シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

さよならをもう一度

浮気夫と貞淑妻のW不倫を描いたトコトン退屈な映画。

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1961年。アナトール・リトヴァク監督。イングリッド・バーグマン、イヴ・モンタン、アンソニー・パーキンス。

 

パリに暮らす40歳の室内装飾家ポーラはプレイボーイのロジェと愛人関係にある。身勝手なロジェは彼女にいつも淋しい思いをさせている。そんなとき、ポーラは金持ちの依頼人の息子で25歳になる弁護士見習いの米国人フィリップと知り合う。世間知らずで情緒不安定なフィリップは彼女に一目ぼれし、しつこくつきまとう。始めは彼を遠ざけていた彼女もやがて淋しさから彼の愛を受け入れるが…。(Amazonより)

 

おはようございます。

部屋着の長ズボンがびりびりに破けました。悲しいです。

数年前からズボンの左膝あたりに十円玉ぐらいの穴が開いていて、いつも履いた拍子に足の親指が穴に引っかかってビリッと破けていくのです。

当初はダメージジーンズみたいな洒落た感じになっていたのだが、この度ついにただのベロンベロンと化す。膝から下が千切れかかっている、みたいな様相を呈しに呈していく。

縫おうと思えば縫えるのだけど、面倒臭いので、いっそハサミでぶった切りました。するとどういう感じになるかというと右は長ズボンなのに左だけ半ズボンみたいな新興派の部屋着になるわけであります。これぞファッション界を揺るがすアシンメトリー。部屋着シーンを席巻したファンタジスタ・ファッショニスタにしてアパレル界の異端児とは私のこと。

これを履いてランウェイを歩くために、最近はモデル歩きの練習をしています。モデルって猫背でも務まるのかな?

 

あい、そんなわけで今日は『さよならをもう一度』を取りあげるというスケジュールになっておりますね。始まりますよ。

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◆鬼つまらんがキャストだけは一丁前◆

イングリッド・バーグマンイヴ・モンタンアンソニー・パーキンスという超豪華オールスターキャストで幼稚な三角関係を描いただけのえらくモッチャリした作品である。

「仕事で帰りが遅くなるモン!」と言って浮気を繰り返すイヴ・モンタンに孤独を募らせた妻・バーグマンが15歳も年下のアンソニー・パーキンスと浮気してしまい、これに嫉妬したモンタンが「もう浮気はしないモン!」と言って元の鞘に収まる…といった激烈にどうでもいい内容が120分もかけてモッタラモッタラ…いや、モンタンモンタン描かれる。

 

とにかくつまらない。

アナトール・リトヴァクの作品を観たのは今回が初めてだが、どうやらこの男は人を退屈させることにかけては類まれな才能を持っているらしい。

鑑賞中はあまりに退屈すぎて居眠りなのか失神なのかよくわからない意識不明状態に陥り、目が覚めると全身汗まみれになっていてまた意識不明、つぎに目覚めると今度は無性に腹が立ってきて「一体いつ終わるのか!」と時間を確認したところまだ60分しか経っていない。まだ半分…。文字通り気が遠くなって意識不明。

再び意識を取り戻して苦虫を噛み潰したような顔でテレビを睨み続け、ようやく「END」の文字を迎えたころには精も根も尽き果てて…、しかし顔は悪鬼のごとく憎しみのパワーに満ちており、そのあとパソコンを開いてYouTubeを約20分楽しんだことでどうにかフラットな精神状態を取り戻したのである。

なめやがってくそが。


この罰ゲームのような映画体験を無事にクリアできたのも、ひとえにキャストの皆さんのお陰といっていいでしょう。

『古典女優十選』で第10位に輝いたイングリッド・バーグマンは『カサブランカ』(42年)で知られる大女優だが、本作の撮影当時は45歳。

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ハリウッドでの地位を捨ててまでロッセリーニを追ってイタリアへ渡ったイングリッド・バーグマン(破局後、アメリカに出戻り)。


そんな彼女を悩ませる浮気親父のイヴ・モンタンは『恐怖の報酬』(53年)『恋をしましょう』(60年)で知られるフランスの大物俳優(歌手でもある)。

どれくらい大物かというと魔性の女優シモーヌ・シニョレと結婚し、マリリン・モンローやエディット・ピアフといった各界のスーパースターと浮名を流すほどである。まさに性欲の暴走機関車。あるいは性欲大気圏を突破するSEXロケット1号。もしくは浮気海峡に浮かぶ裏切りのヨット。

さんざっぱら浮気した挙げ句、長年連れ添ったシニョレと死別するや否や38歳年下のアシスタントとスピード婚をした。いい加減にしろ。

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中年の色気で女をこますプレイボーイ、イヴ・モンタン。

 

バーグマンの傷心につけ込んで猛アタックを繰り返す岡惚れ年下男子がアンソニー・パーキンス。そう、『サイコ』(60年)におけるサイコ。

彼の本領は分裂症演技。その二面性は本作でも際立っており、拗ねてメソメソ泣いたかと思うとバーグマンによしよしされた途端に少年のような笑顔に変わる…という母性本能くすぐり型の萌え男子を好演。

ちなみに、線が細くて童顔のメソッドアクターという共通点からエドワード・ノートンが直系の類似俳優に当たるのではないかと考えています。二面性を炸裂させてベテランのリチャード・ギアを喰った『真実の行方』(96年)、ありゃあ完全に『サイコ』のパーキンスに倣った演技設計でしょう。

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若手営業マンのような清潔感ある容姿とは裏腹に狂気を孕んだメソッドアクター、アンソニー・パーキンス。

 

◆二大スターへの凭れ掛かり◆

ここからはメッタクソに貶していきます。

まずもって、この映画は単調の極みである。

人を酔わせるような気の利いた演出とか豊かな画面はどこを見渡しても存在せず、シナリオも一本調子ならダイアローグも凡庸そのもの。ヒネリもうねりもヤバ味もない。

何よりキャラクターの魅力がどこにあるのか、最後まで分からない。

バーグマンはモンタンの浮気癖を半ば公認してまで「都合のいい女」という立場に甘んじているが、果たしてこんな男のどこに惹かれているのか。そんな彼女にストーカーまがいのアプローチをかけるパーキンスもまた、なぜ同年代の若い女性に見向きもせずに15歳も年上のバーグマンに執着するのか?

この疑問には「物語的な回答」はないが「映画的回答」なら見出せる。

それを演じているのがイヴ・モンタンとイングリッド・バーグマンとアンソニー・パーキンスだからだ。

さも「大スターなんだから誰だって惚れるでしょ?」と言わんばかりにバーグマンがモンタンに惹かれるのは自明とされ、パーキンスのバーグマンに対する執着も当然の事のように描かれているのだ。だって三人はスターだから! ってな具合に。

ふざけろ!!

スターの名のもとに説話を怠り、演出を放棄して、それの何が映画だというのか。甘えるな。

そもそもアナトール・リトヴァクは「映画」というものを知っているのだろうか。たぶん知らないんじゃないだろうか。


そんなわけで、ついに映画が何であるかを理解せぬまま1974年にこっそりと死んだリトヴァク。ちょうどその年に公開されたバーグマン出演作の『オリエント急行殺人事件』(74年)の方がより少なく愚かである。

『さよならをもう一度』はパリが舞台にも関わらず、まるで「エトワール凱旋門さえ撮ればそれでいいんでしょ?」とでも言うかのような不愛想なカメラは、もっぱらバーグマンとパーキンスの高級マンションといくつかのバー、それにリゾートホテルを主舞台とした室内劇に留まる。

まぁ、申し訳程度に凱旋門の近くを自動車でうろつくという間抜けなシーンなんかも撮ってみせるのだが、この間抜けぶりがすごい。バーグマンにデートをせがんだパーキンスが「夜には仕事が終わるからそれまで車でドライブでもしてなさいな」と言われ「あいあーい!」と返事、言われた通りにパリ市内を車でブンブン走り回るという完全に無意味なシーンが1分近くも続くのである。正気の沙汰とは思えない。

かの駄作『オリエント急行殺人事件』も密室劇(列車という名の密室)だったが、これはもう目くそ鼻くそ。だが、スターに依存しなかったことと完全に無意味なシーンを1分近くも撮らなかった分だけまだ罪は軽い。

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次第に距離を縮めるバーグマンとパーキンス。

 

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こちらも負けじと距離を縮めるイヴ・モンタンと適当な女。

 

◆「はぁぁぁぁ!」じゃねえわ◆

バーグマンがパーキンスと浮気したことでモンタンとの関係は気まずいものになり、嫉妬したモンタンは彼女の気を引こうとして愛を誓い直したりひたすら謝ったりしていたが、次第に諦めるようになってよそのバカ女と同棲するようになる。一方のバーグマンもパーキンスとの歳の差ロマンスを楽しんではいたが、心の片隅ではモンタンのことが忘れられずにいる。

こうなるともう話は見えたも同然。結局モンタンを忘れられないバーグマンがパーキンスを振ってモンタンの元に走るんだろ? そうなると不憫なのはパーキンスだ。私にとってのロマンスの逆鱗、その名も「恋の噛ませ犬」直行コースではないか。

案の定、バカ女と破局して孤独になったモンタンは「もう一度やり直したい。キミじゃないとダメなんだモン!」とか「結婚してくれ。金輪際浮気はしないモン!」などといかがわしいセリフを放ちまくり、バーグマンのブレブレハートを恋のジャブや愛のローキックで揺さぶっていく。

ついに崩れたバーグマン、「はぁぁぁぁ!」と泣きながらモンタンと接吻。モンタンは発奮。俺だけ脱糞。

結局ヨリを戻した二人…。

「うん、まぁ、そういうことだから別れて頂戴」とバーグマンに言われたパーキンスはさめざめ泣いて「結局ボクはきみたち二人に振り回されました。恋のキューピットってわけか!」と恋の噛ませ犬理論に照らし合わせて自己分析。まさにその通り。去りゆくパーキンスの後ろ姿を見ながら「はぁぁぁぁ!」と号泣するバーグマンはどこまでも「愛の被害者」を主張するヒロインでした。「はぁぁぁぁ!」じゃねえわ。泣くぐらいなら振んなボケ。


さてさて気になるラストシーンは? 特別に教えてあげましょう。

晴れて結婚して幸せルンルンなバーグマンが自宅でモンタンの帰りを待っているところへ電話がリンリン鳴り響く。モンタンからでした。

「仕事で帰りが遅くなるモン!」

おやおや? どこかで聞いたセリフですね。モンタンが浮気するときの常套句ですね。

バーグマンの暗澹たる表情とともに「END」の字がパッパーンと映し出され、静かに映画は終わっていきます。

今までのすったもんだ…ならぬすったモンタンは何だったのか…。最後の最後まで浮気癖が治らなかったダメっ子モンタンと、こんなろくでなしとヨリを戻して迂闊に結婚してしまった隙ありっ子バーグマンがお送りする意識不明級のナンセンス・ロマンス、120分(長い)。

まぁ、ファーストシーンとラストシーンで繰り返される「仕事で帰りが遅くなるモン!」の円環構造はちょっぴり洒落てるけどね。


ちなみに、この評を読んで「なんだ、わりと面白そうな映画じゃん」と思われた方は誤解なきよう。

面白可笑しく書いてるだけです。

もし「面白そうな映画」と思ってくれたのなら…それはオレの手柄!

オレのポイントやで。間違えずに振り込んでね、こっちの口座に。

あくまで映画は退屈極まりないので注意が肝心である。

なお、本作はTSUTAYAに行けば発掘良品のコーナーに置いてあるけど…絶対に観ないでください。マンガの実写化と同じで、こういう映画を地上から消滅させるには誰も観なければいいのだ。

まぁ、かく言う私はイングリッド・バーグマンに惹かれてまんまと観てしまい、あまつさえブログで取り上げて宣伝活動にまで与してしまったのだけど。

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