シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー

オバケのK四郎がずっと妻見てる映画。

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2017年。デヴィッド・ロウリー監督。ケイシー・アフレックルーニー・マーラ

 

田舎町の一軒家で若い夫婦が幸せに暮らしてたが、ある日夫が交通事故に遭い、突然の死を迎える。病院で夫の死体を確認した妻は、遺体にシーツを被せて病院をあとにする。しかし、死んだはずの夫はシーツを被った状態の幽霊となり、妻が待つ自宅へと戻ってきてしまう…。(映画.comより)

 

おはようございます。

私は幼い頃から若白髪が多くて、ちょっと目を離した隙に白髪が生えているといったことがあるわけですけども、白髪染めというものにはいささか抵抗があるのです。

毛髪にベタベタしたものを塗布したあとに数十分待たないといけないじゃないですか。あの待ち時間が実にしゃらくさいわけです。半裸で頭オールバックにして数十分待つ。「え、これ何の時間?」と思ってしまって、阿呆らしくなってくるんですよね。「不適切な踊りでもしてやろうか」と、こういうふうに思うわけです。

だから白髪を見つけた場合は「ちぎる」もしくは「見なかったことにする」という高等戦術を採っております。

話すことがなさすぎて、ついこんな話をしてしまっておりますね。恥多き人生です。

というわけで本日は『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』についてペロッと語っちゃう。

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オバケのK太郎がずっと妻見てる映画

今年ルーニー・マーラを観たのはこれで四度目だ。一度目は『ウーナ』(16年)、二度目は『タナー・ホール』(09年)、三度目は『ローズの秘密の頁』(16年)

惜しむらくは『ウーナ』以外の二作が怠惰な作品であり、去年観た『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』(15年)もバカみたいな出来だったので、ルニラーの私もそろそろ我慢の限界に達している。

ほかにもNetflixオリジナル作品の『ザ・ディスカバリー(17年)が配信されており、12月5日にはマグダラのマリア(18年)のDVDレンタルが始まり、来年にはガス・ヴァン・サントの新作『ドント・ウォーリー』(18年)の公開も控えている。

最近ルーニー・マーラがやけくそみたいに映画に出まくっている状況を素直に祝福できないのは石多めの玉石混交がすげえからである。まぁ、中にはいい映画もあるのだけど。

下手なマーラも数撃ちゃ当たルーニーとはよく言ったもの。

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そんなわけで『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』も決して楽観的な態度で観たわけではないのだが、これが存外よかったのでご報告申し上げる。

この作品は、ケイシー・アフレック演じる死んだ夫が幽霊となって妻のルーニーを見守り続ける…という妻凝視映画の急先鋒である。

ホラーでもなければロマンスでもなく、いわば死者の魂は何によって救済されるのかというテーマに釣瓶を落とした観念的な内容になっているので、まずヒットしないし賞レースで目立つこともないだろう。

ちなみに、大抵の映画なら公式サイトに「著名人の絶賛コメント」があったりするが、本作の公式サイトにはそれすらなかった。というかコンテンツ自体がひどく貧しく、それはそれは幽霊のようにひっそりとしたサイトだった(「おもんね」と思って14秒で閉じた)


主演のケイシー・アフレックについてだが、彼はベン・アフレックの愚弟として知られるメチャ地味な俳優である。

彼はじつに素朴な奴で、マンチェスター・バイ・ザ・シー(16年)では親友のマット・デイモンから役を譲ってもらってアカデミー主演男優賞をゲットしたが、その後一向に仕事が増えない。M-1で優勝したのに全然売れないパンクブーブーみたいな俳優だと思ってもらえればよい。

そんなケイシーとルーニー『セインツ -約束の果て-』(13年)というたいへん綺麗な映画で共演しており、その監督が本作を手掛けたデヴィッド・ロウリーである。

なお、ケイシーは本作でオバケを演じたのでオバケのK四郎、略してオバKと呼ぶことにします。悪いな、ケイシー。

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◆変なアスペクト比によって我々はオバケと同化させられる◆

内容を語っておもしろいような作品でもないので、もっぱら表層批評に徹する。つまり退屈な文章を書くつもりだ。

ファーストショットを観てまず驚かねばならないのは画面アスペクト比スタンダードサイズ(1.33:1)だということなのだが、四隅を丸く縁取っているので我々の知るスタンダードサイズよりも一回り小さい。スタンダードというより、むしろグザヴィエ・ドランの悪戯心によって発明された「インスタグラム・サイズ」を思わせる画面なのである。

インスタグラム・サイズグザヴィエ・ドラン『Mommy/マミー』(14年)でインスタグラムのような正方形(1:1)のアスペクト比を使ったことから命名された新たな比率。

だが、オアシスの「Wonderwall」に合わせて左右の黒帯が広がりシネスコ(2.35:1)へと劇的伸張を遂げた『Mommy/マミー』に対して、本作の疑似スタンダードサイズは最後まで変わることはない。

私の後ろで観ていた客が「(画面)ちっちぇー」と漏らした一言に笑ってしまったのだが、たしかにちっちぇー。

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なぜこれほど画面がちっちぇーのか。

丸く縁取られた画面が「覗き穴」を彷彿させるように、まさに窃視の感覚を表現するためなのだろう。

この作品は、夫を失ったルーニーが彼女をすぐ近くから見守り続けるオバKの存在に気づかないまま寂寞たる生活を送るさまを描いているため、観る者はスクリーン越しにオバKと同化して誰にも気づかれずに誰かを見続けることの孤独を強いられるはめになる。せつない。

ルーニーが家を出て行ってしまったあと、その家にヒスパニック系の家族がやってきて住み始めるが、オバKはルーニーとの思い出の家から出ることができず、不本意ながらもその家族と共棲するというシュールな生活に身を置くことになる(もちろん家族はオバKに気づいていない)。

したがって家族間でおこなわれるスペイン語の会話に字幕が付くことはない。

オバKはルーニーと意思疎通できないようにこの家族との意思疎通も断絶されており、オバKの側から映画を観ているわれわれもまた(スペイン語を解さない限り)彼らの言語が理解できないのである。まさにアメリカ人が『犬ヶ島』(18年)を観た感覚を疑似体験させられるのだ。せつない。


◆時が止まったフィルム◆

布一枚かぶせただけのオバケの造形といいシンメトリーな構図といい、何をおいても鮮烈なビジュアルが目を引く作品だ。そしてそれがおかしなスタンダードサイズの中にちょこんと収まっていることの奇妙。また、音の演出も非常に際立っているが、書いても読んでもあまり楽しくない文章になりそうなのでこれは省く。

それより時間の省略法がちょっと面白かった。

夫の死後、家の奥から現れたルーニーがドアを開けて外に出ていくと、今度はべつの服を着たルーニーがまた家の奥から現れドアを開けて外に出ていく…というのが繰り返される。これによって数日もしくは数ヶ月が経過したことを表しているわけだが、すべては同一ショットの中でおこなわれるため、あたかもルーニーが大勢いるーニーみたいなシュールな映像が観る者を不断に惑わせるのである。

 

時間の省略がなされる一方で時間の伸長にも特徴を持つ本作。

基本的には長回し主体だが、「緊張感を出すため」ではなく「日常を引き延ばすため」にこそ長回しが用いられているので、観る人によってかなり好みが分かれる作品だと思う。

たとえば、夫を失ったルーニーがキッチンでパイを食い続けるショットが7分ぐらい続くのだ。生地の厚いパイにフォークをがんがん突き立てて一口サイズに切り、それを口に運んで咀嚼している間に次なるパイを切りわけて一心不乱に食べるーニー。

そしてトイレに駆け込んで吐く。

夫の死を受け止めきれない彼女が急にその死を実感して吐き気に襲われる…というシーンなのだが、それにしても長い。もはや途中から「長い」とさえ思わなくなるようなショットの持続性に、われわれの時間感覚はやがて死に絶え、映画は完全に停止してしまう。とはいえ、この演出の意図はわかる。

死んだ夫と死なれた妻にとって、二人の時間は止まったままなのだ。

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キッチンに座り込んでパイにフォークを突き立てルーニー(延々7分続きます)。


そんなわけで、何とも不思議な作品でございました。

映画に物語を求める人にとっては、爆睡、ことによると爆死するほど退屈な92分だろうが、クライマックスにはちょっと吃驚するような急展開が用意されているので、ぜひ興味を持って頂きたいと思います。

また、ルーニー・マーラの優れたアップショットが満載なので、私にとっては恍惚のバカ面を引っ提げての鑑賞となりました。

あとケイシー・アフレックはヘンな布を被せられて可哀そうだなって思った。こんな役誰がやっても同じやないかと言いたいが、だからこそケイシーが抜擢されたのだろう。がんばれケイシー。

ルーニーもがんばれ。正直言ってマグダラのマリアを観るのが怖い。かなり不安を感じているが、引き続きルーニーウォッチングを継続したいと思う。

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ビビッドなショットが満載であります。