シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ドメスティック・フィアー

かつてオオカミ少年のレッテルを貼られたことのある人が酒を飲んで観る分にはまあまあ泣く映画。

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2001年。ハロルド・ベッカー監督。 ジョン・トラボルタヴィンス・ヴォーン、テリー・ポロ。

 

ボートの設計技師フランクは数年前に妻と離婚、いまは11歳になる愛する息子ダニーとも離ればなれの生活を送っていた。このたび、元妻が裕福な工場経営者と再婚することになる。息子の幸せを願うフランクだったが、ダニーは短気な継父に馴染むことが出来ずにいた。そんなある日、ダニーはひょんなことから継父の殺人を目撃してしまう。あわてて警察に駆け込むダニーだったが、彼の話を誰もまともに取り合ってくれない。そんな中、ただ一人、彼の言葉を信じるフランクは、さっそく継父の身辺を独自に調べ始めるのだった…。(Yahoo!映画より)


ハロルド・ベッカーの名を記憶している者はいるかー? つって。

いないかー? つって。

いても不思議ではないが、いない方が自然かつ健全である。かくいう私も記憶していない。

誰だ、ハロルド・ベッカーって。


ハロルド・ベッカー。

この男は90年代のサスペンス映画の粗製濫造者である。

その最大の特徴は、やたらにビッグスターを起用するわりには出来上がった映画は妙にせせこましいという、スケールが大きいのか小さいのかよくわかんねえような映画をしきりに作ること。
アル・パチーノを主演に迎えた『シー・オブ・ラブ』『訣別の街』ニコール・キッドマンの妖婦ぶりに目をつけた冷たい月を抱く女、とどめはブルース・ウィリスがドタバタと活躍する『マーキュリー・ライジング』

…何とも言えない作品のつるべ打ちだ。

アメリカ映画史に爪痕を残すでもなければ、一石を投じるでもない、主力にも補欠にもならない野球部員みたいな活躍だ。まぁ、人畜無害な監督である。


そんなハロルド・ベッカーさんの現時点で最後の作品になっているのが本作。

これ以降、かれこれ17年も映画を撮っていないので、何かが原因で完全に干されたのかもしれない。 ちなみに御年89歳。たぶんこれが遺作になる。

主演は、本作の前年にバトルフィールド・アースという世紀のゴミ映画に出演して輝かしいキャリアに一生傷をつけてしまったジョン・トラボルタ

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ジョン・トラボルタ…そのパンチのある顔面力を活かし、70年代からハリウッドの第一線でバリバリやってる大スター。代表作にサタデー・ナイト・フィーバーミッドナイトクロスパルプ・フィクションフェイス/オフなど多数。

 

また、脇役でスティーヴ・ブシェミが出ているので、世界で54億人はいるであろうブシェミ好きは必見。

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スティーヴ・ブシェミ…その奇妙な顔面を活かし、90年代アメリカ映画屈指のバイプレーヤーとして活躍。代表作にレザボア・ドッグス『ファーゴ』ゴーストワールドなど。


この世には、殺人鬼が善良な市民のフリをして、そいつの正体を知っているのは殺人現場を目撃した一人の少年だけで、その少年が「あいつは人殺しだ!」と言っても周りの大人たちは聞く耳を持ってくれない映画というジャンルが確かに存在する。

たとえばこの映画とか、狩人の夜とかね。

え、そのほか?

そのほかは思いつかないよ。


本作の特徴は、父親のトラボルタだけが子供の言葉を信じて、世界でただ一人、オオカミ少年扱いされている息子の味方になる…というハートフル親子愛ドラマを盛り込んでいる点だ。

この息子と同じく、しばしば幼年期にオオカミ少年扱い(※)されていた私なんかはここにグッときてしまった。

筆者ふかづめは、普段からイタズラをしたりデタラメばかり言っていたせいで、悪さをしていないときでさえ謂われのない罪を押しつけられました。

そのうち、ふかづめ少年は身の潔白を示す意志を放棄し、「この件に関しては僕は無実だが、恐らく自分は原罪を背負っているし、生きていること自体の罪過があるから、多少は理不尽な目に遭っても仕方ないのかもしれない」と太宰的な結論に至り、たとえ冤罪だろうが甘んじて罰せられようとする自己処罰的な性質が身についた。
また「言い訳をするな!」というフレーズを多用した教育を受けたせいもあり、「やったのは僕じゃない」と弁明しなくなり、「やったのは僕じゃないけど、僕がやったということにして早いとこ謝ってしまった方が合理的に事態を収拾できる」という諦念的思考回路を獲得。
人から受けた誤解を割とそのままにしておく癖というか、「まぁ、誤解も理解も同じようなものだし、もうどっちでもええわ」と開き直る癖がついてしまったのだ。

どうして注釈という形をとって映画とは何ひとつ関係のないオレオレトークをしているのかと言えば、実はこの映画、語ることがあまりないのだ!
いかにも90年代のハリウッド製サスペンスの定型という感じで、特筆すべき点は見当たらないが、定型というものが約束してくれるそこそこのおもしろさはあるし、息子のために頑張る父っちゃんトラボルタの雄姿はアツい。

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正直に告白すると、酒でベロベロになった状態で鑑賞したため、ショットや筋運びがどーのこーのとか、そんな細かい批評をするためのディテールなんてほとんど覚えちゃいないのです。文句あるか。

だけど酩酊していたお陰で、オオカミ少年扱いされる息子を唯一信じるトラボルタ父ちゃんの愛にボロ泣きしました。べつに泣くような演出なんてどこにもなかったのだけど、我が身に照らし合わせると泣かずにはいられないよ!


まぁしかし、腐ってもハロルド・ベッカー。やはりせせこましい映画だ。しょうもない町で起こった、わりとどうでもいい事件を熱心に描いている。

 しかも人を殺した継父がヴィンス・ヴォーンなので緊張感なし。コメディアンですよ、この人!

まぁ、若干殺人者顔だけどね。

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ヴィンス・ヴォーン…代表作にドッジボール『ハニーVS.ダーリン 2年目の駆け引き』『南の島のリゾート式恋愛セラピー』など。ベン・スティラーオーウェン・ウィルソンとやけに仲がいい。