7人の失恋伝道ババアに生きる術を問う。
1995年。ジョセリン・ムーアハウス監督。ウィノナ・ライダー、エレン・バースティン、アン・バンクロフト。
大学院生のフィンは、卒論を仕上げるために祖母ハイとその姉グラディが暮らす家にやって来た。祖母に家には女性たちが集まり、それぞれ思い出話をしながらキルトを作っていた。彼女たちの話を聞きながら、婚約者との結婚に懐疑的になっていたフィンの心も変わっていく。(Amazonより)
この世にはライダー映画というものが多数存在するわけだ。『イージー・ライダー』(69年)、『ションベン・ライダー』(83年)、『ペイルライダー』(85年)、『ゴーストライダー』(07年)など。
だがライダー女優といえばウィノナ・ライダーしかいない。そうだろう?
私はウィノナ・ライダーの映画をいくつか見逃している。そう、「見逃しライダー」に含まれる人種なのだ。これじゃあいけない、先祖が知ったら悲しむ、ということで急遽3本ほどまとめて鑑賞した。これで俺もウィノナ・ライダーを見てるライダー。
よって、本日から3日間に渡って「ライダー映画3連発」を開催します。こんなことをしていったい誰が喜ぶのか。たぶんウィノナ・ライダー本人は多少なりとも喜んでくれるはずだ。いま落ち目だから。
第一弾は『キルトに綴る愛』。無関心のそよ風が吹く中、しっぽりと開幕!
全盛ライダー。
◆万引きライダー、覚醒◆
ウィノナ・ライダーといえば、『シザーハンズ』(90年)や『17歳のカルテ』(99年)などで知られる90年代の人気女優で、2001年に高級デパートで服をパクって逮捕されたという輝かしい経歴を持つ。
この万引き事件によりトップ女優としてのキャリアは一夜にして崩壊。刑務所の中で悲劇のヒロインを演じた。出所後、現在に至るまでコンスタントに女優業は続けているものの小品での脇役が多く、すっかり過去の人に…。
『ブラック・スワン』(10年)では新人に役を取られてお払い箱にされる熟年プリマバレリーナを演じたが、これはほとんど実話。
かつてウィノナは『恋に落ちたシェイクスピア』(98年)の主役候補に選ばれていたが、ウィノナの家で台本を盗み見た大親友グウィネス・パルトローがウィノナに黙ってオーディションを受けたところ、なんと合格。『恋に落ちたシェイクスピア』はその年のアカデミー賞の主要部門を独占し、パルトローも主演女優賞に輝いた。
アイアンマンの恋人。
「私の役を横取りしやがって、鶏ガラ女が!」と激怒したウィノナは、即刻パルトローと絶交。
さらには作品にも恵まれず、当時交際していたマット・デイモンとも破局するなど踏んだり蹴ったりで、精神的に追い詰められていく。
そしてついに闇落ち、万引きライダーが目覚めた。
ヤケを起こして計4店舗もの高級デパートでかわいい洋服をパクってはすぐに見つかって従業員に取り押さえられる、という醜態を晒してしまう。
落ちぶれるにせよ、その原因が「万引き」というこの上なくセコくて格好悪い行為なので、世界中の失笑を買ってしまったウィノナ。もう再起不能でしょう。
『ブラック・スワン』で落ち目のバレリーナを演じたウィノナ・ライダー。個人的にはこの映画のウィノナが一番好き。
だが私はウィノナに多少の同情を寄せるものである。
彼女は、駆け出しの頃には同居もしていた親友のパルトローに千載一遇のチャンスを奪われ、奈落の底に突き落とされた。「一緒に頂点目指そうな!」、「うちら、ズッ友やで!」と誓い合っていた一番の親友に寝首を掻かれたのだ。
ゴブリンのような狡猾さでウィノナを出し抜いたパルトローは、以降、順風満帆のキャリアを築くが、数々の失言・暴言やクルクルパー丸出しのセレブ的身振りが世間の反感を買い、スター誌が毎年おこなっている『最も嫌いなセレブランキング』の常連として名を馳せている。
本作『キルトに綴る愛』は、そんなウィノナが万引きライダーに変身する前の作品である。
◆ババアかく語りき◆
同棲中の恋人と離れて祖母の家に長期滞在したウィノナが、いつもその家に集まってキルト作りをしている祖母の友達から昔の恋愛話を聞かされるうちに、少しずつ自分自身と向き合うようになる。
どこかで観たような話だなぁと思ったら、『フライド・グリーン・トマト』(91年)だった。自分に自信がないキャシー・ベイツが病院で知り合ったババアから昔話を聞かされることで自分の殻を破る…という自己改革映画ね。
こういう物語はわりと好きだ。
ババアの話にはさまざまな教訓が詰まっているものだし、特にノスタルジックなものに弱い私なんかは、ウィノナに昔話を聞かせるババア7人の回想シーンでたまらない気持ちになった。
たぶん私は、その辺を歩いてる見ず知らずのババアの古いアルバムを見ただけでも泣くと思う。
7人のババアが語る昔話は、どれも不倫や死別や離婚といった陰々滅々たる内容だが、今となっては皆それぞれに過去を乗り越えて幸せな老後を送っている。
そしてウィノナは、先祖代々恋愛や結婚が上手くいかない血筋であることにコンプレックスを抱えており「私は母のように離婚したりしない!」と血に抗っているが、そんな彼女に7人の失恋伝道ババアは「完璧な恋愛や理想の結婚だけを追い求めることが女の幸せじゃないわ。もっと気楽にやってもいいんじゃない?」という何か言ってるようで何も言ってない抽象メッセージを送る。
7人のエピソードすべてが含蓄や名言に富んでいて、出来のいい中編小説を読んだときのような豊かな余韻を楽しんだのだけど、いつも私が見ているレビューサイトでは「女性の面倒臭い恋愛観があーだこーだと語られるだけ」などと辛辣な評価を受けていた。
なるほどねぇ。先述した通り自分はノスタルジックなものに弱いので、ババアが昔を語ってるだけでもうオッケー状態で、恋愛要素は思いきりスルーしてしまっていた。
それに映画好きにはこたえられない豪華キャストが揃い踏みしているので、ますます私の眼は「恋愛以外」へと向けられてしまう。
◆魅力的なキャスト◆
まず、ウィノナの祖母役にエレン・バースティン。
『エクソシスト』(73年)や『アリスの恋』(74年)など、70年代から現在まで活躍しているお婆ちゃん女優だ。ちなみに私は、たまたま観た映画にエレン・バースティンが出ているとすげえ得した気分になるぐらいにはエレン・バースティンが好きです。
そして祖母の姉にアン・バンクロフト。
映画好きには『卒業』(67年)のミセス・ロビンソンだと言えば一撃で通じるだろう。
ちなみに私は「でも本当は『卒業』だけやあらへんえ。『奇跡の人』(62年)や『愛と喝采の日々』(77年)、それにデヴィッド・リンチの『エレファト・マン』(80年)にも出てるんやで」と言いたいぐらいにはアン・バンクロフトが好きです。
ダスティン・ホフマンがガールフレンドの母親と不倫する『卒業』。この映画でホフマンを誘惑する魔性の母親を演じたのがアン・バンクロフト。
そんな彼女たちの家に集うキルト仲間に、『聖衣』(53年)のジーン・シモンズ(顔面白塗りで舌だしてヘビメタする方のジーン・シモンズじゃないですよ)。『フライド・グリーン・トマト』にも出ているロイス・スミス。かつてキング牧師と公民権運動に参加した女性活動家マヤ・アンジェロウなど、なかなかのオールドスターが揃っている。
回想シーケンスではさらに多くの有名俳優が登場する。
スピルバーグの妻として知られるケイト・キャプショーをはじめ、サマンサ・マシス、リチャード・ジェンキンス、ジャレッド・レト、クレア・デインズなど。
このように新旧さまざまの俳優を呼びまくった豪華キャストだが、誰ひとりとして我を出すことなく、まさにキルトのように美しく調和している。すべては主演女優ウィノナ・ライダーのために…。
こんなステキな映画を作ってもらったのに、わずか6年後に万引きライダーに覚醒するなんて。あかんではないか。ウィノナのばか。
同情の余地もないわ。
エレンバースティン(画像右)と、アン・バンクロフト(画像左)。