シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

バッジ373

ハゲた刑事がおっさんパワーを発揮するR・デュバル主演作!

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1973年。ハワード・W・コッチ監督。ロバート・デュバル、バーナ・ブルーム、エディ・イーガン。

 

停職中で、今はバーテンダーをやっているエディ・ライアン刑事の相棒が殺された。ライアンはバッジも無しで単独捜査を開始、女関係をあたるが、その女も殺されてしまう。そして今度は彼自身にも危機が迫る…。(Yahoo!映画より)

 

おはようございます。

ちょっぴりマニアックな映画を続々と復刻してくれるTSUTAYA発掘良品が大好きです。

メジャーな映画というのはどこのビデオ屋にも大体置いてるし、動画配信サービスのラインナップにもなっているので観ようと思えばいつでも観られる。第一そういう有名どころは既に観ている。そうなると未だ知らぬ稀少作品を追い求めるようになるのが映画好きの性というもの。そうだろう? 君も僕もトレジャーハンターなんだ。何らかの。

そんなわけで本日からしばらくはTSUTAYA発掘良品のラインナップからお送り致します。

ここ最近は比較的新しめの映画ばかり取り上げてきたので、そろそろこの辺でワガママを聞いて頂くというか、私個人の趣味で映画をセレクトしてもいいんじゃない!!

そんなわけで本日は『バッジ373』 。パッとしないことおびただしい作品です。

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◆三匹目のドジョウ◆

TSUTAYA発掘良品はニヤリとするようなマイナー映画の金鉱脈。大メジャーの作品しか置いてない動画配信サービスでは決して覗けない世界があるのです。

ちなみに過去、発掘良品からレビューした作品は『早春』(70年)『マッドボンバー』(72年)など10作以上ある。いつもお世話になってます。最近ではアッバス・キアロスタミがまとめてドカッと入ってきたり、サム・ペキンパーの『栄光の野郎ども』(65年)『キラー・エリート』(76年)が満を持して復刻するなど映画ファンの心を大いにくすぐる充実のラインナップに感謝することしきりであるうううう。


そんなTSUTAYA発掘良品から今回わたくしがピュッと観たのが『バッジ373』

かの名記事『映画男優十選』においてケヴィン・ベーコンとマイケル・ケインを押さえ堂々の8位に輝いたロバート・デュバルの主演作だ。デュバリストとしてこれを観ないのはモグリやでー。

デュバルといえば『ゴッドファーザー』(72年)のコルレオーネファミリー専属の弁護士トム・ヘイゲン役、それに『地獄の黙示録』(79年)のキルギア中佐役で有名だが、半世紀以上のキャリアにおいてその代表作は数知れず。もっとも、ゴリゴリの脇役俳優なのでアメリカ映画でよく見かけるハゲ親父という程度の認知度しか持たないのがファンとしては寂しいところなのだが、そんなデュバルが『ゴッドファーザー』の翌年に早くも主演を射止めたのが本作なのだ。実にめでたい。

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ロバート・デュバル(現在88歳)


さて、内容は停職中のデュバル刑事が元相棒を殺されて犯人を追いまくるといったよくある刑事映画なのだが、停職中ゆえにバッジを持たないので厳密にいえば刑事ですらない…という裏切りを唯一のオリジナリティとして、あとは『ダーティハリー』(71年)と『フレンチ・コネクション』(71年)の二番煎じである。

もう早いとこ言っちゃう。パクり倒してます。

この2作品が刑事映画ブームを巻き起こした70年代にはハリーやポパイのマガイモノみたいなB級刑事アクションが粗製乱造されたのだ。本作も三匹目のドジョウを狙う気満々で製作されたパクり映画。とはいえ他の亜流作品と一線を画しうるアドバンテージが2つ存在する。2つもだぞ!

ひとつめは、本作が『フレンチ・コネクション』でジーン・ハックマンが演じたポパイのモデルになった刑事エディ・イーガン*1の実話を映画化した作品だということ。

ふたつめは、エディ・イーガン自身がデュバルの上司役として出演していること(『フレンチ・コネクション』でもハックマンの上司役で出演)。

つまり本作は『フレンチ・コネクション』と双璧をなすエディ・イーガン映画。ご本人まで登場してるのだからある意味では血統書つきの本流映画、だけど内容的にはパクり倒している…。

つまり亜流なのか本流なのかよくわかんないと、こういうことになるわけです。

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刑事なのにアウトローという斬新な人物造形によってその後の刑事ドラマの流れを大きく変えた『ダーティハリー』(上)と『フレンチ・コネクション』(下)。


◆命中率ほぼ0パーセントの刑事◆

ファーストシーン。麻薬捜査官のデュバルはプエルトリコ人の容疑者を転落死させてしまったことから謹慎処分を受ける。デュバルはここで早くもバッジと拳銃を没収されるというお決まりの展開を迎える上に、世間からはプエルトリコ移民に対する差別だと糾弾されてしまう。

60年代後半の米国には約160万人のプエルトリコ人が住み、その多くが貧困層だった。公民権運動の陰でおこなわれていた移民への差別をドラマに盛り込んだ脚本家ピート・ハミル『ニューヨークのプエルトリコ人』という本も書いていて、劇中でも至る所にヒスパニックへの言及がみとめられる。何者かに殺された女の恋人はプエルトリコ独立党の主導者だし、死んだ相棒の現パートナーもヒスパニック。そして彼らの口からアメリカ帝国主義批判が叫ばれ、レイシストであるデュバルはイーストウッドよろしく差別用語をまき散らし、その報いを受けるかのようにチンピラ移民集団から袋叩きに遭う。


このように、刑事アクションに人種問題を織り交ぜることで割と見応えのあるドラマになっているのだが…、惜しむらくはデュバルがおっさんパワーを発揮する映画後半では思考停止の馬鹿アクションと化してしまう。

成り行きでバスジャックしてしまったデュバルがそこに乗り合わせた一般市民の安全を顧みることなくバスを暴走させて敵の車とカーチェイス。挙げ句の果てには猛スピードで店に突っ込み、敵の集団にバスから引きずり降ろされて半殺しにされるという爆走&爆笑のチェイスシーンが最大の見所であろう。

このシーン、いくら撮影許可を得たとは言えかなりの暴走ぶりで、夜のニューヨークを事故寸前のハンドルさばきで突っ走り、敵の車がコロコロ横転していくのである。しかもこんなにハデな絵面なのにポーカーフェイスで黙々と運転するデュバル。その華のなさがなんともシュールで不思議な笑いを誘う。

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顔デカいな。

 

街の小悪党から半殺しにされたデュバルは「懲りた」といって相棒暗殺事件から手を引くことを決意、退院後に恋人のバーナ・ブルームと別荘で休暇を過ごすのだが、腐っても熱血刑事、身体の奥から沸々とわき上がってくるおっさんパワーに突き動かされ、強くなるために射撃の訓練を始める。

「手を引くって言ったじゃない!」と悲憤する恋人を無視したデュバルは空きビンに向かってバキュンバキュン発砲するのだがびっくりするぐらい一発も当たらない。

上空を通りすぎる鳥に「ムムッ!」と反応して散弾銃をぶっ放す…というシーンも2~3回あるのだが全弾外している。この別荘シーケンスの見所は、全弾キレイに外したのにまるで当てたみたいな顔をするデュバル、そのふてこさにほかならないだろう。

もちろん犯人と相まみえるクライマックスでもデュバルの弾丸は悲しいぐらい当たらない。そもそも静止した空きビンですら全弾外すのだから、ちょこまか動き回る人間を撃つことなどできるはずもないのだ。別荘での射撃訓練は何だったのかと思うほどまったく腕が上達していないのが切なさを通り越して笑いへと昇華されるクライマックスである。

とはいえ最終的には犯人の射殺に成功するのだが…めちゃめちゃ至近距離から撃ってるからね。

そんなわけで本作はデュバルの命中精度の悪さを楽しむ映画であろう。

ほかの刑事映画に比べて無駄撃ちがすごい映画でした。命中率ほぼ0パーセントですから。なんで刑事になったんだよと訝るレベル。

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「勘を取り戻す」とか言って射撃訓練をおこなうデュバルだがもともと勘なんてあったのか? と思うほど一向に上達しない。


デュバルの動きがものっそ速い◆

はっきり言って『ダーティハリー』『フレンチ・コネクション』に比べると悲しいぐらいチープな映画である。

下手くそなファンク・ミュージックが画面の雰囲気も弁えずにポコチャカポコチャカ鳴っているのが耳障りでしょうがないが、百歩譲ってこれはゆるす。

なにより悲しいのは追ったり逃げたりするデュバルの動きが早回しで処理されていることだ。

通常、フィルムは1秒24コマから構成されているが、大昔の映画…たとえばチャップリンの作品なんかは1秒18コマで撮影されているので動きが速く感じるでしょう? 今日でもその技術は「コマ落とし」という形で応用されていて、モタモタと走るデュバル(当時42歳)のショットからコマをいくつか抜けば機敏な動きをしているように見え、観客をして「デュバル超速えー」と言わしめる視覚のトリックが実現するのである(ジャッキー映画をはじめアクション映画の技斗などでよく使われる映像技法だね!)。

ところが本作がしているのは「コマ落とし」ではなく「早回し」。

早回しとは、書いて字のごとく撮った映像を1.1倍速ほどで早送りするというもの。局所的に使うぶんには効果的だが、本作のように持続的に使い続けると動きがヌルヌルするので気持ち悪いことおびただしいのである。

ありえない速度でハシゴや階段をスルスルとのぼるデュバル。まるで軽犯罪者のようだ。

ありえない足の動きでちょこちょこ走るデュバル。さながら姑息なヤモリ。

背景に映り込んだ車も時速200キロで走っているように見える。まるでこの世はサーキット。

誰も彼もが生き急ぐ世界。『バッジ373』であります。


本筋とは関係のないチンピラとのチェイスシーンや黒幕が長々と自分の生い立ちを語る…など枝葉末節があちこちに散見される鈍重な語りがいかにも70年代B級映画という感じだが、観る者の半笑いを誘う脱力世界とトコトン無茶するおっさんパワーの熱量ありきの作品になっていて、その歪なバランス感覚のなかにB級映画魂を見出すべき作品なのかもしれない。

私としては「出ずっぱりのデュバル御大」という一点だけでサムアップ。ホールドアップ。「最近デュバルが足りてないなー」という奴だけがこっそり楽しむべき作品だが、困ったことにそんな奴はそうそういない。

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主人公のモデルになった元刑事エディ・イーガン(左)がデュバルの上司を好演。

 

*1:エディ・イーガン…元ニューヨーク市警の警察官。1961年にアメリカ犯罪史上最大の麻薬ルート「フレンチ・コネクション」を相棒と二人でぶっ潰す。その活躍を映画化した『フレンチ・コネクション』ではスーパーバイザーとして参加しただけでなく図に乗って俳優デビューも飾る。その後警察を辞めて俳優業に転向。1995年永眠。