オール日本人キャストだけど世界観としてはどこかの国という設定なのでしょう。
ところがどっこい、長谷川博己が演じた映画オリジナルキャラクターの名前がシキシマという名前なんですよね。
こいつだけピュアッピュアの日本人名やないか。
じゃあここは何処でおまえらの国籍はなんなんだよ。
ちなみにシキシマの寵愛を一身に受ける部下を水原希子が演じていて、役名がミカサ。おそらくミカサ(三笠)とシキシマ(敷島)というのは日本の戦艦から取った名前なんでしょうけど、じゃあここは何処でおまえらの国籍はなんなんだって話に余計になるよね。
ゴッサムシティという架空の都市が舞台なのに途中で香港が出てきちゃう『ダークナイト』(08年)と同じで、リアリティラインがグラッグラ。映画の膝ガックガク。香港なんて出しちゃったら現実世界の延長線上にゴッサムシティが存在することになっちゃいますけど? っていう矛盾が『進撃の巨人』でも巻き起こっているわけです。
このように物語設定が曖昧模糊のもこみち状態なので世界観にスッと入っていけないもどかしさがあるわけです。おそらく作り手に言わせれば「そこは気にしたら負け」なのでしょうけど、「気にしたら負け」という言葉で思考停止することが負けですから。
まぁ、もういいよいいよ名前とか国籍なんて。どうでもいいことにイチャモンをつけて悪うございました。カァァァァァァァァ、ペッ!
◆人生哲学に満ちた奥深い作品◆
ちなみにこの映画は吐くほど酷評されているが、正味の話、私はそれほど酷いとは思っておりません。
なんなら楽しんだと言ってもいいぐらいだ。
というより、この映画をことさら酷評する気も起きないぐらい現在の日本映画メジャーはこの映画と目くそ鼻くそなので、ヘンな話…すでに慣れっこなんですよ。
想定の範囲内というか「あー…またこれね。よし、頭切り替えよう!」って一瞬で適応できちゃう。そりゃあ、昔の私ならこの手のダメ邦画に逐一ヒス起こしてキレてましたけど、今となっては涼しげフェイスでサラっとかわし、なんなら楽しむ余裕まで生まれました。これぞイイ男。これぞ紳士のたしなみ。
セリフの7割は説明台詞、残り3割は春馬スクリーム。カット割りまくり、照明最低、物語進行をいちいち妨げる単調な会話劇。反復幼稚、動線ぐちゃぐちゃ、人物配置テキトー、高低差がまったく活かせてないアクション。
挙げ出せばキリがないぐらい瑕疵のデパートです。
特に致命的な欠陥は煽り/俯瞰が活用できてないこと。
これって巨人を軸にした怪獣映画でしょ? 見下ろす(俯瞰)、見上げる(煽り)という構図を使って恐怖や緊張感を演出してナンボの題材でしょ? そんな基礎的なことも出来ていないので巨人のサイズ感がぜんぜん伝わりません。これなら俺の親戚の方がデカい。
遠近感もちょっと素っ頓狂なことになっていて、「春馬と巨人の距離はどのくらいなの? 近いの? 遠いの? なんなの!?」っていう画的な見づらさが大変ストレスになります。
まぁ、慣れっこだけどね。
いいんす、いいんす。こちとら『デビルマン』(04年)とか『恋空』(07年)みたいな産業廃棄物にかれこれ10年以上つき合ってますから。こちらの忍耐力を舐めてもらっては困ります。
実際、これが今の日本映画メジャーの水準なんですもんね。日本の映画業界はじつに素晴らしいと思うナ。山崎貴が日本アカデミー賞の監督賞を二度も取るんだから。大したもんですよ。アイ・ラブ・ジャパニーズムービーだよ(棒読み)。
夕陽に向かって叫ぶ巨人を見守る人間たち。青春ドラマのワンシーンみたいで、ちょっとおセンチになりますね。
さて、ここからは趣向を変えて褒めていきますよ。
褒め倒します!
私が最も楽しんだポイントは巨人が迫ってるのに微動だにしない人々。これ最高。
巨人がズシンズシン進撃してきてるのになぜか逃げ出さず、その場に留まって「うわ、うわ」とか「こっちくんな、こっちくんな」などと周章狼狽しているのです。そして捕食される。必然の帰結。
巨人が壁をぶち壊してこっちに迫ってるっつーのに、春馬くんったら「へぇー。巨人って本当にいたんだぁ」という顔でまじまじと巨人鑑賞を嗜んでいるし、逃げようと思えば逃げきれる状況にも関わらず水原希子は地面に座り込んで「もういいのよ…。べつに」とばかりに不貞腐れて逃げるという選択肢を放棄してしまう。
なんなのこの人たち。
動くのが面倒臭いの…?
腰が重いの? 足がシビれてるの?
ノン。または、さにあらず。彼らは決して動くことを面倒臭がっているわけではない。
実はこの映画は意外と深いことを説いていて、巨人を前にボーっと突っ立っているキャラクターを通して逃げ出さない勇気を描いているのですよね。
たとえ巨人が眼前に迫ろうとも微動だにせず、あわよくば巨人鑑賞まで嗜むという春馬イズム。これは要するに「それぐらい心に余裕を持った方が冷静に対処できるよ、何事も。テンパって逃げ出すのは却ってよくないよ」という人生の教訓とは言えまいか。
他方、逃げようと思えば逃げきれる状況なのにあえて死を受け入れるという希子イズムは、「大きな難事から逃げたところでどうにもならないので逆に諦める…というのもひとつの手である」というニヒリスティックな理念にほかならない。
キャラクターの「一見不可解な行動」を通して語られる人生哲学譚。生きるためのヒントが満載なので、人生に疲れたり自分を見失ったときに鑑賞したい作品でございます。
きっとアホらしすぎて前向きな気持ちになれるでしょう。
巨人が迫ってるのにボーっと見上げる水原希子。
◆若手俳優勢ぞろい!◆
本作には日本映画の未来を担う若手俳優が大勢出ているので、役者を眺めているだけでも十分に楽しい。俺はなんて幸せな奴なんだ。しかも美男美女揃いときた。あがるー。
やはりその筆頭といえば……
國村隼。
もはや説明するのも馬鹿臭いぐらい、いま最も旬のイケメン俳優といえばこの人をおいて他にいません。
國村隼を見ない年はないといっても過言ではないほど、この若さにしてさまざまな日本映画に出演しているほか、『ブラック・レイン』(89年)、『キル・ビル Vol.1』(03年)、『マンハント』(17年)といった海外映画にも引っ張りだこ。ついに『哭声/コクソン』(16年)では韓国映画にも関わらず國村隼を主演に迎えるなど国際的に活躍している俳優です。
実際、本作でもいちばんデカい巨人役だったものな。
今こそ私は世に問うべきなのかもしれない。ウィレム・デフォーか國村隼かという究極の二択を。
デフォーと同じく悪魔顔の系譜(遠藤憲一には敵わないが)。
次に紹介すべき若手イケメン俳優はKREVAということになってくるわけです。
KICK THE CAN CREWのメンバーとして日本のヒップホップを牽引するラッパーだけど、なぜか俳優業もやっており『シン・ゴジラ』では戦車に入ってゴジラ撃ってた。
俳優KREVAの才能は映画だけに留まらない。吉井和哉の「バッカ」のミュージック・ビデオにも出演していて、そこでも卓抜した演技を見せつけている。
なお、本作では後編となる『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』において國村隼の手下役を熱演しており、セリフこそないものの拘束された春馬くんが暴れないように見張るという非常に重要な役をこなしている。
KREVAが至近距離から春馬くんを見張っています。かなり見張っています。
女優も紹介しておきましょう。
穏当なレビューであれば水原希子や石原さとみを取り上げるのがベターなのでしょうが、私があえて取り上げるのは武田梨奈。
プロの空手家でありアクション女優でもある彼女は、本作で夫とセックスする直前に巨人が現れて夫が殺されたので爆薬を搭載したトラックを走らせて巨人もろとも自爆するという、空手の「か」の字もない役を体当たりで熱演。あっぱれな散り様でございました。
赤く爆発しているのが武田梨奈です。可愛らしい人ですよね。
また、『マンハント』では悪霊憑きのイカれポリスを演じた桜庭ななみが常時イモのことしか考えられないイモ食い女の役に挑戦している点も見逃せまい。『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』は桜庭ななみの食い意地だけが印象に残る作品です。また、イモを食ったり投げたり分け与えたりするスペクタクルなイモアクションが錦上花を添えてもいます。
ちなみに、イモばかり食っているななみちゃんに対して長谷川博己はいつもリンゴをかじっている。やがてななみちゃんと長谷川博己は敵対するので、いわばイモ対リンゴの勝負になってくるわけです。これは冗談じゃなくて本当です。ななみちゃんはイモをぽいぽい投げつけ、長谷川博己はリンゴを人にぶつけるのですね。八百屋さんが観たらどう思うのでしょうか。
マッシュドポテトを頬張る桜庭ななみ。元気そうです。
◆疲れました◆
実は今回のレビュー、一ヶ月ぐらい前から書き始めて一向に完成しないんです。書いてるうちに馬鹿馬鹿しくなってきて「続きはまた今度書こう」といって途中保存の繰り返しで、中折れに次ぐ中折れ。タイムだらけの試合。各駅ごとに人身事故。休廷連発裁判。そんな感じで、ちっとも前に進まないわけであります。
いっそレビューを見送ってやろうかとも考えましたが、私の中では『銀魂』の前科があるのでそれはできず、クソ根性だけでどうにかこうにか形にすることができました。おめでとうございます。ありがとうございます。
先述したように、本作は吐くほど酷評されてるわけですが、この映画の良さはすでに私が完璧に語り尽くしましたし、なんと言っても良心的な上映時間が救いなのですね。前編98分、後編88分と、割とあっさりしたものなので、まずは前編だけ観て判断して頂くにはちょうどいい短さなのです。まぁ、両方観ると3時間越えるんですけど(ファック)。
さて、映画は後編に続くわけですが、 時間と体力の無駄なので『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』はレビューしません。
推して知るべし。
「レビューしないの?」みたいな顔をしてもムダだ。