シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

デッド・レイン

ピーターって誰やねん。

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1999年。マイルズ・コーネル監督。クリストファー・ウォーケンシンディ・ローパーヴェラ・ファーミガ

 

ビクターは自動車の修理工として働いていたが、かつて巷を騒がせた金庫破りの過去を持っていた。あるとき、マイケルという男が現われ、彼に自分の立てた金庫破り計画に協力してくれるよう依頼する。一度は断るビクターだったが、生活が行き詰まっていたため、愛する家族のためにやむなく仕事を引き受ける…。(Yahoo!映画より)

 

おはよう。

年末年始に10本ぐらい映画を観たので評の執筆に追われています。

まとめてがっつり観てしまうと一本一本の映画を失念したり混同したりするので、一気に観るのはレビュアーにとってあまり望ましくない。一本観ては評を書き、一本観ては評を書き…というペースが理想なのです。

欲を言えば映画を観てから評を書くまでに1週間ほど冷却期間を設ければ尚よし。

観た直後にレビューするとその時の感情に流された勢い任せの文章になってしまうので、私はしばらく寝かせるようにしている。

もちろん、観た直後の興奮冷めやらぬ状態で執筆するライブ感とかフレッシュ感は素晴らしいものだけど、興奮とか感情に流されないのが批評ですからね。

1週間経ってもありありと目に浮かぶイメージ…。それが名シーンであり名ショットなのです。

それで言えば、公開中に劇場で観てもあえてDVDレンタルが始まるまで評をアップしない…というのもひとつの戦略なわけです。現在公開中の映画の評論とかツイートなんてロクでもない感情論ばかりだし、あまり劇場に足を運ぶ習慣がない人にとってはレンタル開始日に合わせて評をアップした方がその映画にアクセスしやすいんですよね(近場のレンタル店や動画サービスの有料配信で手軽に観てもらえるので)

 

あれ。なんでこんな話になったんだろう。わからねえ。わからねえから『デッド・レイン』をお見舞いしてやる。

偉そうに映画批評論を語ったあとで申し訳ないが、中身スッカスカです。

これはひどい

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◆楽しみ方が分からんわ。この映画の◆

いきなり結論めいたことを言うようだが 気ィ失うほどつまらない。

クリストファー・ウォーケンシンディ・ローパーの共演だから以前から気にはなっていたのだが、いやぁ、観てよかったな。こんなにつまらない映画に出会えることなんて滅多にないのだから。意識吹っ飛ぶかと思ったわ。

したがって本稿では罵詈雑言はいっさい吐きません。度を越した駄作というのは貶す必要すらなく、なんなら度を越した傑作とまったくの等価値だからである。


元・金庫破りのウォーケンはカタギの世界で自動車修理工をしている物静かな男で、成人した娘ヴェラ・ファーミガと老人ホームに入っているボケた母親がいる。彼にはシンディ・ローパー演じる恋人もいるのでそう悪くはない人生に見えるが、どうやら金に困っている様子で老人ホームの費用が払えないらしい。

そんな彼のもとに遠い親戚を名乗る青年ピーター・マクドナルドが現れ、強盗計画を持ちかけたことから運命が狂いだしていく。

…のかと思いきや、ほぼ狂わない。

狂うに足るほどドラマティックな運命自体が描かれないのだ。

 

いま説明したようなウォーケンのバックグラウンドは開幕から30分も経ってようやく分かる(大したバックグラウンドでもないのに)。語りが緩慢なので一向に話が見えてこないのである。

親戚のガキが強盗計画を持ち出したところで初めて「ああ、そういう映画なのね」と物語の輪郭が掴めるのだが、この時点で映画はすでに中頃。遅咲きにもほどがある。おまえはディーン・フジオカか?


そのあと、ケイパー映画のように強盗チームを結成するものの、結成→計画→実行といった段取りや連帯はまったく描かれず、ほぼウォーケン一人で全部こなすという謎のワンオペ状態で。チーム感皆無。ウォーケンが金庫破りの模擬練習をしているあいだも他のメンバーは後ろのソファでぐっすり寝ているという薄情ぶり。おまけに無能揃い。

設定上はそうだとしても、もはやこれはケイパー映画ではない。

なんならクライム・サスペンスでもない。

なぜなら、金庫強盗の決行日に親戚ピーターがヘマをやらかしたせいでウォーケンがあっさり逮捕されてしまい、被害者が起訴しなかったという謎の理由で釈放されてハッピーエンドを迎えるからである。

なんやそれ。何の映画やねん、これ。

強盗計画をトチって逮捕されたけど釈放された。おわり。

なんやそれ。

楽しみ方が分からんわ。この映画の。

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捕まっちゃうウォーケン。


◆誰やねんピーターて◆

いまビャーッと説明した大筋だけを読むとべつに大して酷い映画とは思わないだろうが、これね…終始物憂げなテンションで描かれているんだよ。

ミニミニ大作戦(69年)のような和やかなムードでもなければ『ホット・ロック』(72年)のようなサスペンスフルな雰囲気でもなく、まぁ言ってしまうと陰気なのである。

ダラ~~ッとした雰囲気とジト~~ッとした暗い画面が淡々と続く。盛り上げたり湿らせたりしてドラマに調子をつける…といった感情の起伏もまったくなくて、おまけに全キャラクターが無口で劇伴もほぼなし。

寂しいねん。

ぼく、寂しいねん。

また、画質は悪い、カメラ寄りすぎ、被写体が見切れてる…など「大学生が撮ったのか?」と思うほど撮影が拙い。ためしにマイルズ・コーネルという監督のことを調べてみたが、手掛けた映画は後にも先にもこれ一本だけでした。

でしょうね。

まぁそんなわけで、終始お通夜のようなムードで淡々と、それはもう淡々と、そして緩慢に進んでいく映画なのである。

鑑賞中 5回居眠りして悪夢を1回見ました。

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恋人役のシンディ・ローパー(だいすき)。

 

一番わけがわからないのはやはり脚本で、特にピーター周りね。

親戚を名乗ってひょっこり現れ強盗計画を持ちかけたピーターは、ウォーケンの娘ヴェラちゃんから「パスポート見て分かったけど…、あなた親戚じゃないでしょ!」と言われる。どうやらピーターは親戚ではなくアカの他人らしい。

ではピーターは一体何者なのか?

最後まで分からないんですねぇ。これが。

 

ヴェラちゃんから嘘を看破されたピーターは「せめて仕事(強盗)を終えるまでウォーケンさんには黙っててくれないか」とお願いする。ヴェラちゃんはとっても素直な娘だから「うん、わかった」と言って、ピーターが親戚ではないことを二人だけの秘密にする。

当然こちらとしては、遅かれ早かれウォーケンの知るところとなって「じゃあオマエ誰なんだ」って展開になると思うじゃないですか?

最後まで知らないままなんですねぇ。これが。

ウォーケンは最後までピーターのことを親戚と思い込んだまま映画はしれっと終わっていきます。しかもピーターの真の正体は最後の最後までわからないまま…。

この映画は我々の心に大いなるモヤモヤを残していきました。


そんな素性不明のピーター、実はヴェラちゃんに片想いしており、勇気を振り絞ってデートに誘ったところ「墓地に行きたい」とヴェラちゃんが言ったので、まさかの墓地デートがおこなわれるわけです。

デートで墓地?

ヴェラちゃんまでおかしい人なの?

…まあまあ、ええわいな。もういいよいいよ。この際 墓地でもどこでもよろしい。とにかくこの話のポイントは「ピーターはヴェラちゃんに片想いしてる」ということなのだから。

果たしてその後ピーターの恋はどのように進展するのか?

それっきりなんですねぇ。これが。

墓地デート以降、二人のロマンスはなかったことにされます。行き場を失ったピーターの恋心はいずこへ。そしてヴェラちゃんの本心も分からないまま。

「恋の空中分解」というタイトルで曲でも書こうかしら。

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ピーターの画像がなかったのでヴェラちゃんの画像を載せます(もちろん左)

ていうかなんでピーターの画像ないねん。素性不明だから?


一事が万事わけがわかんねぇ。特にピーター周りがわけわかんねえ。

ていうか 誰やねんピーターって。

結局何者なの?

われわれに与えられたピーター情報は「親戚ではない」ということと「墓地でデートした男」ということだけ。その二つの情報だけを手掛かりにして後はこっちで勝手に推測するしかないのである。

わかるかあ!

気になって気になって仕方がない。気持ち悪いなぁ。当時の製作者に問い合わせて「結局ピーターって誰なんすか?」って訊きたいよ。画像を探しても出てこないし。

まぼろし


◆ハイスクールはダンステリア!◆

事程左様にどうしようもない映画である。ネットで検索してもロクにヒットしない…という事実が作品のショボさを如実に物語っているよね。

たぶん日本の配給会社の奴らも本編を見ないままテキトーに売り出したと思うんだよ。それを裏付けているのが邦題ですよ。

この映画『デッド・レイン』っていう邦題なんだけど…誰も死なないし雨も降らないからね。

死者も降水量もゼロ。みんなピンピンしとる。空ピーカンや。

それを、まぁ~~ぬけぬけと『デッド・レイン』なんて…。よう言うたな という話で。


唯一の救いはクリストファー・ウォーケンシンディ・ローパー

…と言いたいけど、この二人を以てしても救いにならないほど救いがたい作品ではあるが、せっかくなので最後にキャスト紹介だけさせて頂戴ね。

 

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クリストファー・ウォーケン『映画男優十選』の6位にねじ込んだほど大好きな俳優で、蝋人形のように生気のない奇怪な顔面を売りにした俳優でございます。

脇役を演じることが多いけど、ディア・ハンター(78年)を観た人なら満場一致で「ロバート・デ・ニーロを喰っていた」と思ったことでしょう。満場一致は言いすぎたが。

現在75歳。私がパソコンを起動するたびにヤフーのトップに訃報が入ってたら最悪だな…と思う俳優ランキングBEST10の第8位であります。

私はネットを開くたびに誰かの訃報が飛び込んでくるのではないかと毎回怯えている。わかるか、この気持ち。パッとヤフーを開いたときに「アル・パチーノさん死去」とか「米映画監督イーストウッド死去」みたいなニュースが今日こそはあるんじゃないか、今日こそは、今日こそは…と毎日ビビりながらインターネットで遊んでいるわけだ。

この強迫観念に囚われたのは、忌野清志郎原節子デヴィッド・ボウイの訃報にショックを受けたことが原因で。

ぜひウォーケンは104歳ぐらいまで生きてください。100歳越えが似合う俳優だから。

 

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ウォーケンの娘を演じたヴェラ・ファーミガもお気に入りの女優で、エスター』(09年)マイレージ、マイライフ(09年)のヒロインとして知られているね。

ほぼデビュー作に近い本作の撮影当時が26歳だったのでやや遅咲きなのだけど、この人はアラフォーあたりから本領発揮する。年を重ねるほどに綺麗になっていくよなぁ。

死霊館(13年)シリーズでもブイブイ言わせているのでホラーマニアのGさんみたいなタイプにはお馴染みの女優かも。

 

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さて。やって参りました、シンディ・ローパーです。

言わずと知れた80'sアメリカン・ポップスのスーパースター。マドンナが大人の色気ならシンディは少女の明るさで人気を競っていた庶民派歌手。We Are The World」でめっちゃ高い声を張りあげてた人。

人懐こくて太陽のように明るい「近所のおばちゃん」という点では、どこかサンドラ・ブロックにも通じるよう。関東の方には伝わりにくい例えだろうが上沼恵美子が「えみちゃんねる」に呼んで褒め倒すようなタイプの人。

映画好きにとってはグーニーズ(85年)の主題歌が有名だし、代表曲の「Time after Time」は今でも映画やCMで死ぬほど使われている名バラードだが、何と言ってもこの人の真骨頂はポップナンバーにあり。

「Girls Just Want to Have Fun」は首を左右にカックンカックン振らねば気が済まないほど気持ちのいい曲だし、わけてもシンディのじゃじゃ馬感がよく出ているのが「She Bop」。終盤のロングトーンで驚異的な肺活量に度肝を抜かれる「Money Changes Everything」でも素晴らしい歌唱を披露しております。

たまたま空港にいたシンディが飛行機遅延で苛立つ客を歌で鎮めた…というニュースが神対応と激賞されたのが2011年。それ以降、松山千春も似たようなことをやって好感度を上げておりますが、シンディの人の好さは天然資源モノ。人の好さといえば日本との縁も深くて…

…もうやめとくか。

シンディ・ローパーの話だけで特集記事が書けそうなので、そろそろ皆さんを解放したいと思います。本作での芝居もなかなか堂に入ってましたよ。

代表曲「Girls Just Want to Have Fun」。なぜか日本では「ハイスクールはダンステリア」という邦題がついて非難轟々。