奇人だらけの香港アベンジャーズ。
1988年。サモ・ハン・キンポー監督。ジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウ。
弁護士のジャッキーは、水質汚染で訴えられた悪徳化学工場から弁護を依頼される。しかし、彼は原告側の証人メイリンに一目惚れしてしまう。そこで、恋と仕事の両方を成就させたい彼は、極秘ミッションを開始。ところが友人のウォンとトンの大ゲンカに巻き込まれたり、工場に恨みを持つ連中から襲撃を受けたりでジャッキーの計画はうまくいかず…。そんな中、ウォンが工場で密かに麻薬を精製している事実を突き止める。(Amazonより)
ヘイみんな。ちす、ちす、ちっす。
本日のレビューだけど、完成間際にいきなりパソコンが落ちて書き直しという名の地獄を味わいましたよ。パソコンが落ちて画面が真っ暗になった瞬間、私は無意識裡に「オー、ファッキンボーイ」と呟きました。意訳すると「あぁ、そう来ますか~」とか「やってくれますね~」というニュアンスなんですよ、これ。
普通だったら「はぁ!!?」とか「ちょ、もうええって!!!」などと喚いて怒りを露にするシチュエーションだろうけど、私の場合は「オー、ファッキンボーイ」。
余裕たっぷりに…、エレガントに…、ときにアンニュイな色気すら漂わせつつ…。
というのも、書きかけの文章が吹っ飛んであじゃぱー、みたいな惨事はこれまで死ぬほど経験してきたので、もう慣れっこっていうか、PCが落ちた瞬間に0.4秒で状況を理解して、0.7秒目で「しょうがない」と諦め、1秒経つ頃には冷静さをバッチリ取り戻しているんですよ。だから「オー、ファッキンボーイ」なわけです。
とはいえ、失われた文章を書き直すのは地獄だし、何よりPCが落ちたことが怖くて、悲しくて…。だって一度落ちたってことはまた落ちるってことですからね。この次が怖ぇよ。
ていうか、落ちるのは『プロジェクトA』(83年)における時計台のジャッキーだけで充分じゃない? まったく、もう。
そんなわけで地獄の二度手間の産物たる『サイクロンZ』評です。最後が尻切れトンボで終わってますが、「あぁ、力尽きたのだな…」と思って許してください。
◆こんな弁護士がいるか!◆
ジャッキーが弁護士役なのだが、開幕2分でチンピラ相手に大暴れするという設定無視っぷりに思わず笑う。こんな弁護士がいてたまるか!
化学原料工場からの汚水が近くの漁場を汚染したとして訴えられた悪徳企業に雇われたジャッキーが、企業が漁場を買い取るという方向で訟訴を取り下げさせるために訟訴の代表者と水質学者に近づく。
だが、水質学者のポーリン・ヤンにジャッキーは一目惚れしてしまい、買収工作を依頼したブローカーのサモ・ハン・キンポーもまた訴訟代表者のディニー・イップに惚れてしまう。
まともなのは情報屋のユン・ピョウだけかと思いきや、思い込みの激しい性格で若干サイコも入っているので、事態はどんどんややこしくなっていく。
ポーリン嬢はジャッキーが敵側の弁護士だと知っていて、情報を引き出すためにあえてジャッキーの誘いに乗っている女狐。ディニー婦人は年齢コンプレックスから恋愛に踏み出せず、サモ・ハンの純愛を撥ねつけてしまうという「こじらせ熟女」。
全員、大いに問題あり。
80年代ルック丸出しのポーリン嬢(左)とディニー婦人(右)。
◆「三神バトルロイヤル」と「盗聴者サモ・ハン」◆
『プロジェクトA』(83年)と『スパルタンX』(84年)に続く「三神三部作」の完結編であり、サモ・ハンが監督を手掛けた。それが『サイクロンZ』、それこそが『サイクロンZ』。
でもこれねぇ…、ちょっと凡作っていうか、まぁ凡作なんですよ。
作劇と設定が妙にチグハグで、『スパルタンX』でさまざまな意匠を凝らしたサモハン演出も影を潜めていて、どうも冴えていない。
だいたいジャッキーが弁護士役で敵側の弁護に立つ…という回りくどいシナリオが「ジャッキー映画の気持ちよさ」を邪魔しちゃってて、どうも抜けが悪い作品なのだけど、見所はありますよ。
まず、詳しくは後述するが『スパルタンX』よりも格段に狂っている。はっきり言ってきちがい沙汰のつるべ打ちです。
そして、なんといっても味方同士で大喧嘩する三神バトルロイヤルが見もの。ジャッキー、ユン・ピョウ、サモ・ハンが仲間割れして1対1対1の大乱闘を演じるさまは、さながら香港アベンジャーズである。もしくは大乱闘 春巻ブラザーズと言えるかもしれない。
しかもその後ちゃんと反省会もするしね。
謎の白い液体(まさか牛乳?)を飲みながらバーで反省会をする三神。
それにしてもメイン三人の役柄がどうもしっくりこないのである。
珍しくジャッキーはいけ好かないプレイボーイを演じているし、ユン・ピョウは敵と勘違いして味方に向かって刃物で襲い掛かること2回。
そしてディニー婦人の隣家に越してきたサモ・ハンは、謎の盗聴器を駆使して彼女の生活音を盗み聞きしようと画策するのだが…、その様子がこちら。
イカれとんのか。
どこで買ってきたのよ、その機械。俺も欲しいよ!
◆愛を取り戻せ!◆
そんな『サイクロンZ』、もはや何が「サイクロン」で何が「Z」なのかまったく分からないのだが、前半は「なりすましコメディ」としてそれなりに楽しめる。
もともとジャッキーとサモ・ハンは原告側を丸め込むためにポーリン嬢とディニー婦人に近づいたわけだが、交流を重ねるうちにMajiでKoiしてしまったのだ。某広末のように。
海辺でデートするジャッキー×ポーリン嬢。
釣り堀デートを楽しむサモ・ハン&ディニー婦人。
だがすべてが露見して女性陣から一気に嫌われてしまった二人は、驚くべき方法で愛を取り戻す。
サモ・ハンは人通りの多い道でディニー婦人の後を尾けながら、通行人の迷惑も顧みずに拡声器を使って愛を叫ぶのだ!
盗聴器といい拡声器といい…、文明の恩恵に浴して大胆なことし過ぎでしょ。
おまえは文明の申し子か?
また、車を飛ばすディニー婦人の前に立ちはだかって『101回目のプロポーズ』における武田鉄矢のごときチキンレースに興じることで、身をもって愛を証明するのだ。
車を停めたディニー婦人は「どいてよ!」と怒鳴ってスパナでサモ・ハンの頭をぶん殴る。ドグシュ!
頭からダラダラ血を流すサモ・ハンを見て「えらいことしてもうた…」と我に返った彼女は「なぜ避けなかったの…?」と心配そうに訊ねる。
「キミを愛してるからさ(ドヤ!)」
そんなスパナ。
しかも別れ際に血まみれのサモ・ハンに向かってディニー婦人が掛けた一言がこれ。
「お大事にね」
お前がやったんじゃねぇか、ババア!
一方のジャッキーは、弁護士だけに裁判所で愛を取り戻す。
原告側の証人として証言台に立ったポーリン嬢に、被告側弁護士のジャッキーは藪から棒に「僕を愛していますか!?」と質問するのだ。
原告側の弁護士は「本件とは無関係な質問です!」と怒り出すが(ご尤もだ)、裁判長はジャッキーに肩入れする。
「証人は答えるように。愛は若者にとって真剣な問題です」
もはや過不足なく、ただの感情論じゃん。
ポーリン嬢は、本心ではジャッキーを愛しているが、今は喧嘩中なので「いいえ、愛してません!」と答える。それに対してジャッキーはムキになり、裁判長はムキになったジャッキーの援護射撃に回る。
ジャッキー「嘘の陳述をすると偽証罪に問われますよっ」
裁判長「彼は近ごろ珍しい誠実な若者だ。証人も誠意を持って答えるようにッ」
ジャッキー「もう一度訊きますよ。僕を愛していますか!?」
うざ。
端的にうざ。
「はい」と答えるまで終わらないやつだ、これ。
RPGゲームでもよくあったよね。二択で質問してきたのに予め答えが決まっていて、求められた選択をしなかった場合「もう一度よく考えたらぁ?」なんて言われ、ご期待に沿う答えを選ばないと永久に次に進めない、自由意思もヘッタクレもないゴリ押しの誘導尋問。
さらに裁判長、こんなお洒落なことをポーリン嬢に向かって言う。
「判事として法律上の罪は裁けるが、愛の裁きまでは下せません。だから今はあなたが判事です。判決を待っていますよ!」
なにちょっと小粋なこと言っとんねん。腹立つわぁぁぁぁ。
するとポーリン嬢はついに観念して本音を吐き出した。
裁判所「ワァー」「ワァー」
ワァーやあるか。
裁判ほっぽらかして愛の茶番なんて演じやがって。俺が裁判長だったらハンマーみたいなやつバンバン叩きながら「ギルティ!」ですよ。全員死刑だよ!
◆忍者反比例の法則はやめろ◆
愛の問題を見事に解決した2人。残すは裏で麻薬製造をしていた悪徳企業を退治するのみ。
あ、言うのを忘れてたけど、ジャッキーが裁判所で愛の茶番を演じていたころ、サモ・ハンは敵に捕まってシャブ漬けにされていました。
「頭いたーい」といってぶるぶる震えるシャブ・ハン・キンポー。キョンシーみたいになっとる…。
この画像の面白さは敵がなんだかんだで冷えピタみたいなやつを貼ってあげてる…という申し訳程度の気遣いが表れてるところだと思います。
敵の工場に乗り込んだジャッキー、ユン・ピョウ、あと何故かポーリン嬢は、大勢の敵をバッタバッタなぎ倒しながら黒幕ユン・ワーを追いつめるのだが、『スパルタンX』に引き続きまたまた登場、ベニー・ユキーデ!
ユキーデは、工場に潜入したサモ・ハンをキック一発で沈めたほどの強敵だ。
これに立ち向かうユン・ピョウだが、彼もまたキック一発で轟沈。「ナイスキック!」とばかりに親指を立てて気絶するユン・ピョウの散り際がなかなか粋である。
かくしてジャッキーは、黒幕ユン・ワーと用心棒ユキーデを同時に相手取らねばならなくなった。これはキツい。
ユン・ワーは、サモ・ハンやユン・ピョウと互角に渡り合うほどの実力を持っている(もともとブルース・リーに見出されてスタントを務めていたアクション俳優だしね)。
だがこの2対1バトルにおけるユン・ワーは、ユキーデに気を取られているジャッキーを背後から一発蹴ってはササッと逃げる、といったハエのような鬱陶しい立ち回りで、なんか急に弱くなったというか…そもそも戦意すら感じられないの。
忍者反比例の法則だよ、これ!
「忍者反比例の法則」とは人数が増えれば増えるほど敵が弱くなる…という時代劇や特撮によく見られるお約束である。
敵が1人だと主人公にとっては脅威だが、2人になると敵の強さが50パーセントずつ分散して、これが10人や20人になると雑魚同然になる…という法則。
いかなジャッキーとて、ユキーデとのタイマンだけでも苦しいのに二人同時に相手取って勝つのはほぼ不可能だが、それだと映画が成立しないのでユン・ワーを思いきり弱体化させるという大人の豪腕!
フィクション作品でよく使われるマンガ物理学だけど、個人的にはちょっと萎えるんだよなぁ、これ。
主人公と敵対していた頃は強かったのに、仲間になった途端にちょっと弱くなるライバルとかさ。
「きみ、もっと出来る子だったよね?」っていう。
大人の事情で力を奪われたすべてのキャラクターに幸あれ!
疲れてきたので終わります! もうウンザリだ!
大人の事情で急に弱体化したユン・ワーこと横山やすし。鷹爪拳の使い手。シャブでふらふらのサモ・ハンにやられます。