もはやピエロ退治なんてどうでもいい。
2017年。アンディ・ムスキエティ監督。ジェイデン・リーベラー、ソフィア・リリス、ビル・スカルスガルド。
とある田舎町で児童が行方不明になる事件が相次ぐ中、おとなしい少年ビルの弟が大雨の日に出掛け、大量の血痕を残して姿をくらます。自分を責めるビルの前に突如現れた“それ”を目撃して以来、彼は神出鬼没、変幻自在の“それ”の恐怖に襲われる。彼と同じく“それ”に遭遇した人々とビルは手を組み立ち向かうが…。(映画.com より)
あの3時間越えのテレビ映画版『IT/イット』をリメイクしたジュブナイル・ホラー。全世界7億ドルのメガヒット作で社会現象を呼んだ。
原作は世界一映画化されている小説家スティーヴン・キング御大。
『IT/イット』はクソであるという堅固なスタンスを持っている俺としては、今回のリメイクが『IT/イット』よりも『スタンド・バイ・ミー』に寄せてジュブナイル要素を多くまぶしたアレンジに好感が持てる。
また、最大のアレンジは少年期と壮年期をA面/B面構成で描いた長大な1990年版に対して、こちらは少年期だけにスポットを当てている(したがって壮年期パートは次作に譲られる)。
校内の負け犬が集まった「ルーザーズ・クラブ」の7人が殺人ピエロ、ペニー・ワイズに立ち向かう…という大筋は同じだが、映画のタッチが完全に青春映画のそれで、恐怖シーンの直後に陽気なロックンロールが流れたり、仲間同士でじゃれ合ったりする不思議な画運びが特徴的。
ホラー映画の全編を支配している禍々しいムードがあまり無く、むしろ『スタンド・バイ・ミー』とか『グーニーズ』の雰囲気がずーっと流れてる状態なので、ホラー映画が苦手な人でも楽しめる確率は高い。
虐められっ子のデブにクレイジー気味のメガネ少年なんて完全に『スタンド・バイ・ミー』だし、ソフィア・リリス演じる紅一点の垢抜けない少女も良く。
そんな彼らが和気藹々と川遊びをして自転車を乗り回し、たまにペニー・ワイズと戦ったり血まみれのシャワールームを皆で楽しく掃除する…という絵面を眺めてるだけで感無量。
そうそう、屋根の低い田舎町のロケが絶品で、アメリカ郊外の落ち着いた景色を眺め続けるのも一興。ペニー・ワイズとの戦いでは、廃屋に洞窟など『バタリアン』や『グーニーズ』的な舞台設定の目まぐるしさも楽しく。それらが80年代ノスタルジーの火花を炸裂させながら現代のスクリーンに甦ることに高揚感を禁じ得ず!
恐怖演出は完全ワンパターンで音響による虚仮威しも目立つため、ホラー映画としては二流でしょう。また、ペニー・ワイズ攻略法や宙吊りにされた犠牲者の安否など、映画内ルールが曖昧で整合性欠きまくり。
だがルーザーズ・クラブが一人またひとりと家に帰っていく解散エモは、『スタンド・バイ・ミー』における町外れの十字路でのお別れ名シーンに引けを取らないほどの寂寥感がうまく出ていて、俺の心の柔らかいところにあるノスタルジー性感帯がバリバリ刺激される。
そんなわけで、もはや俺にとってはピエロ退治なんてどうでもいい。何だったらベン・E・キングのあの曲を最後に流してくれても構わなかった…というほど、恥も外聞もなく『スタンド・バイ・ミー』に重ね合わせて遠き日に思いを馳せてしまう。そんな映画原体験を呼び起こしてくれる作品だったのでございます。