シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ザ・ダート モトリー・クルー自伝

呆れを通り越して逆にカッコイイ。破天荒という言葉が生ぬるく聞こえる生き様を見よ!

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2019年。ジェフ・トレメイン監督。ダグラス・ブース、イワン・リオン、コルソン・ベイカー、ニエル・ウェバー。

 

セックス、ドラッグ、ロックンロールを地で行ったLAのヘヴィメタルバンド、モトリー・クルーの約15年の軌跡を描いた伝記映画なんだぜ! 興味ないだろ!?

 

シャウ! シャウ! シャウ! シャウアザデボー!

ハイ、おはようございます。いま僕がなにを歌っていたのか知りたいでしょうから特別に教えてあげますと、これはモトリー・クルーというバンドの「Shout At The Devil」なんだよ。

本日はNetflixで好評配信中のモトリー・クルーの伝記映画『ザ・ダート モトリー・クルー自伝』について書きました。コアなモトリーファンから叱られちゃうような内容かもしれませんが、関係ありません。オレを叱ってもムダだ。とっととメシ食って寝ろ!

そんなわけで、ここ一ヶ月ほどは予習復習がてらモトリー・クルーを聴きまくっております。モトリー熱再燃というやつだな。一番よく聴くのは1983年の2ndアルバム『シャウト・アット・ザ・デヴィル』ですね。

多分ほとんどの読者は「興味ねえよ」と呆れておいででしょうが、だったらメシ食って寝ろ! ただし風邪だけはひくなよ!

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◆モトリー・クルーってどんなバンド?◆

2015年にファイナルツアーをおこなったモトリー・クルー。

LAメタルを牽引し、酒と女と麻薬に明け暮れながら1980年代を豪快に生き抜いたバンドである。アルバム総売上は全世界で8000万枚以上。90年代にはほとんどのメタルバンドがオルタナティヴ・ロックの津波に呑まれて跡形もなく消え去ったが、モトリー・クルーだけが30年以上もLAメタルの第一線で活躍し、今なおセールスを伸ばし続けている。誰が予想し得ただろう、こんなこと!

というのも、モトリー・クルーというのは一言でいえばめっちゃくちゃなバンドなのである。破滅も辞さずに酒池肉林を謳歌して死の淵をさまよい、そのたびに生還を果たした自己破滅型の典型バンドだ。そんなバンドが30年以上も続いた奇跡。悪魔は彼らに味方したのだ。


1981年に結成したモトリー・クルーはニッキー・シックス(B)、ヴィンス・ニール(Vo) 、ミック・マーズ(G)、トミー・リー(Ds) からなる4人組のコンコンチキである。

ひとたび厚化粧とレザーファッションに身を包んでやかましい音を鳴らせば「さいこー」と叫んだ人民が失神したり失禁したりのたうち回ったりして、勢い余って隣りの客を殴りだしたりする。大人気なのだ。

楽屋ではヴィンスがグルーピーとの性行為に勤しみ、ニッキーはヘロインの吸引に勤しんだ。ライブが終わるとドラッグ乱交パーティーに直行したが、その道中も酒とドラッグの摂取に勤しんだ。パーティー会場に着くと薄汚れた連中がそこらじゅうでゲボを吐いたりヤクを打ったり性行為に勤しんでいる。よく見るとヴァン・ヘイレンのデイヴもいた。

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パーティー仲間のデイヴ。ヴァン・ヘイレンの歌係を務めるIQゼロのロックスター(本人も右手でIQゼロとアピールしている通り)。

 

事程左様に、酒と女と麻薬に溺れ倒したバンドなのだ。

最初の2枚のアルバム『華麗なる激情』『シャウト・アット・ザ・デヴィル』は飛ぶように売れたが、手にした大金はドラッグとアルコールへと姿を変えていく。人道にもとるバンドとは彼らのことだ。

人道にモトリー・クルー。

かつてはキッス、オジー・オズボーン、アイアン・メイデンのサポートとして全米ツアーを回っていた彼らは、あれよあれよという間にホワイトスネイクやガンズ&ローゼズをサポートに従えるほどのビッグバンドに成長していった。

だが、悲劇が起きたのは1984年。ハノイ・ロックスのラズル(Dr)を乗せて飲酒運転していたヴィンスの車が対向車と正面衝突してラズルを死なせてしまったのだ。あまりに悲しい出来事である。この事故はバンドに深い傷を残したが、捕まったヴィンスが出所して活動を再開したモトリー・クルーはすっかり生まれ変わった。

以降は生まれ変わったモトリー・クルーの軌跡を箇条書きで表記する(順不同)。

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全盛期のモトリー・クルー。LAメタルといえば大体このファッション。私の大好きなTHE YELLOW MONKEYも初期のころは「静岡のモトリー・クルー」と呼ばれていて全く同じファッションをしてました。

 

~生まれ変わったモトリー・クルーの軌跡~


・ヴィンスが裁判所の命令でアルコールのリハビリセンターに30日間入所するが、30日後に出所祝いと称して禁酒解禁

「酒は裏切らない」という意味不明な言葉を残す。

 

・3rdアルバム『シスター・オブ・ペイン』 を発表。亡きラズルに捧げた作品だが、相変わらず酒とヤクに溺れながら製作したため、のちにメンバーはあまり納得のいかない出来だったと語る。せっかくラズルに捧げたのに。

 

・バンドの司令塔であるニッキーがヘロインの過剰摂取で意識不明に。意識を取り戻したあとに嫌な気持ちを味わう。

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・ヴィンスがポルノ女優との性行為を映したプライベート・ビデオが流出。嫌な気持ちを味わう。

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・トミーが女優パメラ・アンダーソンとの性行為を映したプライベート・ビデオが流出。嫌な気持ちを味わう。

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・ミックが若いころから患っていた血清反応陰性関節が進行。背中から首にかけての骨が少しずつ固まっていくためヘッドバンギングが困難となる。メンバー全員が複雑な気持ちを味わう。

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・4thアルバム『ガールズ、ガールズ、ガールズ』が大ヒット。これを受けてワールドツアー用に空中で360度回転する世界一バカなドラムセットを開発するも、のちに高所のドラムセットからトミーが落下。大怪我とともに嫌な気持ちをちょっぴり味わう。

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頭に血がのぼった状態でドラムを叩き続けるトミー。意味がわからない。

 

・ヘロインの過剰摂取によりニッキーの心臓が2分間停止する(ガンズ・アンド・ローゼスのスラッシュとダフによって助け出された)。

 

ニッキー、幽体離脱を体験。

のちに「誰かに足を引っ張られて自分の肉体に復帰したんだぜ」と報告。

 

ニッキー、黒魔術を体験。

のちに「部屋のなかで皿やコップが飛び回ったんだぜ」と報告。

 

・1989年、メンバー全員が初めてシラフ&ドラッグ抜きで作った5thアルバム『ドクター・フィールグッド』が全米チャート1位を記録。正常な状態で曲作りすることの歓びを味わう。エアロスミス、チープ・トリック、ナイト・レンジャーの各ボーカリストがコーラスで参加したこのアルバムはLAメタルの最高峰としてロックの歴史に刻まれた名盤中の名盤である。

 

・ヴィンスがガンズ・アンド・ローゼズのイジー・ストラドリンを殴りつける。

これに激怒した同バンドのアクセル・ローズがメディアを通してヴィンスを挑発。日時と場所を指定して決闘の約束を取り決めたが、アクセルが決闘をすっぽかしてヴィンスが不戦勝をおさめた。

 

・1992年、バンド活動をほったらかして趣味のカーレースに没頭したためヴィンスが解雇される。バンドはボーカル不在という未曾有の危機に直面。全員が嫌な気持ちを味わった。

 

・1997年、ヴィンス再加入。メンバーから祝福されて大いに照れる。

 

・同年、ヴィンス脱退。

 

・同年、ヴィンス再々加入。

たった1年間で二度も同じバンドに加入した男として名を馳せる。人は彼を「加入のヴィンス」と呼んだ。

 

・1999年、トミー脱退。

 

・2003年、ニッキー脱退。

 

・2004年、ミックが行方不明になり事実上の脱退。

この時点でオリジナルメンバーは加入のヴィンスのみとなり、バンドは空中分解へ。

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加入のヴィンス。かつての美しさはいずこへ…。

 

・同年、メンバー全員が再集合して食事会が開かれる。高級レストランで茶碗蒸しを食べながら「すぐ辞めたり消えたりするなよ!」といった話し合いがおこなわれ、なぜか「もう一度やろうぜ」という話になって再結成!

 

・ゲボ出るほどライブをしまくって2015年に活動停止(←今ココ)。

 


事程左様に、破天荒という言葉が生ぬるく聞こえる生き様である。

なにしろ心停止で2分間死んでいたメンバー、人を死なせて刑務所に入ったメンバー、宙に浮いたドラムセットから落下したメンバー、身体中の骨が固まりつつあるメンバーがいるようなバンドだからな。

だが、そのたびに地獄の淵から甦ってモトリー・クルーという船にしがみついた30余年。一日たりともセックス、ドラッグ、アルコールを欠かすことなく、むしろそれを動力源に変えて巨大化したモンスター。

モトリー・クルーは清々しいほど無反省である。はっきり言ってバカとクズの集まりだ。だから最高なのである。無反省とは裏を返せば一貫性があるということなのだから。

バカが一貫している。

それがモトリー・クルーだ!

もはや呆れを通り越して逆にカッコイイわ。

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背景グラフィックがドラッグを連想させます。歳をとっても一向に反省する気配のないモトリー・クルー。


◆キミにはロックが必要か?◆

第一章だけで3200字も使ってしまったか。まぁいいだろう。パーティはこれからだ。

Netflixが作った『ザ・ダート モトリー・クルー自伝』は、そんな彼らの軌跡を綴った品性下劣な映画である。『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)を観て「ママー、うーうーうー♪」と口ずさむような健全な楽しみ方は期待できそうにない。

何しろセックス、ドラッグ、アルコールが映ってないシーンが無いのだから。

どこかしらに酒瓶が転がっていて、何かしらのドラッグを吸っていて、誰かしらがグルーピーとヤってるような奇跡的下品さを湛えた108分。108といえば煩悩の数。煩悩まみれ映画だよ!


物語は1981年のバンド結成からヴィンスがバンドに復帰する1997年までの約16年間を描いている。

たしかにトンデモエピソードには事欠かないモトリー・クルーだが、果たしてそんなものを繋ぎ合わせて一本の劇映画にまとまるのだろうか…と観る前は懸念していた。なにしろ意識失うまでヤリまくり、吸いまくり、飲みまくりの自堕落バンドだからな。

ところがどっこい、バンドの紆余曲折がそれなりにドラマタイズされていて「物語の流れ」と「バンドの変遷」が意外なほど噛み合っている。

物語をキックしたのはメンバーそれぞれの心の弱さをエピソード化したことだろう。

荒んだ家庭環境ゆえに何かに依存することでしか生きられないニッキー、ハノイ・ロックスのラズルを事故死させてしまったことでバンドのお荷物ではないかという強迫観念に囚われるヴィンス、そしてトミーの浮気癖。唯一の常識人であるミックはわけのわからない病気で身体中の骨が固まっていく…。

そしてラズルを死なせてしまったヴィンスは、何の因果か、まだ10歳にも満たない最愛の娘を癌で失う(このシーンは観ていて本当に辛い)。

モトリー・クルーは弱者の集まりだったことに気づかされた。精神的・身体的な弱さゆえに、結成時からすでにボロ雑巾だったのである。

でも、だからこそテメェで作ったヘヴィロックでテメェ自身を鼓舞するのだろう。そうすることでしか自我を保てない甘ちゃん4人組が再び集まってステージに立つラストシーンはハードロック/ヘヴィメタル好きならぜひ見届けて頂きたい。

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何度だって地獄の底から這い上がる。それがモトリー・クルーだ。

 

断っておくが、私はべつにモトリー・クルーのビッグファンというわけではない。アルバムは大体揃えているが、ロック好きというやつは有名バンドはとりあえず押さえるという「広く浅く」の精神を持っているので、モトリー・クルーに対する私のアティチュードもあくまで「広く浅く」の範疇にある。

そんなミーハー・クルーな私でさえラストシーンで落涙しかけたのはこの映画が「ロックンロールの存在意義」に肉薄した作品だったからに他ならねェーッ!


私の音楽持論だが、この世にはロックが必要な人間とそうでない人間がいる。

そうでない人間は、あくまで趣味・生活・ファッションの一環としてロックを楽しんでいるし、そういうヤツらがCD一枚に3000円も気前よく出費してくれてるお陰で音楽産業は成り立っている。

反面、どうしようもなくロックが必要な人間ってやつもいるんだ。

クラスでいつも一人ぼっちなガキとか、誰にも理解されずに心に鬱憤を溜め込んでいるOLとか、夢を捨てきれずに死に物狂いで紙に情念を叩きつけてる作家志望の汚いオッサンとかな。

ロックンロールは、そういうブザマな人間に「おまえはブザマではない」ということを教えてくれる。爆音でな。その教えが正しいのか嘘なのか…そんなことはどうでもいい。悶々とした葛藤やグツグツと煮えたぎる怒りの起爆剤になってくれるのだ。「捌け口」というやつだな。「火口」とか「蛇口」と言い換えてもいい。とにかくロックが心に風穴を開けてくれたお陰で鬱憤をぶちまけることができるのだ(つまりロック好きはストレスフリー!)。

「チンピラ」や「人殺し」と呼ばれたモトリー・クルーは我々よりも遥かに弱いヤツらだった。圧倒的なバカにして決定的なクズだった。

だからこそロックが必要だったのだ。

音楽によってしか救済されない汚れた魂。そしてヤツらは音楽によって世界中を興奮させ、たぶん誰かの情念に火を灯しただろう。

ロックンロールの存在意義ってやつは存外そういうものなんじゃあないか?

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◆演出としての小ネタ◆

中盤でやや鬱々とした展開を迎えもする本作だが、基本的にはゴキゲンな映画だと思って頂きたい。

「Live Wire」「shout at the devil」「Girls, Girls, Girls」といった各アルバムの代表曲もガンガン流れるし、モトリーファンにおかれてはエンドロールで流れる「Kickstart My Heart」でがむしゃらにヘドバンでもして酸素欠乏に陥っていればよい。

ブラック・サバスのオジー・オズボーンやヴァン・ヘイレンのデイヴィッド・リー・ロスも登場するし、さらにコアなファンはKISSやボン・ジョヴィのマネジメントをしたドック・マギーの登場に拍手を送ってもらいたい。

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ブラックサバスのボーカリスト・オジー(左)、ヴァン・ヘイレンのボーカリスト・デイヴ(右)。

ロック業界はおかしな奴ばっかりだ。


演出面でもちょっぴり小粋なことをしている。

ボーカルを解雇されたヴィンスがバーでヤケ酒を煽りながらテレビを眺めているとメンバーチェンジしたヴァン・ヘイレンが音楽番組に現れ、新ボーカルのサミー・ヘイガー(大好き!)が「絶好調だぜ、ハッハー!」と意気込む映像が流れてくる。上り坂のヴァン・ヘイレンと下り坂のモトリー・クルーをテレビ越しに対比したいい演出だ。

あるいは映画後半、90年代に差しかかると街の一角にパール・ジャムのデビューアルバム『Ten』のポスターがデカデカと刷られており、グランジの到来を予感させる。90年代に入るとハードロック/ヘヴィメタルが一斉に淘汰され、ニルヴァーナ、パール・ジャム、サウンドガーデンを筆頭としたグランジブームが頭をもたげ始めた。ロックの転換期ってやつだな。

このように、テレビやポスターのような小道具を使って対比構図や時代背景をさり気なく示唆する小ネタの運用に好感を持った。

 

したがって『ザ・ダート』はモトリーファンだけがコソコソと楽しむようなファンアイテムではない。ロック好きやメタラーをはじめ、興味本位で見たヤツ、ロックンロールなどまるで聴かないヤツ、暇潰しでNetflixを徘徊してる馬鹿ガキ、謎の老犬を散歩させるババア、生真面目な性格のスーパーの店員さん…といったさまざまな人民に等しくショックを与える映画だ。

何より、酒や麻薬を正当化していないのが良い。モトリー・クルーの闇と光をスッパリと二分化してその両方を分け隔てなく提示してみせた公平さ。正直な映画だと思う。

ゆえにこの映画を観て不愉快な思いをする観客もいるかもしれないが、それは知らん。残念ながらA型の道徳愛好家や麻薬撲滅論者の清らかな精神まで保証する器量はこのバンドにはない。

ここにあるのは悪いものをたらふく吸い込んだロックンロールだけだ。文句あるか。

 

 

モトリー・クルーが気になった人はこちらをCHECK IT!

代表曲を3曲ご紹介するが、見事なまでにセックス、ドラッグ、ロックンロールに割り振られている…。

サビのコーラスが有名なので知ってる人も多いのでは。いかにもモトリーらしいパーティーロック「Girls,Girls,Girls」。世界一IQの低い曲名。元気印のセックスソングです。MVのお姉ちゃんたちがみんな格好いい。

 

LAメタルの到達点ともいえる「Dr.Feelgood」メンバー全員がドラッグを絶って再出発した記念碑的名盤『ドクター・フィールグッド』のリード曲なのにドラッグディーラーを賛美した曲という反省のなさ。

ヴィンスの金切り声と腹にズンズンくるリフが瞑想的なグルーヴを生み出しております。

 

シンプル・イズ・ベストな爆走チューン「Kickstart My Heart」

ロックンロールの塊。爆音で聴くと前頭葉が炸裂します。ドライバーの方は決して聴かぬよう。ハイになり過ぎて交通事故起こしますよ。