鉄砲玉が「鉄砲玉しやんといて」と言われながらも鉄砲玉する話。
2018年。森岡利行監督。野村周平、柳ゆり菜、毎熊克哉。
対立する組の幹部の暗殺を命じられたチンピラ坂本純平は、偶然出会った会社員の加奈と一夜を共にする。鉄砲玉になると言う彼にあきれながらも放っておけない加奈は、決行までの3日間、純平と一緒に行動すると決める。彼女は暗殺をやめて逃げようと純平に持ちかけるが、彼の決意は固かった。 (Yahoo!映画より)
おはようございます。
こないだ友人2名とご飯に行ったときに、ひとりの友人がグラスを倒してキウイサワーをぶちまけました。
飲み物をぶちまける人とぶちまけない人っているよね。私は滅多にぶちまけないので、ぶちまけ知らずと思って頂いていいと思います。
他方、その友人は根っからのぶちまけ体質で、グラスを倒すことにかけては一日の長があります。
そういえば箸もめちゃくちゃ落とします。ご飯に行くたびに最低一回は箸をテーブルの下に落として、よくしゃがんでます。あまりによく落とすので「もう手で食え!」と言うと「いや、そんな…」といって盾突いてきます。
これだけではありません。拙宅に招いて餃子パーティーをしたときは皿を割って帰ったし、別の日には鞄かけのフックも壊されました。「あのさ、間違ってたら申し訳ないんだけど…もしかして破壊を司るなんらかの神様だったりする?」と言うと「いや、そんな…」といって盾突いてくるのです。憎たらしい。でも20年以上の付き合いです。
じゃあ今日は『純平、考え直せ』をサラっと語って参りませう。はっきり言って情熱的な文章とは言い難いです。
◆セツナ系タイムリミット任侠SNSラブストーリー◆
21歳の主人公・野村周平は新宿歌舞伎町では名の通った下っ端やくざ。親分から対立する組の幹部の殺害を任された周平は悪徳不動産会社で働く柳ゆり菜と一夜を共にし、3日後の襲撃決行まで大いに愛し合うといった任侠ラブストーリーである。
主演の野村周平は今やさまざまな映画に引っ張りだこのニューカマー。相手役の柳ゆり菜もニューカマーらしいのだが、私は知らない。
監督の森岡利行はニューカマーではない。『パンツの穴 童貞喪失ラプソディー』(11年)や『ハダカの美奈子』(13年)といった感動巨編を手掛けたおじさんである。ちなみに私自身はニューカマーである。まだブログを初めて1年半ほどだし。
さて。この映画の見所は3日間限定の愛というセツナ系タイムリミット要素にほかならないわけだ。
前科がなくてロクに拳銃に触れたこともない周平が大勢の子分に守られている要人を暗殺するなど自殺行為に等しく、いわば3日後には殺されるか逮捕されることがほぼ決定している身。いわゆるところの鉄砲玉というやつである。本人は漢になる絶好の機会だといってハッスルしているが、ゆり菜は彼への愛が深まるほどに「鉄砲玉とかやめて二人で逃げようよ」と懇願、しかし周平はだいぶハッスルしているので「それはむり。男は一度決めたことを成し遂げるんだ。鉄砲玉をやり遂げて親分に評価してもらうんだー」と言ってあくまで組への忠誠心を優先する。夢を追う男と愛を求むる女、という具合だ。難儀な話である。
そして物語の骨子に絡んでくるのがSNS要素。
やくざ映画なのにSNSが出てくるの?
イエス、出てくるンである。
ゆり菜は周平との出会いをネットの掲示板に綴り、自分たちの状況をリアルタイムで報告し始める。これに反応したネット民はさまざまなコメントを寄せ、瞬く間にゆり菜と周平は歌舞伎町のビッグカップルに…。
はじめはヤクザの周平を軽蔑していたネット民もゆり菜の投稿を通じて人柄のよさを知っていき、3日目の襲撃決行目には「周平、考え直せ!」というコメントがゆり菜の掲示板に殺到する。周平の運命やいかに。
野村周平と柳ゆり菜であられる。
◆わけのわからないSNS描写◆
どうなんだろうな。この映画。どう思います?
好いところはあったし、それは後で言うけど、大前提としてまったく気持ちが乗らなかったので今こうして文章を書いているけれどもダルさを押して半ば義務感で書いてます、てな具合なのだよ。まぁ、たまにはこんなアンニュイモードもいいんじゃないだろうか。
まず私が感じたのは、行きずりの関係を結んだ二人が3日そこら新宿をぷらぷらしただけで襲撃決行の直前に「生きて帰れたら南の島で家族を作ろう」と誓い合うほど真実の愛で結ばれたことに対するウソつけ感。
この3日間で二人がしたことと言えば、ホテルでセックスして、クラブで踊って、焼き肉食って、スクーターニケツして「あー」って叫んだだけ。
ご苦労なこった。そんなもんで真実の愛に辿り着けたら世話ねぇわ。
周平は愛より義に生きる気満々のナチュラルボーンヤクザだし、当初はゆり菜の方もかりそめの愛だと承知したうえで周平に付き合ってます。そのドライな関係性がハードボイルドな世界観を作っていて「なかなか良いんでない?」なんて思っていたのに、徐々にメロドラマに湿りはじめちゃうのね。特にゆり菜は、3日目になって「やっぱ襲撃とかやめて私と逃げようよ」とか言ってゴネ始めるわけ。気持ちはわかるけど今さら言うなよそんなこと。ハナから覚悟のうえで乗ったディールでしょう? って。周平困ってんじゃん。
ゆり菜へのイライラは募るばかりで、なにより度し難いのは自分たちの情報を逐一SNSに公開するという電脳の身振りね。周平と歩いてるときもずっと下向いてスマホ触ってんの。びっくりしちゃって。私。「この娘…周平と一緒にいられるのはたった3日だけなのにずっとスマホ見てるぅー」と思っちゃって。
もうスマホと南の島で家族作ったら?
たぶん人間とスマホのハーフ・ヒューフォンが産まれるよ? やったじゃん。かっこいいじゃん。「母乳はいいから充電して下さい」つって。
でも一番疑問なのはゆり菜よりもネット民なのである。
自殺未遂を繰り返す女学生や人生の岐路に立つホストといった「悩める人々」が周平から勇気をもらって人生に対して前向きになったことで襲撃を思い留まらせようとして「周平、考え直せ!」って書き込むんだけど、当の周平は掲示板の存在すら知らないからその声は届いてないんだよね。彼らの気持ちは完全に一方通行で。
かといって、スレ主のゆり菜が自分のスマホを周平に見せて「アンタ、これだけ多くの人から心配されてんだから襲撃とかマジやめなよ!」と説得することもない。
いや、しろよ。
いの一番にしろよ。そこそこ有効な説得材料じゃん、その掲示板。
事程左様にやってることはヤクザ版『電車男』なんだけど、ただの鉄砲玉の周平がなぜこれほど多くのネット民の心を動かしたのか…というあたりのロジックがまったく立ってなくて。ゆり菜が頻繁に投稿している文章は「カレと高級ホテルにいま~す」とか「カレ超カッコイイ!」といったゴミツイートみたいな内容で、周平の優しさや男気を伝えるようなエピソードも語られなければ読む者の心を打つ文章でもない。それなのに、なぜかネット民たちは襲撃決行日に周平を思い留まらせようと汗だくになって歌舞伎町を捜し回るほどの周平信者と化す。なんで。
掲示板に投稿された書き込みが画面内にスーパーインポーズされる演出にウンザリするのだが、まぁこれは流行りだからいいとして、そこに表示された文章をわざわざ声で読み上げちゃうのはギルティ! ゆるせないよ!
コレさぁ…もうそろそろやめません?
『電車男』(05年)や『白ゆき姫殺人事件』(14年)もそうだけど、画面上に文章を映した挙句ご丁寧に朗読までするという、まるで観客を障害者扱いしてるとしか思えないナメた身振りに中指立てて差し上げますよ。
文字情報を見せるんだったら朗読する必要はないし、朗読するのであれば文字情報を見せる必要はない。情報が重複してんだなぁ。皿洗いしてる主婦がながら見するための親切設計ですか? ついに日本映画はキッチンから見る時代へ?
馬鹿も休み休みイエール大学。
柳ゆり菜であられる。
◆見せ場が濡れ場◆
よかった所もあんにゃで。
なんと言っても野村周平と柳ゆり菜の濡れ場。
その生々しさが明日なき二人が交わした刹那の愛みたいなものを表現していて、エロさと切なさが交錯した情感豊かな見せ場となっております。もっとも『アウトレイジ』(10年)の北野武は次のシーンで殺されてしまう椎名桔平が女に覆いかぶさった背中のワンショットだけで「性=生」をカメラにおさめたわけだけど。
それにしても、最近の日本映画は『海を感じる時』(14年)の池松壮亮、『二重生活』(16年)の菅田将暉、『娼年』(18年)の松坂桃李のように人気若手俳優にガンガン濡れ場を演じさせるよなー。大いに濡れる10年代日本映画という感じで。ようやくちょっぴり健全な精神を取り戻したようでたいへん喜ばしいです。「倫理」とか「教育」を持ち出した時点で映画は終わりですからね。
で、何の話や。見せ場が濡れ場って話か。そうか。
とりわけ全てを晒した柳ゆり菜は結構すごかった。レイプシーンでは顔の形が変わるぐらい殴られたうえに地毛をハサミでズタズタに切られる…という壮絶な芝居をこなしていて、思わず息を呑むとはこのことだろうなって。神社のラストショットで見せた表情も忘れがたい。彼女のどこか安っぽくてコケティッシュな佇まいはこの作品のリアリズムとも抜群にフィットしているし、重ための髪型もベリークールだと思います。
そしてカメラ映りという面ではこれまでの映画のなかで一二を争うほど素晴らしいルックにおさまった野村周平(そんなに観てへんねんけどな)。
ただ、芝居はまだまだ退屈で垢抜けない。ファンには申し訳ないけれど、私はこの役者に対してどこかしら不浄なものを感じておるのだ。以前なにかの番組で「演技論とかアツく語ってる意識高い系の役者が大嫌いなんすよ」と言っていたが、ちみがその言葉を口にするには少し早いのではなかろうか、なんて思ってしまうわけ。
まぁいいや。
そんなわけで『純平、考え直せ』は、Vシネ+SNSという相反するモチーフを絡めた混血的実験作。やってること自体はとても志が高いんだけどなぁ…。
野村周平と柳ゆり菜であられる。
©2018「純平、考え直せ」フィルムパートナーズ