シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

レッドプラネット

 便乗! 猿真似! 寄せ集め!

三拍子揃った底抜けヴァルたん映画の金字塔。 

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2000年。アントニー・ホフマン監督。ヴァル・キルマーキャリー=アン・モストム・サイズモア

 

2050年。地球は環境汚染によって破壊され、人類の希望は新天地・火星に委ねられていた。だが大量の藻を送り込み、酸素を発生させるという火星地球化計画はデータ送信の不通という結果となった。原因を調査すべく科学者グループが火星に向かったが、太陽フレアの影響で宇宙船はダメージを受け、船長以外のクルーは着陸船で火星に降り立つことになってしまう……。(映画.com より)

 

最初にご報告しておかねばなりません。

ミッション・トゥ・マーズ』と間違えて観てしまいました。

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パッケージが赤ェんだよ、どっちも!


NASAのマーズ・パスファインダーの活躍により火星ブームが巻き起こり、火星を題材にしたSF映画が量産されたのが2000年ごろ。それこそブライアン・デ・パルマミッション・トゥ・マーズや、ジョン・カーペンターゴースト・オブ・マーズとかね。
そんな中、ひっそりと公開され、早々に人々の記憶から忘れ去られた本作だが、ブーム便乗映画に妥当な一定量の楽しさは与えてくれる。

 

トップガンで一躍スターダムにのし上がり、90年代はバットマンやジム・モリソンを演じてセクシーな二枚目として売れていたが、わがままで独裁的な現場での態度がハリウッド中から嫌われて早々に人々の記憶から忘れ去られたヴァル・キルマーことヴァルたん星人と、マトリックスのトリニティ役で一躍脚光を浴びたっきり早々に人々の記憶から忘れ去られたキャリー=アン・モスの共演は、時期的なタイミングも重なってなかなか苦み走っている。
トウの立った俳優たちが醸すビターな味わいは、この頃に濫造されたSF映画の中でも唯一無二の余韻を残す。

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全盛期は色気があって格好良かったのに、今や見る影もないヴァルたん(ほほえみデブ)。

イケてないのに何故かガールフレンドはいる中学2年生みたいなエンジョイした顔でこっち見やがって。

 

その他、宇宙船の乗組員にトム・サイズモアテレンス・スタンプ、ベンジャミン・ブラット、サイモン・ベイカーメインストリームのはみ出し者たちが勢揃い(後にサイモン・ベイカーザ・メンタリストの主演を射止めて海外ドラマに活路を見出す)。

女船長のキャリー=アン・モスが、宇宙船に取り残されて火星を探索するクルーたちを声で誘導するという、二つの空間を去来した連携プレーは楽しいし、各キャラクターの専門分野がそれぞれの思想と密接に絡みつき科学と宗教の対立を生むあたりも奥行があって良い。

とりわけ、本来は科学者だが宇宙の予測不能な恐ろしさを目の当たりにして宗教に身を捧げそうになるテレンス・スタンプは一筋縄ではいかないキャラクター造形だ。

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しかし冒頭で、キャリー=アン・モス演じる女船長の役名がボーマンだとわかった途端、なんとなく嫌な予感がした。

そして人工知能を搭載した探査ロボットエイミーがスイッチひとつで軍事モードに切り替わり、味方のクルーをも攻撃しかねないという設定が明かされたとき、嫌な予感は確信に変わる。
この文章をご覧になっている映画好きの皆さんは、きっとこのように予想するでしょう。


「何らかの原因で軍事モードに切り替わったエイミーが、暴走してクルーたちを殺し始めるのでは?」

ハイ、大正解!

恥も外聞もない『2001年宇宙の旅』の猿真似です。
なので上映開始5分で物語が全部わかってしまう。そのヒントが「ボーマン」ってさぁ…、どうなの?

節操も矜恃もあったもんじゃねえ。

 

ところが、おもしろシーンには事欠かないのが本作の底力。

宇宙服の酸素レベルが低下して死を覚悟したクルーたちが、冒険を諦めて火星の地べたに座り込んでうなだれる。いよいよ酸素が底を尽いたヴァルたんが、息ができずにもがき始めるが、ダメ元でヘルメットを外すと「あれ、息ができるうー」と雀躍り。

「マジで?」とか言いながら次々とヘルメットを外したクルーたちも「ほんまや。息ができるうー」つって、皆で大きく息を吸ってラジオ体操を始めるなどする。
どうやら人類が火星に送り込んだ藻が酸素を生成していたようなのだが、その藻というのも申し訳程度にしか生えてないのね。こんなちょっぴりの藻が火星全体に行き渡るほどの酸素を生み出すなんて。スゲェ、藻。ブラック企業のハードワーカーばりに頑張ってんじゃん、藻。

 

というわけで「藻は結構すごい」というバカみたいな結論に至った一行は、火星の重力は地球の3分の1という物理法則をガン無視しながら探査を続行する。

誰も見ていないところで体育会系DQNのベンジャミン・ブラットと口論になり、彼を転落死させてしまったサイモン・ベイカーもといメンタリストは良心の呵責に苛まれる。

「どないしょ、どないしょ。えらいことしてもうたぁ…」

ザ・メンタリストの主演とは思えないほどのメンタル脆弱ぶり。

そのあと、母船に戻るための小型宇宙船が一人乗りだとわかるシーンで、僕はてっきりメンタリストだけ火星に留まることでDQN殺しの罪滅ぼしをするのかと思いきや、小型宇宙船の発射装置を握って逃げ出したところで探査ロボ・エイミーに惨殺される!

えー…。

人間の醜さ科学と宗教の対立という着眼点は鋭いのに、ビビるほどそれが描けていないというか、ことごとく描写がマヌケなんだよね。


あと、火星着陸時に内蔵が破裂して「ワシはもう助からんから先に行ってくれ…」と言ったテレンス・スタンプ御大に「わっかりましたー」と即答して置き去りにする一行には笑う。えらいサバサバしとんなぁ。どんだけ浅いんねん、きずな。