シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ゲット・アウト

 十年に一度の「顔」が集まった顔芸ホラー

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2017年。ジョーダン・ピール監督。ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード

 

アフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、白人の彼女ローズの実家へ招待される。過剰なまでの歓迎を受けたクリスは、ローズの実家に黒人の使用人がいることに妙な違和感を覚えていた。その翌日、亡くなったローズの祖父を讃えるパーティに出席したクリスは、参加者がなぜか白人ばかりで気が滅入っていた。そんな中、黒人の若者を発見したクリスは思わず彼にカメラを向ける。しかし、フラッシュがたかれたのと同時に若者は鼻から血を流し、態度を急変させて「出て行け!」とクリスに襲いかかってくる…。(映画.com より)

 

皆さんこぞってゲット・アウトの評を書いてらっしゃったので、便乗して僕も書いちゃお。

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人種差別ネタが多いお笑いコンビ、キー&ピールジョーダン・ピールがメガホンを取っているので、人種差別に対する風刺やブラックコメディがてんこ盛りのサプライズ・ホラーだ。

2010年代はサプライズ・ホラーが流行している。

サプライズ・ホラーというのは完全なる私の造語で本来は存在しない言葉だが、便利な言葉なので誰か認定してくれ。

私が勝手に決めたサプライズ・ホラーの定義は、従来のホラー映画のお約束を逆手に取ったツイストの利いた脚本と、映画そのものを俯瞰視点で捉えたメタ構造を特徴とする2010年代のホラー映画の潮流で、『サプライズ』(11年)『キャビン』(12年)『ヴィジット』(15年)『イット・フォローズ』(14年)ドント・ブリーズ(16年)などを含む。

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おすすめのサプライズ・ホラー、『イット・フォローズ』ドント・ブリーズ

 

最近、この手のひねったホラー映画が多い。本作ゲット・アウトも間違いなくその一派と言えるでしょう。

 

白人のガールフレンドの実家に招待された黒人ボーイが、ガールフレンドの家族や知人(オール白人)から「私たちは黒人差別なんてしないよ」とか「ていうか黒人ってイカすよね」といった差別しないという差別を受け、居心地の悪さを覚える…。

この辺の描写はとてもおもしろい。

この家族の振舞いは、一見すると黒人青年を優しく歓待しているように映るけど、結局、彼らがやっていることは無自覚の差別なんだよね。ジョーダン・ピール(コメディアン)ならではのイヤらしい風刺だ。

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にこやかな青年と、目バッキバキの恋人。

 

個人的な話になって申し訳ないけど、小学生の時分、知的障害を持ったクラスメイトがいて、担任教師が「〇〇君はみんなとは少し違うけど、差別はいけないことだから、からかったりしないように!」と我々に向けて再三注意を繰り返していた。

子供ながらに、何かが引っかかった。

もともと僕のまわりの友だちは誰もその子のことを差別なんてしなかった。僕自身もその子とはよく遊んでいたし、よく喧嘩もした。

だから先生の言葉は甚だ疑問だったのだ。まるで障害者の取扱説明書を渡されたような気分だ。

もし、いま僕が当時の先生から同じ言葉を言われたら「ちょい待て、やっこさん」と。「それっておかしくない? 僕はほかの友達をからかうようにその子のこともからかうし、喧嘩もするし悪口も言うよ。その子を傷つけまいとセンシティブになって配慮すること自体が彼を障害者として差別していることにほかならないのでは?」といって確実に腹を立てていただろう(私はよく腹を立てるのだ)。

 

「無自覚の差別」で言えば、マイノリティの人をマイノリティだと認識している時点で、差別はすでに始まっているのかもしれないよね。私の恩師は「可哀想と思うこと自体がすでに差別かもしれませんね」と仰った。

究極的にフェアな人間がいるとすれば、電車の中で目の前に誰が立っていようとも絶対に席を譲らない人なのかもしれない。ある意味においてはフェアでいることは冷酷であることだ。だとしたら私はアンフェアになることを選ぶ。

そういえば、私は『アンフェア』というドラマを観たことがないのだけど、主演の篠原涼子はアンフェアなヒロインなの? それともアンフェアなものに立ち向かうフェアなヒロインなの?

誰か、気が向いたら教えてください。

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思っくそ話が脱線してごめん。知らんうちに思い出話とアンフェア話をしてしまってたわ。

閑話休題

 

話を戻すと、悪意のない黒人差別が序盤では描かれるが、黒人の家政婦と庭師の様子がおかしくなり始める中盤から、黒人差別のファクターがミスリードだったことに気付く。

「どうやら人種問題が云々みたいな映画ではなさそうだぞ」と。

その後は、もう予想の斜め上をいく展開のつるべ打ち。「あ、そうなっちゃいますぅ?」の連呼祭りである。

ネタを割らないように説明すると、本作は一種のボディスナッチャーものである。

ボディスナッチャーっつうのは……、おっと危ね。意味を仔細に説明するとネタバレに直結する危険性があるので解説は省きます(「今のヒントでわかっちまったじゃねえか、バカヤロー!」と思った方はごめんなさい)。

あと催眠術映画でもある。

中盤からはかなり突飛な映画になっていくのだ。

ついでに言うとキャサリン・キーナーコーヒースプーン掻き回し映画でもある。まぁ~掻き回すよ、この映画のキャサリン・キーナーは。コーヒースプーンを。

どうでもいいが、たまたま観た映画にキャサリン・キーナーが出てくると、ちょっぴり得した気分になる。「野鳥を見にいったらリスも見れたわ」みたいな。

野鳥観察におけるリスとしてのキャサリン・キーナーだよ。

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キャサリン・キーナー…主にインディーズ映画で活躍する名脇役。スパイク・ジョーンズ作品の常連として有名。代表作にマルコヴィッチの穴』(99年)カポーティ』(05年)40歳の童貞男』(05年)など。

 

でもなぁー、「予想外の展開で超おもしろかった!」という巷の感想に反して、私は終始淡々と観てしまったんですよね。あまり物語で映画を観ないので、たとえばヒッチコックを観るときも、ミステリー(脚本)ではなくサスペンス(演出)に興奮したり感動することが多くて。

それで言えばゲット・アウトは、やってることはホラーやスリラーだけど、不思議と緊張感がない。「緊張感が続かない」ではなくて「緊張感がない」

居間で談笑していた一同が、主人公が二階に上がった途端にピタリと会話をやめるシーンの不穏感はよかったし、何といっても夜中に韋駄天走りしてくる庭師「No... No... No... No. No. No. No. No. No.」の家政婦ね。

笑いと恐怖が表裏一体になったような、ああいう瞬発的な演出はコメディの世界で培われたものなんだろうけど、技の引き出しが極端に少ないから映画の表情が最初から最後まで固定されっ放しで。窓やスマホといった小道具をもっと巧く活用すれば、サスペンスフルなシーンに緩急をつけられたと思う。


一方で、私が絶賛したいのは「予想外の展開」などではなく役者の顔選びである。
怪しい人物が怪しさを通り越して、もはや気味が悪い。特に家政婦役のベティ・ガブリエル

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こんな逸材、どこで見つけてきたんだ!

 今すぐデヴィッド・リンチの映画に出ろ!

 

シュールレアリスティックな催眠下の心象風景といい、家政婦の不気味な顔といい、だだっ広い地下室に置かれた旧型テレビとソファといい、やっぱりデヴィッド・リンチを意識している確率は高い。

また、主人公を演じたダニエル・カルーヤの顔芸も忘れがたい。

十年に一度の「顔」が集まった顔芸ホラー、とくとご覧あれ!

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