ビザンというよりヒサン。
2007年。犬童一心監督。松嶋菜々子、宮本信子、大沢たかお。
東京で働く咲子は、故郷の徳島で暮らす母親・龍子が入院したと聞いて久しぶりに帰郷するが、母が末期ガンだと知って愕然とする。咲子は母を看病する中で、医師の寺澤と出会う。残された短い時間の中、咲子は寺澤に背中を押されるように今まで知らなかった母の人生を知っていく…。 (Yahoo!映画より)
おはようございます。
昨日、アホみたいな顔してスルメを食べていたら歯が少し欠けてしまいました。
過去に治療して神経をぶっこ抜いた歯だったので痛みは感じないのだけど、欠けたところが尖った形になってしまって、「勝手にシンドバッド」みたいな早口の曲を歌っていると尖った部分が舌に当たって少し痛いんですよね。
「さっきまで俺ひとりあんた思い出してたとき、シャイなハートにルージュの色がただ浮かぶ♪」ってところで「イタ」ってなるんですよ。
でもそのほかのパートは全然大丈夫なんです。「今何時!?」と訊かれても「そうねだいだいねー」とか「ちょっと待っててオー」と言うぶんには全く痛みを感じないので、どうやら早口だけがダメみたい。
ためしに「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~」の早口パートを歌ってみたのね。
「がっかりさせない期待に応えて素敵で楽しいいつものオイラを捨てるよ♪」
痛ぇわ、ド畜生。
「がっかりさせない期待に応えて~」ですでに痛ぇわ。がっかりだよ。
そんなわけで本日は『眉山』。歯医者行こっかなぁ。
◆眉山、悲惨、無残、火山◆
何かといえば関白宣言や精霊流しをすることでお馴染みのさだまさしの原作小説を『ジョゼと虎と魚たち』(03年)の犬童一心がそれなりの決意のもとに映画化。
末期ガンで余命幾ばくもない母を宮本信子が、その娘を松嶋菜々子が演じた難病映画の金字塔だ。阿波おどりをフィーチャーした内容と知るや否や徳島県が全面協力した。さすが阿波おどる県民。現金な奴らである。
ポスター写真が非常に素晴らしいっつーか松嶋菜々子が美人すぎたのでビデオ屋に通うたびに気にはなっていたのだが、DVDの裏側を見ると「末期ガン」と書かれていたので「めんどくさ」と思って静かに棚に戻す…ということをかれこれ10年近く繰り返していたのだが、この度ようやく踏ん切りがついて鑑賞へと至った次第。
犬童一心という監督はよく知らないが『ジョゼと虎と魚たち』はお気に入りだし、松嶋菜々子も美人だから好きだ(願わくばもう少しまともな映画に出て頂きたい)。
何より宮本信子である。
夫でもあった故・伊丹十三の公私に渡るミューズとして主演作『マルサの女』(87年)が社会現象を巻き起こし、その後も『ミンボーの女』(92年)や『マルタイの女』(97年)といった女シリーズで伊丹作品の精神的支柱となった隠れ名女優である。貪るように伊丹作品を観ていたころが楽しかったな~。
要するに前向きな姿勢で鑑賞したということが言いたいんだ。「よし、『眉山』を楽しんじゃうぞ」というつもりで、なんだったら朗らかな笑顔すら湛えながら鑑賞したのである。
ところが、眉山(ビザン)というよりは悲惨(ヒサン)でしたね、これは。
あまりに無残な出来栄えにボク火山。
◆下山したい…◆
母が入院したとの報せを受けて東京から徳島に帰ってきた菜々子が、お医者先生から「お母さんは末期ガンです」と言われる。そんな菜々子が病気のことを母に伝えられずにウダウダウダウダする…というのが主な内容の『眉山』。
下山していいかな…?
とはいえ、菜々子が信子ママンに病気のことを言えずにいる間にもさまざまなエピソードが並走するので退屈はしない。たとえば医師・大沢たかおとの病院ロマンス。それに死んだ父親が生きていたという衝撃のてんかい。そして信子ママンの生き甲斐である阿波おどり鑑賞。
ところがそうしたエピソードの一つひとつが取ってつけたような描かれ方でまったく心に響かないので、ひとつずつ説明していこうと思う。一歩一歩 山を下りるように。
まずは病院ロマンス。
大沢たかおが医者役という時点で『JIN -仁-』の連想は不可避なので以降はJINと呼ぶことにする。
医師としてあるまじき失言で信子ママンを大激怒させてしまったJINは、本人に謝ったあとに菜々子にも「すみませんでしたァーッ!」と謝罪して、彼女とちょっと世間話をしたあとデートに発展する。
デートに発展するの?
出会ったばかりでデートに発展するの?
出会いは最悪→JIN謝罪→世間話→でデートなの?
まぁデートとは言っても病院近辺を散歩する程度で、二人の間に恋愛感情らしきものは認められない。それに話題はもっぱら信子ママンの病気のことなので、こちらとしては「医師と患者家族の信頼関係を描いているんだよな…?」と思う(あるいは思いたくなる)わけである。
しかし、母のことで意気消沈する菜々子を見たJINは「流れでいったれ」と思ったのか、菜々子を強く抱きしめる。
強く抱きしめるの?
ホーミタイするの?
ついさっきまで失言を謝罪していた医師がぷりぷり怒っていた患者家族をホーミタイするの?
この時点で私の中ではイエローカードっていうか…かなり混乱しているのだが、「まぁ、抱きしめるとは言っても下心があっての抱きしめではなく、不安な彼女を安心させようって意味での抱きしめなんだよな? だよな!?」とポジティブに解釈した。
ところが、彼女を強く抱きしめたJINは「流れでいったれ」と思ったのか、菜々子の唇を鮮やかに奪ってみせる。
唇を奪ってみせるの?
それも鮮やかに?
ついさっきまで失言を謝罪していた医師がぷりぷり怒っていた患者家族をホーミタイした上に唇まで奪ってみせるの? 鮮やかに?
その上、キスシーンが徐々にフェードアウトして満月の夜空に繋がり「この後は…わかるよね?」という意味深な撮り方がされている。
やってもうとるやないか。
やってまうの? 「流れでいったれ」と思ったの?
うーん、この展開いるかなぁ~…?
結ばれるにしてもタイミング悪くね。これだとJINがまるで弱った女の心の隙に付け込んだ奴みたいに見えるし、何より信子ママンの死が確定したことで動揺している菜々子に対しても「そんなことしてる場合かよ」と。死にかけとんねん、母ちゃん。
まぁ、気楽なもんである。きっと容赦のない監督なら信子ママンの死期が迫ったタイミングで二人を結ばせることで「生」と「死」を生々しく対比させるのだろうが、この映画はどこまでも恋愛脳でしたね。
下山したい。
酸素薄いわ、ここ。
大沢たかお。若干ずれました。
◆踊り子ロードに乱入する菜々子、魂の叫び◆
次は、死んだ父親が生きていたという衝撃の展開について。
菜々子は信子ママンと昔の恋人の不倫によって出来た子で、その父親が生きていると知って一人で会いに行き「8月に阿波おどりが開催されるので来てください」と徳島県の宣伝大使みたいなアピールをする。そして祭り当日に信子ママンを阿波おどりに連れ出すことでワンチャン二人を再会させてあげようという魂胆なのだ。
これに関しては大した不満もないのだが、まぁ唯一あるとすれば「不倫を美化すんな」ということだけである。
菜々子&信子ママンの視点から見れば「数十年ぶりに親子が揃うかもしれないなんて良かったねー」てなもんだが、信子ママンの不倫相手であり菜々子の父親でもある夏八木勲にはすでに家族がいるわけで、その人たちの視点に立てば美談でも何でもない。ふざけるなという話である。
そしてクライマックスを飾る阿波おどり!
楽しそうに阿波おどりを見ている信子ママンの横で菜々子は妙にソワソワしている。「夏八木、はよ来いや。わざわざ会いに行って『来てください』って頼んだやないけ」とばかりに。
居ても立っても居られなくなった菜々子は席を外して単身夜の徳島を駆け回る。来てるかどうかも分からない夏八木を捜すために…。
阿波踊りの来場者数って100万人以上ですよ。
都市全体が阿波おどりなわけ。もし夏八木が来ていたとしても見つかりっこないでしょう…と思っていると、見ツケター!
さすが菜々子。この動体視力である。ポイズンの嫁は伊達ではないということか。
しかも夏八木は信子ママンのすぐ向かいの客席にいた。
さすが眉山。この美談。ご都合主義も何のそのである。
しかし踊り子ロードを挟んで真向かいの客席にいる二人は互いの存在に気づかない。しょうがないので踊り子ロードに乱入した菜々子が「お父さぁぁん!! お父さぁぁぁぁん!!!」とシューベルトの名曲「魔王」みたいな絶叫をして夏八木の注意を自分に向け、向かいの客席にいる信子ママンへと視線を誘導する。
このクライマックス、レビューサイトでは踊り子でもないのに踊り子ロードに乱入した菜々子が「非常識!」という総ツッコミが浴びているが、まぁ、確かに非常識ではある。認める。踊り子たちの阿波ダンスを邪魔するばかりか「お父さぁぁぁぁん!!」と絶叫して阿波ダンスの音楽まで妨害しているのだから。
でも ゆるす。なぜなら素直に感動したからです。
踊り子ロードの左右に位置する両親をロードの真ん中に佇む菜々子が「目」を使って「結ばせる」という視線劇。
これぞ映画的瞬間である。非常にバカげたシーンではあるが、優れた演出は素直に褒めるのが映画評論というものです。
①菜々子、魂の絶叫。
②絶叫によって菜々子と夏八木の視線が結ばれる。
③信子ママンの方に振り向く菜々子。
④菜々子の視線に誘導されるように夏八木もまた信子ママンの方を見る。
⑤夏八木と信子ママンの視線が結ばれ、目と目による数十年ぶりの再会を果たす。
いろいろと文句を言ったが、このクライマックスの視線劇だけは白眉。白眉なこと山のごとし。眉山。
菜々子の粋な計らいによって視線の再会を果たした二人だが、満足した風の信子ママンが「そろそろ帰りましょうか」と言って夏八木と対面せぬままこのシーンが終わっていくのも良い。目と目が合っただけで充分よ…という。
そして視線の媒介となった菜々子を清らかに捉えたアオリ気味のショットが心地よい残響を奏でる。眉山っていうか美人!
かなり退屈な映画だったが、この視線劇を見れただけでも儲けものだった。
宮本信子も今年74歳かぁ。信じられないな。
菜々子ちゃん(浴衣Ver)のスペシャルフォトを作りました。某和服評論家はどう見るのでしょうか。
追記
今回の評は大沢たかおのファンを敵に回しかねないので、最後ぐらいはちゃんとした画像を載せようと思います。
大沢たかおが一番イケメンに映ってるお宝写真を夜なべして探したので、どうか勘弁してくださいね。
大沢たかおサイコー。