シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

三月生れ

三月生れ最強説を唱えたササール映画。

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1958年。アントニオ・ピエトランジェリ監督。ジャクリーヌ・ササール、ガブリエル・フェルゼッティ、マリオ・バルデマリン。

 

三月生まれの女性フランチェスカは、まさに三月の天気のように気まぐれだった。中年男のサンドロと衝動的に結婚して、そのわがままぶりに夫は大いに頭を抱え
る。そしてあっと言う間に別居してしまうが…。

 

おはようございます。

基本的にパソコンで映画を観ると画質が落ちるのであまりしないのだけど、したときの話ですよ、これはしたときの話。

パソコンで映画を観てる最中にアップルのインストール通知みたいな画面がアワン…って出てきたりするとむちゃくちゃ腹が立つわけです。

映画というのは毎秒24コマの運動であって、その運動にどこまで立ち会いうるかという動体視力への挑戦なので、「更新した方がいいですよ」みたいなふざけた通知画面がアワン…って出てきて映画が遮られるのは本当に許せないわけですよ。

毎秒24コマの死に立ち合わせろ!

邪魔すんなボケがぁぁぁぁぁぁぁぁ。

だって×ボタンをクリックして通知画面を閉じるまでの数秒間は完全に見逃してるわけですから。私にとっては1秒でも見逃せば何も観てないことと同じなので本当にやめて頂きたいのです。

いわば映画館で後ろの席の奴からいきなり手で目隠しされるのと同じなんですよ。

キレるでしょ? 「毎秒24コマの死に立ち合わせろ!」でしょ?

もしその目隠しが映画館じゃなくて車を運転してる時だったらどうですか。ヘタしぃ事故死する場合だってあるわけですよ。それぐらい「一瞬」って大事なんだよ!

と、私がこんなことを言うと、サイゼリアでパスタばっかり食ってる貧乏ホストみたいな奴が「たかが数秒なんだから巻き戻せばいいじゃん」などと言ってくるのが世の常なのだが、映画は一回性のメディアなので巻き戻しは極力したくないわけです。

というわけでインストール通知のアワン…はマジで勘弁願いたいというお話でした。

よし、本日は『三月生れ』だな。いったるでー。

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一世風靡したササールコート◆

一年ぐらい前にTSUTAYA発掘良品でアントニオ・ピエトランジェリ『三月生まれ』『気ままな情事』(64年)が復刻された。あの頃のTSUTAYA発掘良品は狂ったようにイタリア映画ばかり復刻していたのだ(狂っていたのだろうか?)。

勿論どちらも観たのだけど、そのあとに超薄っぺらいレビューを書いてしまったので結局お蔵入りした。

だが今回! レビューストックが尽きてきたのでワードの奥底で眠っていた二本の評を引っ張り上げてアップしようと思った。時間を稼ぐために。


『三月生まれ』アントニオ・ピエトランジェリ監督、ジャクリーヌ・ササール主演のイタリア式コメディである。

ジャクリーヌ・ササールは50年代末の日本でも人気があって、この映画で彼女が着ていたコートはササール・コートと呼ばれてファッションを真似する婦女子が続出したという。ササール・コートを着てもササールにはなれないのに。

知ってましたか、ササールはたった10年で女優業を引退したのです。私は黄金のディケードの中でキャリアを終わらせる10年スターが大好きなのでササールの生き様が胸にササールというわけです。

そんなササールの代表作にこんなことを言うのもアレだけど、『三月生れ』はけっこうイライラする映画である。なにが『三月生まれ』じゃと。ほざくなと。

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一躍流行ったササールコート。


◆三月生れなら何してもいいのか◆

学生結婚した金持ちのじゃじゃ馬娘がワガママ三昧で夫を困らせるという描写の連続にイライラが募る。あれも欲しい、これも欲しい、もっと欲しい、もっともっと欲しい…っておまえはブルーハーツ

後半に至っては絶え間なく大喧嘩している夫婦が映し出されるのみ。

ローズ家の戦争(89年)『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』(90年)ほどカリカチュアされていれば笑い飛ばせるものの、ササールが演じた世間知らずの若奥様ぶりが等身大すぎて神経が逆撫でされます。


好き勝手に散財したり無理難題を要求して、それを咎める夫に逆上するという黄金パターンはプッツンヤンキーそのもの。彼女が気まぐれで横暴な性格になったのは、本人曰く「三月生れだから」らしい。

なんやそれ。

どういうことやねんそれは。三月生れなら何をしてもいいのか。三月生れ最強やないか。

ていうか、生まれ月が性格の悪さの免罪符になるなら俺だってぜんぶ七月のせいにするよ。ぜんぶ夏のせいだよ!

しかも、かろうじて頑是なさが残るササール(当時17歳!)のツンと澄ました美貌ゆえに却って憎さ倍増。

しかも彼女は、喧嘩三昧の夫と和解する策とはいえ「妊娠した」という嘘をつくのだ。この時ばかりはあれほどいがみ合っていた夫も涙を浮かべて欣喜雀躍。「まじかよ。やったじゃん。毎日ぷりぷり怒ってごめんね、ササール」。そのあとに嘘が発覚して、夫は絶望の底に叩き落とされる。「ササールの嘘が胸にササール」とか言って。

気の毒である。この嘘はいけませんなぁ…。

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バチバチにいがみ合う夫婦。


◆結婚生活に二人分の幸せはない◆

かといってプッツン若奥様だけが悪者なのかといえば決してそうではなく、むしろ本作の根底には男性批判が裏テーマとして流れている。

ガブリエル・フェルゼッティ演じる夫は一見まともな良識人だが、妻との別居中につい浮気に走ってしまったという事実をさり気なく告白している。

なによりこの物語自体が、すでに別居中のササールがこれまでの夫婦生活の紆余曲折を男友達に語って聞かせながら回想する…という構成で、その男友達はササールの傷心に付け込んで寝取る気満々、パーティーや高級レストランに連れ回しては会話の端々に口説き文句を挟むような下心まる出しの馬鹿豚プレイボーイなのだ。

ササールのワガママ三昧が映し出される回想パート(かつての夫婦生活)だけを見れば「なんたる女!」と辟易するが、映画そのものを俯瞰して見た場合「男と女、果たしてどっちが愚かなんでしょう?」というピエトランジェリの問いが見えてくるというイジワルな仕組みになっていて。

 

ミラノの贅沢な景色に加えて、「結婚生活に二人分の幸せはない」という格言が炸裂したイタリア式コメディの隠れた凡作。凡作なのに隠れているという始末に負えないシロモノだが、まぁ普通に楽しめる作品だと思います。特に観る必要はないが、どうしても観たいならTSUTAYA発掘良品でババンと展開しているのでTSUTAYAにゴーすればいいと思う。

ちなみに隙っ歯美女の名を欲しいままにしたジャクリーヌ・ササールは、のちにヴァレリオ・ズルリーニの『激しい季節』(59年)や、クロード・シャブロル『女鹿』(68年)に出演。手にしたマネーで隙っ歯を矯正したという。

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写真ではなかなか歯を見せないササール。