シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

クリード 炎の宿敵

炎の宿敵に負けてずっと落ち込んでる映画。

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2018年。スティーブン・ケイプル・Jr.監督。マイケル・B・ジョーダン、シルベスター・スタローン、テッサ・トンプソン。

 

ロッキーの指導の下、世界チャンピオンに上り詰めたアドニスは、かつて父アポロの命を奪ったイワン・ドラゴの息子ヴィクターと対戦することになる。ヴィクターの反則行為により試合には勝利したものの、納得のいく勝利を飾ることができなかったアドニスは、心身ともに不調に陥ってしまう。やがて婚約者のビアンカが出産して父親になったアドニスは、ロッキーから父親という存在の大切さを諭され、しばらく一線から遠のくことに。しかし、「ボクシングこそが自分そのもの」と気づいたアドニスは、ヴィクターとの再戦を決意する。(映画.comより)

 

おはようございます。「シネ刀うきうきショッピング」のお時間です。この番組では私が個人的に気になってる商品をご紹介させて頂きます。

昨日、Amazonでヌンチャクを見ていたんですが、この世には大まかに分けて二種類のヌンチャクがあるんですね。

「ゴム製のやつ」と「ほんまに痛いやつ」。

いまの季節、そろそろヌンチャクデビューしようかなって購入を検討されてる人は多いと思いますが、せっかく買うなら「ほんまに痛いやつ」を買った方がいいと思います。「ゴム製のやつ」は練習用ですが、そんなヤワなもので練習しても何も身につきません。アザの数だけ強くなる。それがヌンチャク道なのです。

ちなみに「ゴム製のやつ」は約1500円、「ほんまに痛いやつ」は約15000円でのご提供となります。

ヌンチャクをしまっておく巾着袋みたいな物はないのかなと思って調べてみたのですが、名称がわからなかったので検索できませんでした。なんていうんですかね、あれ。ヌンチャク・キンチャク?

そもそもヌンチャクって袋の中にしまっておくモノなのかどうかすらよく知りません。なぜならヌンチャクなんて触ったこともないから。

そんなわけで、次回の「シネ刀うきうきショッピング」ではパワーショベルをご紹介します。夏のドライブにはもってこいの一品ですね。

 

それでは、オマケで映画評をやっていきます。本日取り上げるのは『クリード 炎の宿敵』。残念ですがボクシングの映画なのでヌンチャクは出てきません。

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◆悪夢の「ちょけ事件」を乗り越えろ!◆

よし、ゴングが鳴ったので評論開始だ。

この映画は『ロッキー4/炎の友情』(85年)の悪夢を乗り越えようとする物語である。その悪夢とはロッキーと拳を交えた盟友アポロの死。

『ロッキー4』を思い返してみよう。ソ連の殺戮パンチャーことイワン・ドラゴとエキシビションマッチが決まった元王者のアポロ・クリードは、軽快にダンスを踊りながらちょけにちょけて入場するもわずか2ラウンドでシバき殺されてしまう。

ちょけるだけちょけてアッサリ屠られたアポロ…。せっかく「ファンクの帝王」ことジェームス・ブラウンが歌ってくれたのにすぐ死ぬアポロ。『プレデター』(87年)でも速やかに抹殺されたアポロ(同じ役者)。

私が発表する「途中で死んじゃう主人公の親友ランキングTOP10」において堂々の圏外に輝いたアポロ!

とはいえ、私はアポロが大好きなのである。ちょけの神様として私淑しているぐらいだし、幼馴染み2人と『ロッキー』の話をするときは必ずといっていいほど「ちょけ事件」に言及するのです。

ちょける…「調子に乗る」といった意味合いの関西弁。

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こんなにちょけていたアポロが…

 

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ドラゴが思いのほか強すぎて…

 

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5分後には動かなくなる。


さて。『ロッキー・ザ・ファイナル』(06年)が前作以来16年ぶりの続編としてシリーズを完結させ、その出来のしょっぱさに「続編商法の行き着く先は結局ココかー」などとボヤくわれわれを不意打ちしたのが2015年のことであった。

『クリード チャンプを継ぐ男』の公開ッ!

現役から退いたロッキーが故アポロの息子アドニス・クリードを王者に導くといった世代交代の新章。「そう来るか~!」という驚き半分、「まだ続けるか~!」という呆れ半分。だがロッキーシリーズとして見ても一本の映画として見ても『クリード チャンプを継ぐ男』は素晴らしい快作だった。

その続編が今回の『クリード 炎の宿敵』。アポロを屠ってロッキーから仇討ちされたイワン・ドラゴが33年ぶりに再登場し、手塩にかけた息子ヴィクター・ドラゴがアドニスに挑戦状を叩きつけるといった充実の内容。

要するにこういう図式だ。

アポロの息子VSドラゴの息子!

無論、両者はバチバチの関係である。アドニスは「パパンを殺した男の息子!? パパンの名誉を挽回してやるぞー」と闘志を燃やし、ヴィクターは「パパンを倒したロッキーの愛弟子!? パパンの汚名を返上してやるぞー」と闘魂を剥き出しにする。ファイ。ファイ。元気があれば何でもできる。


したがってこの映画、厳密にいえば『ロッキー』シリーズの続編でもなければ『クリード』シリーズの続編でもなく『ロッキー4/炎の友情』からの連作なのである。

もちろんファンが楽しみにしているのはシルベスター・スタローン(ロッキー役)とドルフ・ラングレン(ドラゴ役)の共演。『エクスペンダブルズ』シリーズではしょっちゅう共演している二人だが、『ロッキー4』の続編で再びロッキーとドラゴを演じる…と思うと感無量なのである。

 

当然ブリジット・ニールセンも出演。『ロッキー4』ではドラゴの妻役だったが私生活ではスタローンと結婚して2年で別れたことで知られる9頭身の激マブ女優。

どっこい、本作ではババア化がすげえ進行してた。54歳にしては老け込みすぎで、ジェイミー・リー・カーティスと見分けがつかなかった。瓜二つなぐらい似ールセン。

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『ロッキー4/炎の友情』で激闘を演じたロッキーとドラゴ。

 

◆不満の猛ラッシュ◆

そんなわけで張り切って鑑賞したのだが、先に結論めいたことを言うと…

パンチが弱い! フットワークが重い! 身体が仕上がってない!

どうですか、ボクシングになぞらえたお洒落な比喩は。改めて単刀直入に言いましょう。

 

つまんね。

 

なかなかのつまらなさである。

なんと言っても取ってつけた感がすごいのだ。

父アポロを殺されたアドニスがドラゴ親子を恨むのは分かるとして、ドラゴサイドがロッキーを逆恨みして、その弟子であるアドニス打倒に執心する理由に論理的一貫性がないので「因縁の対決!」と言われても「因縁? ドラゴ側には何の因縁が?」と頭を抱えてしまう。物語というのは論理で出来てますから。

もとを正せば、ドラゴはアポロを殴り殺したからロッキーに仇討ちされた。なのにドラゴはそれを逆恨みして息子のヴィクターにアドニスを倒させる…って、ただの逆ギレだよ!

一方、ヴィクターが闘う理由はほぼ不明。強いて言えば「祖国ロシアで負け犬のレッテルを貼られたパパンの名誉を回復するため」だが、そこまでしてパパンに尽くすほどの親子愛は描かれていない(むしろ地獄のようなスパルタ教育を受けている)。

そしてアドニスはドラゴ親子の挑発に乗り、周囲の反対を押し切ってヴィクターの挑戦を受け入れて呆気なく惨敗。しかし誰一人として「それ言わんこっちゃない」とは言わず、アドニスに同情、傷ついたプライドを優しくケア、周囲の愛を一身に受けてロッキーのもとで猛特訓を積んだアドニスがヴィクターにリベンジを果たして大団円…というわけだ。

茶番も茶番。

そもそもロッキーである。ヴィクターとの初戦では「やめておけ。挑発なんて無視しろ。オレはセコンドにはつかんからな!」と言って散々アドニスを制止していたのに、二度目のリベンジマッチでは「おう、やったらんかい!」って…なんで。

アドニスの恋人ビアンカも同類である。初戦では「やめて。挑戦を受けないで!」と言っていたのにリベンジマッチでは「絶対勝ってね!」って…なんで。

ただでさえその間には赤ちゃんが産まれているのである。プロポーズを受け入れて出産までしたビアンカはこれまで以上にアドニスの身体が心配なはず。それなのに一度半殺しにされた相手との再戦に愛する男を笑顔で送り出すのだ。 自ら入場曲まで歌って。

精神構造どないなっとんねん。

掌を返すような心境の変化がすごいわけだが、まぁそれ自体は構わない。

でもその心境の変化をドラマチックに描いてこその『ロッキー』シリーズなのでは?

とにかく取ってつけた感がすげえ。キャラ全員が脚本のマリオネットで…ぜんぜん血が通ってないの。

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ドラゴとその倅ヴィクター。

 

このように、物語の骨格は至ってシンプルだ。アドニスがヴィクターに負けてリベンジする。気持ちよいほど単純明快ではないか。

ヴィクターとの初戦は第一幕(開幕30分)でいきなり訪れ、リベンジ戦は第三幕(終盤30分)で描かれる。問題は第二幕(中盤の1時間)がまるまる死に時間だということ。ここで描かれているのはおよそ次の事柄である。

 

・惨敗を喫してアドニスが不貞腐れる。

・ビアンカとの新婚生活がやたら翳る。

・アドニスが生きる屍と化す(プールの底で瞑想してみたりもする)。

・やがて二人の間に産まれた娘に聴覚障害が見つかってすこぶるガッカリする。

・アドニスが娘の子守をするうちになんか勝手に元気になっていく。

・アドニスが実家に帰るとロッキーが先回りしていて闘志が湧きたつような小話をする。

・ようやくアドニスが前向きな気持ちになって皆喜ぶ。

 

これ、おもろいけ?

 

惨敗してすっかり不貞腐れたアドニスは近年のDCヒーローばりにウジウジ悩むばかりで、その間ハナシは一個も動かない。喝を入れるべきロッキーも何故かヘコみ倒していて一切アクションを起こさない。ビアンカだけはアドニスに救いの手を差し伸べようとしたが、彼の母親から「自分で乗り越えなきゃいけない問題」とか言われたので温かく見守ることに…。

そんなわけで、われわれはアドニスがセルフメンタルケアを修了して立ち直るまでの様子をひたすら見守り続けることになる。

その間、約1時間。

かかったなぁー。メンタル回復するだけで上映時間の半分ゴッソリいかれとる。

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少しずつ元気になっていくアドニスとそれを支えるビアンカ。


ていうか、前作でこちらの不安をさんざん煽ったロッキーの癌とビアンカの進行性難聴はどうなったのでしょうか? 風の子みたいに元気そのものなんだけど…。

ビアンカに至ってはバーで歌い倒したうえにボイストレーニングまで行くからな。しまいにはリベンジマッチのアドニスの入場曲を自ら歌う始末。しかも「私は戦う♪ 私は戦う♪」みたいな不思議な歌詞。いや、今から戦うのはアドニスだから。


映像面でも大きく見劣りする。

『クリード チャンプを継ぐ男』ではひとつの試合を約6分の驚異的な長回しでシームレスに見せきっており、『ロッキー』(76年)の発明とも言えるステディカムの精髄もそこかしこで発揮されていて、とりわけフィラデルフィアの若者たちがアドニスのロードワークに並走するスローモーションが目頭を熱くさせた。

もともとこのシリーズは映像技術の革新性とその刷新によって紡がれた一大叙事詩。1970年代から2010年代までの映画史的変遷のなかにその時々の社会情勢を混ぜ込んだ大河ドラマである。だからこそ新章の主人公(アドニス)は世代も人種も変わり、過去作ではハードロックが大部分を占めていた劇中歌もヒップホップやR&Bといったブラックミュージック主体となる(監督2人も黒人)。

だが本作からは『ロッキー』シリーズを前に進める意思が感じられない。

撮影は凡庸。演出も過去作から援用しただけ。ロッキーとドラゴがレストラン「エイドリアンズ」で対峙するシーンは絶望的なまでにサスペンスを欠き、アドニスがビアンカにプロポーズするシーンも絶望的なまでにロマンスが抜け落ちている。今作を手掛けたスティーヴン・ケイプル・Jrは信じられないほどヘタクソで、わたくしは開幕30分で早くもグロッキー。

百歩譲ってここまでは許せるとして…

さぁ、このシリーズの原風景であるフィラデルフィアの景観がひとつもないとは一体どういう了見なのでしょう。

頼むよ、スティーブン・ケイプル・Jr…。お前はいったい誰のジュニアなんだ?

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リベンジに燃えるアドニス。

 

◆家族愛にスタロロローン!

『ロッキー4』の連作とあらば絶対に外せないのが科学と自然を対比するトレーニング・モンタージュである。

最新設備に囲まれてトレーニングするヴィクターと、大自然のなかで原始的なトレーニングを重ねるアドニス。

だが本作ではヴィクターのトレーニングシーンはほとんど映されない。ヴィクターは楽にアドニスを下した初戦で圧倒的な力の差を見せつけたので、トレーニングを通してさらに強くなる過程を見せてしまうと両者の成長ぶりが正比例してアドニスは一生ヴィクターに追いつけないという映画的ジレンマを惹起してしまうからである。したがってウサギとカメの要領で、まるでヴィクターがあんま練習してないかのような見せ方をせねばならないってわけ! これで力の差がトントンになる。

もはや対比もヘチマもねえな。

二人を対比するトレーニング・モンタージュだっつってんのに、びっくりするぐらいアドニスのトレーニングシーンばっかり映してんの。力の差をトントンにするために。まさかこんな形で『ロッキー4』の名シーンが援用されるなんて…おらイヤだ!

 

だが、砂漠のド真ん中でロッキーと猛特訓を積むシーンはなかなか良かった。接近戦に慣れるためにタイヤの中に片足を入れたまま打ち合うシーンなんて完全にトキ対ラオウ。

そして懸垂するアドニスの腹に「死ね! 死ね!」とばかりに謎の鉄球をしこたまぶつけるロッキーに大笑い。

私みたいなボクシング素人からしたら「それ、何の効果があるの…?」なんて思ってしまうのだが、かつてロッキーも腹をボコボコ殴られながら腹筋していたので…まぁ合理的な訓練法なのでしょう。傍目には訓練というより暴力だけど。

 

まぁでも、感動した部分もあるのですよ。

今作は「家族」というテーマを前面に押し出した作劇になっていて、主人公カップルの結婚・出産を中心に、アドニスは亡きアポロの血筋に葛藤し、ロッキーは音信不通だった息子に会いに行く。

ヴィクターを脅しつけて洗脳まがいの教育をしてきたドラゴが最後の最後で親心を発露させるシーンはどう考えても都合よすぎだが、それを演じるドルフ・ラングレンの表現力にヤられてしまった。

そして息子と孫を前にして万感胸に迫るロッキー、そのぶきっちょな佇まいにスタロロローン!(泣いてます)

つまるところ感動をさらったのはロッキーとドラゴだった。結局こうなるんだよ。やっぱり。

ちなみにスタローンは癌という設定なので顔面白塗り。おまけに黒い帽子を被っていることもあって…デカめのチャップリンに見えてしょうがない。

なにこのスタちゃんの仮装大賞。明らかにヘンなんですよ。よく見ると帽子もぺちゃんこに潰れてるし。

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デカめのチャップリン。


まだ続くのだろうか。もし三作目があったら次はどうなるのだろう。クラバーの息子とか出してきたらホント怒るからな!?

でもアポロのスピンオフなら観てみたい気もする。ちょけて2ラウンドで殺されるまでの剽軽な半生を描き上げたロッキー外伝。いかにして王者になったのか、そして妻との馴れ初めを紐解くアポロ・ヒストリー。幼児期のアドニスも登場。

乞うご期待!

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