シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

僕のワンダフル・ライフ

前前前世越しのSMキャッチに号泣!

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2017年。ラッセ・ハルストレム監督。ブライス・ゲイザー(幼少期の主人公)、K・J・アパ(青年期の主人公)、デニス・クエイド(壮年期の主人公)。

 

ゴールデン・レトリバーの子犬ベイリーは、自分の命を救ってくれた少年イーサンと固い絆で結ばれていく。やがて寿命を終えたベイリーは、愛するイーサンにまた会いたい一心で生まれ変わりを繰り返すようになるが、なかなかイーサンに遭遇できない。3度目でようやくイーサンに出会えたベイリーは、自身に与えられたある使命に気づく。(映画.com より)

 

 

 ①犬好きとしての私

プロフィールバトンなんかでよくある「尊敬する人物は?」というくだらん質問に対して、私はいつもこう答えている。
盲導犬です」

犬が好きだ。奴らは健気でいじらしい。
もしかすると犬だけが愚かで浅ましい人間の味方なのかもしれない。我々は問答無用で噛み殺されても文句は言えないぐらい醜い生き物なのに、奴らときたらそんな我々と友達になりたがるし、「おいで」と言ったら大喜びですっ飛んでくる。
盲導犬や救助犬は心から尊敬する。人間の都合で馬車馬のように働かされても「もういやだ」なんつって失踪などせず、なんの義務も責任もないのに己が生涯を賭して人間のために職務を全うするのだ。人間でもなかなか出来ないことを犬はやってのける。人間が好きだから。
邪悪で利己的な人間に対して、犬は無償の愛を提供してくれます。そこが堪らなくいじらしい。地上の天使とは奴らのことではないか。そして悪魔は我々だ。デビルマン』でも言ってた。

また、骨好きという性格もベリークールだよな。特に私のようなハードロックやヘヴィメタルを愛聴する人種とはきわめて親和性が高い。ロックといえば骨。骸骨は最高だ。犬と一緒に骨を集めていきたい。

 

②自然好きとしてのラッセ・ハルストレム

本作は、犬の視点から人生ならぬ犬生を描いた転生ムービーである。
50年で3度生まれ変わった犬が最初の飼い主イーサンを探し求める…という、時空を超えた飼い主への愛が描かれるため、もしあなたが犬好きであればここぞとばかりに涙を絞り取られるでしょう。

 

監督のラッセ・ハルストレムギルバート・グレイプ(93年)『ショコラ』(00年)で知られるスウェーデン出身の映画作家
リチャード・ギア秋田犬が夢の共演を果たした『HACHI 約束の犬』(09年)を撮ったことからも、よほどの犬好きとお見受けした。
ハルストレムは、水彩画のような淡い田舎風景の中に文芸的なヒューマンドラマを紐づける。これが奴の特徴だ。

とにかくハルストレム作品にはどれひとつとして濃い血が流れていないので、濃口派の私にはどうも物足りないのだが、今回のハルストレムはなかなか濃口でした。

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リチャード・ギアが「ハァチィ~」、「ハァチィ~」言うことでお馴染みの『HACHI 約束の犬』

 

③転生者としてのベイリー

【一度目の犬生】

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ゴールデン・レトリバーとしてこの世に生を受けた子犬ベイリーは、自然豊かなクソ田舎でイーサン少年に可愛がられる。
イーサンとベイリーは、いつもラグビーボールを使って遊んでいた。
彼らには自慢の技がある。
それはイーサンが天高くラグビーボールを放り投げたあと、すかさず「アッ、女王様!」と叫んで四つん這いになり、助走をつけてきたベイリー「このブタ野郎!」とばかりにイーサンの背中を踏んでジャンプ、落ちてきたラグビーボールを空中で見事キャッチするというもの。
その名もSMキャッチという技である。

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ラグビーボールが大好きなベイリー。とっても仲良しなイーサンといっぱい遊ぶんだ!


だが、楽しき日々もあっという間。

高校生になったイーサンは足を悪くしてラグビー選手の夢を絶たれて廃人と化し、一人暮らしして農業大学に通うために故郷を離れてしまう。

すっかり年老いベイリーは「イーサンに会いたいよー」と思いながら老衰で死を迎える…。

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イーサンと共に成長したベイリーだが、やがてイーサンとの別れが訪れ、死が近づく…。

 

一度目の犬生について、ベイリーさんに感想を聞いてきました。
ベイリー「すてき。すてきだった。イーサンとSMキャッチでいっぱい遊んだし、イーサンが高校生の時にできたガールフレンドも僕のことを可愛がってくれたしね。いい犬生だったな」


ここではハルストレムお得意のクソ田舎の風景がたっぷり詰まっている。
イーサンとベイリーの交流は『マイ・ドッグ・スキップ』(00年)と同じく犬映画の定番コースなので、ベイリーの可愛さとSMキャッチ以外にこれといって見所はなし。


【二度目の犬生】

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「イーサンに会いてええええ」という願いが天に通じたのか、死んだベイリーはシェパードとして生まれ変わり、いつも心は雨模様みたいに辛気臭いポリスメンに飼われてエリーと名づけられ警察犬に。
持ち前の嗅覚でさまざまな事件を解決していくが、妻を失った飼い主のポリスメンはいつも物憂げでエリーに構ってくれない。おまけに逃走中の犯罪者に撃たれてエリー死亡。

 

二度目の犬生について、エリーさんに感想を聞いてきました。
エリー「まさかシェパードに生まれ変わるとは。いやー、警察犬ルートきついわぁ。毎日仕事でぜんぜん遊べないし、飼い主いつもヘコんでるし。しかも撃たれて死ぬって…。どうなのよこれ。イーサンにも会えなかったし。決して楽しい犬生だったとは言えないけど、まぁ多くの人を救えたからよしとするかな」

マジ尊敬。

 

ここではハルストレムにしては珍しく都会を舞台にしているが「建造物を憎んでいるの?」って思うぐらい、まったくビル群にカメラを向けない
もうね、意地でも街を映さないの!

「ビルなんか建てるな」という都市に対する憎悪すら感じ取れるよ。
「おまえ、なんぼほど自然が好きやねん」と思って、ちょっと笑ってしまった。


【三度目の犬生】

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「イーサンに会いてええええ」という願いが天に通じたのか、死んだエリーはコーギーとして生まれ変わり、四六時中菓子ばっかりバクバク食ってる女子大生に飼われてティノと名づけられ甘やかされる。
この飼い主は自分が食いしん坊だから、ティノにも食べ物を与えてぶくぶく太らせる。ピザ、チョコ、アイスクリーム…。おいおい、犬にチョコはだめでしょう。何考えとんねん、この歩く飽食の時代は。
やがて歩く飽食の時代はすてきな男性と結婚して子供を産む。すっかり年老いたティノは、歩く飽食の時代に見守られながら静かに息を引き取った…。

 

三度目の犬生について、ティノさんに感想を聞いてきました。
ティノ「今回もまたイーサンには会えなかったけど、いやぁ食ったねぇー! 飼い主さんのエンゲル係数の高さに感謝。晩年は太りすぎてほとんど歩けなかったけど、グルメ尽くしの毎日を送れたので前世よりもはるかに幸せでした」

 

ここではハルストレムが歯を食いしばりながら都会を撮っている(たぶんニューヨークかな?)
それでも、映画を観終えたあとの我々の頭に想起されるイメージが室内シーンばかりなのは、いくつか撮られたはずの都会の風景がショットとしてあまりに弱いためである。
もう充分だ。無理して都会を撮らなくていいよ、ハルストレム。

好きなだけ大自然の中でカメラぶん回して来い


【四度目の犬生】

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「イーサンに会いてええええ」という願いが天に通じたのか、死んだティノはセントバーナードとして生まれ変わり、貧乏底なしカップルに飼われてバディと名づけられ放置される。
この貧乏カップルはいつも部屋に篭って「あー」とか「うー」とか言ってるだけで、バディを庭に放置して散歩にも行かない。おまけに男は「金がないからもう犬飼えない」などとのたまい、バディを世界の辺境に連れていって置き去りにする。
「むちゃくちゃやんけ」と思ったバディ、だがこれで晴れて自由の身。「今こそイーサンを捜すときだぁー」とばかりに駆け出し、前前前世の記憶を辿ってイーサンの故郷に帰ってくる。

50年ぶりに再会したと思ったら、イーサンはデニス・クエイドになっていた

デニス・クエイド…ハリウッドスターにしては鬼のようにパッとしない俳優。

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デニス・クエイドになっとるやないか」とバディは思ったが、あの頃のイーサンの面影は残っているし、匂いもイーサンだ!
「イーサーン!」と尻尾ブン振りで駆け寄るバディだったが、イーサンは不思議そうな顔で「キミはどこの犬だい? 迷子になったのかい?」なんつって他人行儀な振舞い。
愕然とするバディ…。

 

バディ「ぎゃあああ。このおっさん気づいとらん! でもそうか。そうだよね…。転生したことで犬種まで変わっちゃったから、イーサンから見れば僕は前前前世ベイリーではなく、ただのセントバーナード。もしも人間の言葉が話せたら『僕がベイリーだよー。三回も転生して会いにきたんだよー』って説明できるけど、ワンとキャンとクゥ~ンしかボキャブラリーないからね。犬はね。グルルル…とも言うけれど。でも気付いてイーサン! わし、中身ベイリーやねん! 中身ベイリーやねん!

 

気付いてほしいけど気付いてくれないもどかしさ。たまらない気持ちになるよね、こういうの。
必死でワンワン吠えてアピールするバディ(中身ベイリー)と、キョトンとした顔で「パードゥン?」なんつってるイーサン。
「だめだこりゃ。埒があかん…」と諦めかけたバディだが、突如、何かを閃いたように納屋に向かってピャーッと走っていく。
果たしてバディは、納屋から思い出のラグビーボールを持ってきてイーサンの足元に落とし、最後の望みを懸けてイーサンの目をじっと見据えるのでした(この時点で私は「あかん泣く泣く泣く…」と思い、来るべき洪水に備えて目元にダムを建設した)。

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バディ(アレをやろうぜ)

ベイリーとの思い出が詰まったラグビーボールを見た瞬間、「まさか…」という顔をしたイーサンの中で何かが騒ぎはじめる。
イーサン「君の名は…」

 

天高くラグビーボールを放り投げて四つん這いになるイーサン!
「アッ、女王様!」
助走をつけたバディがイーサンの背中を踏んでジャンプ!
「このブタ野郎!」

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50年越しのSMキャッチィィィィ!

イーサンの背中をカタパルトにしてぶっ飛んでいくバディィィィ!

されど中身はベイリィィィィー!
目元のダムが決壊したぜ、ブタ野郎ォォォォ!

 

④エンディング

やっと眼を覚ましたかい
それなのになぜデニス・クエイドなんだい?
「遅いよ」と怒る君

これでもやれるだけ飛ばしてきたんだよ
心が身体を追い越してきたんだよ

 

君の髪や瞳だけで胸が痛いよ
同じ時を吸いこんで離したくないよ
遥か昔から知る その声に
生れてはじめて 何を言えばいい?

 

僕の前前前世から僕は イーサンを探しはじめたよ
そのぶきっちょな四つん這いをめがけてやってきたんだよ
僕が全然全部なくなって チリヂリになったって
もう迷わない また1から探しはじめるさ
むしろ0から また輪廻をはじめてみようか

 

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襲われるデニス・クエイド