シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

梅雨のメグ・ライアン特集

先日、小汚い大衆酒場で旧友二名と酒を喰らいながら映画の話をしていて、私は旧友の一人、通称あっさと呼ばれし男に「メグ・ライアンを観ればいいのに」と提言しました。

なんとなく、あっさがメグ・ライアンを好きになりそうな顔をしていたからだ。

ほいだら、あっさ、「だったら『シネマ一刀両断』でメグ・ライアン特集を組んでよ。俺をメグ・ライアンへと導いてよ」みたいなことをおっしゃいました。

軽い気持ちでメグ・ライアンをおすすめしただけなのに、まさか私に特集オファーという仕事が課せられることになるとは。

こういうの、なんて言うか知ってます?

藪蛇って言うんだよ!

なんというカウンターパンチ。さすがトークのボクサー。

 

というわけで今回は、あっさからのリクエストにお応えします。

題して「あっさをメグ・ライアンに導くことだけを目的としたメグ・ライアン特集」

「リクエストされた」っていうか、私が勝手に「墓穴を掘っただけ」なんだけどね。

というわけで、この記事が想定している読者はただ一人だけです。ピンポイントで友人を狙い撃ち。はっきり言って、けっこう読みにくい記事ですよ。苦しめ!

 

もくじ

 

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メグ・ライアンをワンセンテンスでご紹介。

メグ・ライアンの概要をワンセンテンス(一文)の中にギュッと詰めて紹介します。息継ぎせずに一息で読んでね!

 

メグ・ライアンといえば、90年代はそのキュートな容姿とすぐれた髪質を遺憾なく発揮してロマンティック・コメディの黄金期を築き上げて「ラブコメの女王」とさえ呼ばれたトップスターで、男性よりもむしろ女性人気の方が高いのではないかと推測せしめるほどの「女が憧れる女」だったが、ゼロ年代以降はラッセル・クロウとの不倫騒動でこれでもかと叩かれるわ、初ヌードを披露したエロティック・サスペンスイン・ザ・カット(03年)がダダ滑りするわ、挙句の果てに何度も手を出した整形手術がことごとく裏目に出て誰かが開けた扉が閉まらぬうちにサッと通り抜ける小狡いカートゥーン・キャラクターみたいな顔になり果て、それでも騙し騙しで低空飛行を続けていたが、2009年のメグ・ライアンの男と女の取扱説明書』を最後に俳優業から距離を置いていることでお馴染みの女優である。

 

ふぅ~、疲れたぁ。酸欠なるわ。

 

そんなメグ・ライアンを酸欠状態でおすすめしていくのだけど、ひとつ問題があってね。

肝心の私がメグ・ライアンのことをそない好きなわけでもなければ、そない詳しいわけでもないという。

メグ・ライアン布教者としては不適任かもしれないな。だって先ほどの紹介文でも、イケイケ全盛期よりもキャリア崩壊期の方をこそ緻密に描写してたしね。

でもまぁ、がんばりますよ。私の中のすべてのメグ細胞を総動員してメグ特化記事を書いて参ります。

ここからは、メグ・ライアンのこういうところをおすすめしますという「おすすメグ」を3つにわけてご紹介。

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おすすメグ①ロマンティック・コメディの登竜門!

メグは、90年代アメリカ映画の花形でもあったロマンティック・コメディ(俗に言うラブコメ)の中心的人物だ。もしもメグがいなければ、90年代アメリカ映画史はほんのちょっぴり変わっていた…と言ってもあながち嘘ではない。

当時、ジュリア・ロバーツサンドラ・ブロックキャメロン・ディアスといったラブコメ女優は大勢いたが、やはりその頂点に君臨するのはメグ・ライアンでしょう。ロマンティック・コメディの登竜門と言ってもいい。

嘘だと思うなら、アメリカのくそ田舎をほっつき歩いてる、なるべく人のよさそうな通行人に「ロマンティック・コメディの女王と言えばメグ・ライアンだよね?」と日本語で質問したあとに「SAY YES! SAY YES!」って話しかけてご覧なさいよ。

だいたいの人は「…? YES…」と答えるはずだ。

 

メグのような小柄でキュートな女優って意外といないんですよ、アメリカには。

馬面ロバーツ顔面ブロック口裂けディアスも、全員デカくてガッシリしてるしね。キュートというよりはセクシー寄りだよ。

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左から順に、馬面ロバーツ顔面ブロック口裂けディアス

 

だからメグは、90年代のアメリカに「萌え」を導入した最初の人物ではないかと、オレ睨んでる。当時すでにアメリカにも「KAWAII」文化はあったんだよ。

その体現者こそがメグ・ライアンだっ。

実際、その日本人受けするルックスから、幼女趣味を公言して憚らない我が国でもメグの人気はダントツに高く、日本のCMにも多数出演していた。

こんなカスみたいなCMでも快く引き受けてくれる!

 

ここで、ロマンティック・コメディについて軽くおさらいしておきましょう。

もともとロマンティック・コメディは一度死に絶えた文化である。

ロマンティック・コメディの黄金期は30~50年代のアメリカ映画にある。ロマンティック・コメディから派生したスクリューボール・コメディ*1というのがたいへんな人気を集めました。

そして50年代はビリー・ワイルダーの独壇場。麗しのサブリナ(54年)アパートの鍵貸します(60年)など、慌ただしいスクリューボール・コメディとはまた違った、小粋で洗練された正統派ロマンティック・コメディが人気を得た時代だ。

ところがどっこい、60年代後期からはアメリカン・ニューシネマ一色。ベトナム戦争でクタクタに疲弊したアメリカ国民にはラブコメ映画を楽しむような心の余裕などなく、「セックス! ドラッグ! ロックンロール!」な反体制映画が主流になり、ロマンティック・コメディは死に絶える。

ようやくベトナム戦争の悪夢から覚めた80年代は、学園を舞台にした青春映画やミュージカル映画が大流行する。第一次パリピブームといってもいいぐらい、アメリカが最もバカで軽薄だった10年間だ。

 

そして90年代、心肺停止していたロマンティック・コメディは息を吹き返す。

復活の儀式は恋人たちの予感(89年)によっておこなわれた。

この映画は「男女の友情は成立するのか?」というありがちなテーマを扱っているのだけど、その掘り下げっぷりが凡百の映画の比ではなく、もはや社会学の領域とさえ言えるぐらい、なかなか深いところに突っ込んでいる。

本作は「ロマンティック・コメディ=軽い映画」というイメージを覆し、世界中で大ヒットした。

また、恋人たちの予感といえば、メグがレストランでオーガズムに達したフリをする名シーン。このシーンの舞台となったレストラン「カッツ・ デリカデッセン」はニューヨークの観光地となり、そこへ訪れたミーハーどもはこぞってメグの真似をしてオーガズムに達したフリをするという。よほど暇な連中なのだろう。

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「女がイッたときはだいたい芝居なのよ。こんな風にね!」と言ってレストランで喘ぎ始めるメグ。


おすすメグ②現代アメリカ映画におけるメグの功績。

しかも、メグったら、かつてゴースト/ニューヨークの幻(90年)プリティ・ウーマン(90年)のオファーを「こんなん、やらん」つって断ってるんだよ。もちろん、どちらもロマンス映画の代表格だ。

ともすると、こういう言い方ができるかもしれない。

メグがオファーを断ったからこそ、ゴースト/ニューヨークの幻デミ・ムーアは売れたのだし、プリティ・ウーマンジュリア・ロバーツ一世風靡したのだ、と!

もっといえば、ジョディ・フォスターの代表作として知られる羊たちの沈黙(91年)だって、当初はメグがオファーされていたけど、「こんなん、やらん」つって断ってるからね。

もしこれらのオファーを引き受けていればハリウッド女優界は完全にメグの寡占状態だったのに、心優しいメグは「私は充分に恵まれてるわ。メグだけにね。それよりほかの女優にも公平にチャンスを与えなきゃ。それがアメリカン・ドリームってもんじゃない?」といって、デミ・ムーアジュリア・ロバーツに花を持たせ、ジョディ・フォスターにも主演を譲ってるわけですよ!

 

都合よく解釈しただけの気違いじみた妄言と思うでしょう? 俺だって思ってる。

でも、少なくとも結果論としては今申し上げた通りなんですわ。メグがオファーを断ったことで何人もの女優がスターダムにのし上がり、ハリウッド業界全体が大いに活気づいた…という事実は揺るがない。

そういう意味でも、現代アメリカ映画におけるメグの功績は計り知れないのだ!

今のハリウッド女優界は、メグの「こんなん、やらん」発言あってこそなんですよ。

こじつけられてる? 上手くこじつけられてる?

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メグがオファーを蹴った二大ロマンス映画!


おすすメグ③メグ映画三選。

では、最後にメグ映画三選をレコメンド。恋人たちの予感はすでに紹介したので外してます。

 

『ユー・ガット・メール』(98年)

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メグとトム・ハンクスの共演作。

小さな絵本専門店を営むメグは、近くにできた大型書店に客を取られた上に、トム演じる大型書店の御曹司はチョー嫌味な奴! そんな二人にはインターネットで出会った顔も知らない友達がいて毎晩メールするのが唯一の楽しみだが、実はメグがメールしていた相手はトムだった…という、世界狭すぎるだろ系 勘違いコメディの金字塔。

何かにつけてゴッドファーザーのセリフをドヤ顔で引用するトムに対して、メグが「なんで男ってみんな『ゴッドファーザー』が好きなの?」と呆れ返るシーンがあるように、恋人たちの予感と同じく男と女の違いをユニークを対比させている。

インターネット黎明期に産み落とされた電子恋愛映画の急先鋒といえます。


ニューヨークの恋人(01年)

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何かといえばトム・ハンクスとばかり共演するメグだけど、今度のお相手は裸で鉤爪を振り回す半狂乱俳優ことヒュー・ジャックマン

ヒュー演じる19世紀の公爵が現代のニューヨークにタイムスリップしてメグと出会う…という猛烈にふざけきった作品だ。

ここで描かれてるのは男女のいがみ合いを推進力としたスクリューボール・コメディではなく、周囲の人々の優しさとか、現代の文化や街並みに戸惑うヒューとの異文化コミュニケーションなど、ほっこりできる人間模様で。

メグとヒューの化学反応こそすべての映画だ。この二人がすこぶる可愛らしい。

ちなみにヒューが19世紀から来たかと思えば、今度はメグの方が19世紀にタイムスリップしたりなど…、とにかく時空の裂け目ガバガバ映画の決定版といえます。


戦火の勇気(96年)

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今度のお相手は紳士! 実直! 人格者!でお馴染みのデンゼル・ワシントンですよ!

湾岸戦争でトラウマを抱えたことで飲んだくれの廃人と化したデンゼル中佐が、えらい将軍さんに「戦死したメグ大尉に名誉勲章をやろうと思ってるから、メグ大尉について調査してこいカス」と命じられる。

かつてメグと同じ部隊にいた生存者たちをあたって「戦場でのメグってどんな感じやったん?」と聞き込みをおこなうデンゼル中佐だったが、「むっちゃ勇敢な兵士でしたよ」と言う者もいれば「あいつは臆病者だ!」と言う者もいて、証言はムチャムチャに食い違って大いにテンパる。

「どないなっとんねん」とブツブツ言いながらもデンゼル中佐が真実を追究する中で、徐々にメグ大尉の本当の姿が明らかになっていく…っていう中身なんだわぁ。

 

こういう、いろんな証言が食い違ってて真相は藪の中…という作劇法のことを羅生門』メソッドと呼ぶ黒澤明羅生門が元になっているので)

本作は、メグが演技派への転向を試みた唯一の成功作だ。

なかなか重厚な戦争映画(というより軍人ドラマ)で、「死人に口なし」とはまさにこのこと。まるっきり死んでるからね、本作でのメグは。

特に『グローリー』(89年)を好むあっさにはこれを推さない手はないのです。なんてったってデンゼル・ワシントン+戦争だからね。そこにメグ・ライアンがフィーチャリングしてくるっていう。

いわばこの映画は『グローリー feat.メグ・ライアンなんだよ!

 

メグ・ライアンの幕引きについて。

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※同一人物です。悲しいかな。

 

近年のメグは整形しすぎて邪悪なミッキーマウスのようになっている。

夢の国に帰れ!

でも僕はその現実を受け入れてるっつーか、わりと前向きに捉えてるんですよ。

「アイドルやスーパースターの耐用年数は10年間である」という持論を持っていて、メグの場合もこれに符合するからだ。メグは90年代に栄華を極めてゼロ年代に没落していった。ちなみにビートルズ山口百恵の活動期間もだいたい10年だ。

過去の栄光にしがみついて老いさらばえる姿ほどブザマなものはない。かといって、うまく世渡りしながらキャリアを延命し続けるのは賢いやり方かもしれないけど、個人的には10年経って「そろそろ無理ぽ」と思ったらスッパリ辞める10年スターが好きでね。

時代が進むにつれてちょっとずつ忘れ去られていく儚い感じが私のノスタルジア性感帯を刺激してやまないのよねぇ。

 

あと、先述した通り、メグのキャリアがダメになっちゃったのってハリウッド・バビロンの生贄にされたからではなくて。そこが救いなんだよ。

周囲の大人たちに振り回されたり、ショービズに利用されたり、メディアに消費されたり、大衆に使い捨てにされたりなど、とかく有名人が辿りがちな末路ではなくて、いわば身から出た錆っていうさ。

不倫騒動、演技派迷走、整形失敗が主な原因なわけでしょう?

すべては自業自得の一言に集約されるよ!

金が絡んだ汚い思惑の犠牲になって消えていった俳優たちに比べれば気持ちのいいもんよ。

 

メグ「みんな、最近パパラッチされた写真は見てくれた? 前回の整形でおかしくなったところを直そうとしてプチ整形したけど、またやらかしてもうたわー」

大衆「ははは。笑う。壊れたテレビを直そうとして余計に壊してしまった、みたいなことになってるやん。これはこれで楽しめる」

 

ある意味では平和とさえ言える幕引きかもしれない。

というわけで、私はメグ・ライアンに自滅の美学を見ています。

今のメグがどれだけ顔面崩壊しようとも、俺には何の関係もないし興味もない。90年代の映画をDVDプレーヤーに突っ込むだけで、われわれはかくも容易くあのころのメグに会えるのだから。

『めぐり逢えたら』(93年)よろしくメグに逢えたらだよ!

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*1:スクリューボール・コメディ…風変りな男女による弾丸のような台詞の応酬を特徴としたハイテンポなラブコメ。代表作に或る夜の出来事(34年)赤ちゃん教育(38年)など。