シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

エクソシスト

さまざまな要素が絡み合った複合的傑作。

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1973年。ウィリアム・フリードキン監督。ジェイソン・ミラーリンダ・ブレアエレン・バースティン

 

女優クリスの12歳の娘リーガンは、ある時から何かに憑かれたかのように振舞うようになり、口から緑色の汚物を吐いたり人前で放尿するなど悪行の限りを尽くす(頭360°回転や空中浮遊にも成功)。母親と医者はてんやわんやの大騒ぎ。「誰かコイツなんとかせえ」ということで、二人の神父メリンとカラスが訪れ、悪魔祓いを始めるが…。


「おまえは宇宙で死ぬ」

私はこの台詞を忘れない。母親が自宅パーティをしているリビングに悪魔憑きのリーガン嬢が二階からおりてきて、この言葉を吐き捨てて場を凍らせた直後に放尿するシーンだ。

幼少期に洋画劇場の吹替えで初めて観たとき、峻烈な印象を残したのがこの台詞である(二番目に印象的だったのは、カラス神父がジェイソン・ボーンよろしく窓ガラスを破って落下死するシーン)。

この暴言が名台詞たる所以は、限りなく黙想的で不思議な説得力を持っているからにほかならない。もし私があの場にいてこの言葉を言われたら「ああ、俺は宇宙で死ぬのかな」と妙に納得してしまうだろう。

正確を期すならば、これは暴言ではなく悪魔の予言である(まぁ、結果的にこの予言は外れる。誰も宇宙で死んだりしない)。

そしてこの台詞のポテンシャルは、ドヤ顔で言ったあとの放尿という合わせ技的なパフォーマンスによって最大限に引き出されるのだ!

この一連の身振りによって、リーガンは決定的に畏怖すべき異形なるものとして、観客を不断に騙し討ちする。階段をブリッジの姿勢でバタバタ駆け下りたり、ベッドの上をぽんぽん跳んだり、十字架で自慰に耽ったり、頭を360度回転させる…といったサーカスのごときパフォーマンスも最高に楽しいのだが、私の前頭葉に20余年も居座り続けているのは「おまえは宇宙で死ぬ」からの放尿なのである。

 

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小悪魔リーガン嬢が提唱した階段ブリッジ駆け下り法高度な身体能力が要求される。

 

この論旨だけで紙幅が尽きそうなので、話を進めよう。

今さらこの世紀の傑作について語ったところで何の手応えも期待できそうにないが、とにかく本作は全世界的にオカルトブームを巻き起こし、上映期間中は連日映画館の周りを一周するほどの長蛇の列、悪魔祓いと称した霊感商法やヤラセ番組も爆発的に増えた。

撮影秘話にも枚挙に暇がない。

母親役のエレン・バースティンが吹き飛ばされるシーンを撮るために彼女の胴体にピアノ線を括りつけて力任せに引っ張ったり、カラス神父を演じたジェイソン・ミラー(※俳優ではなく本物の神父)の驚いた芝居を引き出すために監督がセットの真裏で散弾銃をぶっ放したり、泣き震える芝居を引き出すために本番直前に張り手をかますなど、いい映画を撮るためなら暴力すら厭わないウィリアム・フリードキンの荒ぶる撮影現場。「アンタが一番怖いよ」と思われていたに違いない。 

 

さて内容は、小悪魔リーガン嬢の怪奇現象に焦点を当てたものではなく、娘を救いたいと気を焦らせて数々の拷問医療に委ねてしまう母親エレン・バースティンと、嫌がる母を強制的に病院に送り込んだカラス神父の良心の呵責を主軸に、人間の心の弱さを炙りだしてゆく。

リーガンと母親、そしてカラス神父と母親という親子関係の断絶は70年代の世相を強く反映している。経済的にも環境的にもきわめて苦しい状況で育てあげた移民一世の子供たちがヒッピーにかぶれ社会からドロップアウトしていくことの恐怖。マリファナ、シンナー、学生運動、校内暴力が社会問題になるなど、まるで子供たちが悪魔に憑かれたような恐怖と危機感を70年代の親世代は抱えていた。

このような社会不安が本作の世界的ヒットに結びついたのだ。

 

テーマ曲の「チューブラー・ベルズ」は聴くと未だに心がざわざわするほどのトラウマ曲だし、悪魔の顔が何度も挿入されるサブリミナルも不気味なのだが、本当におぞましいのは科学の名のもとに「前頭葉切ったらええんちゃう?」とラフなテンションでメスを入れまくる拷問医療の数々や、カラス神父が問答無用で母をぶち込む姥捨て山同然の精神病院である。

唯一われわれを和ませてくれるのは、誰彼かまわず映画に誘ってはやんわり断られる気の毒な警部だ(演じているのは『波止場』十二人の怒れる男での悪役が印象的な大俳優リー・J・コッブ)。

 

追記

エクソシストのポスターデザインがマグリットの絵画『光の帝国』を模したものだったり、どう見ても70歳過ぎに見えるマックス・フォン・シドーメリン神父)は撮影当時44歳だったり(特殊メイクの巨匠、ディック・スミスの老けメイクがすごい!)など、挙げだせばキリがないほど小ネタが充実している。

そもそも悪魔の顔が映り込むサブリミナルも、今にして思えば呪われた映画を自作自演して都市伝説を生み出すための巧妙な仕掛けだったのでしょう。

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そして何といっても、カラス神父がテープを聞いている部屋の壁にデカデカと書かれた「TASUKETE!」という謎のローマ字。

その真意をめぐって、ネット上では今なおさまざまな考察がなされている。

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フリードキンの思う壺!