シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

素顔のままで

 デミが1250万ドルもらう代わりに裸で踊った。それだけの映画。

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1996年。アンドリュー・バーグマン。デミ・ムーアバート・レイノルズロバート・パトリック

 

FBIの秘書課で働いていたエリンは、今では人気ストリッパー。お金を貯めて弁護士を雇い、夫から娘を取り戻すためなのだが、彼女はこの仕事がけっこう気に入っている。そんなある日、彼女に触ろうとした男を、別の男が殴るという事件が起きた。その殴った男がお忍びでストリップ・クラブに来ていた下院議員だったために、やがて事件は思わぬ展開に…。(Yahoo!映画より)

 

いっさいのニーズを無視した『デミ映画特集』第二弾である。

ていうか、ここんとこ70~90年代の映画ばかり観てんです。べつに昔というほど昔の映画でもないけど、でもたぶん映画ブロガーがやたらに取り上げるべき年代の映画ではない…ということぐらいはさすがの私も百も承知だよ。周りのブロガーたちはもっとフレッシュな話題作を取り上げて時評感を醸しているのに、私が醸しているのは今更感。

当ブログで取り上げる映画って、なんというか…おっさん臭いんだろうな、きっとな。

特に最近な。『マッドボンバー』(72年)とか『恋しくて』(87年)とか、そんなんばっかじゃん。何なのこのラインナップ。『黒い牡牛』(56年)て。

これじゃあ女子高生に読んでもらえない。まぁ女子高生は嫌いだからいいけど。

何が言いたいかというと、向こう1ヶ月ぐらいはこの年代の映画ばかり取り上げるので悪しからず…ということでございます。

「最近、こんな懐メロみたいな映画ばっかりじゃない?」という不平不満に対するエクスキューズ。

 まぁ、そういうことで『素顔のままで』です。

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この話、何がどうなったら解決なの?

娘の親権を巡って薬物中毒の元夫と裁判で争っているデミ・ムーアは、ストリップ・クラブ「ぬれぬれガールズこれはひどいの人気ストリッパー。

そんな彼女にゾッコンの下院議員バート・レイノルズは、店でデミに触ったファンをぶん殴ってしまう。事件を見ていたデミのファン2号は、B・レイノルズと懇意にしている親権裁判の担当判事に圧力をかけることでデミの裁判に協力しようとしたが、B・レイノルズによって消されてしまった…。

 

うーん…、なんだかよく分かんねえ話だな。

「デミの親権裁判」と「下院議員のスキャンダル」が同時平行で描かれて、その間にどんどん死人が出るという。いつまで経ってもデミが事件に巻き込まれないどころか、B・レイノルズとも一向に面識を持たないので、並行する2つの点が交わらないのだ(『マイ・ブラザー』と同じ現象)。

そもそもこの映画、物語の「当事者」がいない上にシナリオの方向性も見えてこないので「この話、何がどうなったら解決なの?」と。

ピントがボケまくってるというか、着地点が想定できないし、多分されてもいないんですよね。

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ストリッパー役の脱ぎ・ムーア。


◆アホ揃いのナンセンス・コメディ◆

完全にふざけきった映画だ。

邪悪な下院議員B・レイノルズは、デミに夢中になるあまり選挙活動を放棄。「彼女の肌に触れた物を持ってこい! 持ってくるまで選挙活動はせんからな!」と秘書に命令してコインランドリーでデミの下着を盗ませる。

下着をゲットして大いに満足したB・レイノルズは、選挙パーティの控え室で全身にワセリンを塗りたくってデミのパンツを嗅ぐ!

 

秘書「何してるんですか、出番ですよ!」

下院議員「これぞ天使の香り。フォ――、力が漲る!」

秘書「もうウンザリだ。僕はアンタのようなヘンタイの世話をするためにこの業界に入ったんじゃない。辞めさせてもらいます!」

下院議員「修行が足らんなぁ」

 

えっと…、何これ。

何を見せられているの、僕は。

てっきり悪役と思っていたB・レイノルズはただの完全無欠のヘンタイだった…ということ?

 

一方、「ぬれぬれガールズ」では蛇使いのストリッパーが新メンバーに加わるが、蛇が死んだというので用心棒がストリッパーに黙って代わりの蛇を用意したところ、何の訓練も受けていない蛇は舞台の上で彼女の首を締め上げる。

蛇使い「あんた誰よ!」

首を絞められて失神寸前の蛇使い。「えらいこっちゃ」と言って舞台袖から出てきた仲間のストリッパーたちが必死で彼女の首から蛇をはがしてボコボコにする。

何だろう、このどうでもいいサイドストーリーは…。

 

ようやくデミと接触したB・レイノルズは「1時間1000ドルで私のために踊ってほしい」と言ってデミをクルーザーに招く。そこへ薬物中毒の元夫が現れて鉈を振り回し、殺し合いの大騒動に。

ちょっと待って…、最初から意味わかんねえのに余計に意味わかんなくなってきた。

クライマックスの舞台は砂糖工場である。部下たちがB・レイノルズを裏切ってデミもろとも始末しようと拳銃を向ける。だが、完全にラリっている元夫が、自動販売機のコーヒーと勘違いして「砂糖抜きで!」とわめきながら工場のスイッチを押したため、大量の砂糖がB・レイノルズの部下たちの頭上から降り注ぎ、彼らは砂糖の下に埋まってしまった。

元夫は「砂糖抜きと言っただろう」と言って気を失った。

そこへ警察が駆けつけてB・レイノルズとその部下が逮捕。ハッピーエンドってことでエンドロールが流れて画面が暗くなる。

暗闇に取り残される私。

そんな私がいた。

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脱ぎ・ムーアと下院議員のバート・レイノルズ

 

まったくわけのわからない、人を食った映画だ。ふざけやがって。

きっと読者諸兄も、この文章を読みながら「なにをいってるかぜんぜんわからない」とお思いのはずだ。私の説明が下手なのもあるけど、本当にこういうわけのわからない映画なんですよ!

「何これ今どういう状況?」っていうのが最初から最後まで115分続くの。

要するにこれ、ストリッパーが政界の闇に巻き込まれるポリティカル・サスペンスかと思いきや、完全にナンセンス・コメディなんだよね。

出てくるキャラが見事なまでにアホばっかり。だがあくまで外ヅラはサスペンス風で「シリアスな映画です」と装っている。

なんというか、ツイン・ピークスに近いものがあるわ。


◆どうしてこんな仕事を引き受けたの?◆

こんなクレイジームービーだが、蓋を開けると大当たりした。デミ・ムーアのストリップが大きな話題を呼んだのだ。

雑誌『ラブフィルム』がおこなった「最悪だけど観たい映画」では堂々の1位。また、本作でデミが手にした出演料は当時の歴代女優最高額の1250万ドルだ。

だが、その価値に見合うほど有難いヌードなのかといえばノー。断じてノー。豊胸丸出しの硬式ボールみたいなバストを晒し、艶やかと呼ぶにはあまりに健康的すぎる四肢を振り回しているだけなので、まるで故障したEVA初号機が暴れてるようにしか見えない。

ちなみにデミは、さまざまな雑誌で隙あらばヌードを披露する自信家の露出狂としても知られている。有難味ゼロ!

そんなデミのストリップシーンは都合3回あるが、3回すべてが説話的必然性を欠く。もはや「デミにストリップをさせる」というコンセプトありきの映画で、わけのわからないシナリオはストリップシーンを繋ぐための余興でしかないのだ(だからわけがわからない!)

沢田研二『ス・ト・リ・ッ・パ・ー』が聴こえてきそうだね。

 

ヒールを脱ぎ捨て ルージュを脱ぎ捨て

すべてを脱ぎ捨てたら おいで

裸にならなきゃ 始まらない

ショーの始まりさ

朝でも夜でも真昼でも 恋はストリッパー

裸のふれあい

春でも秋でも真冬でも 愛はストリッパー

見せるが勝ちだぜ

 

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 見せるが勝ちだぜ。

 

そしてヘンタイ下院議員を演じたバート・レイノルズの落ちぶれっぷりたるや…。

『脱出』(72年)ロンゲスト・ヤード(74年)の頃は男気ムンムンのセックスシンボルだったのに、全身ワセリンまみれで盗んだパンツを嗅ぐような仕事を引き受けるとは…。

60歳だぞ?

だが翌年のブギーナイツ(97年)では頭のイカれたポルノ映画監督を演じて大絶賛された。

ちなみにこの人も雑誌でヌードを披露した自信家の露出狂である。

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「盗んだパンツを匂い出す」というサビでお馴染みのバート豊のヒット曲。そう、皆さんもカラオケでよく歌う「60の夜」です。

 

「どうしてこんな仕事を引き受けたの?」と思う役者があと一人いる。

薬物中毒の元夫を演じたロバート・パトリックだ。

今となってはポンコツ映画に欠かせない脇役として馴染み深い俳優だが、やはり私にとってロバート・パトリックといえばターミネーター2(91年)液体金属男 T-1000であるから、知能指数5のヤク中みたいな情けない姿を見るのは超ショックなんだよ!

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 ジョン・コナーを追っかけ回してた頃は格好良かったのに…。

 

そんなわけで、出た俳優が誰も得をしないどころか、むしろ信頼と名声ダダ下がり映画が『素顔のままで』である。失笑必死の底抜けストリップ・コメディ!

ただ、スペンサー・デイヴィス・グループ「Gimme Some Lovin'」が使われていたので、そこだけは気分が上がったが、劇中歌に救われる映画ほどみじめなものはない。

 

死ぬほど多くのミュージシャンにカバーされ、死ぬほど多くの映画にも使われたロックンロール・アンセム「Gimme Some Lovin'」

私がいまドハマりしているサンダーのカバーバージョンでどうぞ。エブリ~デイ!