クライブ・オーウェンとニコール・キッドマンのお尻がブリーンってなってる映画。
2012年。フィリップ・カウフマン監督。クライブ・オーウェン、ニコール・キッドマン、デヴィッド・ストラザーン。
文豪ヘミングウェイと3番目の妻マーサ・ゲルホーンの情熱的な愛を、クライブ・オーウェン&ニコール・キッドマン共演で描いた恋愛ドラマ。1936年、戦時特派員のマーサは、キーウエストのバーで作家ヘミングウェイと知り合う。その後、内戦中のスペインで再会した2人は肉体関係を結び、一緒に過ごす時間が増えていく。ヘミングウェイは2番目の妻ポーリンとの離婚を成立させ、1940年にマーサと再婚。しかし、第2次世界大戦の取材で各地を飛びまわるマーサは、次第にヘミングウェイとすれ違うようになっていく。(映画.comより)
おはようございます。
本日をもちまして1月終了でございます。皆さんはこの1月をどのように過ごされましたでしょうか?
まぁ、質問形式で語りかけてるけど別に知りたくないよ。
「僕の1月はこんなでした!」とか言ってこないで下さいね。知らないし。興味ないし。キミの1月を僕に押しつけないで。どうかキミの1月はキミの中に大事にしまっておいてください。それがやがて芽を出し、実を結び、未来に繋がっていくんだ。わかりますね。
それはそうと、もう1月が終わりなんて吃驚しますわ。こないだ『ひとりアカデミー賞』をやったばかりじゃん。光陰矢の如しというけれど、ゼノンのパラドックスに準拠すれば飛ぶ矢は飛ばずということになるから、月日の早さを嘆く人民はゼノン的思考をすればいいと思う。ただしどこにも辿り着けないけどね(アキレスと亀)。
そんな与太話に始まった本日、お送りするは『私が愛したヘミングウェイ』。
政治!戦争!文学!って感じの映画ですけど、根っこにあるのはラブストーリーだから、どうか人民におかれましてはあまり身構えないでほしい。ていうかお尻の話をしています。読めばわかります。
◆アウトドアカップル、ヘミングウェイ&ゲルホーン◆
『ライトスタッフ』(83年)や『存在の耐えられない軽さ』(88年)で知られる凡才フィリップ・カウフマンが密やかに手掛けたテレビ映画である。劇場公開はなく、アメリカではHBOで、日本ではWOWOWでしめやかに放送されただけという小規模な作品だ。
肉体派の文豪アーネスト・ヘミングウェイと戦時特派員マーサ・ゲルホーンがスペイン内戦の渦中で結ばれ、やがて結婚、そして離婚、のちにヘミングウェイが61歳でショットガン自殺するまでの生涯を追っている。
ヘミングウェイといえば『武器よさらば』(29年)や『老人と海』(52年)でお馴染みのアメリカ文学の巨人だが、作家とは思えないほどマッチョで、釣り、狩猟、ボクシングを習得するほか酒豪のスキルまで持つようなタフガイである。もし文豪バトルロワイアルというものがあったら確実に優勝候補だ(三島由紀夫といい勝負をするだろう)。
こんなもん 絶対強いやん。
1930年代、反フランコ将軍派の主張に共鳴したヘミングウェイは「本なんか書いてられるかぁ!」と叫び義勇軍としてスペイン内戦に参加した。
なんだって?
そう、ヘミングウェイは作家にも関わらず「アイム・ソルジャー」などと叫んで戦地に突っ込んで行くような蛮勇だったのだ。『武器よさらば』を書いた男が武器を取って反乱軍に突っ込んでいくというおもしろさ。ムチャクチャな男である。
そこで出会ったのが戦時特派員のマーサ・ゲルホーン。従軍記者として民間人の悲しみや戦地の惨状をルポするブレイブハートの持ち主なのだが、彼女が美人すぎたためにコロッと落ちてしまったヘミングウェイ、妻子持ちでありながらゲルホーンと肉体関係を結んでしまう。
『妻よさらば』。
劇中では、スペイン人民戦線支援を目的としたプロパガンダ映画『スペインの大地』(37年)の脚本をヘミングウェイが手掛けたというエピソードも掬っており、当初ナレーターにオーソン・ウェルズが起用される予定だったという裏話が紐解かれる(ヘミングウェイと大喧嘩の果てに交渉決裂)。
その後、人民戦線が敗れてキューバに居を構えた二人は結婚。だが根っからのジャーナリストであるゲルホーンは取材のために世界各国を飛び回る。寂しくなったヘミングウェイは「家よさらば」と言って妻に同行するが、中国で面会した蒋介石は入れ歯を外してクチャクチャと音を立てながらお菓子を食べる奴だった。
蒋介石のマナーの悪さに気分を害した二人は、次に面会した反体制派のコミュニスト・周恩来の高い知性と品格にいたく感動。帰国するや否や、ゲルホーンはルーズベルト大統領にコミュニストの支援を提言する。
ここまで書けばすでにお気づきだろうが、本作はヘミングウェイの作家人生を描いた作品ではなくその妻ゲルホーンの特派人生にスポットを当てたものである。
ヘミングウェイはあまり好ましい描かれ方をされておらず、もっぱら「短気で酒好きで性欲旺盛な文豪」としてふてぶてしく画面におさまっており、その身勝手な生き方に振り回されるゲルホーンを讃えた妻視点の作品となっている。モデルは違えど『グッバイ・ゴダール!』(17年)とよく似たあるわ。
実際のヘミングウェイとゲルホーン。
◆記録映像風の画作り(お尻情報あり)◆
先日『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(17年)評で軽く腐したばかりだが、正直言ってあまり良い役者とは思わない。男臭さがいまいち画面に映えないし、21世紀以降 連綿と続く量産型マッチョの典型例という感じがして、いまいち個性が感じられない。
だが本作ではクドいほどの男臭さがヘミングウェイの像にぴったりと重なっていた。
ヨレヨレの黄ばんだシャツを着て酒の臭いをまき散らし、釣り上げたカジキマグロにキスをしたり野生のネギをかじってみせるのだ。そしてタンスに置いたタイプライターを立ったままの姿勢で打ちまくるその粗野な手つき! ある意味セクスィ。
ひと昔前ならショーン・コネリーこそ相応しかったであろう中年期のヘミングウェイをウェイウェイ言いながらの好演。そんなクライブ・オーウェンであります。
町山さんに倣ってお尻情報をつけ加えておく。
本作ではクライブ・オーウェンのお尻を堪能することができる。
発情してゲルホーンに襲いかかるシーンでお尻がブリーンとなっていた。クライブ・オーウェンのファンは必見であろうが、そんな奴が果たして何人いるのか。
ワォ!
主役のゲルホーンを演じるは 我らが女帝ニコール・キッドマン!
文豪のミューズとしての顔と戦時特派員としての顔、あるいは老けメイクを施して老婆になったゲルホーンまで演じるなど、さまざまな側面を渉猟しながらこの女性の知られざる人生を巧みに造形しておられる。
撮影当時45歳だが濡れ場も美脚も堂々たるもの。もっとも、濃密かつ執拗なセックスシーンは果たして必要だったのかという疑問は残るが、これには取り組まないことにする。
お待たせしました、お尻情報です。
なぜかキッドマンの初登場シーンではクドいほどヒップラインを強調していて、やたらに足の重心を変えてお尻をぷりぷりさせるといったパフォーマンスをおこなっている。
もしかするとフィリップ・カウフマンはキッドマンのケツ撮りたさにこの映画を企画したのでは…と邪推すらしたくなるほど、ニコール・キッドマン(45歳)のお尻が挑発的なリズムでブリーンと揺れ動く。そう、それはまるで催眠術の振り子のように。
ぅワォ!
ケツの話ばかりしても埒が明かぬ。ここはケツブログではない。
さて。この映画のおもしろさは記録映像の活用法にありといったところだろうか。
実際のスペイン内戦の様子を映した記録映像が死ぬほど使われているのだが、その中にオーウェンやキッドマンを特撮で紛れ込ませたり、本作の映像と記録映像をうまくモンタージュすることで劇映画性とドキュメンタリー性の境界線を取り除く…といった面白い試みをしている。
本来であればマドリードやバルセロナあたりに似せたセットを立てて大勢のエキストラを動員すべきだが、本作の製作費はわずか1900万ドルなのでスタジオ撮影など出来るはずもなく。結果として記録映像をふんだんに使うという苦肉の策を講じるわけだが、これが良い方に転んでいて。
シーンによってはわざと8ミリで撮ったうえに粒子を粗くすることで記録映像のようなザラついたグラフィックにしたり、逆に記録映像の中にキッドマンを放り込んだりしているので、観る者は次第に いま映っているショットが「映画のために撮られた映像素材」なのか「実際の記録映像」なのかが分からなくなってくる…という不思議な感覚に酔ってしまう。
これはトム・ハンクスとケネディ大統領を握手させた『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94年)の映像技術を発展させたものだろう。
記録映像風の古めかしい画作り。各時代によって赤・青・緑のカラーコレクションを使い分けている点もユニーク。
とはいえ、本作の主軸はあくまでラブストーリーなので、ヘミングウェイとかスペイン内戦に興味がない人でもビビる必要はない。いちいちビビるな。
また、デヴィッド・ストラザーン、ロバート・デュバル、パーカー・ポージーといった何とも言えない脇役俳優が大勢出ているので物好きを喜ばせるだろう。文学、歴史、映画が好きな人民にはそれぞれにまつわる人物や出来事が小ネタのように頻出するのでそこを楽しむといった用法もあり。
また、ゲイリー・クーパー主演で映画化されたヘミングウェイ原作の『戦場よさらば』(32年)を観たゲルホーンが「ヘレン・ヘイズはミスキャストよ!」と貶してヘミングウェイが擁護する…といった通向けの夫婦漫才もあるので映画好きの高齢者が喜ぶ確率は高い。
あと音楽好きが喜ぶ要素もあんで。『スペインの大地』の撮影隊としてラーズ・ウルリッヒが出演しているのだ。
メタリカのドラマーです。
「ローリング・ストーン誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のドラマー」の第62位が何しとんねん、と思うが、メタリカの「For Whom the Bell Tolls」という曲はヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』をモチーフにしたもの。おそらくメタリカの皆さんはヘミングウェイのファンなのだろう(彼らの楽曲にはさまざまな映画や文学をモチーフにしたものが多い。実はヘビメタバンドってインテリなんです)。
世界一売れたヘヴィメタルバンド、メタリカ。画像左で目立とうとしているのがウルリッヒ。