結局ウィンしたのはデミの方で、ボールドウィンがウィンしない映画。
1996年。ブライアン・ギブソン監督。デミ・ムーア、アレック・ボールドウィン、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、アン・ヘッシュ。
マフィアのドンとその孫が殺され、ファミリーのボス、ボファーノが逮捕された。この事件の陪審員に選ばれた女性彫刻家アニーのもとに、マークと名乗る男がやって来る。作品を買いたいと申し出、その紳士的な態度に心を開く彼女だったが、自宅に招待したとき彼の態度は一変する。“無罪と言わなければ息子の命はない”、彼はボファーノに雇われた殺し屋だったのだ…。息子の命を守るため嘘の証言をすることになった女性の孤独な戦いを描いた作品。(Yahoo!映画より)
ゆくりなく始まった『デミ映画特集』だが、現時点では全作こき下ろしている。これではデミ批判特集だ。
かと言ってダメな映画を無理やり褒めるみたいなおすぎのような真似をするぐらいなら腹かっ捌いて死んだ方がマシなので、私は『陪審員』のDVDをデッキに突っ込みながら「頼むからまともな映画であってくれ…」と願った。
これ以上オレに言わせるなイズムだよ!
結果、他の3作品に比べればそれほど悪い出来ではなかったのでひとまず安堵したが、とは言え凡作の域は出ない。
というか、そもそも論としてデミ・ムーアの映画に傑作なんて存在するのだろうか?
ブルース・ウィリス「仲間が増えた」
◆デミ依存がすげえ◆
殺人容疑で起訴されたマフィアのボスを救うために、部下のアレック・ボールドウィンとジェームズ・ガンドルフィーニは陪審員を引き受けたデミに接触して「無罪を主張しないと息子を死なせます」と脅迫する。
この時点で結構ふざけた映画である。デミを脅すマフィアたちがバカすぎるのだ。
アメリカの陪審制度は全員一致で評決に達することが原則。したがってデミ一人に圧力をかけて無罪を主張させたところで、それでボスが無罪になるとは限らない。ましてやデミともう1人を除く残りの陪審員10人は「ギルティ! ギルティ!」つって有罪をがんがん主張しているので、デミを脅したところでどうこうなる問題ではないのだ。
どうせ脅すなら12人の陪審員全員を脅さんかい(あまりに非現実的だけど)。
映画中盤になって「そうか! デミ一人に無罪を主張させてもあんま意味ねえんだ!」なんつってようやく陪審のシステムを理解したボールドウィン、デミへの「無罪に投じろ」という要求を「無罪にしろ」に変える。
「デミちゃん! 陪審員をうまく説得して全員一致で無罪の流れを作ってくれ。君ならできる!」
デミ依存がすげえ。
デミへの凭れ掛かりがすげえ。
自分のボスが有罪になるか無罪になるかの瀬戸際を一般市民のデミに丸投げするという。
デミ「話が違うじゃない! 無罪を主張するだけでいいって言ったのに!」
ウィン「キミ一人が無罪を主張するだけではあんま意味ないってことに気付いたんだ。無罪にしてくれないと息子を死なせます」
だが、こんな無茶振りを受けてもデミは挫けない。母は強し。弁舌さわやかに陪審員を説き伏せて全員一致の無罪評決へと導くのだ!
全能か、おまえは。もう弁護士になれ。
「ボスは無罪です!」
◆ロンリー、ロンリー、ロンリーウルフ♪◆
これだけならシンプルな筋だが、厄介なのはボールドウィンがデミにゾッコンのサイコ野郎という設定である。
ボールドウィンとガンドルフィーニの下っ端コンビは四六時中デミを見張っている。もちろんガンドルフィーニの方はデミが脅迫されていることを誰かに他言しないように見張っているわけだが、ボールドウィンは愛ゆえに見張っている。
公私混同も甚だしい。
ボールドウィンはデミの自宅に盗聴器を仕掛けてデミ親子の日常会話を盗み聞きするが、これも愛ゆえに。
極めつけはボールドウィンの隠れ家の壁一面に貼られたデミの写真だが、これももちろん愛ゆえに。
ボールドウィン「愛ユエニー」
ただのストーカーです。お薬出しときますねー。
そんなわけで、無罪を勝ち取ったボスに「あの陪審員の女は危険だから消しておけ」とデミの抹殺を命じられたボールドウィンは、秒で「無理ぽ」と逆らったことで自分の属する組織からも命を狙われてしまう。愛ゆえに。
…と、ここまで読んだ読者諸兄の中には「もしかしてこのあとデミとボールドウィンが結ばれて愛の逃避行的な展開に!?」と早合点する人もいるかもしれないが、残念でした、それは同じボールドウィンの映画でも『ゲッタウェイ』(94年)です。
デミは終始ボールドウィンのことをめちゃめちゃ嫌っている。
だってサイコなんだもの。しまいにはマフィアのボスとグルになってボールドウィンを陥れようとするからね。
デミちゃんが好きで好きでしょうがないボールドウィン。
だからこれ、見様によってはちょっと切ない映画なんですよ。
ボールドウィンはデミに対する愛ゆえに組織を裏切って命を狙われたけど、そのデミからも嫌われて命を狙われるという。愛も仁義もない四面楚歌だよ。
ボールドウィン「こんなにキミを愛してるのに!」
デミ「地獄で恋してな!」
最後はデミにパキューン、パキュキューンと撃ち殺されます。
結局ウィンしたのはデミの方で、ボールドウィンのウィンは夢に散ったというわけさ。周囲をみんな敵に回して愛にも破れる…という一匹狼のボールドウィンの魂に幸あれ。
沢田研二の「ロンリーウルフ」が聴こえてきそうだね。はい、一緒に聴きましょうね。
愚かな女は 時にはかわいい
愚かな男は ただ愚かだね
これで愛なら 抱くんじゃなかった
まるで淋しさに Kissしたみたいだ
ロンリー ロンリー ロンリーウルフ♪
夢みる女は いつでも綺麗だ
夢みる男は なぜ汚れてる
これで夢なら 見るんじゃなかった
まるで幸せと 引きかえたみたいだ
ロンリー ロンリー ロンリーウルフ♪
◆メンバー紹介◆
はっきり言ってこの映画はキャストを楽しむ作品なので、メンバー紹介していきましょうね。
まずは何といってもウィンできなかったボールドを演じた…
キム・ベイシンガーと結婚していた時期ですね。離婚してぶっくぶくに太る前なので超ハンサム。髪型も相俟ってトム・クルーズに似ている。
無感情な青い瞳をデミへと向けるその色気に、観る者は思わず呟いてしまうだろう。
「愛ユエニー」とね。
あれほど格好よかったボールドウィンも、今となっては老眼距離でスマホいじってる最中に赤ちゃんに鼻をギューンつねられて「あいいい」とわめくようなダメンズに…。
そしてデミの息子を演じているのが、子役時代の…
ジョゼフ・ゴードン=レヴィット!
『(500)日のサマー』(09年)で人気に火がついてからというもの、『インセプション』(10年)や『LOOPER/ルーパー』(12年)などで獅子奮迅の活躍を見せる人気俳優になったが、この頃は少女と見紛うほどかわいい。
11歳のころに『ベートーベン』(92年)でデビューしているので、意外とキャリアが長い。
ハリウッドに「草食男子」というポジションを作ったジョゼフ・ゴードン=レヴィット。
また、ボールドウィンの相棒のマフィアを演じるのが…
普通に映画好きをやっていれば彼を見ない年はないと言っても過言ではないほど、あらゆる映画で錦上花を添える名脇役だ。
ていうかガンドルフィーニて。
1分間に700発の弾を発射しそうなパワーネームのわりには名前負けしてる感がすさまじいな。
ニヤけ顔のハゲオヤジ、それがガンドルフィーニ。顔と名前の反比例ぶり。
そして、あえて最後に持ってきました…!
デミの親友を演じたアン・ヘッシュ!
「そういえばそんな女優もいたなー」ぐらいに思う人がほとんどだろうが、私は忘れない。アン・ヘッシュを忘れない。ちなみに我が家はよその家族よりもアン・ヘッシュを高く評価しています。たぶんウチの家族は日本で5番目か6番目ぐらいにはアン・ヘッシュを評価している家族だと思う。
『ボルケーノ』(97年)、『6デイズ/7ナイツ』(98年)、リメイク版『サイコ』(98年)など、主に90年代後期からゼロ年代初頭にかけてそこそこの活躍を見せていて、ちょうどこの時代に洋画劇場を観ていた人にとっては懐かしの女優だ。
バイセクシャルを公言して女優のエレン・デジェネレスと結婚したことが話題になった。
彫刻のような中性的な顔立ちと冷気すら発する雰囲気から、私の中ではティルダ・スウィントンの劣化版として高く評価しています!
「劣化版」というのは言葉が悪いですね。言い直しましょう。
ティルダ・スウィントンから芸術性を差っ引いたらアン・ヘッシュになる。
ちなみに本作ではボールドウィンにぶっ殺される役だが、ベッドシーンはしっかり確保されているので安心されたい。
アン・ヘッシュを忘れないこと。それはハリウッド映画好きに課せられた義務でもある。
この画像はロングヘアーだけど、基本的にはショートヘアーの女優です。
◆デミ総評◆
以上をもって『デミ映画特集』はグダグダな形で終わることになる。
改めてデミ・ムーアと向き合った一週間だったが、この機会を通じて学んだことは「やっぱりそんな大した女優じゃねえな」という実に意義深いものだった。
栄えあるゴールデングローブ賞は一度だけノミネート。反して、不名誉なゴールデンラズベリー賞は8回もノミネートor受賞しているのだ。
高飛車な性格。撮影現場ではしょっちゅう監督やスタッフをクビにする。3000万円以上かけて美容整形する。所かまわず乳を放り出す…など数々のセレブ的蛮行を働いてきたことでも有名。しかも、どう考えても頭の悪そうなアシュトン・カッチャーと15歳差の結婚、そして離婚。
今となっては「ブルース・ウィリスの元嫁」という通称でどうにかこうにか罷り通っているセレブババアである。
とは言えですよ。
空前の大ヒットを記録した『ゴースト/ニューヨークの幻』(90年)の頃はたしかに魅力的だった。
それに、青春映画やラブストーリーだけでなく硬派な映画にも積極的に出演したり、人気絶頂期にも関わらずヌードになったり坊主にするなど演技派に転向するための方法論を打ち出したのも彼女(これに感化されたのはメグ・ライアン、ナタリー・ポートマン、アン・ハサウェイなど多数)。
デミが提唱した演技派転向メソッドが裏目に出るケースも多々あったが、「たとえ全盛期だろうが何だろうが守りに入らない姿勢」は評価されるべきだ。
結果論としては駄作~凡作に出演作の大部分を覆い尽くされたデミだが、決して手数を減らすことなくパンチを打ち続けた攻めまくり女優でもあるのだ。
今やゴミ同然のB級アクションに出まくってはセコセコと小遣い稼ぎをしている元夫のブルース・ウィリスよりも、よっぽどチャレンジ精神という名の玉砕精神に溢れているではないか。
ビバ・ムーア!