シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

白鯨との闘い

キャプテン・アメリカとアイアンマンが揉めてる間にソーが海でたゆたっている激痩せ虚脱エンターテイメント。

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2015年。ロン・ハワード監督。クリス・ヘムズワースベンジャミン・ウォーカーキリアン・マーフィ

 

1819年、一等航海士オーウェンと21人の仲間たちは、捕鯨船エセックス号で太平洋を目指す。やがて彼らは驚くほど巨大な白いマッコウクジラと遭遇し、激闘の末に船を沈められてしまう。3艘のボートで広大な海に脱出した彼らは、わずかな食料と飲料水だけを頼りに漂流生活を余儀なくされる。(映画.com より)


マイティ・ソークリス・ヘムズワース)が『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(16年)を欠席して海で捕鯨をするという裏切り。

なぜ『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』にソーがいないんだろうと思ってたら、こっちの映画に出張してたみたい。

まぁ、わちゃわちゃしたアメコミ映画に出演するよりも大家ロン・ハワード*1の作品に出た方が確実にキャリアアップに繋がるわけだが。ソーの打算だよ。

ヘムズワースは、ロン・ハワードの前作『ラッシュ/プライドと友情』(13年)に続いて二度目の主演を飾った。

マイケル・キートンラッセル・クロウトム・ハンクス…ときて、お次はヘムズワースに惚れたロン・ハワード爺さん。

好みがわかりやすいな、あんた。

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クジラの逆鱗に触れたソーは、後にどえらい目に遭う。

 

さて、本作。

細田守バケモノの子(15年)でも引用されていたことが記憶に新しいハーマン・メルヴィルの世界文学『白鯨』の映画化かと思いきや、本作は『白鯨』の下敷きになった悲劇、エセックス号沈没事故の真実を明かした2003年のノンフィクション小説『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』を基にしている。

クソややこしいわ。

そんなことなど露知らず鑑賞。開幕で捕鯨船エセックス号の名前が出てきた時点で「エセ…セックス? あれ? ピークオッド号じゃないの?」と惑乱。待てど暮らせどエイハブ船長もモビィ・ディックも出てこない。

そのかわり、ベン・ウィショー演じるハーマン・メルヴィルがオープニングで登場する。メルヴィル出ちゃったよ!

どうやらこの作品は『白鯨』を執筆するためにエセックス号沈没事故の生還者にメルヴィルが取材をおこない、そこから本筋が回想形式で展開されていくという物語らしい。

だからクソややこしいわって。

まぁ、でも「なるほどな」とは思う。

考えてみれば、ロン・ハワード『白鯨』を直球勝負で映画化してジョン・ヒューストン版の『白鯨』(56年)に挑みかかるとは到底思えず、さすれば鯨油を欲望する人間の傲慢さを炙りだす…みたいな内省的なコンセプトで、より普遍的な『白鯨』プリクエルを志向するという正統精神は実にロン・ハワードらしい。

で、そこにさまざまな海洋アドベンチャーの諸要素をミックスしていく。

老人と海(58年)パーフェクト ストーム(00年)ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(12年)を足して『オルカ』(77年)で割ってみましてん、という感じ。

 

映画前半はマッコウクジラにボコボコにされて船撃沈、後半は飢えと渇きに喘いで死んだ船員の人肉を貪って空腹を糊塗するという虚脱気味の漂流サバイバルになっている。

まぁ、おもしろいですよ。

筋骨隆々&ぷりぷりお尻のマイティ・ソーがげっそり痩せて海にぷかぷか浮いてる絵面だけで大いに楽しめる激痩せ虚脱エンターテイメント。

もうそれだけで大分おもろい。

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 マイティ・ソーがゲソゲソに痩せる。

 

だが『白鯨』の裏側には一歩踏み込めず。あくまで大味な特殊効果依存のハリウッド大作だ。

3Dでの鑑賞を前提にしたショットが多いのは構わないが、ブルーバック丸出しの合成処理、それを掩蔽するためのソフトフォーカスやクローズアップの濫用には鼻白むばかりで。空間処理ムチャクチャの忙しないカット割りもマイケル・ベイ現象の予兆あり。

異様なほど黄金に輝く海と空のショットなど、人工的に過ぎるデジタル処理は味気ない。「まぁ、綺麗だね」で消費されてしまう映像。そんなものばかりだ。

あかん、腹立ってきた。

あのねぇ、映像技術に物を言わせる前に、たとえば突風になびくヘムズワースの髪を撮ってこその映画でしょうに。

舞台は海の上。風と雨を味方につけながら、本作のフィルムには一片の色気も情感もない(尤も、マイケル・マン『ブラックハット』(15年)を予習してさえ、ヘムズワースをセクシャルに撮ることなどロン・ハワードには望めないのだが)。

それはそうと、公開時はヘムズワースの激痩せばかり話題になったが、それよりむしろ増量したキリアン・マーフィのマッドな相貌がすばらしい。

 

生と死の境を去来しながら心身ともにジリジリと摩耗してゆく漂流シーケンスの容赦なき倦怠感はなかなか良い。巨大マッコウクジラを見せ過ぎないあたりの配慮にも品がある。そしてもう一度言うが、トリッキーな俳優のキリアン・マーフィ太筆で描いたような海の男に仕立て上げた運用術もあっぱれだ。

だがロン・ハワード映画はどこまで行けどロン・ハワード映画…。

図式的な人間描写が特に目立つ作品だった。船員たちの愛憎相半ばする主従関係や駆け引きなど、もっと深く切り込む余地は多分に残っている。これでは船員たちがチェスの駒みたいに一人ずつ死んでいく安いホラー映画だ。

 

そんなわけでこの作品、キャプテン・アメリカとアイアンマンが揉めてる間にソーが海でたゆたっていたという目で見れば楽しめる確率は高い。

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スパイダーマントム・ホランド)も出てるよ!

 

*1:ロン・ハワード…もともとは役者としてアメリカン・グラフィティ(73年)などに出演していたが、のちに監督に転向。バックドラフト(91年)アポロ13(95年)ビューティフル・マインド(01年)などを代表作に持ち、ハリウッド・メジャーで活躍する名匠とされているがダ・ヴィンチ・コード(06年)あたりから疲れが見え始めた。ちなみにむちゃむちゃブサイク。