シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ランペイジ 巨獣大乱闘

元特殊部隊員の霊長類学者って…なんじゃそりゃ。

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2018年。ブラッド・ペイトン監督。ドウェイン・ジョンソン、ナオミ・ハリス、マリン・アッカーマン。

 

ある遺伝子実験の失敗によってゴリラ、オオカミ、ワニの3頭が巨大化し、凶暴化してしまう。さまざまな動物の長所を取り入れた遺伝子によって巨獣と化した3頭の動物たちには、軍による攻撃も効果がない。巨獣たちはやがて大都会シカゴへと到達し、街中で破壊活動を繰り広げる。(映画.comより)

 

おはようございます。

ここ数日はとある特集記事の執筆に追われていて映画評をあまり書けていません。あかんことだと思います。最近CDをまとめ買いしたのでそれも聴かねばなりませんし。音楽を聴きながら文章が書けるといいのだけど、それが出来ないんですよ。脳内で修辞学と戯れているときに耳から音が入ってくると集中力が途切れてしまうんだ。他のブロガーさんはどうなのかな。音楽を聴きながらでも文章が書けるのかな。訊いてみたいけど勇気がでない。でない勇気はどうしようもない。そうして数々の夢を諦めてきた。だからオレは今こうして地獄の底からノートパソコンを打っている。地獄にもインターネット回線が通っていることが有難い。地獄は快適だ。

どうでもいいけど、昨日は15年ぶりぐらいにヒッチコックの『鳥』(63年を観ましてん。追々批評したいと思ってますけど、本日は残念ながら『ランペイジ 巨獣大乱闘』です。がまんしてね。

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◆ロック様の必要性ナシ!◆

日本版ポスターが『キングコング: 髑髏島の巨神』(17年)と似すぎていたので続編だとばかり思っていた。

全然関係ないのね。オレをだますな。

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どっちもイラストで似たようなレイアウト。ややこしいんだよ!

 

さて、この映画。

ザ・ロックことドウェイン・ジョンソン(以下ロック様)が主演の怪獣映画、という時点で何がしたいのかいまいちよく分からない作品である。

絶滅寸前の筋肉スター最後の砦として80年代筋肉映画を延命し続けるロック様が巨大怪獣の乱闘に巻き込まれる…といった内容なのだが、いかなロック様とて怪獣の前では無力な人間。したがって今回のロック様は巨大化した動物を元に戻すために製薬会社から解毒剤を盗んだり、軍によるシカゴ空爆を食い止めたり…といった本来サブキャラがすべき雑事に追われることになる。

すなわちロック様が主演である必要性がほとんどない。

まるでジャッキー・チェン主演なのにワイヤー&CG使いまくりの『メダリオン』(03年)、あるいはシュワちゃんとスタローンの共演作なのにアクションほぼナシの『大脱出』(13年)を彷彿させる筋肉クライシスの系譜である。

がっかりだよ!!

監督は『カリフォルニア・ダウン』(15年)ブラッド・ペイトン。大地震で壊滅したカリフォルニアでレスキュー隊員のロック様が人民をレスキューして回る…といったディザスター映画である。そう悪い出来ではなかったが、こちらもロック様である必要性はあまりなかった。


とはいえマネーメイキングスターとしてのロック様のカリスマ性は遺憾なく発揮されていて、本作では元特殊部隊員の霊長類学者というどんな人生を歩んだらそんなキャリアになるんだというような現実離れしたキャラクターを嬉々として演じている。

さすがに巨大怪獣を張っ倒すことはできないまでも、グレネードランチャーをぶっ放したり軍用ヘリの機銃をぶっ放すぐらいならお茶の子さいさい。拘束バンドも余裕で引きちぎる。

それだけではない。彼には特別な能力があった…。

動物と心を通い合わせることができるのだ。

驚くのはまだ早い。

しかも手話で会話することもできる。

ロック様が手話で語りかけると相手の動物も手話で応えてくれるのだ!

かつてロック様が密猟者から救ったゴリラのジョージは、手話でロック様と会話して熱き友情を築いたりギャグを飛ばし合ったりするのである。

ムツゴロウより一歩先いっとる。

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ゴリラのジョージを庇うロック様(仲良し)。


◆悲報、ジョージの体長戻らず◆

さて。そんなジョージが遺伝子サンプルの影響でやさしい心を忘れて巨大化してしまう。完全にキングコングだ。同時に遺伝子サンプルに感染したオオカミとワニも巨大化して、計三頭がシカゴの街で暴れ始めたからさぁ大変。

この三頭は徒党を組んで都市破壊作業に勤しんでいたが、遺伝子サンプルの解毒剤を手にしたロック様はジョージを元に戻してほかの二頭を倒してもらうという他力本願作戦を展開。

ここで私は疑問に思う。たしかに解毒剤を投与すれば狂暴化したジョージは理性を取り戻すかもしれないが、それと同時に身体も元のサイズに縮小するのではないか? そうなったら巨大化した二頭は倒せないぞ、と。

えらいもんで、都合よく理性だけ取り戻して身体のサイズは戻りませんでした。

うそーん、である。

解毒剤の意味っ、である。

結局、正義の心を取り戻したジョージがワニとオオカミを張っ倒してハッピーエンドへと至るわけだが、体長12メートルまで巨大化したジョージの身体は最後まで元に戻らず。

「やったなジョージ、HAHAHA!」とロック様が高笑いしてシカゴに平和が訪れた、みたいな終わり方をするのだが、いや待てと。

これ…ハッピーエンドけ?

ジョージ、体長12メートルになったままだけど…このまま放ったらかし?

多分このままだと軍から攻撃を受けて殺処分されるよね。どれだけ根は優しいゴリラと言っても、それを知っているのはロック様含む一部の人間だけだし、政府や市民にとっては依然脅威の「怪獣」には変わりないのだから。だって体長12メートルのゴリラだぜ? 殺るっきゃないっしょ。


そんなわけで、いかにもブラッド・ペイトンといった大味な映画だった。

だが大味な映画でこそロック様は光る。製薬会社の黒幕から銃で撃たれたのに「大丈夫だ、急所は外れてた」と言ってのけ、次のシーンではケロッとした顔で走り回るさまのなんと痛快なこと。結局筋肉映画だった!

ロック様と共闘する研究員ナオミ・ハリスとのロマンスや、製薬会社の悪事によって命を落とした彼女の弟への想い…といったドラマ要素は清々しいほど棚上げされる。もはや80年代筋肉映画に近づけようとして故意にデタラメな脚本を書いたのではないか…と邪推してしまうほどに知性を欠いた映画なのである。

80年代筋肉映画がいかにゴミであるかを知っている観客にとっては一周回って逆に楽しめる作品になっている。怪獣映画ファンなら更に楽しめるだろう。

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都市を破壊するオオカミとワニ。

最初はこいつらと結託して大暴れしていたジョージだが解毒剤によって正気を取り戻す。そしてこの顔である。

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「都市破壊して申し訳が立たねー!」

ちょっと可愛いからゆるす。


◆怪獣映画としては0点◆

ハイ、ここからは反撃開始です。

たとえ脚本の不味さが故意であったにせよ、撮影の不味さまで故意ということはなかろう。

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(15年)『パシフィック・リム: アップライジング』(18年)の評でも指摘したが、巨大怪獣がまったく大きく見えない。

この轍を踏んでる時点で怪獣映画としては0点だ。

三頭を同時に画面におさめたいという欲をかいた為に俯瞰構図を乱発していて、遠目からはよく見えるけど迫力はないよね…というロングショットが異常に多い。反面、地上のロック様はアップショット主体で撮られているので巨大怪獣よりロック様の方が大きく見えるというクレイジーな現象が起きている。

映画序盤ではPOV方式を使ったりモニター越しのショットを通して「人間から見た怪獣の恐ろしさ」を表現していたが、中盤以降は撮り方にケレン味がなく単調。ビルや橋の倒壊描写もビタイチ爽快感には繋がらず、爆風や砂煙のひとつも起きない。親とはぐれたキッズを寸でのところでロック様が助け出す…といったベタな描写すらナシ。もちろん質感や重力表現など望むべくもない。怪獣の咆哮も弱い。


その他、飛行機内の人物の位置関係がメチャクチャだったり、ロック様と仲のよかった新米職員たちが中盤から姿を消したり…といった謎シーンのオンパレードで、わざと大味な映画に仕上げた『カリフォルニア・ダウン』とは違ってただただ大味な映画でしかない本作は到底擁護できるものではありません。

まぁ、おバカなプロットに笑いながら突っ込む…といった楽しみ方はできるが、『パシフィック・リム』(13年)『シン・ゴジラ』(16年)のような優れた怪獣映画が平気で作られる2010年代にあって突っ込むことでしか楽しめない怪獣映画なんてもう通用しないんじゃないですか?

この監督は「大味な映画」と「ただ雑な映画」を履き違えている可能性が高いので、一度思いきり頭でも打ってムダな記憶を消した方がいいと思う。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14年)で一度は成功したジェームズ・ガンが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(17年)で失敗したように、アルカイスム(疑古主義)の実現はなかなか困難のようでもあるし。

そんなわけで、古きよき怪獣映画に迂闊に近づいて返り討ちに遭った、という印象の本作。新しいものを作り上げるのは難しいけど「古きよき」を再現することはもっと難しいのかもしれないねってお話でした。

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どんな怪獣よりもアンタが一番怖い。

 

(C)Warner Bros. Entertainment Inc.