シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール

 全編に漂うワインスタイン感。

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2017年。大根仁監督。妻夫木聡水原希子新井浩文

 

「力まないカッコいい大人」奥田民生に憧れる編集者コーロキが、おしゃれライフスタイル雑誌編集部に異動となった。仕事で出会ったファッションプレスの美女、天海あかりに一目ぼれしたコーロキは、あかりに見合う男になるべく、仕事に精を出し、デートにも必死になる。しかし、やることなすことすべてが空回り。あかりの自由すぎる言動に常に振り回され、コーロキは身も心もボロボロになってしまう。(映画.com より)

 

 普段、私はお香を焚きながら執筆しているのだが、「お香を焚くことに何か意味はあるんですか?」と訊かれたら「ない」と答えよう。べつにお香を焚くことで集中力が上がるわけでも、気の利いた文章が書けるわけでもない。意味なしザッツオールである。

どうして人は意味のないことをするのだろう。

どうせ風でばさばさになるのに前髪を整える高校生、電車の中でわけのわからない啓蒙書を読むサラリーメン、中年主婦のダイエット。

ダウンロードした方が安いのにわざわざCDを買いに行く私。

「要するに」と言って一度要約した話を「つまり」といって更に要約する私。

人生の貴重な時間をすべて映画に費やす私!

 

なんだろうな、わかんねぇ。

いや、わかった。「もしかしたら意味があるかもしれない」と思うことが人を意味のないことに駆り立てるのだろう。

つうこって、今日も無意味に映画レビュー。Easy Go。

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◆ゲス映画の名手◆

大根仁といえば若い女が大好きなスケベ監督である。

モテキ(11年)を観たときは「あぁ、この人はたぶん自分がモテなかったから映画の中で青春を取り戻してるんだろうな」という第一印象を持った。

自慢じゃないが映画に関する私の勘はだいたい当たる。彼は映画を撮ることで青春をやり直しているのだ。違ってたらすまん。

そして次に、疑似ドキュメンタリー風にDQN男女どもの寝取り寝取られを描いた『恋の渦』(13年)。私はDQNと呼ばれし人種を「人間というより動物」と評するぐらい生理的に嫌悪しているので、これはキツかった。

いずれも性欲丸出しの若者を自嘲気味に描いていて、そこに今どきの感覚や風俗を乗せていく…という、良い意味では若々しく、悪い意味では低俗なゲス映画ばかり手掛けてきた監督だ。

大根仁なんか腹立つ見た目も相俟って、長らく私は「マジキモ!」と嫌悪していたのだ。

(ちなみに私は大根仁のことを「おおね ひとし」ではなく、わざと「だいこん じん」と誤読しています。それが私にできる唯一の反撃だからだ。したがって本稿では「ダイコン」と呼ぶことにする)

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腹立つわー。顔と身体のバランスおかしくない? 合成?

 

たこ焼きみたいな顔しやがって。

 

ところが、近作のバクマン。(15年)は良かったし、色々と厳しいことを言われてる『SCOOP!』(16年)も擁護した。

たしかにこの人の映画はどれも低俗だし、都会的なサブカル記号はサムいし、女の子のことしか頭にないけど、少なくとも師匠の堤幸彦よりは遥かに映画的なセンスを持っている。

なにより、女優を撮ることに関してだけはやたらに上手い。これには素直に関心してしまう。

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◆全編に漂うワインスタイン感

そんなわけでダイコンの新作奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガールを観ました。

まず、私の経験則から言わせて頂くと、タイトルが無駄に長い映画はだいたい駄作というジンクスがある。なので、この映画の存在を知った時点で「すでに暗雲…」と戦慄しました。

 

奥田民生を敬愛する雑誌編集者の妻夫木聡が、美人ファッションプレス水原希子に振り回されるさまがコミカルに描かれる。まぁそんな映画だ。

彼女は恋愛の駆け引きに通暁したハイレベルの小悪魔で、出会った男すべてを虜にする狂わせガール。しかも複数の男と交際している。しらこい。ふてこい。俗に言うビッチというやつだ。そこに妻夫木が猛アタックをかけて、甘えたかと思うと急に不機嫌になる猫のような水原希子にさんざん振り回される…。

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腹立つわー。傘、差すんか差さんのかはっきりせえ。なんやその顔は。

 

まさにダイコンにとってはお誂え向きの企画だと言えましょう。

実際、もはやダイコンの趣味で撮ってるだけのショットがあちこちに散見される。水原希子の下着姿、突き出した尻、耳舐め。何十回と繰り返されるキスシーンはすべてディープキスだし、事後ではあるがベッドシーンも満載。

本作は、「水原希子にあんなことさせたい、こんなことさせたい」というスケベオヤジの妄想を映画撮影という名目のもとに実現させた職権乱用およびセクハラの記録です。そこにはっきりと嫌悪感を抱いた。

 

映画後半には「ダイコン流・小悪魔論」めいたものが展開されて、小悪魔と呼ばれる世の女性の生態や本質に一歩踏み込んだ切り口があったりしてなかなか面白いのだけど、その象徴たる水原希子エロの対象として男性目線から撮っちゃってるので本末転倒。どこまでいっても「小悪魔が大好きな男(ダイコン)が撮った、小悪魔が大好きな男(妻夫木)の話」でしかない。

もしこれがウディ・アレンフランソワ・オゾンだったら、「小悪魔=上辺を取り繕うプロフェッショナルたち」の本当の姿を女性目線から描いていくだろうが、ただの女好きのダイコンに女性目線など望むべくもなく…。

いみじくも本作を「似非フェミ映画」と断じたレビュアーの一言こそがすべてだろう。

男にとって都合のいい女が、男にとって都合のいいように描かれているだけで、そこに小悪魔(水原)の意思や言い分はありません。

今のハリウッドでこんな映画を提出したら、きっと総スカンを喰らうでしょうね。

「なんかワインスタイン感がある!」つって。

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◆映画としてもダメダメ◆

バクマン『SCOOP!』のような良作を生み出した監督が作ったものとは思えないぐらい、今回はダメダメ。

劇中の端々で奥田民生の曲が流れるが、単にそれが奥田民生メドレーになってるだけで、主人公が「ダラッとしながらもキメるところはキメる」という奥田民生の生き様に影響を受けた…というキャラクター造形に結びついていない。これなら別に奥田民生でなくともよい。

ダイコンはよほど水原希子を気に入ったのだろう、彼女のシーンはほとんどがスローモーション。つまり水原希子が登場するたびに画面が弛緩するというザック・スナイダー現象が起こっている。

四角関係を種明かしするために回想シーンを何度も挿入する手際の悪さや、東京風俗観光が売りのダイコン作品にしてはなんとも貧相なロケーションにもがっかり。

 

そして、気立てのいいキャラクターがなんの示唆も予兆なく異常者に豹変して「実はこの人が黒幕でした!」というロジックなき展開。こういうところだよ、ダイコン作品が「浅い」と言われるのは。生きたキャラクターが一人もいないもの。

コメディ・パートを担ったリリー・フランキー安藤サクラの「漫画的な変人ぶり」に至っては、「ああ、そういえば俺が2000年代以降の日本映画を観なくなったのはこういうことをしちゃう映画が増えたからなんだよなぁ…」ということを思い出したよ。

過剰なぐらいヘンなビジュアルで過剰なぐらいヘンなことをして「このキャラは変人です。笑ってくださいね~」って言ってるような。

クソ寒いわ。

本当の変人というのは『ありがとう、トニ・エルドマン』(16年)に出てくるキテレツ父ちゃんみたいな奴のことを言うんだよ!


というわけで、私の中でバクマンから評価を上げていたダイコンだけど、本作を観て考えを改めることにした。

思えば、雑誌編集部が舞台で主人公が出版業界に関わっていて…というのもモテキバクマン『SCOOP!』、そして本作にも連なるパターンで、「この人にはこれしかないんじゃないか?」と引き出しの狭さを思わせる。

ダイコンの次作は私が大好きな韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』(11年)の日本リメイクだが、真木よう子が降板した時点で興味が失せた。

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腹立つわー。何見とんねん。室内でグラサンかけんな。なんでそんな青いねん。

 

追記

超個人的な意見をつけ加えておくと、水原希子に惹かれる劇中の男性陣の精神構造がまったく理解できず…。水原希子って世の中的には美人ってことになってるの?

ちなみに私は、小悪魔と呼ばれし女性に対する強烈なまでの抗体と嫌悪感を持っています。

以前、たぶん小悪魔に属する人だろうなって感じの女性に対して「上目遣いをするな。そんなことをしても無駄だ。さては貴様、プリクラ世代だろう。上目遣いがかわいいのは犬と猫だけだ」と言ったらすごく嫌な顔をされて、さらに追撃の一手、「そもそも端正な顔立ちというのは俯瞰(上目遣い)ではなくアオリ(下目遣い)の方が映えるもの。だからアオリを勉強してください。ほらほら、THE YELLOW MONKEY吉井和哉の画像をご覧なさいな。顎をあげてるアオリの構図でしょ? 美しいでしょ?」と言ったらば、その娘、最終的には上目遣いが伏し目になったわ。ほほほ。

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アオリの構図が美しいイエモン吉井和哉。いつになったら新譜出すんじゃい。