シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

アメリカン・ティーン

 青春舌打ち族をも納得させるリアリティ学園ムービー。

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2008年。ナネット・バースタイン監督。ハンナ・ベイリーコーリン・クレメンズ、ジェイク・トゥイッシー。

 

父親からの期待とスランプに悩むバスケ部エース、映画監督になりたい変わり者の少女、マーチングバンドとゲームにしか興味のないオタク少年、裕福な家庭に育ったいじわるな少女、変わり者に恋したイケメン青年など、どこにでもいるようなティーンたちの高校最後の1年間をカメラが追う。(映画.com より)


アメリカ中西部のハイスクールに通う5人の高校生を対象に、10ヶ月に渡って1000時間も密着取材し、さらに1年かけて編集したという高校生密着型ドキュメンタリーの真打ちである。
まぁ、一応ドキュメンタリーという体だが、明らかに不自然な演出が散見されるので、正確にはモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)だろう。

早い話がテラスハウス』の学校版。そう思って頂きたい。ありがとうございます。

 

恋愛や友情や受験や進路など、さまざまな悩みを抱えながらも青春の輝きと蹉跌にその身を投じる彼らを見ていると、自分の学生時代が何度もフラッシュバックして、そのたびに舌打ちしてしまう

何を隠そう、私こそが青春舌打ち族である。どうかよろしく。
学生時代の私は、学業も進路も恋も部活動も「いらんのじゃあーとばかりにかなぐり捨て、青春のいっさいを芸術と学問に捧げてきた文化系戦闘民族なので、いわゆる学園モノみたいな汗と涙の青春とかやられると「早く家帰れ」と思ってしまうタチなのである。申し訳ないけど。

校庭にいる奴らは早く家帰れ。繁華街をうろうろしてる奴らも家帰れ

和気藹々とみんなで文化祭の準備をしたり、帰り道にカラオケに行ったりプリクラ撮ってたりしてる暇があったら家帰れ

家に帰って教養を身につけろ!

それか図書館行け

図書館で精神統一をしろ

とにかく、青春という美名のもとに騒ぐな

当時の私はそんなふうに思っておりましたねー。ハイ。

 

だもんで実際、この作品を観始めてから最初の数十分は、どのキャラクターも好きになれなかった。いかにも青春真っ只中でございといった全員に対して「騒ぐな。家帰れ」と思いながら観ておったのですよ。


バスケのエースで校内ではヒーロー扱いされているコーリン

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アゴすげえなコーリンどうやったん?

アゴーリンって呼んでいい? ダメ? ダメか。ごめんね。

学園が一丸となってコーリンのチーム「ワルシャワ・タイガース」を応援している。猫も杓子もコーリンコーリンつって。アゴーリン、アゴーリンつって。

それもしてもバスケが好きなヤツ多すぎるだろ、この学校!

ワルシャワ・タイガースで活躍されているコーリンさんには「コーリン、ここに降臨」という鬼のようにつまらないギャグをプレゼントするので、ぜひコートの中で連発してね。


美女グループを率いて女王様のように振舞うセレブ気取りのメーガン

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交友関係が広くFacebookでも数百人の友達がいるという、私のような人間とは決して相容れない人種。

誰とでも仲良くなれる人を信用してはならない。

メーガンは、肩で風切って廊下の真ん中を歩くようなタカビーである。しかも仲間と横一列になってアルマゲドン歩きをするというふてぶてしさ。

私はアルマゲドン歩きをする人間が本当に許せないのですよ。繁華街を歩いてるアホな大学生とか酔っ払ったサラリーマンとかね。

アルマゲドン歩きをしていいときは小惑星を破壊して地球を救うときだけだろ!

それ以外はドラクエ歩きをしろっつーの!


甘いマスクで女子たちのハートを射抜くモテ王子、ミッチ

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まぁ、軽薄ですよ。

べつにチャラチャラしているわけではないし、スケコマシでもないのだけど、なんだろうなぁ…、人として深いところが何もないというか、掘れども掘れどもたぶん何も出てこないだろうなっていう空洞人間ですね、ミッチは。

たとえばミッチという砂浜で潮干狩りしても、貝なんて一個も出てこないでしょう

よそ様のことを潮干狩りに喩えるのもどうかと思うけどさぁ。

 

ジェイクはゲームとアニメが大好きなオタク男子。

やっときたでー、同系統の人種が!

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だけど、そのわりには恋愛に積極的で、手当たり次第に女子をデートに誘いまくるような胆の据わったカミカゼボーイだし、バンドもやっている。それにニキビまみれだが意外とかわいい顔してるので要注意人物。

こういう奴が大学に上がった途端に一気にハジけるんだよ!

油断も隙もねえわ。

 

唯一、アートとロックが好きで、周囲からは変人扱いされてる映画監督志望のハンナにだけシンパシーを感じた。

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ハンナがんばれ!

むしろハンナ以外全員、口から腸でろ。

そして二度と戻んな、腸。口から腸出したまま生活しろ。

 

とはいえ、それぞれが抱える事情や悩みがにわかに浮上してくる中盤あたりから、それまではハンナがぶっちぎりで先頭を走っていた私の頭の中の好感度レースが大接戦を巻き起こすことになる。

 

バスケ野郎のコーリンは、スポーツ推薦のために一人だけ目立とうとしてチームを掻き乱し、連敗続きのスランプに陥る。周りの友人が次々と志望校に合格する中、一向に推薦入学の声が掛からず、焦るコーリン。ここに降臨。

しかも、バスケの夢を諦めた父親からの過度な期待がプレッシャーとしてのしかかり、いよいよ自我崩壊の危機に立たされるのだ。


ビッチ女王のメーガンには、自殺した知的障害の姉がいたという暗い家庭事情が明かされる。

お、おぉ…。なかなかキツいな…。

でもだからといってアルマゲドン歩きをしていい理由にはならんが、同情はします。


そして非リア代表のジェイクは、ようやくゲットしたガールフレンドを体育会系のバカに寝取られ、プロムの相手がいなくなるという緊急事態発生。

アメリカの学生は、我々の想像を遥かに超えるほどプロムに執着するらしい

プロム文化なんて日本にはないからねぇ。日本で言ったらなんだろう。法事とかかな。法事に家族が来なくて自分一人だけだったらバツが悪いものね。

わかるわかる、法事に置き換えたらわかるぞ、ジェイクのきもち!


そしてハンナは、付き合っていたボーイフレンドから「やっぱなんか違うわ」とフラれて不登校に。

失恋して不登校ってさ。いや、わからんでもないよ。

でもハンナは芸術家肌で、パンピーを超越したような感性の持ち主だからさ、そんなベタな理由で不登校になるなんてがっかりだわ!

 

ミッチはミッチで、次々とガールフレンドを鞍替えして優雅な日々を送っている。こいつだけ悩みなし!

さすが貝不在の潮干狩り底の浅さたるや。

 

事程左様に本作のおもしろさは、さまざまなタイプの高校生を、決してステレオタイプに描いてないという中間色の豊かさにある。
リア充だけどリア充のポテンシャルを大いに秘めたジェイクなんてその典型。
体育会系=モテるという図式は全世界共通だが、バスケ一筋のコーリンは本作屈指のブサメンというかバナナフェイスで恋愛とは無縁のストイックな体育会系だし、私があれほど応援していた芸術家肌のハンナは「私はそのへんの女の子たちとは違うの。芸術こそすべて」とか言ってたわりには恋に破れたぐらいで不登校になるような紙メンタルの持ち主で、要は「そのへんの女の子たち」と何も変わらない俗世間の人間だということが明かされる(そのあと潮干狩り…ミッチと付き合って立ち直る。結局ただの面食いかよ!)。


ゆえに、「あいつは好きだ」、「こいつは嫌いだ」という好感度レースがあれよあれよという間に逆転していくのがまた面白くて。

ひとりの人間が持つさまざまな側面がミラーボールのように映し出されていく。
「この人はこういうタイプ」なんて誰ひとり単純化できないし、ましてやスクールカーストにはめ込んで偏見を持つなどナンセンスの極致。
凡百の青春群像が描くことをやめてしまうその先まで描ききった複雑な人間模様には深い味わいがある。

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アメリカン・ティーンの生態とハイスクール事情を覗き見るような感覚が味わえる、モキュメンタリーの佳作。 

必死で青春している彼らに「早く家帰れ」とか「口から腸出ろ」とか言ってすみませんでした。