シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

キューティ・ブロンド

マサチューセッツの花道で、金髪なびかせ しゃくれて候。

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2001年。ロバート・ルケティック監督。リース・ウィザースプーン、ルーク・ウィルソン、セルマ・ブレア。

 

陽気で天然ブロンド美人のエル・ウッズ。大学ではファッション販促を専攻し、成績も優秀で女性社交クラブの会長を務めるほどの人気者。そんなエルがいま何よりも待ち望んでいるのが政治家志望の恋人ワーナーのプロポーズの言葉。しかしある日、ワーナーが切り出したのは別れ話。議員の妻にブロンドはふさわしくないというのが理由。突然のことに動転するエルだったが、ワーナーがハーバードのロー・スクールに進学すると知ると、自分もそこに進みワーナーに認めてもらおうとファイトを燃やし、みごと超難関の試験を突破するのだったが…。 (Yahoo!映画より)

 

おはようございますねー。

昨日はプリンセス プリンセスをYouTubeで聴いて正確に3回泣いております。お酒は入っております。懐かしかったのです。そのあとにWinkをハシゴしたけど、これは泣かなかった。相田翔子ばりのポーカーフェイスでした。

それはそうと、下に貼っ付けてるプリプリの「ダイヤモンド」の映像ですけどね、ボーカルの奥居香がイントロで足をスィンスィンさせるのがとってもチャーミンだなって思うんです。

まぁ、ちょっとした創作ダンスですよね。

見れなくなってるじゃねえか、くそが!

 

で、昨日、スーパーでレジ待ちしてる間に、この足さばきをどうにかモノに出来ないかと思って練習してたんですけどね、列に割り込まれました。ババアに。

一瞬イラっとして「あっ、ババア!」と思ったけれど、ババアサイドとしてはまさか私が順番待ちしているとは思わなかったのかもしれない。なぜなら私が一心不乱に足をスィンスィンさせていたから。

つまりババアから見れば、私がレジ待ちしている客ではなくレジの近くで踊っている狐憑きに映っており、がために私を無視してレジに直行したのかな、などと推測する次第なんです。それぐらい狐に憑かれたようにスィンスィンさせてましたから。

もしそうだとしたら、どちらかと言えば悪いのは私の方であって、イラっとしてしまったことをババアに謝らねばなりません。

でも本を正せばこんなチャーミンなダンスを開発した人間が一番悪いので、一切の責任はプリプリにあると言えます。ダイヤモンドだねぇ。

そんなわけで本日は『キューティ・ブロンド』を取り上げるよ。ショッキングピンクが目に染みる。

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◆西海岸から東海岸へ裏切りのハイウェイ◆

全米で爆裂大ヒットした女子ウケ抜群のロマンティック・コメディだが観るのは初めて。

というのも、全身ピンクのリース・ウィザースプーンがバカみたいなチワワを連れているスチールを見るだけで虫唾が走るので長らく敬遠していたのだが、このたび意を決して観てみようと思い立った次第である。

濱田マリに似ていることでお馴染みのリース・ウィザースプーン。

びっくりするぐらい方々で高い評価を受けている女優だが、私はこの女の出演作をほとんど観たことがない。元々あまり好きではないとはいえ、べつに意識して避けてきたわけでもないのだが、なぜかことごとく見逃してしまうのである(そういう俳優っているよね)。

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スプーン。

 

さて、そんな『キューティ・ブロンド』。ロサンゼルスで大勢のズッ友に囲まれて暮らしていたスプーンが、自分を振った彼氏を追ってハーバード大学のロー・スクールに入学するという中身である。

政治家を目指す元カレは、セクシーで友達が多くてブランド好き…という典型的なブロンド娘のスプーンでは政治家の妻にふさわしくないとの理由で彼女を振った。彼女が金髪だと心証が悪いんだとよ!

だからスプーンは同じ学校で法律の勉強をしてもう一度カレを振り向かせようと鋭意研鑽を積むわけだ。


はぁ?

伝家の宝刀「はぁ?」が早くもここで出てしまっております。

本作は世界中の女性から絶大な支持を得た作品らしいが、自分の人生や将来を変えてまで男に合わせる生き方に共感したのでしょうか。

あー、そうですか、そうですか。

これまたずいぶん前時代的なさくひんというか、女性の主体性をまったく考慮していない脚本ですことねぇ。これだとヒロインがまるで「自分を持っていない女」に見えてしまいますものねぇ。

もし私が女性観客だったら「男の好みに合わせるなんてふざけんじゃないわよ!」と思うし、もし私がこの映画の脚本家だったら「元カレを振り向かせるためではなく見返すためにこそロー・スクールに通う」という筋書きにするけどねぇぇぇぇええええい。

まあいいよいいよ!

しょせん男の私に女心を推し量ることには限界があって、現にこの映画は世界中の女性から愛されてるわけですから、どれだけ私がただならぬ違和感を吐露したところで多勢に無勢、きっと世間様の声が正解なんでしょうねええええええええええええええええぃぃぃぃぃぃぃぃヤッホホー!

ああああむかつくわああああああああこの世は最高!

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バカ犬と共にあるスプーン。


劇中のスプーンはなぜか美人ということになっていて、家柄もよく、大学ではファッション専攻とはいえ成績はオールAで頭もいい。おまけに人徳もあってナイスバデー。

そんな完璧な美女が自分を振った男にすがりついてノコノコとマサチューセッツにやって参ります。

いやだから…は?

すてきな男性なんて選び放題の身でありながら、故郷に家族やズッ友を残し、女一人、東へドライブ。西海岸から東海岸へ裏切りのハイウェイであります。

スプーン曰く「彼を逃したらもう終わりなの。一生に一度の恋なのよ!」とのことだが、いやいや選び放題、選び放題。恋のビュッフェ、恋のビュッフェ。

そりゃあさ、失恋したばかりの今のスプーンは視野狭窄になってますから追いすがりモードになるのも分かるけど、私からすればこんな完璧美女がすべてを投げうってでも復縁しようとする動機とか執念がいまいち理解できないのよね。

もっとも、その執念に足るほど元カレが魅力的な人物…たとえばオーランド・ブルームとかウィレム・デフォーとかだったら「その恋、逃したらあかんで!」とエールのひとつでも送りはしただろうが、元カレを演じたのがマシュー・デイヴィスって…。

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ちょーっとツラいなー。

これで東には渡らんなー。

ていうかね、あたしゃコイツにも腹立ってんすよ。だって「将来の妨げになるから」などという手前勝手な理由でスプーンを振るような利己的ボーイですからね。このチンピラ鼠が!

「じゃあなぜ今まで付き合ってたのよ!? 私のパイオツが目当てだったの?」とスプーンに言われて「あっ…。ちちち違うよ」って言い淀んでたもの。

パイオツが目当てだったんじゃねえか、このガキ!

本当に違ってたら「ちちち違うよ」なんて言わないんだよ!

 


たとえばコレさぁ、スプーンが見た目通りの半ブサで、友達とも上辺だけのお付き合い、優雅に見える暮らしの裏には孤独が張りついている…みたいなプラスティックでイタい女だったらすべての辻褄が合うんだよ。

しかもこの映画って「ブロンド女に対する先入観とその実態」をフックとしたギャップコメディなわけでしょ。だったら尚更そうするべきでしょうが! オレの提案を呑めよ!

あー疲れた。

息を切らしながら怒りまくった第一章ですが映画はまだ10分しか進んでおりません。身が持たねぇ。

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なぜか美人設定のスプーン(中央)。へちゃむくれやないか。


◆スプーン節◆

前章では悪鬼のごとく不満を垂れ流したが、そんな私に心境の変化が訪れたのはロー・スクールでの生活が始まる中盤以降であった。

元カレを振り向かせるために法律の勉強を始めたスプーンだが、周囲のレベルの高さについていけず入学初日から大恥をかく。おまけに元カレにはセルマ・ブレア演じる婚約者がいて毎日いびられてしまう。

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『マッド・ダディ』(17年)にも出ていたセルマ・ブレア(左)。

 

そうこうするうち、やがてスプーンを勉学へと突き動かす動機が「元カレとの復縁」から「完璧美女としてのプライド」へと音もなく摩り替わってゆくのだ!

西海岸では美貌と社交性でブイブイ言わせていたスプーンだが、東海岸でそんなものは通用しない。ハーバードでかしこ達の洗礼を受け、己が無力を思い知るのである。

だがそこで諦めないのが西海岸の女道!

苦節2~3ヶ月。チャラチャラしたブロンド娘は身も心も生まれ変わりました。日常会話はガールズトークからディスカッションに変わり、愛読書はファッション雑誌から判例集へ。

圧倒的なカリスマ性と持ち前の愛嬌、そして地頭のよさを発揮して、他のかしこや悪女セルマ、果ては元カレすらゴボウ抜きして弁護士街道をひた走るのであります。

男のためじゃない。すべては自分自身のために!!

この映画を想って曲を作りました。聴いて下さい…。

 


「スプーン節」 作詞/作曲 ふかづめ

 

やぶれた恋の  判例集

忘れるための 猛練習

男を追ううち 辿り着いたは あての夢

恋の道から 脇に逸れたる 学問道

 

チワワが見つめる その瞳

映し出すのは 晴れ姿

 

色恋だけが法律やおまへん(おまへん)

失恋だけが敗訴やおまへん(おまへん)

 

吹かせてみせます 淡紅桜

マサチューセッツの 花道で

金髪なびかせ しゃくれて候

 

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学問に打ち込むうちに元カレのことなんかどうでもよくなってくるスプーン。すべては自分自身のためにィー!


◆ 抑圧されしブロンド、その反撃◆

後半に至ってはもはや法廷映画である。

弁護士でもある教授の法律事務所に実習生として選ばれたスプーン他数名がインターンシップとして実際の裁判を受け持つのだ。

スプーンらは夫の殺害容疑をかけられた女性を弁護するのだが、ギャルならではアッと驚く発想で無罪を証明するのである。

もちろんマジメな法廷映画ではないので論理的には穴だらけの裁判シーンなのだが、ギャルならではの発想で物語を大団円に導いたことがじつに気持ちよく。

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勉強の成果を見せつけております。


お堅い連中ばかりのロー・スクールの中でスプーンだけが派手な格好で悪目立ちするという絵面もいい。つまり彼女は完璧美女であると同時に被差別者でもあることがビジュアル一発で示されているわけだ。

「ブロンド女は下品で尻軽でおつむがカラッポ」

そうした偏見は欧米の雇用問題にも影響を与えるほど根深く、芸能界においてもブロンドだと色眼鏡で見られるので髪を染めている隠れブロンドはかなり多い(アンジェリーナ・ジョリー、エマ・ストーン、エイミー・アダムス他多数)。

だが、本作のスプーンは髪を染めて地味な服を着ることで周囲の学生に迎合したりはしない。どれだけ周囲から浮こうとも奇異な目で見られようとも自分のスタイルを貫き通すのだ。

「ブロンドだからってバカにしないでよ!」

これぞ金髪の矜持。モンロー神話の復権。言うなれば、そう、ロックンロール。

『キューティー・ブロンド』は周囲の偏見と戦いながら我が道を爆進するロックなサクセス・ストーリーでありました。開幕10分には激怒したがその後の巻き返しがすげえ。結果オーライということでお気に入りの一本となった。

同時に「どうせバカな女がバカなことする下品なコメディでしょ」と先入観を持って長年無視し続けていた自分を恥じております。「そういう先入観を持つな」ってことを言ってる映画なのにね。大いに反省する次第。そしてこの映画と出会えてよかった。

でも続編は観ないという裏切り。

『キューティ・ブロンド3』(09年)に至っては役者変わってもうてるしね。双子になってますやんか。


追記

ルーク・ウィルソンって下膨れのトム・クルーズだよねっていう。

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