シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

スパルタンX

スパルタン遺書フォーユー。

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1984年。サモ・ハン・キンポー監督。ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポー

 

スペインのバルセロナ。小粋な町並みを臨むパン屋の2階に下宿するトーマスといとこのデビッドは、町なかの公園広場にキッチン・カーを止め、ハンバーガーやコーヒーを売って日々暮らしていた。今日もスケートボードを軽快に乗りこなして注文を取るトーマスと、車中で料理をこなすデビッド。そんな彼らのもとにある日突然、シルビアという女性が助けを求めて逃げ込んできた…。(Yahoo!映画より)

 

ちす、みんな。

雨ががんがん降っているので昨日は映画を3本観ました。何の映画を観たかは教えてあげない。

ていうか髪の毛が伸びてきて鬱陶しいです。そろそろ切りに行きたいけど、切りに行くためにまず電話で予約しないといけないのがさらに鬱陶しい。そもそも「髪を切って銭を払う」という行為が不思議で仕方ないです。髪はなくなるわ銭もなくなるわで、こっちとしては色んなものを失いまくりで、なんかフェアじゃない気がする。散髪という行為には獲得性がないのだ。いわば身体の一部を失ってスッキリするための施術行為であり、それが産業として確立しているという不思議。

そんなわけで本日はスパルタンXです。

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◆未来のキミにこの評を捧げます◆

「あ、今日はジャッキー映画か~」とお思いの皆さんの内の約89パーセントは「じゃあ、ええわ。カンフーに興味ないし」なんつって素晴らしい結論に辿り着いたことかと思います。今すぐページを閉じ・たい・キンポーな気持ちを尊重します。

実際、ジャッキーファンの私でさえ、ジャッキー映画を「片っ端から観る時期」と「まったく観ない時期」がある。私だって、ジャッキー映画を観ない時期にジャッキー映画の暑苦しいレビューを見ても「今はカンフーとか、そういう気分じゃないから…」といってページを閉じ・たい・キンポーな気持ちになる。

だからおまえたちの気持ちはよく分かる。

だけどね、踵を返して帰っていくおまえたちの背後から、私はこう叫びますよ。

 

これからの長い人生、いつかどこかでジャッキー映画と巡り会う日は来るから、その日が来たら「あ、そういえば昔『シネマなんとか』みたいなバカがやってたブログでジャッキー・チェンのレビューが上がってたけど興味ないからスルーしたな~」という過去の過ちを思い出して、ぜひこの評を読んでくれ!

 

ハイ。

おかえりなさい、未来のキミ。この数十年は楽しかったですか。キミがこの文章を読んでいる頃、私はすでにこの世にいないと思う。アリゾナで謎のサボテンでも食べて死んでしまったのだろう。

だからこの評は、初めてジャッキー映画に触れたキミへの遺書となる。それでは遺書としての『スパルタンX』評の始まりだ。


◆春巻兄弟、美女を救う◆

なんといってもジャッキーユン・ピョウサモ・ハンの共演が呼び物。

プロジェクトA(83年)『サイクロンZ』(88年)を含めて「三神三部作」と勝手に呼んでいます(厳密には『福星』シリーズでも三者共演してるけど)

さて、そんなスパルタンX。最後に観たのが20年前なので、いま観返すと「こんな映画だったのか!?」と驚愕した。

とにかく前衛的でちょっと狂ってる作品なのである。

監督はサモ・ハン・キンポー。ジャッキーと同じく監督・出演を兼ねた元祖・動けるデブである。

 

映画は、同じアパートで目覚めたジャッキーとユン・ピョウが朝のトレーニングをするシーンに始まる。腕立て、腹筋、そしてスパーリング。

ワンルームで共同生活する男二人…。汗を飛ばし合う男二人…。

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「こんなに激しいトレーニングをするなんて、二人は刑事なのだろうか?」なんて思っていると、移動式屋台「スパルタン号」に乗り込んだ二人はバルセロナの公園で春巻を売り始めるのだ!

二人の正体はただの春巻売りだった。

筋トレの意味!!

スケボーに乗って注文を取るジャッキーと、春巻づくりに勤しむユン・ピョウ。

なんやこれ。

二人が公園に現れた暴走族をライダーキックで退治したことで、冒頭のトレーニングシーンが説話的な必然性を持つっちゃあ持つが、「なぜ春巻売りの二人がこんなに強いのか?」という謎は解明されない(ジャッキーとユン・ピョウだからというトートロジーに行き着くのみ)。

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春巻売りがライダーキックで暴走族を撃退する。

 

ちなみにジャッキーの役名は「トーマス」で、ユン・ピョウは「デヴィッド」。純度100%の香港人なのに。

そして現地のスペイン人がなぜか全員広東語を話す。

むちゃむちゃですやん。

このようにおかしな点は多々見受けられる映画だが、バカな春巻兄弟を眺めているだけで幸せな気持ちになれるので、いいよもう、大目に見るよ。

とにかくこの二人が愛すべきマヌケなのだ。たとえばスパルタン号を洗車しているユン・ピョウが、前から歩いてきたスペイン美女に見惚れ、よそ見したままバケツの水を車にかけた(つもりだった)。

すると、まぁ、こうなるわけです。

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もはやコント。


ユン・ピョウの父さんが精神病院に入っているというので、仕事帰りにお見舞いに寄った二人だが、そこには時計になりきった男友達をビンタをする男など奇天烈な精神病患者が大勢いた。そしてこのギャグが長いのなんのって!

ていうか精神病患者で笑いを取るなど、今の時代なら即アウトだろう。さすがはタブーに踏み込むサモ・ハン

Mr.BOO!』でお馴染みのマイケル・ホイや、ジャッキー映画の名脇役として皆さんご存知のリチャード・ン斎藤洋介似のシャクレ俳優)が患者役として出演しているので、このあたりも見所満載です。

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時計男ビンタ男イカれすぎててちょっとついていけないシーン。

 

さて。ジャッキーとユン・ピョウの春巻兄弟は、女泥棒のローラ・フォルネルに出会って一目惚れ。だがローラは謎の組織から狙われており、私立探偵のサモ・ハンもまた彼女を捜している。

アパートに匿っていたローラがさらわれたというので、春巻兄弟は名探偵サモ・ハンと協力して敵の根城に殴り込みをかけるのである。

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探偵に扮するサモ・ハン。この屈託のない笑顔。


映画人サモ・ハンの演出の妙◆

なんといっても素晴らしいのは三者のキャラクターである。

アクション担当のジャッキー、ロマンス担当のユン・ピョウ、コメディリリーフサモ・ハンという具合に、三大エンタメ要素が綺麗に分担化されているわけ!

そんな三人が「姫を守る」という目的のもとに敵陣を突破し、さらわれたローラを救出するのだ。隠し砦の三悪人(58年)ですよ、これ。

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紅一点の美女ローラちゃんのスペシャルフォトをつくりました。

 

また、共同生活を送るうちに擦れっ枯らしのローラと仲よくなった春巻兄弟は、彼女をウェイトレスとして雇って屋台業を活性化させるという本筋逸れまくりのビジネスシーケンスも! なんやこれ!

ローラに岡惚れしている人見知りのユン・ピョウに、ジャッキーが恋のキューピット役に回って背中を押してやる…という微笑ましいシーンも実は巧く出来ていて、恋と友情を同時に描きつつ最後は笑いに変えるという、これまた三大エンタメ要素を並行的に見せるという…ちょっとトンデモないことをしてるわけですよ。

これだけ巧みなストーリーテリングを決して披瀝するのではなく、あくまでさり気なく処理する態度も慎ましい。まるでお手玉のように三大エンタメ要素をポップに捌いていく品のよさ。やはりサモ・ハンは映画人としても只者ではない。

 

本作は海外市場を狙った作品なので、カンフーだけでなくカーチェイスもあります。

わけてもワゴン車「スパルタン号」が宙を舞うシーンには唖然。カーチェイスが生まれてからまだ15年ぐらいしか経ってないのに現代のアクション映画より凄いことしてるぞ!

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題『空飛ぶワゴン』。


そしてローラ救出作戦を決行した三人が敵の牙城に侵入するクライマックスだが、驚くべき呆気のなさで全員が捕らわれてしまう(ドジばかりなのだ)。

悪の親玉はやけに優雅なヤツなので三人を晩餐会に招いてディナーを取るが、三人は隙を突いて暴れ出す!

これぞ豪腕。正面から立ち向かっても敵わないから侵入したのに、あっさり見つかって暴れるって。そして全員やっつけちゃうって…。

侵入した意味!!

まさに豪腕である。

 

豪腕といえば、ジャッキーが戦ったベニー・ユキーデに触れないわけにはいくまい。

61戦58勝のプロ格闘家で、ジャッキー映画史上トップクラスの強敵を演じた。

否、「演じた」のではなく本気で拳を交えており、ジャッキー自身が「ベスト・ファイティング」の1位に選ぶほど鬼気迫る戦いを見せてくれる。

すさまじい死闘を演じた二人もすごいが、真にすごいのは息を呑む大迫力の戦いを演出した監督サモ・ハンだろう。

ジャッキーがテーブルを背に猛ラッシュを受けるショットでは一発殴られるごとに巨大なテーブルが少しずつズリ動く。ユキーデの回し蹴りをジャッキーがかわすと、かわした先にあった燭台の3つの火が風圧ですべて消える。

周囲の静物を使って「運動」のダイナミズムを最大限まで引き出すという妙技!

また、それによってユキーデのラスボス感も引き出され、「今回の敵は段違いに強いぞ…」と観る者をしてわななかせるのである。

また、それに打ち勝つジャッキーの演出もいい。本気で痛がっているリアクション・ショットをたっぷり挿入し、「鼻血を出して服を脱ぐ」という動作が覚醒のトリガーになっているあたりも巧い。

脇をくすぐったりイスに座って小休止を挟む…というコミカルな描写もアクセントになっているし、何といっても窓から落ちかけた敵を救うという優しさこそがジャッキー映画の精髄だ!

ジャッキー・ベスト・ファイティングの頂点に輝く伝説の5分30秒。本気度が尋常ではない。

 

そして三者揃ってフェンシングの合体技で悪の親玉をやっつけるという古き良きお約束も踏襲。

「我ら三銃士!」

ああ、コレね。『イッテQ』みやぞんが言ってたのは。

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事程左様に、きっちりと配置されたエンタメ要素と抜群の演出。と同時に意味不明なカルト精神が横溢したイビツなバランスの上に成り立っているのがスパルタンXだ!

ジャッキー映画の中でもトップクラスの完成度を誇るエンターテイメントの鑑である。

Netflixで最近上がったのでネフラーは要チェック。

非ネフラーはビデオ屋に走るべし!

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「我ら三銃士!」