なにが「でんきくらげ」やねん。
1970年。増村保造監督。渥美マリ、川津祐介、西村晃。
もだえ、うめき、むせび泣く、若々しい肉体を武器に、ネオン街で稼ぎまくり、高級クラブの社長の愛人におさまって、ついには数億円もの遺産を相続する華麗なヌードモデルの物語。(Amazonより)
はい、おはようございます。
読者登録数がついに400の大台に乗りました。ちょうど400人目の方のアイコンがむちゃむちゃ美人だったので喜んでおります。美人から登録されるというのは実に気持ちのいいものです。このためにブログをやっていると言っても過言ではない。
だいたいにおいて、映画が好きな人って面食いだと思う。というか面食いだからこそ映画好きになるんだと思う。それは。やっぱり。これだけは確かなこと。言い逃れしても苦しいと思う。「人は見た目じゃない、中身だ!」などと甘えきったことを言うやつは金輪際映画など観なくてよろしい。藪から棒に厳しいことを言ってすみませんでした。
でも、フルーツが皮を剥かれた状態で陳列されていても気味悪いでしょう?
はい、そんなわけで本日は 『でんきくらげ』ですねぇ。
◆渥美、脱ぐ気なし!◆
皆さんお待ちかねの『でんきくらげ』である。
当ブログのお問い合わせフォームには「でんきくらげをリクエストします」、「いつやるのか。でんきくらげを」、「でんきくらげをやらないつもりなのか」といったメッセージが40名以上の方から届いており、街を歩けば私のことを知っているちびっ子たちがワーッと集まってきて「早く書けよ! でんきくらげ!」と催促。家の近所には「でんきくらげ! でんきくらげ!」と叫びながら道に打ち水をするおじさんもいます。
言わずと知れた日本歴代興行収入No1大ヒットの感動巨編。全国民に愛された不朽の名作。日本映画でありながらアメリカ国立フィルム登録簿になぜか登録された謎の大傑作。まさか観ていない人民はおるまい。
『でんきくらげ』である!!!
↑真っ赤なウソである。
本作は大映が倒産寸前でトチ狂っていた時期に作られた低予算ゲテモノ映画で、知る人ぞ知るマニアな一品。
主演はお色気女優の渥美マリ。本作はそんな渥美マリ主演の「軟体動物シリーズ」のひとつなのだ。以下はシリーズのラインナップ。
~渥美マリの軟体動物シリーズ~
『いそぎんちゃく』(69年)
『続・いそぎんちゃく』(70年)
『夜のいそぎんちゃく』(70年)
『でんきくらげ』(70年)
『でんきくらげ 可愛い悪魔』(70年)
『しびれくらげ』(70年)
クラゲとイソギンチャクの押しがすげえ。
なにこの海中二頭政治。
まるでビートルズとローリング・ストーンズ。
西の笑いと東の笑い。
スタバとドトール。
MacとWindows。
そしてクラゲとイソギンチャク。
驚くべきはシリーズ6作品をほとんど1年間で作りあげた驚異の制作ペースである。突貫工事も突貫工事。
この「軟体動物シリーズ」以外にも乳をほっぽり出すようなスケベ映画に出演しまくっていた渥美マリは『ある女子高校医の記録』シリーズでお馴染みの南美川洋子らとともに大映ハレンチ五人娘として人気を博すも、次第に「ヌードはイヤ」とゴネ出して業界から干されてしまう。挙句、こんな映画にばかり出たせいで自殺未遂まで起こしてしまい、わずか5年で女優業を引退してしまいます。まぁねえ…。彼女の出演作リストを見ると「さもありなん」って感じだよ。
『ある女子高校医の記録 初体験』(68年)
『ある女子高校医の記録 妊娠』(68年)
『ある女子高校医の記録 失神』(68年)
しまいには失神までしてるからねぇ…。
そんな渥美マリが失神する前に作られたのが『でんきくらげ』。
監督は増村保造。日本映画の伝統を打ち破った名匠だが、この頃…キャリア後期は『セックス・チェック 第二の性』(68年)や『盲獣』(69年)などシュール路線をひた走って人民を戸惑わせていた。
物語は、渥美マリ扮する不幸な女が数々の男を利用してのし上がっていく…というもの。増村作品における若尾文子、もしくは『痴人の愛』(67年)の大楠道代的な悪女像を想像しがちだが、本作のヒロインはそんな増村的女性陣ほど奸知に長けてはいない。若尾や大楠のように悪擦れした女ではなく、むしろ愚直なまでに清らかな心を持つ女なのである。
まぁ「純粋」と言えば聞こえはいいが、結局のところ「純粋」という言葉は「バカ」をオブラートに包んだだけなので、世間知らずのマリは行く先々で踏んだり蹴ったりな目に遭ってしまうわけだ。しかしマリは諦めない。なぜなら「でんきくらげ」のような女だからサ!
ちょっぴりエッチな「軟体動物シリーズ」で一世風靡した渥美マリ。「ヌードはイヤ」が口癖。
◆増村、やる気なし!◆
洋裁学校に通う19歳のマリはホステスの母とその愛人と暮らしていたが、ある日その男からレイプされ、母は男を刺殺して刑務所に入ってしまう。母と同じくホステスになったマリは場末のバーに勤めてヤクザの愛人にされてしまうが、そんな彼女を救ったのが高級クラブのマネージャー川津祐介。血飲みの川津である。
川津のいる銀座の高級クラブに拾われたマリは次第に恋心を寄せ始めるが、川津にはクラブのママがいた…。
ふむ。これは増村保造がノってない作品ですな。
「フィルムにまとわりつく不機嫌さ」とでも言うべきものが感じられて、最後まで気乗りしないまま撮了したという印象である。
これまでに数々の傑作・怪作を生み出してきた増村なので、画・筋運びともにそれはもう華麗なフィルム捌きで組織された92分ではあります。だけど今回の増村はノっていないので「チャッチャと終わらせようや」といった粗略の身振りでただ黙々とパズルのピースを嵌め込んでいくような撮り方をしている。
増村作品というのは、まず最初に「こういう画を撮りたい」というイメージが幾つかあって、その隙間を埋めるように別のシーンなりプロットなりを加えて帳尻合わせをする…というイメージ先行型。シーンAがごく自然にシーンBを要請してシーンCへと流れていく…といった気流はどこにも存在しない。いわばフィルムが人を誘拐するのだ。「どこへ連れて行かれるか分からない」という緊張と興奮。そうした危うさにこそ増村作品の色気が漂っているのだが…『でんきくらげ』は僕を誘拐してくれなかったナー。ちょっぴり寂しいナァ。
そもそも増村がノってない理由は渥美マリなんだろうな。もう明らかに撮る気がないもの。
撮影当時は、ちょうど渥美マリが「ヌードはイヤ」とゴネ始めたころで、劇中でも異様なほど手ブラに固執する。もう、是が非でも見せない。テコでも見せない。なんだか丘(乳房)のうえに建つ砦(乳首)を守ろうとする女兵士の底意地を見たようで…敬礼さえしたくなりました。
あまつさえセリフは棒読み、貌も挙措も退屈とあっては増村がノれないのも無理からぬこと。いささか女優としての意識が欠如しているのではなかろうか。
もしこれが若尾文子だったら…緑魔子だったら…大楠道代だったら…なんて空想だけが回転寿司みたいに稼働しちゃって。私。
そんなわけで、チャッチャと終わらせにかかった増村はある仕掛けを考案します。
それは面会シーン。
本作では、足しげく獄中の母を訪ねるマリが面会室のなかで近況報告する…という親子水入らずのシーンが5~6回ほど繰り返される。
マリは母が出所したらウンと贅沢をさせてやるために男たちにカラダを売ってまでして金を稼ぎ、面会に来るたびに身なりが派手になっていく。母はその成功を喜びながらも「もしかして汚いことをして稼いだ金じゃないだろうね…?」と不安がる。
つまりこの面会シーンではマリの近況がその都度整理され、本作の主題でもある母と娘の絆が描き込まれていく。また、母の視点を取り入れることでマリが客体化されるため、メロドラマに滑り落ちるまえに物語が不偏不党の中立へと引き戻される…といった寸法なのである。
この三つの説話機能を同時に果たすのが面会シーンなのだ。なるほど合理的ね。一つひとつに時間をかけるより、なし崩し的に三つ同時に終わらせるという…まるで手際のいい主婦みたいな並行作業に勤しむ増村保造であります。やる気のなさが却って妙案を思いつかせたというわけだな。
獄中の母と面会するマリ。
◆賭博師マリ、負けはなし!◆
反面、マリがカラダを張ってたくましく成り上がっていくさまは流石の増村節。
不器用なマリが唯一得意なことはポーカーで、客相手に自分のカラダを賭けて大金を巻き上げるポーカーシーンが一応の見せ場といっていい。そういえば母の愛人・玉川良一に犯されたときもマリと玉川はポーカーをしていた。
すなわちポーカーを通して性の駆け引きがおこなわれるというわけか!
性の駆け引きに興じるマリ。
客とのポーカーでボロ勝ちするマリを血飲みの川津は複雑な気持ちで見つめるが、彼もまたゲームの参加者なのである。無意識理にマリに惚れ始めたために性の駆け引きを強いられてしまうのだから。
無意識の川津「マリが負けたらオヤジに抱かれてしまう。ジェラシーだぜ。でもなぜジェラシーを感じているのだ。もしかして俺はマリに恋しているというのかァーッ!」
恋のストレートフラッシュであります。
しかし「マネージャーとホステスは関係を持たない」という掟に縛られた掟の川津は両想いにも関わらずマリの愛をクールに突っ撥ね、そのためにマリはクラブのオーナー西村晃(めちゃめちゃジジイです)に誘われるまま月100万円で妾になる契約を結んでしまう。
毎晩マリのカラダを貪る老体の晃! 勃起不全のため手を使って春をエンジョイする老体の晃!
掟の川津「えらいことしてもうたァー。こんなことになるならマリと結ばれておくんだったァー」
後悔と反省のツーペアであります。
しかし勃起不全の晃、マリと行為を終えたあとに風呂のなかで心臓麻痺を起こし「極楽、極楽…」と言ったまま極楽に行ってしまわれた。えらいことである。
極楽の晃は十億円ものマネイを持つ大富豪だったが、遺産相続権はハイエナのような親族の側にある。だが、もしもマリが遺産の晃の子供を妊娠していれば話は別。相続権はすべて腹ン中のベイビーに移るというわけだ。
ここでマリの頭のなかでピカッと妙案が閃く…。
「アタイを妊娠させて!」と頼んで頼まれの川津との子作りに成功したあと「晃との子供です!!!」と大嘘をついて遺産を根こそぎブン捕ったのだ。
妙案のフラッシュであります。
…からの遺産のロイヤルストレートフラッシュであります!
親族の手元にはハイカード(役なしのブタ)であります。
しかしである。晴れて結ばれ、大金もせしめたマリと川津であったが、このあと想像を絶する裏切りの罠が待ち構えていた…(書くことはよす)。
結ばれの川津です。
カメラはポーカーフェイスで緑道を歩くマリをフォローし続け、そのまま映画は幕を閉じる。本来であればこの最後のショットにこそ貪欲でなければならないのだが…なんかサラーッと終わっちゃったよね。こんなにサラッと観れちゃう増村作品も珍しい。
ていうか、鑑賞中ず~~~~っと思っていたのだが…
なにが「でんきくらげ」やねん。
なんなん、このタイトル。どういうことなん。
クラブの客がマリを一目見て「シビれる女だぜ!」と囃すセリフがチラッと聞こえてくるのだが……もしかしてコレ? コレ由来? 紐づけ弱すぎない?
シビれるようなイイ女=でんきくらげ。この比喩センス。くだらねえわ。
そもそも何やねん、「軟体動物シリーズ」て。『でんきくらげ』だの『いそぎんちゃく』だの…。何がやねん。
でも『続・いそぎんちゃく』はちょっとオモロイな。日本映画オモシロタイトル決定戦における優勝候補のひとつだと思う。「いそぎんちゃく」だけでもすでに面白いのに…それが続くからね。
まぁ、渥美マリがノイローゼになってしまったのも納得である。
最後に「タイトルが気になる渥美マリ出演作TOP5」を発表します(すべて未見)。
5位『続セックス・ドクターの記録』(68年)
4位『ダンプ・ヒップ・バンプ くたばれ野郎ども』(69年)
3位『高校生芸者』(68年)
2位『裸でだっこ』(70年)
1位『モナリザお京』(71年)
緑道歩きのマリ(ちくびを守り切りました)。
(C)KADOKAWA