後半ずっとキャシー・ベイツの話です。
1991年。ジョン・アブネット監督。キャシー・ベイツ、メアリー・スチュアート・マスターソン、メアリー=ルイーズ・パーカー。
20~50年代のアラバマ州、フライド・グリーン・トマトを名物料理に賑わうカフェを切り盛りする2人の女性をめぐる出来事を、現代のジョージア州の老人ホームで、老女が中年女性に語って聞かせるという形で描く人間ドラマ。(映画.com より)
前半はお行儀よくレビューを書くけど、後半はひたすらキャシー・ベイツについて書き散らかしています。
したがって狭義的には本稿は『フライド・グリーン・トマト』評ではなく「キャシー・ベイツ特集」です、はっきり言って。
よし、ほないこか。
①ババアの昔話映画。
毎晩野球を観ながらメシをむさぼるという自堕落なディナースタイルを持つ百貫デブの夫に嫌気が差している百貫デブの主婦キャシー・ベイツが、叔母への面会で訪ねた老人ホームで見知らぬ老婆から昔話を聞かされる。
過去と現在が並行して描かれる『フライド・グリーン・トマト』は、物語ることの本質に迫った心地よい快作だ。
老婆の昔話は、アラバマ州の寂れた町が舞台だ。
最愛の兄バディを列車事故で亡くした少女イジーは、バディの恋人であるルースと深い絆で結ばれる。
数年後にルースが結婚した相手はDVを振るう荒くれ野郎で、KKKを引き連れてルースとイジーが共に営む食堂をしょっちゅう襲っていた。
イジーは食堂を手伝ってくれている黒人やホームレスの仲間と一緒に荒くれ野郎を抹殺、事件を闇に葬ってルースとの楽しい毎日を謳歌するが、そこへ保安官がきて荒くれ殺害容疑でイジーを逮捕した。
かくして荒くれ殺害事件の真相をめぐっておこなわれた荒くれ裁判で見事無罪を勝ち取ったイジーは、再びルースとその仲間たちとの楽しき日々を送るが、突然の癌でルース死亡。
ともに食堂を営むイジーとルースは大の仲良し!
なんだこの話。
映画を観たときはけっこう引き込まれたのに、あらためて文章でザッと書き起こしたらムチャムチャな話やないか。
KKK? 荒くれ殺害?
波乱万丈すぎてスッと頭に入ってこないわ(私の書き方が問題なのか?)。
まぁとにかく、強い絆で結ばれた女性二人の波乱万丈な半生が語られてゆくってわけ。
②オールド・アメリカの暗部をえぐったお伽噺
おそらくは、この昔話をキャシー・ベイツに語ったババアこそがイジーその人なのでしょう。
ババア(イジーの現在)を演じたジェシカ・タンディ…『鳥』(63年)や『ドライビング Miss デイジー』(89年)などで知られる古典女優。1994年に死去。
しかしババアは自分がイジー本人であることを告白しておらず、あくまで「人づてに聞いた話だし、事実かどうかもわからない」という体で語っていくので、傍から見るとこの昔話が「他人の話」なのか「ババア自身の体験談」なのか、はたまた事実なのか創作なのかすらわからない…という不定称の寓話になっていて。
したがって「なんなの、この話? 誰の体験談なの? そもそも体験談なの? 作り話なの?」と混乱して癇癪を起こす人もいるかもしれない。
だが、話の人称などどうでもいいのだ。
これは「誰の」とかではなく、ただの昔話なのだから。
そしてこの昔話は、古き良きオールド・アメリカの暗部をえぐった闇のお伽噺でもありました。
基本的にはイジーとルースの穏やかな幸福が柔らかいタッチで描かれていくが、そこには20年代のアメリカ南部に蔓延っていた黒人差別というファクターが底流していて、急にKKKとか出てくるんですね。
KKK…南北戦争後に組織された白人至上主義団体による秘密結社。黒人をいじめるのが主な活動。
あと、直截的な描写こそ避けているものの、イジーとルースの関係はどう見ても同性愛のそれでしょう。
本作はオールド・アメリカのタブーに踏み込んだ告発の映画でもあるのだ。
③メアリー=ルイーズ・パーカー
だが決して暗い映画ではない。私は終始にっこりしながら楽しみました。
なんといっても、ルースを演じた若き日のメアリー=ルイーズ・パーカーが破壊的にかわいい。
メアリー=ルイーズ・パーカーといえば『RED/レッド』シリーズでブルース・ウィリスの恋人を演じていたことでお馴染みのキューティーおばさん。
「50代の今でもキュートだけど、若かりし頃は破壊的にキューティーだったんだろうなぁ」ということが容易に窺える女優だが、このたび『フライド・グリーン・トマト』を初めて観て確信。
だってこれホラ、この画像の左ホラこれ!
ほら、やっぱり破壊的にキューティーじゃねえか!
右は昔のイジーを演じたメアリー・スチュアート・マスターソン。
…さて、 ついにキャシー・ベイツのターンが回ってきましたよ。
ここからはずっとキャシー・ベイツのターンだ。
④キャシー・ベイツ自己改革計画!
一方、現代パートでは、自分のことを「ホラー映画のバケモノ」と自嘲しているキャシー・ベイツがババアの昔話を聞いて勇気づけられ、自己改革をおこなってダメな自分におさらばしようとする。
自己改革①
夫との倦怠期を打破するためにセロハンを巻いて自分自身をギフトラップ。
セクシーアピールするにしても、なぜセロハンなのか。おそらくセクシーな衣装を一着も持ってなかったので、彼女なりに考えた末に「セロハンで私自身をギフトラップしよか」と結論したのだろう。
ギフトラップっていうか、ビニールに包まれた死体に見えるんだけど…。
そんなわけで、全身セロハンでグッと色気を増した彼女は「久しぶりに…今晩どう?」と夫を誘ってみるが、「頭がおかしくなったのか!?」と言われてしまう。
そしてこの顔である。
自己改革②
トランポリンでダイエット。
陽気なポップスを歌いながらトランポリンの上で鯉のように跳ね続けるキャシー・ベイツ。
もちろん観る者はトランポリンが潰れやしないかと心配する。
自己改革③
自然食に開眼。
袋に詰めた野菜をもりもり食べながらババアの昔話を聞く、変な格好のキャシー・ベイツ。
このシーンのおもしろポイントは頭に巻かれたバンダナである。
自己改革④
スーパーの駐車場で割り込みした車にアクセルべた踏みで追突。
これまで小心者で引っ込み思案だった彼女が、イジーとルースの自由な生き方に感化されて、ついに吹っ切れた。
「トゥワンダ! トゥワンダ!」と絶叫しながら、スーパーで割り込み駐車したビッチの車にガンガン追突する!
トゥワンダ…アメリカ南部の黒人が使っていた「こんにちは」を意味する言葉。
さすがトゥワンダ女優、元気はつらつである。
⑤キャシースマイル
このように、本作の精髄は現代パートにあるのですよ。
なんてったってキャシー・ベイツの主演作だから!
「キャシー・ベイツの主演作」。
なんと甘美な響きだろう。まるで「ウィレム・デフォーの主演作」と同じぐらい甘美で稀少な言葉だ。
ウィレム・デフォー同様に、キャシー・ベイツもまた計り知れない魅力を湛えながらも脇役に据えられることが多い女優で、かねがね私はハリウッドの無能な連中に対して「キャシー・ベイツの主演作が少なすぎる。何考えとるんだ!」と怒りを露にしている。
キャシー・ベイツといえば『ミザリー』(90年)の一発屋でしょ、みたいな愚かな民どもの浅はかな物言いにも憤慨しています。
僕の友人なんて、以前キャシー・ベイツと言おうとして「キャリー・ベイツ」つってたからね。別の映画と一緒になってもうとるがな。百歩譲ってキャシー・ベイツのことをミザリーと呼ぶのはわかるけど、キャリーって…、もはや別人やないか。
そんなキャシー・ベイツの魅力は、なんといっても屈託のない笑顔。
通称キャシースマイル。
われわれは何度、彼女の笑顔に助けられただろう。世界平和を実現するための具体的な方策こそがキャシースマイルなのだ。
僕はキャシー・ベイツの顔に弱いんですよ。この人の顔を見ると条件反射で吹きだしてしまうし、「ああ、世界って素晴らしいな」と前向きな気持ちになれるんですよ。
もう眺めてるだけで幸せ。それがキャシー・ベイツだ。
しかも、デビュー作の邦題が『パパ/ずれてるゥ!』(71年)ですよ?
『カッコーの巣の上で』(75年)を撮った名匠ミロス・フォアマンの作とはいえ、何もこんな邦題の映画でデビューしなくてもいいじゃない。
キャシー・ベイツのデビュー作、『パパ/ずれてるゥ!』。
なんとオモシロに満ちた響きだろう。
あと、『タイタニック』(97年)に出ていたことも忘れてはならない。
もちろん主演カップルはディカプリオとキャシー・ベイツだ。左の女性は…誰だろう、たぶん脇役の無名女優だろうね。
以前レビューした『悪魔のような女』(96年)は「元刑事役のキャシー・ベイツにハードボイルドをやらせる」という正気の沙汰ではない映画だったけど、本作『フライド・グリーン・トマト』は「我々の観たかったキャシー・ベイツ」がくまなく網羅されたキャシー映画の隠れた傑作だ!
⑥ キャシー・ベイツに漂うオモシロ。
キャシー・ベイツには尋常ではなくオモシロが漂っている。
顔、所作、佇まい、雰囲気…。
べつに本人は笑わせようとしているわけではないのだろうが、もはやこちらはキャシー・ベイツが何をしても笑ってしまうという状態…。
おそらく系統的にはニコラス・ケイジとかキアヌ・リーブスと同じだと思うんだよね。どこか間の抜けた佇まいがシリアスな笑いを誘う…というタイプ。
それではここで、私の画像フォルダに入っているとっておきのキャシー・フォトTOP5をご紹介しましょう。
第5位
本作『フライド・グリーン・トマト』で見られるワンシーン。
キャシー・ベイツのこういう「今おまえどういう感情なの?」という曖昧な表情がたまらなく好きなんですよ。
戸惑っているようにも見えるし、驚いているようにも見えるし、もしかしたら真顔かもしれない。
そもそも、どうしたらこんな顔ができるんだよ。
言ってしまいますよ…?
この表情は天才。
第4位
やっぱりこれ、いいわぁ~。
好きだわ~。
思わずめいっぱい引き伸ばしちゃった。
第3位
何がどうなってこうなったんだよ。
いちばん素朴な疑問として…、なんの役なの?
何する人なの? この人。
もはや男役なのか女役なのかすら不明。
ただひとつ分かることは、こいつはキャシー・ベイツだってことだけ。
第2位
だから何がどうなったらそうなるんだよ。
もうさぁ…、ヒゲとかあるしさぁ…。
完全に男役じゃない。
キャシー・ベイツの偉大さを痛感するばかりだよ。だっておっさんも演じられる女優なんだから。
第1位
これはあかん。
『ミザリー』超えてる。
引き笑いが約6分間止まらなくて「肋骨折れそう、肋骨折れそう」と危惧した。ここ10年でいちばん笑ったかもしれない。
後ろに映ってるピカチュウの着ぐるみがオモシロを引き立ててるよね。
まさに奇跡の一枚。
まさに悪夢の一枚。