シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

イベント・ホライゾン

サム・ニールが暴走しすぎて誰ニール状態。

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1997年。ポール・W・S・アンダーソン監督。ローレンス・フィッシュバーンサム・ニールジョエリー・リチャードソン

 

西暦2047年。調査救助船が海王星への極秘任務に飛び立つ。その目的は7年前に海王星で消息を絶った超深度宇宙探査船イベント・ホライゾン号の救助だった。実はイベント・ホライゾンには重力制御による新航法システムが取り入れられており、今回の作戦に特別参加したウェアー博士はそのシステムの開発者だった。やがて海王星イベント・ホライゾンの姿を捕えた一行は船内に侵入するが、同時にクルーが幻覚や幻聴に苛まれるようになっていた…。(Yahoo!映画より)

 

おはようございます。

私はマンションの入り口ですれ違った住人と「どうも」とか「こんばんわ」なんつって挨拶を交わすことに人生の喜びを見出しているのだけど、こないだ「お疲れ様です」と言われたときは少しく違和感を覚えた。

そのときの私はぜんぜん疲れてなかったからだ。

疲れてもないのに「お疲れ様です」なんて言われたらヘンに恐縮してしまうというか、もっと疲れた方がいいのかななんて思ってしまうし、そもそも仕事とは関係のない所で「お疲れ様です」と言う行為自体に一抹のおかしさを感じてしまう。

よく居酒屋なんかで乾杯の掛け声として「お疲れー」などと言い合っているが、疲れてるなら家帰って寝ろと。しかもそういう人民って、たいてい飲み食いしながら大騒ぎするじゃないですか。疲れてへんやないかと。居酒屋で騒ぐぐらい体力あり余っとるやないか。まるで元気100%リーマン。風の子、つよい子、元気の子。

なので私は、もし居酒屋で友人から「お疲れー」と言われたときは「大して疲れてないし、そっちもそんなに疲れてるようには見えないけど、一応礼儀としておまえを労います」と言って乾杯をします。

あ、あと乾杯という行為も好きじゃないんだけど、その話はまた今度。

そんなこって本日はイベント・ホライゾンをピュッと語っていきませう。

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◆不安材料たっぷり映画◆

ポール・W・S・アンダーソンといえばバイオハザードシリーズを代表作に持ち、バカ監督ランキングTOP10マイケル・ベイと首位を争うほどのおバカさん。

妻はバイオハザードの主演女優ミラ・ジョヴォヴィッチ。ミラジョボをアクション女優にしてしまった張本人なので来世で罰を受ける確率は高い。

また、映画通がだいたい心酔しているポール・トーマス・アンダーソンと名前が似ていることから「ダメな方のアンダーソン」と呼び親しまれている。

そんなダメーソンの初期作イベント・ホライゾンを予備知識ゼロで初鑑賞した。だからこの作品が伝説のカルト映画になっていることも知らなければ、2015年にはwatch mojoが選ぶ「ダメ監督のまぐれ名作映画TOP10」で8位に輝いたことも知らないまま鑑賞に臨んだわけだ。

 

正直に言って、オープニングクレジットでポール・W・S・アンダーソンの名前をみとめた時点で「絶対アカンやん」と思った。この監督、打率0割だからね。そもそも野球のルールすら知らないので日本刀を持ってバッターボックスに立つような男なんですよ。

さらにはマトリックス(99年)ローレンス・フィッシュバーンジュラシック・パーク(93年)サム・ニールという豪華でも質素でもないビミョーな配役が不安を掻き立てる。

マトリックスジュラシック・パークはともかく、基本的にこの二人はなんにでも安請け合いしてしょっぱい映画に出まくっているので不安しかないわけだ。

しかも製作総指揮と脚本がゴリゴリのド新人。キャリア皆無。詳細不明。

絶対アカンやん、この映画。

暗雲垂れ込めるっていうかすでにちょっと雨降ってるんですけど…っていう、そんなオープニングでした。

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90年代にそこそこ活躍したローレンス・フィッシュバーン(右)とサム・ニール(左)。

 
◆清々しきパクり芸◆

7年前に消息を絶ったイベント・ホライゾン号から救難信号があり、フィッシュバーンが艦長を務める宇宙戦艦モーフィアスはサムニール博士を特別ゲストに迎えて救助へ向かう。イベント・ホライゾン号は何光年も離れた恒星に瞬時に移動できるというトンデモアイテム「コア」を搭載しており、それを開発したのがサムニール博士なのだ。

あっという間にイベント・ホライゾン号を発見して艦内を調査するクルーたちは、そこで惨たらしい死体を目の当たりにする。もともとこの船に乗っていた乗組員のものだろう。フィッシュバーン艦長は「なんだこれ。どうなってんだ」と訊ねるが、サムニール博士は「どうなってんだろうな」とオウム返しした。無駄な会話であった。

そうこうするうちにクルーたちが幻覚や幻聴に苛まれ、映画はやおらホラーテイストに…。

そのうえ、なぜか宇宙戦艦モーフィアスが破損したためにクルーたちはイベント・ホライゾン号の中に閉じ込められてしまう。船の中枢には美しくも不気味なコアがクルクル回っていた。

フィッシュバーン艦長はもう一度「どうなってんだ」と訊ねるが、サムニール博士はやっぱり「どうなってんだろうな」とオウム返しした。だがその反応はどこか白々しい…。

この宇宙船には確実に何かがいる。どうやらエイリアンや幽霊の類ではないらしいのだが、何かがクルーたちをじわじわと追い詰め、ついには殺害するまでに至る…。

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イベント・ホライゾン号の中をほっつき歩くクルーたち。


軽くネタバレすると、サムニール博士が作ったイベント・ホライゾン号のコアは意思を持っており、そのコアがやんちゃをしてクルーたちを死に至らしめていた…という事実が発覚する。

どう考えてもHAL9000です。お疲れ様です。

勘のいい読者なら、これが2001年宇宙の旅(68年)HAL9000をモロにパクっていることにお気づきあそばせただろう。

2001年宇宙の旅だけならまだしも、この映画はさまざまな映画を局所的にパクっており、私がすぐに分かった映画だけでも『禁断の惑星』(56年)惑星ソラリス(72年)『エイリアン』(79年)『シャイニング』(80年)ヘルレイザー(87年)『スフィア』(98年)などなど。ファーストシーンからラストシーンまで「どう考えても○○です。お疲れ様です」の連続。

言うまでもないがパクりは悪いことではない。

第一、ポール・アンダーソンにオリジナリティが欠如していることなど全人類の94.9パーセントが知っているのだから。

『モータル・コンバット』(95年)然り『エイリアンVSプレデター(04年)然りデス・レース(08年)然り『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(11年)然り、リメイクorロールモデルありきの映画しか手掛けない(手掛けられない)ことなど百も承知なのだ。

7000万ドルもかけた宇宙船のデザインやガジェットには目を見張るものがあるが、それとて2001年宇宙の旅のパクり。サムニール博士が亡き妻との記憶に苛まれる幽霊譚は惑星ソラリス、後半に出てくる血の洪水は『シャイニング』…と、さまざまな映画をパクり倒していて、ここまで堂々とパクっているとそれはもはやパクりですらない…とさえ思うほど、ある種の清々しさに満ちた剽窃映画なのである。

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いたずら好きのコアちゃん(画像左側のイガイガボール)。


スプラッター史をちょっと変えた功績◆

以下、グロ画像あり。

さて。いよいよ物語も佳境。

コアに取り憑かれたサムニール博士はクルーたちを片っ端から殺して回る。なんでそんなことするの。

そのうえ「私は世界を見る必要すらない。目がなくても多分イケる」などとわけのわからないことを言って自分の両目を潰したのには笑った。

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誰ニールやねん。

なんでこんなことになるの。

おまけにコアのパワーを授かった誰ニール博士は何にでも姿を変えられて炎を操る能力までゲットする。おう、もう好きにやってくれ。

そしてフィッシュバーン艦長と一騎打ちするのだが、「おら」「おら」とか言ってど突き合ってんの。絵面が貧相でめちゃめちゃ笑った。曲がりなりにもSF映画なのに決着のつけ方が筋肉勝負というあたりに知能の低さが窺い知れます。

ちなみにSF筋肉映画といえばプレデター(87年)だよね!

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関節技でフィッシュバーンを苦しめる誰ニール。

 

そんな誰ニール、生き残ったクルーを射殺しようとするも自分で自分の目を潰したせいでトンチンカンな方向に銃を撃ち、うっかり船内の窓ガラスを割っちゃってそこから宇宙空間に吸い出されて死ぬ…という結末にもうひと笑い。

フィッシュバーン艦長が「こんな船は爆破してやるんだー」といってイベント・ホライゾン号をドカンドカン爆発させるがすでにこっちはドカンドカン笑っている状態で

 

ポール・アンダーソンのキレキレのギャグが評価されて、本作はカルト的な人気を博した。

好きな映画の話をしていてセンスがいいと思われたいなら中途半端にしゃれた映画を挙げるよりもイベント・ホライゾンを挙げた方がよい。ただし「本当に好き!」というニュアンスで伝えてしまうとただのバカと思われるので「ギャグ映画として観るぶんには最高」という斜に構えた態度を強調せねばなりません。「相当ハイセンスな奴だ…」と一目置かれること請け合いである。


ところがどっこい、まじめに褒めておきたい部分もあるのね。

映画後半はコアが生みだした幻覚や、サムニール博士がクルーたちを連れて行こうとする地獄のビジュアルが画面を覆いつくす。かなりグロテスクな映像なのだが、スチームパンク風のデザインとインダストリアルなグラフィックがとても洗練されていて。たしかにヘルレイザーのパクりと言えばそれまでなのだが、パクったにしては唯一無二の世界観を築いている。オープニングとエンドロールで流れるダークテクノの絶妙なダサさもいい。

時を同じくして公開された『キューブ』(97年)と並走しながら『SAW』(04年)以降のスプラッター描写に影響を与えた作品として映画史の片隅になら刻まれてもいいと思います。

実際、多くのヘヴィメタルバンドがこの映画に想いを馳せた曲を作るなど、とりわけホラー好きやヘビメタ好きから熱く支持されているご様子。

確実にポール・アンダーソンの最高傑作といえます! 他がすべてゴミなので。

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サブリミナル的に挿入される地獄のシーン。わずか数秒しか映らないが大変な話題を集め、本作最大の見せ場になった。

 

追記

誰も興味のない情報をつけ加えておくと、我が思い出の映画『101』(96年)で妻のアニタを演じたジョエリー・リチャードソンがクルーとして出演しているぞ!!!

最後まで生き残…。

おっと、これだけはネタバレできない。「る」なのか「らない」なのかは是非あなたの目で確認されたし! 興味ないとかやめろ言うな。

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ジョエリー・リチャードソン…50歳を過ぎてもこの美しさ。おっほ。ちなみに母はヴァネッサ・レッドグレイヴ(こないだ酷評した『ローズの秘密の頁』の老婆です)。