シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

マッドボンバー

爆弾魔が正義の鉄槌を下した爽快世直しムービー!

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1972年。バート・I・ゴードン監督。ヴィンセント・エドワーズ、チャック・コナーズ、ネヴィル・ブランド。

 

妻と別れ、一人娘を麻薬中毒で失った男が社会を憎み、学校や病院などを次々爆破していく。事件担当となった警部は、病院爆破の際、女性患者をレイプした暴行魔が爆弾犯人の顔を見ている事に思い当たり捜査を続ける…。(映画.com より)

 

―10日連続更新、おめでとうございます。今の率直な感想を聞かせてください。

「疲れた」

―いつもは週に4~5回の更新なのに、なぜ今回は10日連続で更新しようと思ったのですか?

「うまく言えない」

―明日は更新をお休みする予定ですか?

「そのつもりだ」

―記念すべき10日目のレビューがどうして『マッドボンバー』なのでしょうか?

「深い意味はない」

―今日はやけに無口ですね。疲れてらっしゃるのでしょうか?

「疲れたって最初に言ったでしょうが、このばか! そもそもお前は誰ですか」

―私は元気100パーセント坊ちゃんと無二の親友でもあるインタビュアー純です。

「架空のキャラクターがどんどん増えてわけがわからなくなってきた」

―というわけで本日は『マッドボンバー』です。どんなレビューに仕上がっているのか楽しみですね。以上、インタビュアー純でした。また来ます。

「来んでええ」

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◆まともな人間が出てこない◆

『戦慄!プルトニウム人間』(57年)『吸血原子蜘蛛』(58年)などB級映画で知られるバート・I・ゴードンがキャリア後期に手掛けた異色カルト映画。

大学が爆破されるファーストシーンの鮮烈な一撃に、早くも引き込まれたのは誰?

そう、オレ。

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本作に登場する主要人物3人が、娘を失って社会に復讐心を抱く爆弾魔チャック・コナーズ(以下マッドボンバー)、違法な捜査で爆弾魔を追う暴力刑事ヴィンセント・エドワーズ、爆弾魔を目撃した重要証人の強姦魔ネヴィル・ブランドといった具合に、ものの見事にまともな人間が一人も出てこない。

爆弾魔と強姦魔と暴力刑事の地獄の三すくみだからね。穏やかな人間の不在。それがこの映画だ。

 

ヴィンセント刑事は、まずマッドボンバーを目撃した強姦魔を捕まえて、そいつからマッドボンバーの人相を聞き出そうとする。

「LAの人口は800万人。手当たり次第に探しても無駄だ…」と言ってるわりには、物量作戦で夜のLAに警察を張り巡らせて怪しい男をしょっ引いていくうちに強姦魔ネヴィルをあっさり逮捕。自己矛盾してんじゃねえか。

とっ捕まったネヴィルが「弁護士を呼びたい」と言えば「弁護士? 知るか!」と返し、「俺にだって人権はある」と主張すれば「人権? 知るか!」と言ってネヴィルをシバく。

「知るか」の一本槍がすげえ。

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強姦魔ネヴィルを「知るか」の一本槍で追いつめるヴィンセント刑事。

 

ヴィンセント刑事は、ネヴィルから聞き出したマッドボンバーの特徴をもとにモンタージュ写真を作るが、出来上がった写真がまんまマッドボンバーを演じたチャック・コナーズの顔という。

適合率100パーセントかよ。

ネヴィル「こいつだ。ほとんど同じだ。よく似ている!」

いや…「よく似ている」っていうか本人の写真だから

モンタージュ写真って「顔のパーツ素材を組み合わせることで限りなく犯人に近い人相を導き出す」っていう捜査活動でしょ?

本人の写真出してどないすんねん。アホか。

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完成した犯人のモンタージュ写真に犯人役の俳優の写真を使うというまんま感

 

そして釈放されたネヴィルは、すごすごと家に帰って自分の妻を主演にした自主製作のポルノ映画を見て大いに興奮する。彼の部屋には妻の全裸写真を大きく引き伸ばしたポスターがそこかしこに貼られていた。しかもその妻、まあまあブスです。

ザコンならぬツマコンというか…。それほど妻が大好きならなぜ別の女性をレイプしたのだろう。ていうか、妻のポルノ映画を観て自分で慰めるぐらいなら妻を抱けばいいのに。なんと非合理的な性癖。

そんなネヴィル、マスかいてる最中にマッドボンバーによって家ごと爆殺される。射精するタイミングと爆弾が起爆するタイミングがぴったり重なって、うーんエクスタシー。言うてる場合か。

マッドボンバーがネヴィルを消したのは警察に協力したことへの報復なのだろうが、そもそもこの二人には何の接点もないので、ネヴィルがヴィンセント刑事に協力したことをマッドボンバーが知っているのはどう考えてもおかしいのだが、あえて追及しまい。

70年代B級映画ってそんなもんだから。


◆ナイス、ボンバー!◆

そしていよいよマッドボンバーの人間性について触れるときが来たようだ。

この映画のオープニングは、道端にゴミをポイ捨てするオヤジにマッドボンバーが説教をかますシーンに始まる。

「拾え。お前みたいなクズがいるから街が汚れるんだ」

ナイス説教!

この瞬間、私は「好きかも…!」とマッドボンバーにときめいた。

そう、彼は社会を憎むあまり街中に爆弾を仕掛けて回るアンチヒーロー的確信犯なのだ。つよいぞー。かっこいいぞー。

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ゴミをポイ捨てしたオヤジに掴みかかってガチギレするマッドボンバー。正義感の塊である。

 

スーパーで買い物を楽しむマッドボンバーが、レジ打ちのおばはんに「会計がおかしい。これは48セントだろ? 特売のチラシでは今週いっぱいは48セントと書いてあったぞ」と言えば、おばはん、ふてこい顔で「特売は昨日で終わったので60セントですよ」と言うので、マッドボンバー、「週の終わりは土曜日だ。今日は土曜日だから48セントだろ」といって半ギレ。

ナイス正論!

 

また、ダイナーで昼食を楽しむマッドボンバーが、テーブルを拭きながら気怠そうに「注文は何にしますぅ~?」と訊ねたウェイトレスに向かって「おい、目を見て話せ。俺は動物か? 相手が動物だったらよそ見しながら話しかけてもいいが、俺は人間だ。敬意を払え。人間・マッドボンバーをどうぞよろしく」といって礼儀を叩き込む。

ナイス教育!

 

また、歩道の横断を楽しむマッドボンバーが、青信号の歩道で突っ込んできたオープンカーに対して「何考えてるんだ。いい車に乗っていれば道はお前のものか? いい車に乗っていれば何をしてもいいのか?」とキレて、勝手に車のキーを抜いて近くにあったポストに投げ入れてしまう。

ナイス投函!

 

きわめつけは、謎のビルでおこなわれていた「男女平等を訴える女性自由協会」に立ち寄ったマッドボンバー。大勢の女性が高級料理を貪りながら女性活動家であるババアの話に聞き入っている。

「私たちは数では男に負けてません。富も私たちのもの。世界の産業も動かせます!」

マッドボンバーがイラついてるのがわかる…。

その辺でやめとけって、ババア。そろそろ黙らないとボンバーがキレるぞ…。

私が再三忠告したにも関わらず、ババアはさらにイカれた言説をまくし立てる。

「子供を産める男性がいますか? いないでしょう。セックスだって私たちの方が強い! 男性よりも長生きし、愛情濃く思慮深い。これまで私たちは男性を操って社会を変えてきたのですぅぅぅぅ!」

やれやれという表情で、チキンの乗った皿に爆弾を置いてクロッシュ(ドーム型のフタ)をかぶせ、ビルを後にするマッドボンバー。次の瞬間、けたたましい爆音と「うっぎゃー」という女性たちの断末魔が響く…。

ナイスボム!

そしてこの顔である。

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これぞまことのボンバーマン


◆頑張れ、ボンバー!◆

事程左様に、イカれた社会に正義の鉄槌を下すマッドボンバーの世直しが愉快痛快。

普段、日常生活を送っていて「なんだこいつ…」と思うような非常識な人間を、われわれに代わって説教したり爆殺してくれるのだ。マッドボンバーは。

いわば怒りの代行者。

いわば民意としてのボム!

 

これって要するにフォーリング・ダウン(93年)の先取りなんだよな。

フォーリング・ダウン…平凡な中年オヤジが社会に対するストレスを爆発させるブチギレ映画の最高峰。マクドナルドでぺちゃんこのハンバーガーを出されたことに激昂して「メニューの写真と違うじゃないか。もっとふっくらさせろ!」と騒いで店内でマシンガンをぶっ放すという崇高な作品である。

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社会にはびこるバカどもに対してブチキレるという、まるで松本人志的なキレ芸のエクストリーム版というか。ロックンロールを物理化したら多分こうなるよ。大好きなんですよ、こういうの。

なので私はマッドボンバーの犯行を応援します。

「頑張れボンバー。頑張れボンバー」ってずっと思ってた。

だがその末路はとてつもなく哀れで悲惨なものだった※以下ネタバレ)

通行人の女性に亡き娘を幻視して、ヴィンセント刑事に追いつめられた果てに自爆するのである。しかもその死体が70年代の映画とは思えないほどドロドログチョグチョの人体欠損描写が炸裂していて、とてつもなくグロい。

なんだろう、この喪失感…。マッドボンバーを成敗したことで爆破事件は食い止められたけど、そのぶん世の中のバカどもが余計にのさばるという。

必要悪を退治したことで世の中がますます悪い方向に進んでいくという、一抹のやるせなさを残したブチギレ爆弾映画の金字塔!

70年代カルト映画はこうでなくっちゃ!

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