14万ドルもらえるチャンスをふいにして7万ドルだけ受け取る男の復讐譚。
1999年。ブライアン・ヘルゲランド監督。メル・ギブソン、グレッグ・ヘンリー、マリア・ベロ。
泥棒稼業を営むポーターは、相棒のヴァルと組んでチャイニーズ・マフィアの裏金14万ドルを強奪。だがヴァルと女房の突然の裏切りに遭い、分け前の7万ドルを奪われたばかりか瀕死の重傷を負わされてしまう。ようやく傷の癒えたポーターはヴァルの行方を追って、街へ飛び出していく。それは、ちっぽけなプライドとたった7万ドルのための死闘の始まりだった…。(Yahoo!映画より)
久しぶりに男臭い映画が観たくなったので『ペイバック』をズバッと鑑賞。
結論。そうそう、こういうのが観たかったんだよ!
チャイニーズ・マフィアから14万ドルを強奪したメル・ギブソンは性格最悪の泥棒だ。
だが、愛する女房と相棒に裏切られて取り分の7万ドルを奪われた上に半殺しにされた彼は、ヤブ医者の治療を受けて死の淵から生還。裏切った女房と相棒への復讐、そして奪われた7万ドルを取り戻すためにリボルバーを手にする!
バカなおっさんでもわかる単純明快な内容だが、この映画の魅力は雪だるま式に事態が大ごと化、そして大袈裟化していくというハッタリにある。
ヤク中の女房は再会したその日にオーバードーズで死亡。そして相棒への復讐は映画中盤であっさりと完遂する。驚くほど呆気ない。
だが7万ドルだけは手元に返ってこない。マフィアの相棒は、メルギブと一緒に奪った14万ドルを組織のボスに上納していたのだ。
そんなわけで、メルギブは7万ドルを取り返すために組織に単身殴り込みをかけるのだが、この組織には中ボス1人とラスボスが2人いて、銃を突きつけて「7万ドルを返せ!」と脅しても「ここに現金はないから上の人間に掛け合ってくれ」と言われ、ひたすらマフィア組織の中をたらい回しにされてしまうのだ。
この映画のおもしろさは、メルギブがたった7万ドルに執念を燃やしてマフィアと全面戦争する…という理解不能な行動原理だ。
ただでさえメルギブは、自分に目をつけて7万ドルを横取りしようと企む悪徳警官たちを出し抜いて、ルーシー・リュー率いるチャイニーズ・マフィアの追撃まで振り払わねばならない。そしてもちろん、7万ドルをペイバックしてもらうために殴り込みをかけたマフィア組織は強大な力を持っている。
かつての恋人マリア・ベロを危険に晒してまで、是が非でも7万ドルを取り返そうとする主人公メルギブの守銭奴ぶりがエグい。
どう考えても費用対効果が合わない。
実際、組織の中ボスからは「たかが7万ドルのためにここまでするか?」とこの上なく真っ当なツッコミを入れられてしまう。
そしてラスボス2人からも「そこまで言うなら14万ドルなんてはした金、返してやるよ」と言われるが、メルギブは即座にその言葉を訂正する。
「14万ドルもいらん。返して欲しいのは7万ドルだ。14万ドルは俺と相棒が奪った金の合計額で、二人で山分けした場合、俺の取り分は7万ドルになるよね。だから7万ドルだけ返してくれ」
うーん、正直者!
せっかくなんだから14万ドルもらっといたらええやないか。損得勘定がないにも程があるだろ。
そんなわけで、ひたすら7万ドルだけに固執する男の顛末を描いた唯一無二の7万ドル映画である。
なぜそこまで7万ドルに固執するのか…というワケのわからなさと、メルギブの妄執っぷりをこそ楽しむ映画でございます。
たった7万ドルのために二丁拳銃で人を殺める男。それがメル・ギブソンだ。
だがもうひとつ…、『ペイバック』には通向けの楽しみ方がある。
それは70年代アメリカ映画を観てきた人なら思わず「ああーっ!」もしくは「でぇー!?」と絶叫しそうになるキャスティングの妙だ!
まず、組織の中ボス役にウィリアム・ディヴェイン。
この名前にピンときた人は、確実に『ローリング・サンダー』(77年)を観ている人でしょう(これしか代表作がないからね)。
クエンティン・タランティーノのフェイバリット・ムービーでもある『ローリング・サンダー』は、映画好きの男がだいたい好きな『タクシードライバー』(76年)の脚本家として知られるポール・シュレイダーが脚本を手掛けたビジランテ映画の隠れた傑作だ。
チンピラに家族を惨殺された上に、キッチン・シュレッダーで片手を粉砕されたベトナム帰還兵のディヴェインがなくした片手に鉤爪を装着してチンピラを皆殺しにするという、笑っていいのかアツくなっていいのかよく分からない壮絶な復讐映画だ。
次に、ラスボスの1人を演じているのがクリス・クリストファーソン。
通称 強面チワワ。
カントリー歌手としても知られる俳優で、「バイオレンス映画の巨匠」ことサム・ペキンパーの後期を支えた常連俳優。
ペキンパー作品以外では『アリスの恋』(74年)、『天国の門』(80年)、『ブレイド』シリーズなどを代表作に持つ。
ちなみに私の中では、カート・ラッセルやジェフ・ブリッジスと見分けがつかない俳優。この三人はよく似ている。髭を生やしたら識別不能。
そして、もう一人のラスボスを演じるのがジェームズ・コバーン。
画面に現れたときに「でぇー!?」と絶叫した。
いちいち説明するのもアホらしいが、『荒野の七人』(60年)、『大脱走』(63年)、『戦争のはらわた』(77年)など、「映画好きの男性ならだいたい通ってきた名作」に多数く出演した大スターだ。
マフィアの大ボスなのに血が苦手…というキャラクター設定もユニーク(『キングスマン』のサミュエル・L・ジャクソンもまったく同じ設定だった。多分パクったんでしょうね)。
さらにシネフィルの胸を躍らせるシナジー興奮ポイントは、2人のラスボスを演じたクリストファーソンとコバーンは、ペキンパーの詩的傑作『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』(73年)の中で実在の義賊ビリー・ザ・キッドと保安官パット・ギャレットを演じてるんだよ!
その二人が四半世紀ぶりに共演を果たすという奇蹟。
もはやメルギブなんてどうでもいい。クリストファーソンとコバーンのツーショットだけで、もうこちらとしては感無量だ。しかもコバーンは本作の3年後に死んでるからね。
間に合った奇蹟だよ!
…ハイっ。誰も興味ない話をしてすみませんでした。
ウォォォォーって感じで好きなことを好きなだけ語ったけど、ふと後ろを振り返ったら誰もついて来てないという。
オタクの喋り方ってきっとこんな感じなんだろうなぁ、ということを実感してます。
もちろん70'sキャスティングの妙だけがすべての映画ではないし、普通に観ても大いに楽しめる作品だよ。説得力ないけど。
悪徳警官やラスボスを出し抜く方法はいちいち粋だし、メルギブの二丁拳銃には「あ~、こんなところにもジョン・ウー魂が!」って感じでテンション爆上がりだし(語彙力低下中)。
あと、全体的にノワール調で、メルギブのナレーションや青味がかった冷たい映像が「あぁ、身の程も弁えずにジャン=ピエール・メルヴィルをやろうとしてるんだな」という感じで微笑ましい。
何より、ジャスト100分という過不足のない上映時間がすばらしい。
90分でも110分でもいけない。これはきっかり100分で語らねばならない復讐譚だ。
メルギブ映画のTOP10には確実で入るであろう、限りなく佳作に近い凡作!
「限りなく佳作に近い凡作」って、褒め言葉としてインパクト弱いなぁ。フィントを大きくすれば説得力が増すかなぁ。
限りなく佳作に近い凡作!
意味なかったわ。
私に「限りなく佳作に近い凡作」と言われて微妙な表情をするメル・ギブソン。