シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

シネ刀映画対談(前半)

おはようございます、おまえたち。第1回目にして早くも最終回の予感を孕んだ『シネ刀映画対談』。

坊ちゃん回のような自作自演の対談記事じゃないですよ。

生身の人間と半月以上に渡ってTwitterのDMでひたすら映画トークのラリーを続けて、その内容をうまいこと編集したのです。ときには改竄や捏造をも辞さない身振りでね。

そんなわけで超豪華ゲストをお迎えしております。ようこそお越し下さいました。

和服評論家のやなぎやさんです!

一日に90憶アクセスという世界人口すら超えるPV数を誇る謎の映画ブログ『Yayga!』の運営者にして、二児の母、一夫の妻、人の子として知られるやなぎやさんと夢の対談が実現しました。全『Yayga!』読者必読の回となっておりますよ。

くそみたいに長くなったので前後半にわけております。それではダラダラした対談をお楽しみください。

 

◆それぞれの映画原体験◆

 

ふかづめ おはようございます。オファーを受けてくださってどうもアリス。

 

やなぎや おはよう、ふかちゃん! ヤング翁の方がいいかしら? あ、それともこういう感じいらない?

 

ふかづめ いらない。

 

やなぎや 字数食うもんね。うひー、緊張するぅ。

 

ふかづめ 今回は二人でダラダラ語ろうというユルい企画なので何も考えずに始めちゃったんだけど…やはりお互い映画ブロガーですから映画の話をした方がいいのかな。わかんねえや。

 

やなぎや きのう何食べた?

 

ふかづめ 豚キムチですね。ニラを加えております。

 

やなぎや ニラ好きですよね。うちの猫もニラくんくんしますよ。でもそこは「いきなり昨日食べたもの訊くとかあほちゃう?」と言ってくれニャいと。私の立つ瀬がニャいわけよ。

 

ふかづめ えぇー知らなー…。

まず最初に訊いてみたいのは、やなぎやさんが映画好きになったキッカケなんですけど、何か特定の作品とかエピソードとかあるん。

 

やなぎや 映画に触れたきっかけは父が映画好きだったことですね。

一番古い記憶は小学校低学年のときの『大脱走』(63年)『スティング』(73年)。次が『インディ・ジョーンズ』シリーズ。少し大きくなったら、たぶん父がイーストウッド好きだったのかな…『ダーティハリー』シリーズはもちろん『荒野の用心棒』(64年)『夕陽のガンマン』(65年)『真昼の死闘』(70年)は何度も観せられた。一番最初の映画館が『七人の侍』(54年)『椿三十郎』(62年)の二本立て!

 

ふかづめ ずいぶんオヤジ臭い原体験をお持ちでいらっしゃる。

やっぱり黒澤やイーストウッドって早いうちに観るよね。 でも、やなぎやさんの世代は黒澤やイーストウッドが向こうからやってくると思うんです。べつに観るつもりがなくても最初から観る環境に囲われていたというか。それこそ親の影響とかテレビ放送があったわけでしょ。 私なんかの世代はこっちから向かっていかないと一生観ないまま悲しい人生を閉じることになるんです。黒澤すらロクに観ていない若い映画ファンなんてゴマンといますから。 

 

やなぎや たしかに『ダーティハリー』(71年)なんて繰り返し洋画劇場でやってたからね。

自分で映画を選ぶようになってからは、刑事ものや法廷ものを好んで観ていたなあ。 『刑事ジョン・ブック 目撃者』(85年)『デッドマン・ウォーキング』(95年)『告発』(95年)『真実の行方』(96年)とか。重めの…人間ドラマも混ざったような。

 

ふかづめ あー。『バーディ』(84年)とか好きそうですよね。僕も重たい映画は物心ついた頃から好きで。だから好きな黒澤映画も『白痴』(51年)とか『天国と地獄』(63年)になっちゃうんですわ。

 

やなぎや ふかづめさんの思い出の映画体験てある?

 

ふかづめ 僕は洋画劇場で育ったんで、ジャッキーとかスタローンとか…そういうジャンクフードみたいな映画にルーツがあるんですけど、学生時代はアメリカン・ニューシネマに狂ってました。『卒業』(67年)とか『カッコーの巣の上で』(75年)とか。重くて悲惨な話なんだけど、当時のアメリカの陰鬱な空気とか政治を照射していて、幼少期から親しんできた「幸福なハリウッド映画」の幻想がそこでぶっ壊されるわけです。『明日に向って撃て!』(69年)とか、やっぱり衝撃的だったもの。

 

やなぎや スタローンは最高だよね!!!

『卒業』はラスト、バスの中の二人の怯えた表情が印象的。『大鹿村騒動記』(11年)は観た? 友達にあれは『卒業』のその後みたいな話だと言われて観たら「それはどうだろ?」って思ったけど、すごく面白かったよ!

 

ふかづめ へぇ。

 

やなぎや 興味示せよ!

 

 

【編集後記】

この章ではお互いの映画原体験について軽く語り合っておりますが、やなぎやさんは時代劇や戦争映画にも通暁しておられるので恐らくすべてを語ってはいないでしょう。

とりあえず上記でおっしゃっていたやなぎやさんのルーツ映画を画像にまとめてみました。やなぎや解体新書。

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このあたりがやなぎやさんの映画原体験とのこと。

 

◆やなギア、フルスロットル ~とめどない戦争愛~◆

 

ふかづめ やなぎやさんといえば戦争好きで有名だよね。何があなたを戦争へと駆り立てるんですか? 前世がソルジャーなの?

 

やなぎや 戦争映画のきっかけは完全に『大脱走』『インディ・ジョーンズ』に出てきたドイツ軍だと思う。ドイツの戦争モノが特に好き。 『U・ボート』(81年)とか『スターリングラード』とか(もちろん93年版ね)

 

ふかづめ いや、そこは「戦争好きじゃなくて戦争映画が好きなの! 誤解されるでしょ!」と言ってくれニャいと。僕の立つ瀬がニャー。

 

やなぎや えぇー知らなー…。

そんなことより、ふかづめさんには『9000マイルの約束』(04年)を勧めるよ。あの脱出不可能と言われたシベリアの強制収容所から脱走し、3年かけて故郷に辿り着いた男の飢えと絶望と孤独の道程!!!

 

ふかづめ あー、強制収容所…。

 

やなぎや あと『アウシュビッツ行 最終列車 ヒトラー第三帝国ホロコースト』(06年)とか。アウシュビッツに向かう地獄のような列車内を延々映しただけの楽しい映画だよね。

 

ふかづめ 楽しい映画? 

 

やなぎや 戦争映画って戦争に負けた国が作った方が面白いよね?

ふかづめさんもそう思うね?

しかし私の、負けた国の戦争映画を好む心理ってなにかな。やはり悲劇的なドラマや破滅の美学を求めているの…?

 

ふかづめ えぇー知らなー…。ホントに知らなー…。

僕はやなぎやさんほど戦争愛がないのでさっきからまったく話についていけてない。

 

やなぎや ふかづめさんが話についてきてないのは気にしない。

 

ふかづめ 戦争映画も人並みには観てますけど、最もエンターテイメントしていた60年代前後の作品って『史上最大の作戦』(62年)とか『パリは燃えているか』(66年)のようにオールスターキャストの超大作が多くて、大物俳優が20人ぐらい入り乱れてますよね。将軍だけで何人おんねん、みたいな。もちろん一人ずつアップで撮っていくような時間的余裕はないのでロングショット主体になる。だから人物の貌が識別しにくくて、あまつさえその場にいないキャラの名前を連呼したりするわけですよ。もう誰が誰やら…。

 

やなぎや  たしかに、その頃の戦争映画の登場人物は混乱する! 当時は戦争映画が身近だったし(終戦からそれほど経ってないという意味で )、俳優としても大掛かりな戦争映画に出ることがステータスだったりしたのかな。同じような服着て軍帽被ってて薄汚れてるせいもあるんじゃないかしら。実はさっき挙げた『U・ボート』『スターリングラード』でも人物の区別はイマイチ曖昧。

 

ふかづめ まぁ、そんなわけでキャストが大勢出てくる戦争映画には苦手意識があるんだけど、「個」を描いた作品は好きですよ。いちばん好きな戦争映画は『ジョニーは戦場へ行った』(71年)です。触覚以外の五感がなくて手足も失ったジョニーが薄暗い病室でひたすら死を待つという中身。もう…究極の個! 考えることしか出来ないですからね、ジョニーときたら。 

 

やなぎや  ある意味『ジョニーは戦場へ行った』は戦争映画ではないよね?

 

ふかづめ 言われてしまった。

 

やなぎや この映画での「戦争」はホラ、ふかづめさんがよくのたまうマグニフィカだかマグニフィセントってヤツではない? あくまでジョニーがこうなった原因なだけで、メインはジョニーの孤独と絶望だからね。

※恐らく「マクガフィン」と言おうとしておられる。

 

ふかづめ 分かっちゃあいたけど、改めて言われてしまうとぐうの音も出ませんね。たしかに『カサブランカ』(42年)『死刑執行人もまた死す』(43年)も、戦争を「背景」にした映画であって戦争そのものは映してないからなぁ…。

 

やなぎや この映画を戦争映画として見たとき、ジョニーの姿からすぐ反戦に結びつける人達がキライなんですよ。なにお勉強した気になってんの? と思っちゃう。私にとって戦争映画は完全な娯楽なのですね(もちろん例外はあります)。

 

ふかづめ  これはやなぎやさんの世界ですね。僕にはいまいち分からない感覚だけど、読者の中には共感する人もいるのかな?

 

やなぎや 戦争映画の感想って「こんなことを初めて知った」、「二度と繰り返すべきではない」というものが多いように思うんだけど、表面だけなぞっていかにも安易な結論に着地するのが好きじゃないんだよね。

 

ふかづめ なるほど。それって結論ありきの結論に軟着陸しただけだもんね。それで言えばLGBT映画に対する漫然とした博愛感にもちょっとウンザリしますけどね。どの映画に対しても「人種差別はよくない」って。出口はいっしょ。

 

やなぎや そんな今更すぎる教訓を得るために映画を観るの?と思ってしまうよね。まあ、余計な知識をつけすぎて史実と違うトコばかりゴリゴリ言ってる戦争映画好きも苦手だけど。

 

ふかづめ ちなみに僕は『アルジェの戦い』(66年)とか『戦争のはらわた』(77年)のような撃ちまくり死にまくりの戦争映画も好きですよ。メル・ギブソンの『ハクソー・リッジ』(16年)はご覧になられました? 人体バラバラ内臓グチャグチャが凄かった。『ハクソー・リッジ』っていうか吐きそうリッジって感じで。 

 

やなぎや メルギブは好きだけど『ハクソー・リッジ』はイマイチだったなぁ。「『プライベート・ライアン』(98年)を超える戦闘シーン!」って前評判だったけど、そんなことなかったよね? デズモンド坊の生い立ちを延々見せられた挙句、戦闘シーンは戦場というよりゴア描写の過ぎるアクションだったし。イーストウッドの硫黄島プロジェクトの後によく撮れたなあって。『ハ! クソリッジ』って感じですよ。…ちょ、なに言わせるの。ひどい。 

 

ふかづめ 勝手に言ったんやないか。でもうまい返しをあなたはしました。

 

 

【編集後記】

この章は完全にやなぎやさんの独壇場。私はわけのわからない戦争愛に必死で食らいついている。そんな自分が愛おしい。

ナチス映画をもっと観なければならぬなぁ、と襟を正す思いです。

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話題にのぼった戦争映画の数々です。

 

『ブロークバック・マウンテン』『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の話

 

やなぎや よし、話題変えましょう! ふかづめさんと話したいこと一杯あるからなぁ。ブログにコメントしまくってるようだけど、あれでも一応遠慮しているのですよ。

じゃあ、下から選んで。

『ブロークバック・マウンテン』(05年)について語る。

『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05年)について語る。

『ロッキー』シリーズについて語る。

『エイリアン』シリーズについて語る。

⑤ ロックバンド「女王蜂」の名曲ベスト3を発表して語り合う (ふかづめさんは夜なべして全曲マスターのこと)

⑥ 井上章一著『京都ぎらい』についてサラブレッド京都民であるふかづめさんの生の声を聞く(プライベートに土足で踏み込む嫌がらせ企画)。

 

ふかづめ 粒ぞろいですね。①から④までザッとやっていきますか? ⑤と⑥はなんて書いてあるのか上手く読めないや。

 

やなぎや じゃあまずは『ブロークバック・マウンテン』ね。私はこれが名作なのかつまらんのか何度観てもブレるので。

 

ふかづめ ヴェネツィア映画祭の金獅子賞とアカデミー賞に8部門ノミネートされたアン・リーのヒット作ですね。

…あ、やべ。ストーリーまったく覚えてねぇ…。

 

やなぎや ジェイクLOVEの私としては、つやつやお肌とぷるぷる唇のジェイクに「ふおー!」ってなるんだけど、やはりヒース・レジャーかなあ、この映画に関しては。コレを「ゲイ映画」と呼ぶのがピンと来ないんですよね。紛うことなきカウボーイ映画じゃない? いかにも西部のカウボーイらしく男であろうとするヒースが、「男らしさ」に雁字搦めになっていくさまに見応えがある。

ジェイクの方は対照的に器用というか、状況適応力があって、ロデオを諦め結婚生活をどうにかこなしている。一方でヒースさえ決心すれば二人で生きる意志はいつも持っていて、ブレがない分、自由というか。だから、ブレブレで不安定なヒースの方に目が行ってしまうんだよね。

ふかづめさんはこの映画どう?

 

ふかづめ 色彩豊かな自然描写と灰色の日常描写の対比はよかったけど、どうも役者の顔がキレイ過ぎますよね。ヒースもジェイクも。アン・ハサウェイなんてどっからどう見てもニューヨーカー顔だもん。ワイオミングの田舎町にこんな女がいるかよ!

ゲイ描写もキラキラと幻想的に撮ってて。わりと美しい映画ではあるけど作られた美しさだなーと思って、僕もあまり心惹かれなかった映画です。

 

やなぎや 確かに作られた美しさというのはわかる気がするなぁ。それ以上に感じるものはあまりないよね。ふかづめさんの大好きなミシェル・ウィリアムズもその魅力を存分に発揮しておりますが。

 

ふかづめ 夫婦役のヒースとミシェルは本作がきっかけで私生活でも婚約したんですよね。ところが2年後に婚約解消して、その1年後にヒースが死んじゃう。ここからミシェルは薄幸女優として陰鬱な映画ばかり出るようになる。自分は幸せにはなれない、なってはいけないというオブセッションを映画を形代にどうにか消化しようとする。だから『ブロークバック・マウンテン』はミシェル・ウィリアムズという女優に呪いをかけた作品で。ヒースにとっての『ダークナイト』(08年)のように1本の映画が役者の人生を狂わせるケースってあるんですよね。

 

やなぎや あと、この映画でヒースの友人となったジェイクが、ヒースとミシェルの子の名付け親、後見人になったのよね。

これはオマケで聞きたいんだけど、ブロークバックで二人が初めて関係を持ったときのトリガーってわかる? 私は、あれ完全に酒のせいではと思っていて。二人があとで「自分はクィアじゃない」と言い合うところからも、互いをそういう目で見ていなかったとしても1%でも予感や可能性があればお酒ってそれを増大させるじゃない。だからこの映画は酒映画とも言えるのではないかと思っているのだけど。

 

ふかづめ トリガーとか全然わかんねえや。

ただ、開拓時代の西部には女性があまりいなかったので男性同士の関係もそこまで珍しくはなかったようですね。『赤い河』(48年)『明日に向って撃て!』(69年)のような西部劇にも同性愛的なニュアンスがほんのり漂っているので。西部劇ではないけど『真夜中のカーボーイ』(69年)とか。 

 

やなぎや ストーリーはまったく覚えてねぇしトリガーは全然わかんねえ、とおっしゃる。

 

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『ブロークバック・マウンテン』

 

ふかづめ ばつが悪いので『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05年)に話題を移すんだけど、奇しくもこれは『ブロークバック・マウンテン』と同じく2005年の映画となっております。 以前やなぎやさんからリクエストを受けてレビューしたけれど、かなりお気に入りの作品なんですか?

 

やなぎや さて、私がリクエストしてレビューを書いてもらったのは『イースタン・プロミス』(07年)なんだな。私の知る限りでは、ふかづめさん『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は書いてなかったと思うよ。

 

ふかづめ あ。さっきから本当にごめんなさいね…。「覚えてねえ」、「わかんねえ」、おまけに勘違いまでする始末。こうなった以上、私のポンコツぶりは誰にも止められませんよ。

 

やなぎや 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』はすごく好きなんですよ。相変わらずちゃんと説明できないんだけど…。クローネンバーグという人の作品を観てみようと思い、これを観たら、クローネンバーグ初心者には易しい映画だった。でも十分にゾワリとさせられた。

 

ふかづめ 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は暴力を描いた作品ではなく「暴力について」を描いた作品で、ヴィゴ・モーテンセンのマフィアに対する行動は「退治」でもなければ「復讐」でもないからね。暴力に満ちた過去を清算し、暴力とは無縁の世界で人生をやり直すために暴力を行使してしまう。

したがってヴィゴには自我も思想も感情もなく、まるで「物」みたいな撮られ方をされてて。ここではもっぱら僅か数秒のうちに人を殺害する身体だけが撮られてますし、殺されるマフィアの方も顔面を撃たれて血がボコボコ噴き出して痙攣したり、顔を何度も叩かれて鼻がもげちゃう…といった過剰な暴力描写がなされている。まるで壊れた人形を見下ろすような、冷ややかなカメラでね!

 

やなぎや 最後のシーンなんかダークよね。妻は暴力に一瞬とはいえ魅せられ、息子は暴力の威力を知ってしまった。小さな娘だけが暴力の存在に気づいていない。それが夕食の席の団欒という構図なんだもん。 女としては、ヴィゴが無理やり奥さんとセックスするシーンを、女が快感に負けたと解釈して欲しくないなと。暴力を行使するときのヴィゴの動きに無駄がないとこと、そのシーンがパキッと終わるとこが好き。

ふかづめさんは『イースタン・プロミス』で銃が登場しないことの意味や裂傷のモチーフのことを書いていたけど、この映画にはそういうの何かあるの?

 

ふかづめ やはりクローネンバーグなので身体の変容は一貫してます。たとえばヴィゴの足にナイフが突き立てられた瞬間、穏やかだった「トム」は人殺しの「ジョーイ」に豹変するわけですよね。ナイフ(暴力)と一体化したことで、一度は葬ったはずの人格が蘇ってしまった。そのあと、すっかり暴力に染まって銃と一体化したトム=ジョーイは、過去の清算という名目を掲げて殺戮祭りに興じていくわけです。クローネンバーグ作品に頻出する「切り傷」は、何かと溶け合って融合するための扉のようなもので。足にナイフを突き立てられて暴力に目覚めた…というのもそういうことです。

とはいえ本作のヴィゴは最強設定なので『イースタン・プロミス』ほど分かりやすい裂傷はなかったかと思いますが、よく見ると裂傷のモチーフは絶えず画面に映っていて。それはヴィゴが若い頃に怪我をしてつけた上唇の傷痕。

ほかの出演作では目立たないようにうまく隠してるけど、クローネンバーグはわざと傷痕がはっきり見えるような角度や照明でヴィゴの顔を撮ってらっしゃる。ヴィゴはもともとクローネンバーグ的「裂傷」のモチーフを体現した俳優で、だからこそ本作のあとに『イースタン・プロミス』『危険なメソッド』(11年)と三連続で起用されたのではないか、というのが私の試論であります。

 

やなぎや へぇ。

 

ふかづめ 興味示せよ!

 

 

【編集後記】

『ブロークバック・マウンテン』はだいぶ記憶から薄れている作品なので「覚えてない」、「わからない」を連呼してしまいました。さぁ映画の話をするぞという時に絶対に言ってはいけない二大ワードですよね。大変申し訳なく思っております。

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 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』

 

第一部はこれにて仕舞い。

後半では『ロッキー』『エイリアン』シリーズについてダラダラとくっちゃべっているので、そちらもチェックして頂ければアリスって感じです。じゃあね!