シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

検察側の罪人

キムタクの顔とニノの声に彩られた無理くり社会派映画(よく躍りもする)。

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2018年。原田眞人監督。木村拓哉、二宮和也、吉高由里子。

 

都内で発生した犯人不明の殺人事件を担当することになった、東京地検刑事部のエリート検事・最上と、駆け出しの検事・沖野。やがて、過去に時効を迎えてしまった未解決殺人事件の容疑者だった松倉という男の存在が浮上し、最上は松倉を執拗に追い詰めていく。最上を師と仰ぐ沖野も取り調べに力を入れるが、松倉は否認を続け、手ごたえがない。沖野は次第に、最上が松倉を犯人に仕立て上げようとしているのではないかと、最上の方針に疑問を抱き始める。(映画.comより)

 

おはようございますな。

『検察側の罪人』を観たので今日はその話を一人でペチャクチャするといった運びと相成ります。

こないだ、劇場でこの映画を観た某友人に「ようやく私も観ましたよ」と報告して感想を伝えたんだけど、私は喋るのがドヘタなので思ったことの10分の3ぐらいしか言葉にできなかった。

私はいつも長文を書いてしまうのだけど、別にどんなに長い文章を書いても読みたい人は読んでくれるし、読みたくない人は読まないじゃないですか。「読む・読まない」は読み手の自由ですから。ところが日常会話には「聞かない自由」はあまりない。こちらが長話をした分だけ相手を拘束することになる。それってなんだか申し訳ないし、相手が内心ウンザリしていることにも気づかず延々と長話をし続ける自分がアホみたいだよね。

なので日常会話では要点だけを端的にまとめて伝えることを心掛けているのだけど、あまりに端折りすぎて言葉足らずになってしまい、結局、思ったことの10分の3しか伝えられない…といったブザマな様相を呈してしまうンである。

したがってその友人には本稿を通して私の気持ちを知って頂こうと思います。

レッツ、検察側!

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◆ジャニタレ激突!◆

ついにジャニーズが法曹界にカチコミをかけた『検察側の罪人』であります。

木村拓哉扮するエリート検事が、ある殺人事件の重要参考人(酒向芳)が数十年前にマブダチを殺した犯人と同一人物だと勝手に決めつけて復讐のために暴走する…といった意味内容の作品である。充実してるよなぁ。


重要参考人の酒向芳は『ロックマン』に出てくる悪の博士アルバート・W・ワイリーみたいなキテレツな髪型をしていて、よく口を パッ! パッ!とさせるといった実にふてこい奴で、おまけにタップダンスの達人ときた。

そんな奴がマブダチ殺しを自供したのだから、怒りに駆られたキムタクは「今回の殺人もどうせこいつが犯人っしょ」鋭い推理をして、タップダンサー酒向を死刑にするために証拠捏造というタブーを犯してしまう(挙げ句の果てにヤクザとつるんで拳銃をバカスカ撃つ事態まで発生)。

一方、二宮和也は拓哉流の正義を継承しようとする新人検事で「拓哉さん、拓哉さん」などと言いながらちょらちょら追従する一番弟子なのだが、次第にキムタクの捜査方針に疑問を抱いて対立してしまう。体中に風を集めたニノが嵐を巻き起こすわけだ。

そんな二人の熱き戦いを見守る検察事務官がハイボール女こと吉高由里子なのだが、さすがに本作では「ウェーイ」と言ったりしないのでひとまず安心していい(焼き鳥を食うシーンで言いかけはするのだが)。

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ハイボール女優・吉高(よく飲む)。


一線を超えて暴走してしまうエリート検事と、彼への憧れが粉微塵と化して反旗を翻す新人検事。果たして暴走の行方と事件の真相は?…といったあたりが見所になっているのと違いますか。

脇を固めるのは大倉孝二松重豊といった日本屈指のイケメン俳優。申し訳程度に山崎努(イケメン)も顔を覘かせている。
監督は『クライマーズ・ハイ』(08年)『日本のいちばん長い日』(15年)で知られる原田眞人だが、私はあまりよく知りません。

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キムタクに犯人だと決めつけられたタップダンサー酒向(よく躍る)。


無理くり社会派映

東京都心が合わせ鏡になったような映像に各キャラクターが一人ずつディゾルブするオープニング・クレジット。それに派手な音楽がセリフを掻き消してしまう導入部に早くも不安を覚えた。おまけに謎の章仕立て。

ファーストシーンの新任検事研修で、カメラは驚くべき呆気のなさで座席につくニノの顔を捉える。そのあと間髪入れず檀上にあがるキムタクの登場もやはり淡白だ。

そして明らかに定石から外れた場面転換の奇妙さ。唐突なフェードアウトと不自然なフェードインによって映画の文脈は細かく寸断され、原田作品に不慣れな私は変拍子だらけのカットに悪酔いしてしまった。ヌーヴェルヴァーグかと思った。

極めつけは、本筋とまったく関係のない衆議院議員の死、ネオナチ団体の影、果てはインパール作戦の傷痕…といった政治的テーマを横断するうち、物語はいつの間にか「現代日本を撃つ!」みたいなあらぬ方向へ広がっていく…。


ちょ待てよ。

これって法曹界を舞台にした映画なんじゃないの?

インパール作戦とか関係なくない。ネオナチ団体は創作ダンスを導入したオモシロ葬儀を執り行うし。女アサシンは出てくるし。しかも本作最大のキーパーソンが車を運転する女アサシンにバッコリ轢かれて死ぬという雑な片付け方。

しまいにゃあ、自殺した友人から国家を揺るがしうる極秘情報を譲り受けたキムタクが「国を守るため、そのために生まれてきたんだ。震えるこの胸ライオンハート」とか言ってまるっきり別の映画になっちゃうの。

政治、宗教、戦争…といったお堅い主題群でザクザク切り込んで、肝心の「殺人事件をめぐる検事同士の対立」がどっか行っちゃってる状態で。キムタクが数々の悪事に手を染めてしまった件も結局ウヤムヤにされ、しまいには日本変革という巨大なテーマがドーンと屹立して映画が終わる。なにこの国をどうこうする話…。スケールでっけぇ。

そしてラストシーン、キムタクに「俺はガチでライオンハートだから(意訳)」と言われたニノの「あぁ~~~~(慟哭)である。

なんやそれ。

多分に原田ナイズされた無理くり社会派映として剛腕一辺倒で押し切っているのだが、いかんせん政治家、やくざ、右翼団体、殺し屋、闇ブローカー、ジャーナリストといった多岐に渡るキャラクターが多岐に渡る活動をなさるので目が散るというか…死ぬほど散漫である。

唐突なラブシーン、志半ばでダチ自殺、冷めた家族関係など「なにそれ。要る…?」と思うような枝葉末節のオンパレードで、とりわけダンスシーンがやたらフィーチャーされているのが気になってしょうがない。重要参考人の酒向は延べ三回もタップダンスをするし、ネオナチ団体もシュール極まりない創作ダンスを披露する…。

ミュージカルなの?


本筋に集中できない雑味満載のディテールはキャラクター造形にも顕著で、その筆頭はやはりキムタク。

誕生日占いに取り憑かれてます、彼。

何月何日生まれはこういう性格だ!みたいな豆知識を嘯いてやまず、いわく365日分暗記しているという生粋の占いマニア。検事なのにずいぶん非科学的な趣味の持ち主なのだ。

それに、裁判長がよく振り回してるハンマーみたいなやつ(ガベル)の収集癖もあるのだが、小道具として何かの演出に使われることもなく、もっぱら拓哉流正義のメタファーとして棚のなかで眠り続けるのみ。

これは余談だが、「日本の裁判官がガベルを使わないのは何~故だ?」とクイズを出したキムタクが、「日本的な規律と秩序の問題でしょうか?」と答えたニノを「フフッ…」と一笑に付すシーンは非常にもどかしい。ニノの答えを笑ったあとに「それはそうと…」なんつって別の話を始めるからだ。

教えてくれへんのかい!

気になるなぁ…日本におけるガベル事情。知りてぇなぁ…。

ガベルのことを「ギャベル」って発音してるのも気になるなぁ。

カメラのことを頑なに「キャメラ」と言ってる蓮實重彦ぐらい気になるわぁ。

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自分からクイズを出しておいて答えは教えないというサドっぷり。だけどイケズな拓哉もス・テ・キ!


◆顔と声◆

どっこい、ここからは擁護タイムと洒落込もう。

先に挙げたモロモロにしてボロボロの問題点は瑕疵ではあっても欠点ではないというあたりが面白くてな。

映画が脇に逸れるほどに本流とはまったく異質のおもしろさがジワーッと広がってくる作品で、たとえば嘔吐するキムタクとか葬儀場での気色悪いダンスがかつて誰も見たことのない映像として強烈なディテールになっていて、本作はそうした鮮度抜群のディテールをこそ楽しむアバンギャルドな作品なのだろう。

だって、まさかあのキムタクが「ゲェェ!」って嘔吐したり「ヒィィ!」って腰を抜かすとは思わないわけで。そんなキムタク想像できないでしょ? クレイジーな連中が葬儀で踊り狂うところとか、ニノとハイボール吉高が裸で寝てるところとか!

でも、そういう普通なら誰も撮らないし永久にお目にかかることもないであろう奇妙なイメージをバシバシ見せてくれているのが本作で、いわば不協和音を楽しむ映画である。

森田芳光や山下敦弘にも通じるディテールの映画。大局的に見るとわけわからんが局所的に細部を拾っていくとクセになる味わいが発見できるのとちがいますか。

まぁ、良くも悪くも相当イビツな作品であることは間違いない。


そんなイビツな世界で好対照な個性をぶつけ合うキムタクとニノにも言及しておきましょう。

やはり本作は主演二人の顔と声がすべて。芝居とか存在感はどうでもよくて顔と声ね。

『無限の住人』(17年)を観てつくづく思ったが、キムタクは歳を取ったことでようやく理想的な陰影がつく面構えになり、もう芝居をしていようがいまいが無条件でカメラに愛されるジェームズ・ディーンの粋に達している。20年遅れのジェームズ・ディーンだよ。

もはや感動さえ覚えるほど、どのシーンを取っても物の見事に表情筋が動いていない。それゆえに復讐心に駆られるエリート検事の悲憤や虚偽が不可視のサスペンス足り得ている(クレショフ効果)。

そして衆議院議員の親友・平岳大からホテルに呼び出されるシーンのエロティックな雰囲気といったらない。「え、なに。男二人でセックスすんの?」と思ってしまうほど凄艶なシーンだった(してほしかった)

そしてキムタクらしからぬ「ばかァ!」の怒声からの「罪を洗い流す雨…。そんなのないからな?のキムタク・イントネーションの合わせ技である。失禁!

だれの意向かは知らんが、木村拓哉という天性の俳優をテレビドラマにばかり回して銀幕から遠ざけたのは日本芸能史におけるひとつの痛恨事であり、日本映画界における大いなる見過ごしなので、どうか映画会社各位には大いに恥じて頂きたい。最近になって映画出演が目立ち始めたが、SMAPが解散して今頃気づいたんですか? と。さすが芸能界。才能を見落とすことにかけては素晴らしい才能がある。


そしてニノ。

自他ともに認めるゲーマーらしいが、まぁゲーマーというのはだいたい頭がいいわけだ(暴論の極み)

彼の映画は3本しか観ていないから大口は叩けないが、巷で言われている「芝居達者」よりも声のよさに感心致します。

タップダンサー酒向との取調室での絶叫(まぁ声が通ること)は本作屈指のハイライトだが、それが映えるのは闇ブローカーの松重豊に一杯食わされた一度目の取調べがあってこそ。そこでは抑えた声で相手を挑発していたニノが、二度目の酒向戦では声を荒げての絶叫恫喝となる。まさに二宮流ヘヴィメタル。嵐はメタル。

かと思えば、私淑しているキムタクへの尊敬と阿諛が入り混じった声。ところが対立関係に発展してからはキムタクの声のトーンに合わせて対等性をうまく表現している。そして癇に障る発言ばかりするハイボール吉高に対してはやや乱暴な言い方…などなど、虹色の声を使い分ける芸の細かさ。まさにアクセル・ローズ。ニノは一人ガンズ。つまりメタル。

なお、自分が信じた正義からほとんどブレることのないニノの顔に陰影がつけられていないのは言うまでもない。影はもっぱら「嘘」を秘めた人間の顔のみに当てられる。


ジャニーズの顔である二人が映画の顔にもなっていて、その顔を余すところなくフィルムに収めるだけでなく、ついには他のキャラクターにまで顔に言及せしめてしまうあたりに監督の念を押してる感が強く表れている。ニノは松重から「ベビーフェイス」と何度も嘲られ、キムタクは久しぶりに再会した友人に「おっ、人相悪くなったな」と茶化されるのだ。

「オレはディテールと戯れてっから、客は主演二人の顔を観ていればよろしい」ということだ。

原田眞人はなかなかのヘンタイだと思う。

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