シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

プーと大人になった僕

可愛いけどぶん殴りたいというアンビバレンス。

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2018年。マーク・フォースター監督。ユアン・マクレガー、森の仲間たち。

 

かつて「100歳になっても、きみのことは絶対に忘れない」と約束を交わしてプーと別れた少年クリストファー・ロビン。月日が流れ大人になった彼は、愛する妻や娘とロンドンで暮らしながら、旅行カバン会社のウィンズロウ社で多忙な日々を送っていた。しかし、忙しすぎるゆえに家族との約束も守ることができず、思い悩んでいた彼の前に、かつての親友プーが現れ…。(映画.comより)

 

おはようございます。

過日、ファミリーレストランで食料を摂取しようと思い、某有名チェーン店に入ってサラダとパスタを頼もうとしたところ、「えー、サラダと…」と言った直後に「以上でよろしいでしょうか?」と言われた。

生き急ぐなと。

わしゃオードブル野郎か?

もし私がオードブル野郎だとすれば「サラダ」と言った直後にオーダーを打ち切ってくれても構わない。なぜならオードブルしか食べないのがオードブル野郎の真骨頂だからね。でも私はオードブル野郎ではない。つまりサラダ以外の料理も頼む可能性が大いにあるということだ。

にも関わらず、なぜサラダと言った直後にオーダーを打ち切られねばならないのか。

「こいつはサラダしか食べないだろう」と踏んで、大いなる賭けに出たのか。それとも「おまえはサラダしか食べてはいけないよ」という大いなるメッセージが秘められていたのだろうか。

それとも、やはり生き急いでいたのだろうか。もしそうだとしたら私は言いたい。

生き急ぐなと。

ヤングマンかおまえは。

そしてわしゃオードブル野郎か?

もし私がオードブル野郎だとすれば…(以下ループ)

 

そんなわけで本日は『プーと大人になった僕』だな。元気にいこう!

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『ネバーランド』再び

なまじ器用なだけに『007 慰めの報酬』(08年)『ワールド・ウォーZ』(13年)を撮るはめになったマーク・フォースターの原点回帰にプーッとラッパを吹きながらの祝福。ラッパのプーさんとはオレのことかもしれない。

この男が撮った『ネバーランド』(04年)というファンタジー映画はジョニー・デップとケイト・ウィンスレットが出ているにも関わらず映画好きにはあまり人気がなく、同じファンタジーでも『パンズ・ラビリンス』(06年)ばかりが激賞されるのである。プーッと頬を膨らませながらの憤懣。そう、ほっぺのプーさんとはオレのことです。

『ネバーランド』『パンズ・ラビリンス』はファンタジー映画の陰と陽をなしていて、この二作はファンタジーとは現実を映す装置であるというテーマで共通した傑作。

ファンタジーとは空想の産物ではなく、むしろ現状認識の手段である。厳しい現実に立ち向かうための武器だ。

そんなマーク・フォスターのファンタジー論が改めて提唱されたのが『プーと大人になった僕』なので、ある意味では『ネバーランド』の語り直しと言えるかもしれない。

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『ネバーランド』はピーターパンの生みの親である劇作家ジェームズ・バリの伝記映画(バリをジョニー・デップが演じている)。

一方、本作は『くまのプーさん』に出てくるクリストファー・ロビンの30年後を描いた作品。クリストファー・ロビンというキャラクターは『くまのプーさん』の原作者A・A・ミルンのせがれをモデルにしているので、ここで『ネバーランド』との共通点が生まれるわけだ。

つまりこの監督は、ファンタジー作品をただファンタジックに映画化するのではなく、その原作者(あるいはその息子)がいかにして自身の作品と関わっていくかという話を映画化するのだ。

実在の人物を扱った物語をファンタジーで彩ることで、実在の人物や実際の出来事まで寓話化する正真正銘のファンタジー職人である。どうぞよろしく。


この映画の主人公は当然クリストファー・ロビン(プーさんじゃないよ)。そしてクリストファー・ロビンを演じているのが…

ユアン・マクレガー

ユアン・マクレガー

ユアン・マクレガー

愛が木霊しております。

男優にも関わらず『現代女優十選』では8位の座を射止めることに成功。ちなみに『彼女にしたい女優十選』があるとすれば1位確定である。それぐらい好きな女優なのだ。あ、男優か。どっちゃでもええわ。

したがって本稿ではクリストファー・ロビンという呼び方はせず「ユアン」と表記する。愛を込めて。

ユアンとすることが分かるか。

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現在47歳。まだ全然いける(ダブルミーニング)。


◆ガキお断りの童心返らせムービー

寄宿学校で青春を送ったのち、速やかに第二次大戦に徴兵されたユアンが戦争を終えて速やかに祖国へ帰ってくる。なんて速やかなファーストシーンなんだ。

舞台は1950年代のロンドンであります。イギリスまるだし映画としても楽しめる本作は、画面の色彩設計や口にするジョークまでブリティッシュ。もちろんユアンをはじめとする出演者も全員イギリス人。

なのに監督のマーク・フォースターがドイツ人という裏切り。

このロンドンの街にプーさんがノコノコ現れて「100エーカーの森に行こうよ」などとわけのわからぬ御託を並べ、中年のユアンを100エーカーの森にいざなう。その森はユアンが子供のころにプーたちとよく遊んだ思い出の場所であり、ティガー、イーヨー、ピグレットといったお馴染みの仲間たちが棲息している。

だが、かつてはキラキラと輝いていた森はぐずぐずに腐食しており、不吉な濃霧まで立ち込めていた。こんなに怖い森ってない。

それによく見るとプーたちの様子も少しおかしい…。私が絵本で見慣れていたのと何かが違う…。

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なんか汚ったねぇな。

 

やけに貧相なんだよ。微妙に薄汚れてるし。

映像もローキー気味でジメジメしていて、鬱気がすげえ。なにこれ。一個も楽しくない。心躍らないことおびただしい。

まぁそれもそのはず。中年になったいまのユアンには何の楽しみも希望もなく、家庭を顧みずにあくせく働く社畜と化していたのである。プーに対してもつれない素振りであしらうような夢のない大人!

夫婦仲は冷え切っており、カバン会社の上司からは「業績不振の打開策を考えないと殺しますよ」みたいな脅しを受けていて、とてもじゃないが昔のようにプーたちのレクリエーションに付き合う余裕などないのである。

そんなユアンがプーに振り回されるうちに少しずつ童心を取り戻し、それに比例して画面も色彩に溢れ、仕事と家庭における死活問題を乗り越えてハッピーを手にする…というのが本作のあらましなんだよな。

つまるところ『プーと大人になった僕』はガキ向けファンタジーではなく、むしろ大人たちの固定観念や退屈な常識を揉みほぐしてくれる童心返らせムービーなのである。

働きすぎの日本人こそ観るべき映画かもしれない。サザンの「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」を聴いたあとにこの映画を観ればストレス軽減だぁ。


弊社をブラックとメディアが言った~♪(違う違う)


◆イラかわいい◆

見所が3つあるので、一つずつモッタラモッタラと紹介していく。

 

見所その1は、なんと言ってもキャラクター。

小汚いぬいぐるみが徐々にかわいく見えてくる…というのは言わずもがな、やはり『くまのプーさん』というコンテンツが唯一無二なのは、単に可愛いだけでなく可愛いけどイラつくという絶妙なバランスだと思う。

わけのわからない御託を並べ続けるプーさんをはじめ、いつもぷるぷる震えているビビりのピグレット、悲観的なことばかり口にする厭世主義のイーヨー、騒ぐことしか能がない破天荒なティガー。

全員がかわいい。全員がかわいいけど…ぶん殴りたくなる。

なんだろうな…、この「愛でたい」という欲求と「殴りたい」という欲求の相克は。「イラかわいい」とでも言えばいいのか。とにかくいい感じに人をイライラさせてくれる。

特にピグレットとティガーだねー。滅多打ちにしたいわ、こいつら(でもかわいい)

このいわく形容しがたい感情を沸き立たせるのが『くまのプーさん』の精髄で、実写ならではのイラかわいさは必見といったところです。

プーさんの御託に耳を傾けると実はかなり哲学的なことを言っていた…というあたりもイラ深い。

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ころしたい。


ふたつめの見所はクライマックスの活劇でしょう。

100エーカーの森から再びロンドンにやってきたプーたちが、人々を驚かせないためにぬいぐるみのフリをしながらユアンの足取りを追う。

くま+ロンドン+活劇といえば当然『パディントン』(14年)という強豪にぶつかるわけだが、身体性という面ではぬいぐるみ感満載のプーたちはCGIでいきいきと動くパディントンに見劣りする。手足の可動域が極端に狭いので跳んだり走ったりできないわけだね。つまり活劇には向かないデザインなので、クライマックスのドタバタ劇が始まったときは「プーさんでそんなことするの?」と大層驚いたものだ。

ここで活劇を成立せしめたのは自動車ティガーの尻尾。これがどういう風に使われているかは是非スクリーンで確認されたし。


みっつめの見所。これはユアン・マクレガーにほかならない。

彼は妻やプーに対してなるべく優しくあろうと努めてはいるが、つい辛辣な言葉を口にして周囲の人を傷つけてしまう。オレですよ。だから。

ユアンはオレ。

『シネマ一刀両断』を律儀に読んでくれている方なら「あー」と思って頂けるかもしれないが、つい言わなくていいことを言ってしまったり、チクっと刺すようなことを言ってしまうんだよなぁ。

だからプーに対するユアンの苛立ちはよくわかる。私はユアンほど心が広くないけど。

早く森を抜けて帰らないと会社に遅れるというのに、プーがコンパスの使い方を知らないせいで同じところをぐるぐる回っていることに気づいたときもユアンは決してキレなかった。怒りでぶるぶる震えながら「何やってんだよ!」とちょっと強めにツッコむ程度。

それなのにプーときたら「ああ~そうか~。よく考えたら~、僕~、コンパスの使い方を知らないんだ~。ていうかぁ~、ハチミツ食べたいな~」などとクソみたいな寝言をほざくばかりで。

むしろユアンはよく我慢した方だよ。寛大とすら言えるよ!

私だったら100エーカーの森でど突き回してるね。

滅多打ちだよ。くまのプー滅多打ち。

そんなわけで、ユアンはクリストファー・ロビンという大役を立派に務めあげました。

結局一番かわいいのはプーさんでもピグレットでもなくユアン・マクレガーなんだよね。結局ね。

100エーカーの森でユアンと遊びたい。

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見すぼらしすぎて涙が出る。