シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

レッスル!

ユのきらめきが止まらない。ぜんぜん止まらない。

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2018年。キム・デウン監督。ユ・ヘジン、キム・ミンジェ、イ・ソンギョン。

 

かつてはレスリングの代表選手だったが、いまは家事と息子の成長だけが生きがいのシングルファーザーのギボは、将来有望なレスラーでもある息子ソンウンが金メダリストになることを夢見ていた。ところが、代表選手を選抜する試合を目前に、ソンウンが「レスリングを辞めたい」と言い出し…。(映画.comより)

 

おはレッスル!

探してる映画があります。女性が男性に性転換するお話で、恐らく70年代前後の作品。ブリジット・バルドーだかクラウディア・カルディナーレだかといったセクシー系の女優が主演だったような気がします。なにか思い当たった方はコメント欄なりトゥイッターのDM等で教えて頂ければ嬉しいです。

前置き終わり。

よっしゃああああ、今日は『レッスル!』だぁー。

今時分、この映画をレビューできることに幸せを感じております。なお、レビュー終盤はほとんど絶叫してますが悪しからず。

それでは、読んでくレッスル。

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奇面道を継ぐ者、ユ・ヘジン◆

さぁ皆さん、お待たせしました。

アジア全域が待ち望んだユ・ヘジンの最新主演作である。

ユ・ヘジンは90年代末から活躍していた韓国の俳優だが、特に近年の『ベテラン』(15年)『LUCK-KEY/ラッキー』(16年)『タクシー運転手 約束は海を越えて』(17年)といった話題作に立て続けに出演。ようやく時代がユ・ヘジンに追いついたと言っても過言ではないぐらい、現在の韓国映画はユ・ヘジン中毒を引き起こしている。

そもそも、なぜユ・ヘジンの人気が出るのに20年もかかったのか?

それはこの俳優がばかみたいな顔をしているからである。

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人はこの顔を見に行くためにわざわざチケットを買うだろうか?


ところが、20年のキャリアのなかでジワジワと実力が評価され、韓国国内では「ばかみたいな顔したおっさんがいる」と口コミが広がり、満を持して主演を飾った『LUCK-KEY/ラッキー』は700万人を動員して韓国コメディ映画の歴史を塗り替えたのだ。

遅咲き俳優ユ・ヘジン。ようやく韓国映画業界はこの男のヒットポテンシャルに気づいたのである。その魅力はなんといっても顔に尽きよう。

圧倒的奇面力

韓国が産んだ顔面凶器にしてモンスターフェイスの権化。見れば見るほどクセになるブス愛嬌。ユ・ヘジンであります。

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オマエの顔が地獄だ!


もちろん、韓流全盛期(2000年代)にはユ・ヘジンのような奇面俳優がここまで成功するなどあり得なかった。ヨン様をはじめ、チャン・ドンゴンやウォンビンのような二枚目スターの寡占状態だったのである。何しろ韓流ババア…奥様方を相手取った巨大産業。世のマダムたちが「ステキだわ♡」と思うような甘いマスク&細マッチョこそがスターの絶対条件であり、奇面俳優に回ってくる仕事といえば「お調子者の友達」といった端役ばかり。

ところがである。そんな韓流シーンに奇面の道を切り開いたのがこの男!

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オ。

私の大好きなオ・ダルスである。ダルス! ダルス!

最近セクハラ疑惑が浮上して韓国中を「オ!」と思わせたオ・ダルス。

よって今は芸能活動を自粛しているため、最近の韓国映画はオが留守なのだ。なんて悲しいんだ。

オも大概ばかみたいな顔をした俳優である。まさに売れっ子ブサイクの筆頭といっていい。つまり、オが奇面道を切り開き、その流派を受け継いだのがユというわけだ!(だいぶ勝手なこと言ってます)。実際、ユの奇面に太刀打ちできるのはオ先輩ぐらいしかいまい。

奇面の道はに始まりで極まるとはよく言ったもの。いずれにせよ韓国が誇るモンスターフェイス二大巨頭がユ・ヘジンとオ・ダルスなのだ。二人合わせても顔面から窺える知能指数はゼロ!

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奇面一派、オ・ダルス(右)ユ・ヘジン(左)。


◆ユのきらめき◆

そんなユ・ヘジンの主演最新作『レッスル!』。もはや観ない理由を探す方が難しく、この映画を避けてのうのうと人生を送ることなどほとんど不可能といってよい。

レスリングとハッスルを掛けての『レッスル!』。仄かに文学性すらたたえた奥ゆかしい邦題ではないか。

何より人を惹きつけてやまないのがこのポスターデザイン。

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もう言葉もないほど素晴らしい。

ていうかなんでゴム手袋して目玉焼き作ってんだ。

そして屈託のない笑顔。巨大な顔面。剥きだしの歯茎。その辺を歩いてるブス10人分ぐらいのブスパワーをスクリーンに注ぎ込むユ・ヘジン(48歳)が輝き散らす恍惚の110分である。


では内容に切り込むとしよう。

息子キム・ミンジェのレスリングコーチを務めるユ・ヘジンは男やもめの元レスリング選手。主夫をしながら近所の奥さん方にエアロビクスを教える口数の多いオヤジである。

息子のミンジェは上の階に住む幼馴染のイ・ソンギョン、通称ソン嬢に片想い中。ユもソン嬢家とは家族ぐるみの付き合いなので、彼女と息子がいつか付き合うものとばかり思っていたのだが…ソン嬢が惚れたのはなんとユ!

もう一度言っておく。

ピチピチの今ドキ女子が惚れたのは幼馴染のパパ! ユ!

しかも歯茎丸出しのブス親父! ユ!

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幼馴染のソン嬢(左)とミンジェ(右)。

 

『レッスル!』は久方ぶりに心からおもしろいと思える三角関係ラブコメであった。

ソン嬢は男らしさと可愛らしさを併せ持つユに子供のころから惹かれており、そのことをミンジェにカミングアウト。これに大ショックを受けたミンジェはソン嬢を思い留まらせようとするが、ユ愛が抑えきれなくなった彼女はユのレスリング教室に入会。練習を口実にユにタックルをかます彼女だが、もちろんその目的はユに抱きつくこと。この時点ではまだソン嬢から愛されているなんて夢にも思わないユは「いいかげん離れろ!」と言ってかよわい女の子を思いきり投げ飛ばす。顔面をしたたか強打しつつも目がハートのソン嬢。

当然ミンジェは嫉妬心を募らせる。ソン嬢だけでなくユとの親子関係までギクシャクするようになるが、その反面、鬱憤を晴らすかのようにレスリングでは連勝記録を重ねていく。そして息子が強くなった理由も知らずに大喜びするユ。


この物語前半のおもしろさ…その保証人は他でもなくユ・ヘジンであろう。

もはや顔と動きを見ているだけで笑いが止まらないのだが、追撃ミサイルのようにこちらの腹をくすぐってくる要素がチラホラ。無視されても喋り続ける多弁ぶり。なぜか急にBボーイみたいにツバがまっすぐのキャップを愛用し始める不思議な趣味。

極めつけは主な収入源であるエアロビクス教室のシーン。「振り下ろす! 振り下ろす!」と絶叫しながら半狂乱のマリオネットみたいに全身をガクガクさせて主婦を指導するユの動き、ユの輝きユのきらめき。

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存分にきらめき倒すユ。

 

この前半部で見落としてはいけないのが、床に落とした白飯を何食わぬ顔で平らげたユが「落としたメシ食うなよ!」とミンジェに戒められるシーン。

このシーンはミンジュが夏の合宿に行った映画中盤でユが冷蔵庫に入れずに腐らせた白米を食べて救急車に運ばれるシーンに繋がる。もしミンジェがいれば「腐ったメシ食うなよ!」と注意してくれただろうに…。物理的にも精神的にも距離がはなれてしまった息子の不在性が際立つ演出なのである。

この白米は親子を繋げる架け橋なのだ。


◆最初で最後のKiss Time◆

映画後半でついにソン嬢はユに告白する。そのシーンがとても素晴らしいので拙い文章ではあるが精一杯書き起こしてみたいと思う。

夜のレスリング教室。汗まみれで帰り支度をするユの前に赤いドレスでおめかしをしたソン嬢がそっと現れる。ドレスと同じようにその頬も赤らんでいた(きゃあ)。

「おう、まだいたのか! 一緒に帰るか?」とユ。何も知らないユ。

ユは、ソン嬢と肩を並べて廊下を歩きながら「オレの言葉を贈ろう…。危険を冒す勇気がなければ何も得られない!」クソほどしょうもない格言をドヤ顔でほざいた。完全に「虎穴に入らずんば虎子を得ず」を言い換えただけである。「オレの言葉」とか言ってるけど思いっきり中国の故事成語や。

ソン嬢はニコニコしながらユの言葉に耳を傾けていたが、その表情は緊張で張り詰めていた。ユとともに無言でジムの階段を一段ずつ下りながら告白の機会を窺う彼女…。階段の蛍光灯は切れかかっていて、チカチカと明滅を繰り返す。

そして訪れる一瞬の闇…。

刹那、ソン嬢の囁き声が闇の中にこだまする。

「Kiss Time...」

再び灯りが点くと、一段下の階段からピッとつま先立ちをしてユの分厚いクチビルを奪うソン嬢の姿が!

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エンダァァァァァァァァ嫌ァァァァァァァァァァァァ

 

最高にロマンチックな演出に私の中の乙女がときめくぅぅぅぅ。

されどこの甘いシーンを台無しにするユのブスヅラぁぁぁぁぁ。

蛍光灯を使ったロマンチック・サスペンスもさることながら、私のような精神ロートルにとっては古典映画で散々使われてきた「つま先立ちのキス」がたまらなくて。

一段下のソン嬢が一段上のユに対して文字通り「背伸び」してキスをするという構図。これは彼女の強がりを視覚化した構図で、その強がりの奥には「たぶん叶わない恋だろう」というダメ元精神が垣間見えるのである。だからこそ強引に唇を奪ったのだ。言葉で告白してもフラれることは分かっている。ならばせめて最初で最後のキスを…という恋の自爆。その想いが「Kiss Time...」には込められていたのです。

ソン嬢ォーーーーッ!(号泣)


案の定、なんだかんだで分別のあるユはキッチリとこれを断る。ソン嬢は愛する息子の幼馴染で、おまけに未成年。それでなくとも再婚願望のないユは、老いた母親がわざわざセッティングしてくれたお見合いを何度も反故にしてきたのだ。

「オレが愛したのは死んだ妻だけだ。それにオレにはミンジェがいるからな。一生介護してくれよ。なんつって!」

ユーーーーッ!(号泣)

「つま先立ちの自爆キス」で長年の片想いに決着をつけたソン嬢と、亡き妻への愛をブッ貫くユに目頭熱夫!

なんでこんな映画で泣いてるんだオレは!

 

二人肩を並べて歩く帰り道。失恋の痛手をやさしく洗い流すようにソン嬢の頭上から降りしきる夜の雨…。それを見たユは彼女が濡れないように相合傘をする。どうやら10年前にもこれとまったく同じシチュエーションがあったようで、ソン嬢の視点を通してその光景が静かにディゾルブされる。雨の夜に相合傘をして歩く幼少期のソン嬢と少し若いユ。そのとき彼女はユに惚れたのだ…。

そして今、「失恋したばかりのシチュエーション」と「10年前にユに惚れたシチュエーション」がぴったりと重なる…。

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それでは歌って頂きましょう。ソン嬢ヒカルで「First Love」


最後のキスは分厚い感覚がした

ニガくて歯茎の香り

明日の今頃にはあなたはどこにいるんだろう

エアロビクスしてるんだろう

ユ are always gonna be my love

いつか誰かとまた恋に落ちても

I`ll remember to love

ユ taught me how

ユ are always gonna be the one

今はまだ歯茎の love song

新しい歌 歌えるまで…


これが彼女の片想いの顛末である。切なくて悲しくて…だけど相手はユ。ユじゃなければもっとちゃんと感動できたのになぁ。

おっと、忘れちゃいけないのが息子。ミンジェとの確執である。これもこれで号泣を誘って「ミンジェーーーーッ!」となるわけだが、紙幅を考慮してスッパリ割愛する。

だがこれだけは特筆しておかねばなるまい。親子を繋げる白米演出!

かなり色々あったあとに平穏な日常に回帰するラストシーンで、ユとミンジェは久しぶりに親子揃って朝食をとる。ユときたら、自分の前には数日前に炊いて若干痛んだ冷や飯を置き、ミンジェの前には炊きたてのご飯を置いてやるのだ。

ユーーーーッ!(号泣)

子供には美味しいものを食べさせて自分は残り物を片づける…。これぞ親。その親心が胸にジーンと響きます。だがミンジェは、ユが目を離した隙にサッとお椀を入れ替えて自分が冷や飯を食おうとするのだ。

ミンジェーーーーッ!(号泣)

あんなにユを嫌っていたミンジェが遂に父を気遣う心を手にしたというのかァ――ッ! しかし、お椀のすり替えに気づいたユは「冷や飯はパパが食うから」と言って再びお椀を入れ替えようとする。

ユーーーーッ!(号泣)

どっこい、そうはさせないミンジェ、「俺は若いから平気だ!」と言ってそのまま冷や飯をもりもり食べ始める。一杯の冷や飯が二人の仲を取り持っていくゥ――ウ! 冷や飯を媒介とした親子愛とでも言えばいいのか!? 父をいたわる息子の優しさがたまらない…。

ミンジェーーーーッ!(号泣)

「そうか…」と呟いて息子の心遣いに甘えるユ。

ユーーーーッ!(号泣)

 

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 これは !!!

 


『レッスル!』は奇面俳優ユ・ヘジンを使ったおふざけコメディだけではなかった。ここで描かれているのは父と子の照れ臭い絆。その絆を引き裂く契機となったソン嬢との三角関係も含めてじつに爽やかな落としどころが用意された気持ちのいい作品だ。

詳しくは語れなかったがワンシーン・ワンショットで二つの異なる空間を繋げた映像技法もすばらしい。

言うまでもないが、何よりすばらしいのはユ・ヘジンのモンスターフェイスだ。慰安婦像よりもユ・ヘジンの銅像を世界各国に設置した方がよっぽどステキな世界になると思う。

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ツバがまっすぐのキャップをいたく気に入った様子。

 

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